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18話【姉妹Side】
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前週の売り上げを集計しているエマ。
フィレーネを追放以降、一杯の値段を2,000ゴールドの二倍に上げた。
それでも数日間は客足が衰退することはなかったため、そのまま継続していたのだが、変化が起きはじめた。
「どうして、売り上げが落ちてるのでしょう……」
今までは常に満席状態。待ちは当然で、営業時間内に入れなかった客は、テイクで我慢してもらうのが日々の日課だった。
強者は近くの草原で野宿をし、翌日改めて並び入店するほどの熱狂っぷりである。
ところが、前週はときどき空席が出てしまうこともあり、待ち時間というものは少なく容易に入店が可能になってしまった。
お客の中には、早く入れて良かったと思っていた者もいる。
だが、お客が想定していたほどの味ではなかった。
それもそのはずで、すでにフィレーネの聖なる力と気持ちがこもった茶葉ではなく、ごく普通の畑から収穫されたものと変わらない。
それでも高原という自然環境で栽培したものだから、丁寧に淹れればそれなりの味で提供ができた。
スピード特化で雑な仕込み、さらに値上げという二段重ねでお客の評判は一気に崩れたのである。
「サーラお姉様……。もしかしたら、提供価格を二倍にしたのはマズかったかもしれません」
「ふふふ、大丈夫よ。心配なんてしなくても」
「客足も落ちてしまっていますが……」
今後のことを心配するエマ。
だが、サーラはこうなることは分かっていて、当たりまえのようにエマに説明した。
「高くしたら一時的にはお客は少なくなるのは当然のことよ」
「では、なぜ分かっていて値上げされたのですか?」
「もうこの店は常に満席だったでしょ? 少しはお客を選別しないといけないわ。高くても良いと思ってくれた人だけが来れば良い。その間は一時的に空席すら出ることもあるけれど、やがてその分かってくれる人たちの口コミで、高くてもこれが当たりまえなのだとわかれば、また満席になるのよ」
サーラは真っ当なことを言っているのだとエマは納得し、ホッとひと安心した。
フィレーネが心を込めて栽培していた茶葉ならばそれも叶っただろう。
だが、今となっては高原の姉妹カフェの魅力は自然豊かだ場所でどこでも飲めるような味を楽しむ程度になっている。
しかも、ついに自家製の豆と茶葉が底をついた。
翌日からの営業は……。
「そういうことだから、明日からは王都で仕入れた豆になっちゃうけれど、安心しなさい。私もエマも聖女なのだから。力を込めておけば、それはここで収穫するものと変わらないはずよ」
「そうですね。やはりそうですよね⁉︎ さすがサーラお姉様です! フィレーネではとても臨機応変にできなかったと思いますわ」
「だから、明日からは聖なる力をより入れる分、疲れるかもしれないけれど、ひと踏ん張りよ。一ヶ月分仕入れた豆が尽きるまえには、収穫できるようになるはずだから!」
「わかりました! 頼れるお姉様に一生ついていきますわ」
そして翌日。
さすがのサーラでも動じてしまう人間が来店してきたのだ。
「いらっしゃ……って……。こ、国王陛下⁉︎」
「うむ。一度来てみたかった。邪魔するよ」
護衛を連れて、国王が入店した。
サーラは念のために外を確認してみたが、煌びやかな馬車とそれを囲う馬に乗った騎士たち。
入店している客も一時騒然となった。
「あ、ありがとうございます!」
「むろん、私のことも一人の客としてかまわぬ。どうか他の民たちも私に気にせずカフェを満喫していてくれたまえ。私はお茶を飲みたい」
「は、はいっ! 少々お待ちを」
厨房の奥で、国王の耳に入らないような場所でサーラとエマの緊急会議が開かれた。
