健多くん

ソラ

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番外編

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「・・・眠くなった。ちょっと昼寝するから・・・その・・・」

「昼寝するから?」

僕がなにを言いたいのか絶対わかってるくせに、鳴人はわざと訊き返す。

それでも言いかけてしまった以上引き返すわけにもいかなくて、とりあえず勢いにまかせてベッドに倒れこんだ。

痛いくらいの視線を感じながら、鳴人に背中を向けて早口で捲くし立てる。

「後ろからぎゅっ、て・・・してほしい」

死にたい。今なら確実に羞恥だけで死ねる。

なんでこんなこと思いついたんだ自分。

「・・・なんだその可愛いオネダリ」

僕の必死のお願いに鳴人は喉を鳴らして笑う。意外とお気に召したようで安心した。

絶対に楽しんでるけど、ちゃんと約束は守ってくれるようだ。

ギシリ、と背後でベッドが沈み、背中を体温がぴったりと包みこむ。

いつもの鳴人の匂いがして、腕が腰に回ってきた。密着すれば自然と耳元を吐息がくすぐる。

本当はただすっぽりと抱きしめてほしかっただけで眠いなんてただの口実だったのに、鳴人の匂いに包まれているだけで胸の奥がどんどん温かくなっていく。

安心するとか、嬉しいとか。そんな感情。

こんな心地いい体温を知ってしまったら僕はもう二度と離れられないんじゃないかと、ときどき不安になる。

ずっと一緒にいるなんて口では簡単に言えるけど、一度手に入れてしまうと、今度はそれが無くなってしまうのが怖い。

鳴人がいなくなる。そんなこと今は想像もできない。

不意に鼻の奥がつんと痛んで、滲んできた涙を誤魔化すように、僕は鳴人の腕の中でカラダを反転させた。

顔を見られないように、鳴人の胸にしっかりとしがみついて。

「・・・どうした?」

優しい声が上から降ってくる。

返事の代わりに首を振ったら、鳴人の指が僕の頭をそっと撫でた。

それはまるで鳴人に飼われている猫になった気分だった。

・・・・・僕が本当の猫だったら。
生まれつきの猫だったら、こんなに切ない想いを感じることもなく、ただこうやって死ぬまで甘えていられたんだろうか。

愛撫とも呼べない、でも確かに愛情を感じる触れ方にだんだんと意識が痺れて、僕はいつの間にか本当に眠ってしまっていた。







「・・・?」

目を開けると、もう部屋の中は真っ暗だった。

一瞬ここがどこかもわからなくなったけど、包みこまれる熱にさっきまでのことを思い出す。

眠るつもりもなかったのに、どうやら夜になるまで熟睡してしまったみたいだ。

「やっと起きたか」

ふと耳元に掠れた声を感じて、ぴりぴりと熱をもつ瞼を擦った。

寝ている間に少し泣いてしまったんだろう。

なにか悲しい夢を見ていた気もするけど、目が覚めた途端にどんな夢だったか忘れてしまった。

「・・・いま何時?」

「7時」

「ウソ・・・寝過ぎた」

くっついたままで鳴人は寝心地が悪かったんじゃないかと思ってカラダを起こす。

「ごめん、ちゃんと寝れた?」

しがみついていた僕すら関節がギシギシいっているんだから、鳴人は相当だっただろう。

でも返っていた答えは意外なものだった。

「ずっと起きてた」

「ずっとって・・・5時間ずっと?」

「ああ」

ずっと抱き締めたまま?

