27 / 36
27話
しおりを挟む
「もしかして、カフェチェルビーの名は、キミの母親から名付けたのではないか?」
「な……なぜそのことを……」
ブルグレイ陛下たちは、なんのことだとポカンとしている。
聖女のことだって誰にも話したことはない。
なんなら、高原の三姉妹カフェにいる家族だけの秘密にしていたくらいだ。
お母様からそう教わってきたのだから。
それにも関わらず、どうしてダラブラ陛下が知っているのだろうか。
私は理由を聞かずにはいられないでいた。
「すまないがデーブラよ、少々席を外してもらえるか?」
「僕には話せないことなのですか?」
「うむ。息子に話せるような内容ではないのでな」
「わかりました……」
デーブラ王子は渋々とキッチン側の席へ移動した。
聞き耳をたてれば聞こえるか聞こえないかくらいの距離だが、大丈夫だろうか。
「実は昔、チェルビーに一目惚れをしていて猛アタックをしたことがあったのだよ」
「お母様のことを……ですか?」
「あぁ。私は当時地位と権力に頼りワガママで欲しいものは絶対に手に入れるという徹底っぷりの情けない男だった。もちろん、チェルビーも私のものにするつもりで口説いた」
恥ずかしそうにしながら頬を掻き、話し続けるダラブラ陛下。
「だが、どんなに大金を積もうとも、振り向いてすらくれなかった。私は奥の手で権力で強引に連れ出そうともした。だが、彼女はこう言ったのだよ。『そのようなことをされるのならば、今すぐ私自身の首をはねます』と。むろん、そのようなことになれば私の立場も危ういし、なにより彼女を死なせたくなかった……」
お母様なら、冗談ではなくやりかねない。嫌だと思ったことはとことん拒否していたし、本当に拒絶していたのなら身を守るためと復讐のために……。
「私は聞いたよ。そこまでして私を拒絶する理由を教えてくれと。『お金や権力だけで人を動かそうとするようなお方は尊敬などしませんし、むしろ嫌いです』とハッキリ言われた。それにすでに意中の相手がいるとも言われたよ」
ダラブラ陛下の話はまだ続く。
私だけでなく、ブルグレイ陛下やレリック殿下も興味津々に話を聞いていた。
「私はあのとき、諦めることを初めて知った。当時チェルビーは我が国の有名な喫茶店でアルバイトをしていてな。諦めるうえで、せめて一度だけ、彼女の淹れたコーヒーを飲みたいと頼んだ。当時、王子だった私の身分など度外視し、ただの客として。チェルビーは微笑んで用意してくれたのだ。そのときの味とそっくりなのだよ……、キミが淹れてくれたコーヒーは」
お母様に淹れかたなどを教わっている。
豆もきっと昔からお母様が育てていたコーヒー豆を使っていたのだろう。
味が似ていても不思議ではない。
「それに、決定的な証拠もある。キミが淹れてくれたコーヒーを飲んだら、腫れ上がっていた右腕の火傷の痕が消えた」
「え……?」
来店されたときには見えていた傷がきれいに消えていた。
どういうことなのかわからない。
「チェルビーを好きになった理由は、彼女が聖女であり、その力によってコーヒー豆を育てるスピードを高め、さらに不思議な力を宿らせたコーヒーを提供できるからだ。彼女は当時の喫茶店の支えでもあった。きっとキミにも同じ力があるのだろう?」
「収穫は早くできることは否定しません。ですが、不思議な力に関しての自覚はありませんが……」
今までブルグレイ陛下やレリック殿下には、聖女であることを黙秘してきた。
だが、今までカフェチェルビーのことに親身になってくれたり、私のことを助けてくれたりだった。
いつか話す機会があれば、この人たちになら言っても良いのではないだろうかと思っていた。
亡きお母様も、きっと許してくれるはず。
今がそのときなのかもしれないと思って、正直に話した。
「当時チェルビーは、『聖なる力で身体の治癒や疲労回復をもたらすコーヒー』と大々的に公開し店を繁盛させていた。王都から少し離れた村だったが、人気があったよ。だが、私が来店してしまったせいで、王都にまで噂が広がり大変な事態になってしまったのだ」
「大変と言いますと……?」
「聖女であるチェルビーを連れ去ろうとする悪党がいた。幸い、そのタイミングで私らが来店するところだったから、護衛たちの手で連れ去られる寸前で阻止できた」
もしもそのとき、ダラブラ陛下がその場所にいなかったら、どうなっていたことか……。
もしかしたら私やお姉様たちも元気に産まれていなかったのではないかと思うとゾッとする。
「あの日以来、チェルビーは聖女であることを伏せ、こちらの国へ恋人と一緒に避難したのだよ。すまぬな、長々と昔話をしてしまって」
