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6話

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「ちょっと待て。これはコーヒー豆と紅茶の茶葉ではないか。たしか収穫まで数年かかるはずだが。それに、これを植える? いったいどういう……」

 聖女だということは誰にも話していない。
 お母様からもそのことを話せばひっきりなしに人が集まり大変なことになると言っていた。
 それに、純粋に美味しいと思ってくれる人たちに満足してくれるような店を続けて欲しいと言っていたのだ。
 いくらレリック殿下とはいえ、聖女のことだけは黙っておく。

「企業秘密なところはありますが、ほぼ確実に収穫はできます。あとは掃除したり必要な物を集めたりする必要があるので……。収穫してまずはそれを売ってからお金を集めて……となると」

 思ったより時間がかかりそうだ。
 お店を新しく開くのは思ったよりも大変だということを今知る。
 せめて、お姉様たちにお金さえ取られなければこのようなことにはならなかったのに……。
 奪われたお金も、私のものだったはずだが。

「なるほど、わかった。そこはフィレーネ殿を信じよう。それに先行投資と言ったはずだ。必要な備品なども全て用意させてもらう。掃除に関しても何人か王宮から使用人を派遣させよう」
「そんな至れり尽くせり……」
「それだけ、三姉妹カフェでフィレーネ殿の優しさに心を打たれた……と言えばわかるかな」

 レリック殿下は顔を赤くしながら視線を背けた。
 私が接客をするのはごく稀ではあるが、お客さん全員の顔を覚えられるわけではない。
 そこまで丁寧な対応をした記憶などないが、レリック殿下は満足していただけたということだけは素直に喜んでおく。
 私は、御来店ありがとうございましたと、笑顔を向けて再びお礼を言った。

「ふむ……。どうやら気持ちは伝わらなかったようだ……」

 なぜかレリック殿下はガッカリしていた。
 うーん。
 王子が考えていることは難しい。

 ♢

 いくつかの条件を出され、私も納得したうえで契約が成立した。

 まず、高原の三姉妹カフェで提供していたときと同じ値段で、同じような接客をしてほしいとお願いされた。
 これはむしろそのつもりで、変更する予定もなかった。
 そのためには、毎月かかる家賃等を下げてもらわないといけなかったが、なぜかレリック殿下は快く承知してくれたのだ。

 ふたつめに、本当に二週間で収穫できるようならば、少量で構わないから王宮にも常に茶葉や豆を提供してほしいと言われた。
 今回は私一人で店を運営するわけで、お客さんも三姉妹カフェのときよりは少ない人数しか対応することができない。
 さらに、庭が広いため、高原でやっていたときと同等かそれ以上に展開することも可能だ。
 王宮に茶葉や豆を分けていても売り切れる心配はない。
 これも問題なく解決である。

 みっつめに、定期的にレリック殿下に営業状況の報告などをしてほしいとのこと。
 できれば食事も兼ねてと言われてしまった。
 レリック殿下が管理をしているそうだし、報告などは分かる。
 食事に関しても、むしろそんな好待遇を条件にして良いのか謎だったが、私としては問題ない。

 全ての条件を受け入れた結果、家賃が全て免除される代わりに、利益の五パーセントだけを家賃として支払うという、とんでもない契約だった。
 高原も王都も共通で、利益の五パーセントは国の発展のために支払う決まりがある。
 つまり、それに加えて家賃が五パーセント上乗せされるだけだ。
 最初の条件で見た、予想している利益以上の高額な家賃と比べたら、どれだけ破格の条件なのかが一目瞭然だった。

 条件面だけでも超高待遇なのに、なぜか王宮でご馳走までいただいてしまっている。
 さらに、客室に泊まって構わないと……。
 貴族様であってもこのような待遇はないはずだ。

 民間人の私に対して、どうしてここまでしてくれるのだろう。
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