上 下
20 / 28

18 クリヴァイム家へ帰宅

しおりを挟む
「ただいま戻りました……」
 私だけ、クリヴァイム家のドアを潜る。
 ここまで移動した馬車は近くに停車していて、ジュエル殿下は近くに隠れている。
 義父様がイライラしたような仕草をしながら出迎えてきた。

「遅い、遅いぞアイリス‼︎ だが、まあ逃げずに……グウェッ、しっかりと仕事をしにきたことだけは褒めてやろう」
「はい……」
「返事はどうでもいい! さっさといつもどおりに炊事と洗濯、掃除をした上で俺の仕事を全部やるのだ! グウェッ!」

 さっきから義父様のしゃっくりが止まらない。
 それよりも、王宮で幸せな時間を過ごしたあとだからか、私にふりかかるストレスが半端ない。
 今までよく我慢してやってこれたなと、自分自身に感心してしまうほどだ。

「では……まずは炊事をやらさせていただきます。材料は昨日のままでしょうか?」
「お前が準備もせずに家を出て行ったから悲惨な状況になっている! 足りないものは全て買ってこい! ついでに痒み止めも買ってこい」
「はい……」

 暴行の上で追い出したのは義父様だろうが、と言いそうになってしまった。
 今までの私では考えられない行為だ……。
 感情を抑えすぎていたんだなと、改めて思い知らされた。

「なにをグズグズしているのだ……、グウェッ! そうやって時間稼ぎをしているのだな!?」
「いえ、私はただ……」
「うる……グゥェッさい!」

 いきなり私の胸ぐらを掴んできた。
 先ほどからしゃっくりが凄まじく、義父様の息がやたらと臭い。
 ボロボロの服がビリっと破けてしまった。
 すぐに私は振り払おうとしてしまう。

「アイリス……、おまえ……逆らったな!?」
「い、いえ……そんなつもりは」
「黙れ!!」
「いや、黙るのは君の方だよクリヴァイム男爵よ」
「な……!?」

 ジュエル殿下がいつの間にか来てくれていた。
 すぐに破れた服を押さえながらジュエル殿下のもとへと駆ける。

「あ、あなたはジュエル王子! グウェッ! なぜ、ここに……!?」
「「ジュエル王子ーーー!?」」

 部屋の外にいたフリンデルとゴルギーネまで慌てながら出迎える。
 当たり前だけど、私とジュエル殿下に対する扱いがまるで違う。

「あ……あら、アイリス義姉様~、帰ってきたなら呼んでくださいまし。おかえりまさいませ」
「……ジュエル殿下、お会いできて光栄でございます。ゴルギーネと申します。アイリスよ、今日もいい天気だよなぁ……」

 しかも、今まで私にはゴミのようにしていたけれど、ジュエル殿下が現れた途端にものすごく待遇がよくなった……。

「うむ、聖女アイリスは国のために貢献してくれた上、私の大事な友でもある。よって同行していた」

 すぐにフリンデルが喰いついた。

「な……!? ちょっと待ってくださいよ。聖女は私なんです!」
「ほう、君が?」

 フリンデルは誇らしげな表情で主張をはじめた。

「はいっ! 昨日も雨を降らせたのは私の力です。しかも、前回の雨のときも私が祈った直後に降ったので。今はこちらのゴルギーネ様に聖女活動の宣伝をしているところでして、つきましては殿下の方でも宣伝を」

 ジュエル殿下は、一度私の方をちらりと見てきた。
 すでに私がフリンデルに対して「またか……」と思っていたのが表情に出ていたらしい。

「お願いしますジュエル殿下! どうか、フリンデルの凄さを世に広めていただくご協力を……」
「ふむ。では証拠を見せてもらわねばな。フリンデル殿よ、今ここで雨を降らすことは可能か?」
「わかりましたわ!」

 フリンデルが雨を降らせようと祈った。
 しばらく待つが、一向に雨が降る気配はない。
 義父様のしゃっくりがやたらと聞こえてきて、むしろこちらの方が気になる。
 しかも、義父様は身体中をひたすら引っ掻いている。

 あれ……、さっき私が祈ったことと同じ現象になっているけれど……、まさかね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

事故で記憶喪失になったら、婚約者に「僕が好きだったのは、こんな陰気な女じゃない」と言われました。その後、記憶が戻った私は……【完結】

小平ニコ
恋愛
エリザベラはある日、事故で記憶を失った。 婚約者であるバーナルドは、最初は優しく接してくれていたが、いつまでたっても記憶が戻らないエリザベラに対し、次第に苛立ちを募らせ、つらく当たるようになる。 そのため、エリザベラはふさぎ込み、一時は死にたいとすら思うが、担当医のダンストン先生に励まされ、『記憶を取り戻すためのセラピー』を受けることで、少しずつ昔のことを思いだしていく。 そしてとうとう、エリザベラの記憶は、完全に元に戻った。 すっかり疎遠になっていたバーナルドは、『やっと元のエリザベラに戻った!』と、喜び勇んでエリザベラの元に駆けつけるが、エリザベラは記憶のない時に、バーナルドにつらく当たられたことを、忘れていなかった……

姫金魚乙女の溺愛生活 〜「君を愛することはない」と言ったイケメン腹黒冷酷公爵様がなぜか私を溺愛してきます。〜

水垣するめ
恋愛
「あなたを愛することはありません」 ──私の婚約者であるノエル・ネイジュ公爵は婚約を結んだ途端そう言った。 リナリア・マリヤックは伯爵家に生まれた。 しかしリナリアが10歳の頃母が亡くなり、父のドニールが愛人のカトリーヌとその子供のローラを屋敷に迎えてからリナリアは冷遇されるようになった。 リナリアは屋敷でまるで奴隷のように働かされることとなった。 屋敷からは追い出され、屋敷の外に建っているボロボロの小屋で生活をさせられ、食事は1日に1度だけだった。 しかしリナリアはそれに耐え続け、7年が経った。 ある日マリヤック家に対して婚約の打診が来た。 それはネイジュ公爵家からのものだった。 しかしネイジュ公爵家には一番最初に婚約した女性を必ず婚約破棄する、という習慣があり一番最初の婚約者は『生贄』と呼ばれていた。 当然ローラは嫌がり、リナリアを代わりに婚約させる。 そしてリナリアは見た目だけは美しい公爵の元へと行くことになる。 名前はノエル・ネイジュ。金髪碧眼の美しい青年だった。 公爵は「あなたのことを愛することはありません」と宣言するのだが、リナリアと接しているうちに徐々に溺愛されるようになり……? ※「小説家になろう」でも掲載しています。

君のような女は僕がいなくても1人で生きていけるだろうと告げて逃げた夫が1年後、愛人を連れて泣きついて戻ってきました

結城芙由奈 
恋愛
【私のモットーは『去る者は追わず』。しかし来る者は…?】 ある日、帰宅すると夫が愛人と浮気の真っ最中だった。ろくに仕事もしない夫を問い詰めると「君のような女は僕がいなくても1人で生きていけるだろう」そう告げられた私は翌日財産を奪われ、夫は愛人と出奔してしまう。しかしその1年後、何と夫は「このままでは生活できない」と言って泣きついて帰ってきた。しかもあろう事か共に逃げた愛人を連れて。仕方が無いので私は受け入れてあげる事にした―。 ※他サイトでも投稿中

【完結】虐げられてきた侯爵令嬢は、聖女になったら神様にだけは愛されています〜神は気まぐれとご存知ない?それは残念でした〜

葉桜鹿乃
恋愛
アナスタシアは18歳の若さで聖女として顕現した。 聖女・アナスタシアとなる前はアナスタシア・リュークス侯爵令嬢。婚約者は第三王子のヴィル・ド・ノルネイア。 王子と結婚するのだからと厳しい教育と度を超えた躾の中で育ってきた。 アナスタシアはヴィルとの婚約を「聖女になったのだから」という理由で破棄されるが、元々ヴィルはアナスタシアの妹であるヴェロニカと浮気しており、両親もそれを歓迎していた事を知る。 聖女となっても、静謐なはずの神殿で嫌がらせを受ける日々。 どこにいても嫌われる、と思いながら、聖女の責務は重い。逃げ出そうとしても王侯貴族にほとんど監禁される形で、祈りの塔に閉じ込められて神に祈りを捧げ続け……そしたら神が顕現してきた?! 虐げられた聖女の、神様の溺愛とえこひいきによる、国をも傾かせるざまぁからの溺愛物語。 ※HOT1位ありがとうございます!(12/4) ※恋愛1位ありがとうございます!(12/5) ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも別名義にて連載開始しました。改稿版として内容に加筆修正しています。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!

近藤アリス
恋愛
暴君と名高い第二王子ジェレマイアに、愛しのお嬢様が嫁ぐことに! どうにかしてお嬢様から興味を逸らすために、媚びを売ったら愛されて執着されちゃって…? 幼い頃、子爵家に拾われた主人公ビオラがお嬢様のためにジェレマイアに媚びを売り 後継者争い、聖女など色々な問題に巻き込まれていきますが 他人の健康状態と治療法が分かる特殊能力を持って、お嬢様のために頑張るお話です。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています ※完結しました!ありがとうございます!

伯爵令嬢は身の危険を感じるので家を出ます 〜伯爵家は乗っ取られそうですが、本当に私がいなくて大丈夫ですか?〜

超高校級の小説家
恋愛
マトリカリア伯爵家は代々アドニス王国軍の衛生兵団長を務める治癒魔法の名門です。 神々に祝福されているマトリカリア家では長女として胸元に十字の聖痕を持った娘が必ず生まれます。 その娘が使う強力な治癒魔法の力で衛生兵をまとめ上げ王国に重用されてきました。 そのため、家督はその長女が代々受け継ぎ、魔力容量の多い男性を婿として迎えています。 しかし、今代のマトリカリア伯爵令嬢フリージアは聖痕を持って生まれたにも関わらず治癒魔法を使えません。 それでも両親に愛されて幸せに暮らしていました。 衛生兵団長を務めていた母カトレアが急に亡くなるまでは。 フリージアの父マトリカリア伯爵は、治癒魔法に関してマトリカリア伯爵家に次ぐ名門のハイドランジア侯爵家の未亡人アザレアを後妻として迎えました。 アザレアには女の連れ子がいました。連れ子のガーベラは聖痕こそありませんが治癒魔法の素質があり、治癒魔法を使えないフリージアは次第に肩身の狭い思いをすることになりました。 アザレアもガーベラも治癒魔法を使えないフリージアを見下して、まるで使用人のように扱います。 そしてガーベラが王国軍の衛生兵団入団試験に合格し王宮に勤め始めたのをきっかけに、父のマトリカリア伯爵すらフリージアを疎ましく思い始め、アザレアに言われるがままガーベラに家督を継がせたいと考えるようになります。 治癒魔法こそ使えませんが、正式には未だにマトリカリア家の家督はフリージアにあるため、身の危険を感じたフリージアは家を出ることを決意しました。 しかし、本人すら知らないだけでフリージアにはマトリカリアの当主に相応しい力が眠っているのです。 ※最初は胸糞悪いと思いますが、ざまぁは早めに終わらせるのでお付き合いいただけると幸いです。

処理中です...