どうして聖女であることを言ってはいけないと言われ続けてきたかが、ようやく分かった気がする。
自分たちの身を守るためだったのか。
だが、私にはお母様のように治癒や疲労回復を付与するような力があるとは思えない。
ダラブラ陛下の火傷が消えたというのも、なにかの偶然でそうなっただけだと思う。
そのおかげで、お母様たちの昔話を聞けたわけだが。
「父上も詰めが甘いですよ……」
いつのまにかデーブラ王子がキッチン側の席からこちらへ来ていた。
「な……なぜそのことを……」
ブルグレイ陛下たちは、なんのことだとポカンとしている。
聖女のことだって誰にも話したことはない。
なんなら、高原の三姉妹カフェにいる家族だけの秘密にしていたくらいだ。
お母様からそう教わってきたのだから。
それにも関わらず、どうしてダラブラ陛下が知っているのだろうか。
私は理由を聞かずにはいられないでいた。
「すまないがデーブラよ、少々席を外してもらえるか?」
「僕には話せないことなのですか?」
「うむ。息子に話せるような内容ではないのでな」
「わかりました……」
デーブラ王子は渋々とキッチン側の席へ移動した。
聞き耳をたてれば聞こえるか聞こえないかくらいの距離だが、大丈夫だろうか。
「実は昔、チェルビーに一目惚れをしていて猛アタックをしたことがあったのだよ」
「お母様のことを……ですか?」
「あぁ。私は当時地位と権力に頼りワガママで欲しいものは絶対に手に入れるという徹底っぷりの情けない男だった。もちろん、チェルビーも私のものにするつもりで口説いた」
恥ずかしそうにしながら頬を掻き、話し続けるダラブラ陛下。
「だが、どんなに大金を積もうとも、振り向いてすらくれなかった。私は奥の手で権力で強引に連れ出そうともした。だが、彼女はこう言ったのだよ。『そのようなことをされるのならば、今すぐ私自身の首をはねます』と。むろん、そのようなことになれば私の立場も危ういし、なにより彼女を死なせたくなかった……」
お母様なら、冗談ではなくやりかねない。嫌だと思ったことはとことん拒否していたし、本当に拒絶していたのなら身を守るためと復讐のために……。
「私は聞いたよ。そこまでして私を拒絶する理由を教えてくれと。『お金や権力だけで人を動かそうとするようなお方は尊敬などしませんし、むしろ嫌いです』とハッキリ言われた。それにすでに意中の相手がいるとも言われたよ」
ダラブラ陛下の話はまだ続く。
私だけでなく、ブルグレイ陛下やレリック殿下も興味津々に話を聞いていた。
「私はあのとき、諦めることを初めて知った。当時チェルビーは我が国の有名な喫茶店でアルバイトをしていてな。諦めるうえで、せめて一度だけ、彼女の淹れたコーヒーを飲みたいと頼んだ。当時、王子だった私の身分など度外視し、ただの客として。チェルビーは微笑んで用意してくれたのだ。そのときの味とそっくりなのだよ……、キミが淹れてくれたコーヒーは」
お母様に淹れかたなどを教わっている。
豆もきっと昔からお母様が育てていたコーヒー豆を使っていたのだろう。
味が似ていても不思議ではない。
「それに、決定的な証拠もある。キミが淹れてくれたコーヒーを飲んだら、腫れ上がっていた右腕の火傷の痕が消えた」
「え……?」
来店されたときには見えていた傷がきれいに消えていた。
どういうことなのかわからない。
「チェルビーを好きになった理由は、彼女が聖女であり、その力によってコーヒー豆を育てるスピードを高め、さらに不思議な力を宿らせたコーヒーを提供できるからだ。彼女は当時の喫茶店の支えでもあった。きっとキミにも同じ力があるのだろう?」
「収穫は早くできることは否定しません。ですが、不思議な力に関しての自覚はありませんが……」
今までブルグレイ陛下やレリック殿下には、聖女であることを黙秘してきた。
だが、今までカフェチェルビーのことに親身になってくれたり、私のことを助けてくれたりだった。
いつか話す機会があれば、この人たちになら言っても良いのではないだろうかと思っていた。
亡きお母様も、きっと許してくれるはず。
今がそのときなのかもしれないと思って、正直に話した。
「当時チェルビーは、『聖なる力で身体の治癒や疲労回復をもたらすコーヒー』と大々的に公開し店を繁盛させていた。王都から少し離れた村だったが、人気があったよ。だが、私が来店してしまったせいで、王都にまで噂が広がり大変な事態になってしまったのだ」
「大変と言いますと……?」
「聖女であるチェルビーを連れ去ろうとする悪党がいた。幸い、そのタイミングで私らが来店するところだったから、護衛たちの手で連れ去られる寸前で阻止できた」