「どうしましょうか……。国王陛下は普段から美味しいものを召されているでしょう。味覚茶葉も豆も100ゴールド未満の安物ではさすがにバレてしまうのでは……」
「なにを弱気になっているのよエマは。むしろこれは大チャンスじゃない?」
「え?」
サーラはエマの両肩に手を置いて元気付けようとする。
「私たちの力で、国王の味覚を魅了させるの。それに前いったでしょ? たかがコーヒーや紅茶のような飲み物なんてどれだって同じ。要は雰囲気さえ良ければ満足できるわ」
「は……はい。念のために、できるだけわたくしの聖なる力を限界まで注いで提供するようにします」
「そうね。私も多めに力を入れておくわ」
聖なる力だけをふんだんに込めたお茶を、エマが国王に提供した。
愛想や言葉遣いが良いのはエマだ。
サーラは上位貴族が苦手なため、ここはエマが担当することになる。
「高原の姉妹カフェ特製のお茶でございます。ごゆっくりお楽しみください」
「うむ。ところですまぬな。疑うわけではないが、立場上これはやらなければならぬ行為だ。気を悪くしないでもらいたい」
「とんでもございません。国王陛下ともなればそれくらいは当然のことかと」
一度正面に座っている毒見役の護衛が口にしてから国王がカップを手に取った。
「……ふむ」
国王はなにかを考えながらゆっくりと飲んでいく。
「すまぬ。コーヒーと紅茶も追加で注文したい」
「へ……? つ……追加でしょうか」
「うむ。せっかくだから全て飲んでみようかと」
エマはマズいと思ってしまう。
すでにお茶に対してほぼ全ての力を使ってしまった。
力の使いすぎは体調を大きく悪化させ、寿命も縮めてしまう。
このまま提供すれば、コーヒーと紅茶は安物そのままでの提供となってしまうため、エマはごくりと唾を飲む。
「追加注文ありがとうございます。しょ、少々お待ちください」
エマは大慌てで厨房へ行きサーラの手をぐいっと引っ張って奥へと連れていく。
サーラとエマによる、第二回緊急会議が開かれた。
フィレーネを追放以降、一杯の値段を2,000ゴールドの二倍に上げた。
それでも数日間は客足が衰退することはなかったため、そのまま継続していたのだが、変化が起きはじめた。
「どうして、売り上げが落ちてるのでしょう……」
今までは常に満席状態。待ちは当然で、営業時間内に入れなかった客は、テイクで我慢してもらうのが日々の日課だった。
強者は近くの草原で野宿をし、翌日改めて並び入店するほどの熱狂っぷりである。
ところが、前週はときどき空席が出てしまうこともあり、待ち時間というものは少なく容易に入店が可能になってしまった。
お客の中には、早く入れて良かったと思っていた者もいる。
だが、お客が想定していたほどの味ではなかった。
それもそのはずで、すでにフィレーネの聖なる力と気持ちがこもった茶葉ではなく、ごく普通の畑から収穫されたものと変わらない。
それでも高原という自然環境で栽培したものだから、丁寧に淹れればそれなりの味で提供ができた。
スピード特化で雑な仕込み、さらに値上げという二段重ねでお客の評判は一気に崩れたのである。
「サーラお姉様……。もしかしたら、提供価格を二倍にしたのはマズかったかもしれません」
「ふふふ、大丈夫よ。心配なんてしなくても」
「客足も落ちてしまっていますが……」
今後のことを心配するエマ。
だが、サーラはこうなることは分かっていて、当たりまえのようにエマに説明した。
「高くしたら一時的にはお客は少なくなるのは当然のことよ」
「では、なぜ分かっていて値上げされたのですか?」
「もうこの店は常に満席だったでしょ? 少しはお客を選別しないといけないわ。高くても良いと思ってくれた人だけが来れば良い。その間は一時的に空席すら出ることもあるけれど、やがてその分かってくれる人たちの口コミで、高くてもこれが当たりまえなのだとわかれば、また満席になるのよ」
