どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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…ここはどこだろう。

瞼を開けて数秒、無駄に高い天井を見つめていた 。寝る前に花畑が見えたような気がしたのだけれど、天国とかそういう、場所ではない。

ふかふかと俺を受け止める大きなベッドの周りを見渡しながら起き上がる。


「……あ」

「冰澄さぁぁぁん!!!!」

眠る前何があったか思い出した瞬間、大きな音を立てて盛大に扉が開かれた。
というよりも壊されたかもしれない。壊れてないよ…ね?

「冰澄さん!!大丈夫ですか?」

スキンヘッドがキラッと光る。片桐さんだ。

「だい、じょうぶです。」

「あー…よかった。」

大きな安堵の息をこぼした片桐さんの後ろに扉を見つめる北谷さんが目に入った。

やっぱり壊れてたのかな…。

北谷さんは数秒見つめ、それから俺たちを見た。

「片桐、あれ直しとけ」

「脆いのが悪い。」

「……冰澄さんすみません。騒がしくて。
起きれますか?できれば薬の方を飲んでいただきたいのですが」

「はい、大丈夫です」

ベッドから降りて立ち上がる。腰がズキッとしたけれど耐えれないものではない。

「あ、冰澄さんこれどーぞ」

「ありがとうございます」

片桐さんがストールを肩にかけてくれた。こういうところが紳士的な方だ。

北谷さんの後に続いて部屋を出ると視界が明るくなった。ひんやりと足の裏が冷たい。
下を見れば大理石といおうか…白い綺麗な地面。

「スリッパ持ってきますねー」

片桐さんがそう言ってかけて行った。俺は北谷さんに促されソファに恐る恐る座る。

高級感あふれる肌触りに、なんだか恐ろしくなった。

北谷さんが水と薬を取りにキッチンへ向かう。キッチンがすでに孤立した部屋になってるなど誰が信じられるものか。

足元にすり寄ってきたシロを抱き上げた。

「冰澄さん、薬です。それと今日は学校はどうしますか?」

「…行きます」

一ヶ月も休んでしまってきっと部活の先輩は怒ってる。薬を飲み干して、シロを地面に下ろす。

「片桐が送迎をします」

「…すみません、何から何まで」

「冰澄さーん。これスリッパと制服です、あ、あとこれ冰澄さんのですか?」

片桐さんが色々持ってきてくれた。制服とスリッパと…それから、ギター。

初めての給料で買ったものだ。これが欲しくてバイトを始めた。先輩の家が楽器屋さんで安くしてもらった。それから2年間ずっと使ってる。俺の宝物だ。

「はい、…ありがとうございます。」

ギターと制服を受け取って、スリッパを履く。これもふかふかだ。

着替えるために寝室に戻る。シロがぱたぱたと俺の後をついてきた。
俺は小さく笑った。


「冰澄さん、これは組長からです。」

部屋を出るなり渡された白い紙袋に首を傾げた。中身を覗くと箱が一つ。

「スマートフォンです。組長、冰澄さんが持ってないからって急いで注文したんすよー」

「えっ!?そんな高価なものもらえません!」

思わず北谷さんに突き返してしまった。
ハッと我に返って頭を下げる。自分の口からこぼれた「すみません」はいつまでも変わらない。

「……組長はそんなこときっと笑い飛ばしますよ。」

北谷さんが優しく笑った。

「あの人は、支えきれないほど莫大な財産を持ってはいますが、自分が使おうと思ったことにしか使いません…あなたに使おうと思ったならそれは、善意であり好意であるんです。」

なかなか厄介でしょう、と北谷さんが笑った。もう一度俺の手に袋を握らせる。

「好意は、素直に受け取ることで、最大の敬意を表します。」

そう言われて、俺はもう何も言えなくなった。手の中の紙袋を見る。人生で一度も持ったことないものだ。

「あ、連絡先入れますよ」

片桐さんにそう言われ、箱を取り出す。
中には、やっぱり俺には無関係だと思っていた電子機器。

「俺の分と、北谷の分、組長のプライベートの番号といちおう事務所の連絡先を入れておきますね。」

「ありがとうございます」

慣れた手つきで片桐さんは連絡先を追加していく。俺はその光景を見ていた。


…なんだか、俺ばっかり…いい思いしていいのかな。


溜まった感情に小さく顔を歪めた。


#####


「また下校時に迎えに来ますので」

車から降りると片桐さんがニコニコしながらそう言った。ギターを肩にかけてから、片桐さんに小さく頭を下げる。

「ありがとうございます」

「いえいえ」

「片桐さんは今からお仕事ですか?」

「ええまぁ。掃除と買い物を」

言ってることがまるで主婦だったから笑ってしまった。片桐さんにもう一度礼を言ってから校舎へ入る。

「冰澄!?」

階段を上がりくるなり後ろから叫ばれた。

「先輩」

「お前!一ヶ月も!心配したんだぞ!」

「すみません入院してました。」

「え!?入院?」

「はい…そんなにたいし…」

「病気か!?怪我か!?治ったのか!?大丈夫なのか!?」

肩を揺すぶられ揺れる視界に懐かしいなと思いながら先輩を見る。

小柳 誓先輩。軽音部部長で留年したせいで同じ二年生だ。誓先輩は、見た目からして正ににグレましたと言わんばかりの方で、金髪は見慣れたにせよ、ピアスの数にはなぜか痛そうでこっちが痒くなる。

見た目は強いが中身はとても優しいのでいい先輩だっと思う。

「先輩、大丈夫です。ちょっと…車に引かれただけなので」

「車に引かれた!?」

「はい」

まさか銃撃されたなんて信じてもらえないだろから適当にはぐらかす。

「マジかよ…無理すんなよ?」

「はい、ありがとうございます。」

「あ、部活も無理すんなよ?」

「大丈夫です。もう治ったので、今日から行きます。」

「明人も心配してたぞ」

「明人先輩もですか?」

「仏頂面だけどあいつなかなか人情深いからな。」

沢長 明人先輩は、同じく軽音部で、ドラム担当の方だ。193センチの高身長で、目つきが少し悪い。よく不良に絡まれては喧嘩している、そのせいで停学になり留年になった。

「…軽音部、留年多くありません?」

「……痛い過去は置いとこうぜ。」

誓先輩は、顔を引きつらせながら笑った。
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