もしもそのとき、ダラブラ陛下がその場所にいなかったら、どうなっていたことか……。
もしかしたら私やお姉様たちも元気に産まれていなかったのではないかと思うとゾッとする。
「あの日以来、チェルビーは聖女であることを伏せ、こちらの国へ恋人と一緒に避難したのだよ。すまぬな、長々と昔話をしてしまって」
どうして聖女であることを言ってはいけないと言われ続けてきたかが、ようやく分かった気がする。
自分たちの身を守るためだったのか。
だが、私にはお母様のように治癒や疲労回復を付与するような力があるとは思えない。
ダラブラ陛下の火傷が消えたというのも、なにかの偶然でそうなっただけだと思う。
そのおかげで、お母様たちの昔話を聞けたわけだが。
「父上も詰めが甘いですよ……」
いつのまにかデーブラ王子がキッチン側の席からこちらへ来ていた。
31
お気に入りに追加
2,319
あなたにおすすめの小説
勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!
朝山みどり
恋愛
大富豪に生まれたマリカは愛情以外すべて持っていた。そして愛していた結婚相手に裏切られ復讐を始めるが、聖女として召喚された。
怯え警戒していた彼女の心を国王が解きほぐす。共に戦場へ向かうが王宮に反乱が起きたと国王は城に戻る。
マリカはこの機会に敵国の王と面会し、相手の負けで戦争を終わらせる確約を得る。
だが、その功績は王と貴族に奪われる。それどころか、マリカは役立たずと言われるようになる。王はマリカを庇うが貴族の力は強い。やがて王の心は別の女性に移る・・・
妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜
雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。
だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。
国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。
「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」
*この作品はなろうでも連載しています。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜
彩華(あやはな)
恋愛
一つの密約を交わし聖女になったわたし。
わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。
王太子はわたしの大事な人をー。
わたしは、大事な人の側にいきます。
そして、この国不幸になる事を祈ります。
*わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。
*ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。
ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
本当の聖女は私です〜偽物聖女の結婚式のどさくさに紛れて逃げようと思います〜
桜町琴音
恋愛
「見て、マーガレット様とアーサー王太子様よ」
歓声が上がる。
今日はこの国の聖女と王太子の結婚式だ。
私はどさくさに紛れてこの国から去る。
本当の聖女が私だということは誰も知らない。
元々、父と妹が始めたことだった。
私の祖母が聖女だった。その能力を一番受け継いだ私が時期聖女候補だった。
家のもの以外は知らなかった。
しかし、父が「身長もデカく、気の強そうな顔のお前より小さく、可憐なマーガレットの方が聖女に向いている。お前はマーガレットの後ろに隠れ、聖力を使う時その能力を使え。分かったな。」
「そういうことなの。よろしくね。私の為にしっかり働いてね。お姉様。」
私は教会の柱の影に隠れ、マーガレットがタンタンと床を踏んだら、私は聖力を使うという生活をしていた。
そして、マーガレットは戦で傷を負った皇太子の傷を癒やした。
マーガレットに惚れ込んだ王太子は求婚をし結ばれた。
現在、結婚パレードの最中だ。
この後、二人はお城で式を挙げる。
逃げるなら今だ。
※間違えて皇太子って書いていましたが王太子です。
すみません
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです
サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる