健多くん

ソラ

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番外編

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それから俺は高校に入り家を出、一人暮らしを始めた。

高校は実家からも近かったが、親父も母親も特に反対はしなかった。うちはもともと放任主義だ。

俺が家を出たのは理由があった。

あれから表面上はいい親子関係を築いていたが、ある日偶然、あのときの男と母親が一緒に歩いているところを見てしまったのだ。

俺は二度、この世界と母親に幻滅させられた。

それでも母親のことはやっぱり嫌いにはなれなかった。

いくら父親を裏切ろうとも、彼女はこの先も間違いなく俺を生んだ人であり続ける。その家族の情は変わらない。

ただ、一緒にい続けることは、俺の精神に毎日小さな傷を作り続けることになる。

それまで神のように慕っていた一番大切な人のエゴイスティックな一面を見て、人を信じることを恐れるようになった俺は、一人でいるほうが楽だということに気づいた。

寂しいと感じるよりも、楽な方を選んで家を出た。

俺が知ってしまったことは誰にも言わなかった。

誰かに話せば、あのときのことを鮮明に思い出して気分が悪いし、第一他人に話すようなことじゃない。

なにより普通の家庭が、俺の一言で壊れていくところを見る勇気は俺にはなかった。

夏帆にも次の日、何食わぬ顔で会ったが、とくに何かに気づいた様子はなかった。

気付かないアイツが悪いわけじゃない。

ただ誰かに弱さを見せるほど、俺の心が強くなかっただけだ。

だからいろんな人を傷つけた。

誰も好きにならず、夏帆すら裏切って。

好かれて嬉しいと、そう彼女を欺きながら。







夏帆と付き合い始めて半年が過ぎた。

相変わらずアイツはよくしゃべって、俺はそれに適当に相槌をうって。

話を聞いてやるだけでアイツは満足そうだった。

もちろん付き合っている間、俺はアイツとセックスをした。

小学生の頃からなにも変わっていないと思っていた幼馴染は、俺が知らないうちに大人の女になっていた。

柔らかく白い肌、高い喘ぎ声。

嬉しそうに何度も背中に爪をたて、俺をのみこむカラダ。

初めて抱いたときは処女だった。

俺が開いて、二度と処女ではなくなった。

俺は夏帆の特別になり、俺はいつも女を抱くように夏帆を抱いた。

ただ、罪悪感だけが募っていく。

夏帆が俺のことを好きだというたびに、俺は胸の奥で夏帆に謝る。

俺は、お前の気持ちを受け止めることができない。できるのはお前のカラダを受け止めるだけだ。そう何度も。

そして一年が過ぎた。

別れはあっさりと訪れた。

「鳴人、今までゴメンね」

帰り道、突然夏帆が言った。

俺はなにを言われたのかわからず、思わず立ち止まってアイツを見た。

「私、頑張ったんだけど。鳴人の力になれなかった。私じゃ力不足だったね」

「・・・」

なにも言えなかった。

わかったことは、夏帆が俺の弱かった心を見抜いていたということだけだ。

見抜いていて、必死に助けようとしていたんだろう。

「ねぇ気づいてる?アンタね、突然誰かに触られそうになるとビクッてするんだよ。私にしかわからないくらい、ちっちゃくだけど。それで、自分から人には触ろうとしない」

そんなことは知らない。

無意識の行動だった。

たぶん、人に触られることすら汚いと思って。

「一年頑張って、それでも鳴人が心を開いてくれないようだったら・・・諦めるって決めてたから」

夏帆は俯きもしなかった。

まっすぐ前を見て、さっぱりとした顔をしていた。

それだけが、俺の唯一の救いだった。

「私じゃないんだね、きっと。あ、責めてるわけじゃないよ」

「・・・・・・・・・・悪かった」

小さな謝罪に、夏帆は少し黙った。

そしてにっこりと笑って、俺の手をとった。

「大丈夫。全然気にしてないって。鳴人に初めてあげちゃったのはもったいないけど、責任とれなんて言わないから!本当の本当に初めてだったんだけど!」

「・・・・・・・・嫌味か」

「やぁね、違うってば。もうしょうがないことだし!」

「・・・・・」
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