「仕事は。僕のことはよかったのに・・・」

「約束したからな」

当然のようにそう言う。

「寝るから抱きしめとけって言ったのはお前だろ」

それがどれだけ大変なのか僕が知らないわけないのに。

「でも、」

「それに俺は・・・疲れてもないのにお前が腕の中にいて眠れるほど、お前のことどうでもいいと思ってねえよ」

「・・・なにソレ」

それは暗に、僕のことを抱きたいと、5時間そう思っていたということを言っているんだろう。

鳴人が寝ころんだまま、僕の頬に指を伸ばす。

乾いた涙の跡をそっと拭われて思わず息を詰めた。

「・・・目が覚めたら泣きやんだから安心した」

そんなの、反則だ。

泣いてた理由もわからないけど、心配してくれてたなんて、悔しいけど嬉しすぎる。

ずっとそばにいて、優しくしてくれた。

だから今度は、僕が鳴人のためになにかをしてあげてもいいかも。

そんな気持ちが湧いてきて、僕は少しためらったあと、思い切ってTシャツの裾に手をかけた。

「健多?」

不思議そうな顔をする鳴人を無視して一気にTシャツを脱ぐ。

なにも着てない素肌が空気に触れても、熱をもったカラダが冷えることはなかった。

いくら部屋の中が暗いといってもこれだけ近ければ裸の胸は鳴人に見えているだろう。

ベッドの上に脱いだものを放って、鳴人が口を開く前にそのカラダを跨いだ。

鳴人を上から見下ろすのがけっこういい気分だなんて初めて知る。

「誘ってるのか?」

もう一度、今度は真剣な声に訊ねられる。

だから僕も目をそらさないで真剣に答えた。

「・・・誘ってる」

鳴人の顔の横に両手をついて、ぐっと上半身を下ろす。

窓から差し込む光に照らされた顔が綺麗だと思った。

唇が触れる前に鳴人が目をつぶったから、少し意地悪してみたくなった。

わざと中心を逸らし、唇の端を舐める。

ぴくりと閉じられた瞼が動いたのを見てちょっと楽しくなってくる。

鳴人の両手が持ち上がって僕の腰を掴む。

肌に触れるその手は熱い。

「我慢、してた?」

いつもされるように耳元で囁いてみると、鳴人の唇が笑みに歪んだ。

「ああ・・・いますぐ突っ込んでやりたいくらい」

こんな言葉、普通の時に聞いたら絶対に怒ってしまうだろう。

でも今は違う。すごく楽しい。

だって、今日の主導権は僕が握ってるんだから。

僕だって男だ。

好きな人が欲しくてたまらないことだってあるんだってことをわからせてやりたい。

鳴人を挟みこんだ太腿が無意識に揺れる。

「健多・・・お前もう勃、」

うるさい唇を塞いでやるつもりで勢いよくキスをした。

こじあけるように舌を挿しこむと、長くて熱い舌に絡めとられる。

組み敷かれるときはたくさん流し込まれる唾液を今日は自分から送り込んでやった。

ぐ、と鳴人の眉根が寄せられ、息が荒くなる。

僕の脇腹に添えられていた手がいやらしく蠢き始めた。

「んッ、ん、ぁッ」

ときどき走るくすぐったいような刺激に背中を反らせると、離れた唇を追いかけるように鳴人の舌が伸びる。

徐々に積極的になっていく鳴人を窘めるつもりで一気に上半身を起こした。

「・・・ッは・・・ぁ」

荒い息を整えて口の端に垂れた蜜を拭うと、下から鳴人が不満そうな声を上げる。

「おい」

「・・・だって、くすぐったい」

くすぐったいのはすぐに気持ちよさに変わって息ができなくなる。

「じゃあ俺に触るなって?」

わざとらしく睨んでくる鳴人に僕はゆるく首を振った。

違う。触って欲しいけど、もっとちゃんと。

きもちいいトコロを。

そう言いたいけど、やっぱり恥ずかしくて自分からは言い出せない。

僕が言わなくても鳴人がいつもみたいに無理やりしてくれるのを期待して、俯きながら次を待つ。

でも。

「今日はお前の言うとおりにする日だからな。俺はお願いされない限り手は出さない」

「・・・ッ!」

自分だって限界のくせに変な我慢するな!

それでもずっとこのままで放置されるのは僕も我慢できない。

仕方なく遠まわしな言い方でして欲しいことを強請った。
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