サーラは真っ当なことを言っているのだとエマは納得し、ホッとひと安心した。
フィレーネが心を込めて栽培していた茶葉ならばそれも叶っただろう。
だが、今となっては高原の姉妹カフェの魅力は自然豊かだ場所でどこでも飲めるような味を楽しむ程度になっている。
しかも、ついに自家製の豆と茶葉が底をついた。
翌日からの営業は……。
「そういうことだから、明日からは王都で仕入れた豆になっちゃうけれど、安心しなさい。私もエマも聖女なのだから。力を込めておけば、それはここで収穫するものと変わらないはずよ」
「そうですね。やはりそうですよね⁉︎ さすがサーラお姉様です! フィレーネではとても臨機応変にできなかったと思いますわ」
「だから、明日からは聖なる力をより入れる分、疲れるかもしれないけれど、ひと踏ん張りよ。一ヶ月分仕入れた豆が尽きるまえには、収穫できるようになるはずだから!」
「わかりました! 頼れるお姉様に一生ついていきますわ」
そして翌日。
さすがのサーラでも動じてしまう人間が来店してきたのだ。
「いらっしゃ……って……。こ、国王陛下⁉︎」
「うむ。一度来てみたかった。邪魔するよ」
護衛を連れて、国王が入店した。
サーラは念のために外を確認してみたが、煌びやかな馬車とそれを囲う馬に乗った騎士たち。
入店している客も一時騒然となった。
「あ、ありがとうございます!」
「むろん、私のことも一人の客としてかまわぬ。どうか他の民たちも私に気にせずカフェを満喫していてくれたまえ。私はお茶を飲みたい」
「は、はいっ! 少々お待ちを」
厨房の奥で、国王の耳に入らないような場所でサーラとエマの緊急会議が開かれた。
「どうしましょうか……。国王陛下は普段から美味しいものを召されているでしょう。味覚茶葉も豆も100ゴールド未満の安物ではさすがにバレてしまうのでは……」
「なにを弱気になっているのよエマは。むしろこれは大チャンスじゃない?」
「え?」
サーラはエマの両肩に手を置いて元気付けようとする。
「私たちの力で、国王の味覚を魅了させるの。それに前いったでしょ? たかがコーヒーや紅茶のような飲み物なんてどれだって同じ。要は雰囲気さえ良ければ満足できるわ」
「は……はい。念のために、できるだけわたくしの聖なる力を限界まで注いで提供するようにします」
「そうね。私も多めに力を入れておくわ」
聖なる力だけをふんだんに込めたお茶を、エマが国王に提供した。
愛想や言葉遣いが良いのはエマだ。
サーラは上位貴族が苦手なため、ここはエマが担当することになる。
「高原の姉妹カフェ特製のお茶でございます。ごゆっくりお楽しみください」
「うむ。ところですまぬな。疑うわけではないが、立場上これはやらなければならぬ行為だ。気を悪くしないでもらいたい」
「とんでもございません。国王陛下ともなればそれくらいは当然のことかと」
一度正面に座っている毒見役の護衛が口にしてから国王がカップを手に取った。
「……ふむ」
国王はなにかを考えながらゆっくりと飲んでいく。
「すまぬ。コーヒーと紅茶も追加で注文したい」
「へ……? つ……追加でしょうか」
「うむ。せっかくだから全て飲んでみようかと」
エマはマズいと思ってしまう。
すでにお茶に対してほぼ全ての力を使ってしまった。
力の使いすぎは体調を大きく悪化させ、寿命も縮めてしまう。
このまま提供すれば、コーヒーと紅茶は安物そのままでの提供となってしまうため、エマはごくりと唾を飲む。
「追加注文ありがとうございます。しょ、少々お待ちください」
エマは大慌てで厨房へ行きサーラの手をぐいっと引っ張って奥へと連れていく。
サーラとエマによる、第二回緊急会議が開かれた。
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