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ルリナはダンスを覚える

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「お目覚めですか」
「あ……おはよう……。あれ、私いつの間にベッドに?」
「ニルワーム様がここまで運んでくださったのですよ。大体の事情は聞いています。お幸せなこと……」

 ツバキがニコリと微笑みながら、布団をかけてくれた。
 いやいや、私、病気じゃないから……。
 興奮して気絶だなんて、本だけの世界で起こるものだと思っていた。
 まさか自分自身がそんな経験をしてしまうとは……。
 考えれば考えるほど、恥ずかしくなっていく。

「でも私、貴族でもなんでもないのに、王子と婚約して良いのかどうか……」

 こればかりは現実問題の壁にぶつかってしまう。
 ニルの気持ちはとても嬉しいし、私もできれば彼と結婚したいなぁとは思う。
 だが、あくまで私たちだけの気持ちの問題であって、王子という立場で考えると簡単にできることではないはずだ。

「たしかにこの貴族界だけで考えると、難しいでしょうね」
「うん……。そうだよね」

 私はガッカリしてしまった。
 やはり現実は上手くはいかないものだ。

「で、ルリナ様はどう考えているのですか?」
「つまり?」
「地位を抜きにして、ルリナ様はニルワーム様のことをどう思っているのかです」
「告白されて嬉しかった……。ニルとだったら一生一緒にいたいとも思えたよ?」

 するとツバキはニコリと微笑んで私の両肩に手を添えた。

「その気持ちがあれば大丈夫! 成就できるよう頑張るべきです。最初から諦めてはいけませんよ」

 ツバキの強めの口調が私の心にぐさりと刺さる。
 諦めるには早すぎることが伝わってきた。
 だが、現実は厳しいことは、王宮で学習してきてよくわかっているつもりだ。

「どうしたら上手くいくかなぁ」
「そうですね……。近々社交界があることはご存知ですか?」
「しゃこうかい?」
「そうです。ここ数年で始まったイベントですね.年に一度貴族王族が一斉に集まり、交流を深めたりダンスを披露したり、その場で婚約が決まったり……まぁ貴族界のお祭りのようなものです」

 社交界については、本や資料のどこにも載っていなかった。
 ツバキが詳しく説明してくれてはいることを考えると、私に出るよう推奨されているのだろう。
 だが、やはり私は参加できない気がする。

「私、貴族ではないからなぁ」
「例外として、聖女は国家機関に重宝されるため、たとえ民間人であっても社交界には正式に参加できます」
「じゃあ私も出れるの?」
「先ほどニルワーム様から聖女についても聞きました。ルリナ様はすでにナツメちゃんを救っています。実績としても王子の愛鳥を救ったということで問題なく参加できるでしょう。一部の者からは反感を受けてしまうかもしれませんが……」
「反感かぁ……」

 お父様から受けていた仕打ちを思い出した。
 あのころと比べたら、たいしたことはないだろう。
 それにたとえどんなに辛いことがあったとしても、これがニルと一緒になれるチャンスだとしたら、絶対に逃げたくはない。

「ただし、社交界はお茶会とはまるで違います。特に、ダンスは必須です。ダンスの評価で婚約が決まるという例もあるくらい重要事項ですから」
「私、全くの未経験だぁ……」
「練習しましょう! 聖女としてだけでなく、ダンスでも評価を得てしまえば、王子との婚約を周りも認めざるをえないでしょう」
「頑張る! 練習相手に付き合って欲しい……」
「もちろん、喜んでお付き合いいたします」
「ありがとう!!」

 私は毎日毎日、ツバキの厳しいダンス訓練を諦めずに喰らいつくように練習していった。
 そして、あっという間に社交界の日がやってきた。
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