VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑

文字の大きさ
上 下
257 / 259
第6章

第6章41幕 居合<iai>

しおりを挟む
 コンコンコンと聞こえるノックの音で私は目を覚まします。
 「はい……」
 少し苛立ちの案じる声で応えを返す私は、いま決闘大会の最中であることを思い出します。
 扉を開けるとそこには私を何度も案内してくれていたNPCが立っていました。
 「三回戦の準備をお願いします」
 そうでした。私は二回戦第二試合の勝者。三回戦の第一試合になるでしょう。
 「ご案内いたします」
 そう言って私を先導し歩き始めるので、それに続いていきます。

 「三回戦からは、口上が述べられますので、サービスの方をお願いします」
 「え? あ、はい。分かりました」
 「すぐに試合開始となります。ご準備はよろしいですか?」
 「あっ。待ってください」
 私はそう言っていつもの【暗殺者】の装備に転換します。
 「大丈夫です」
 「ではこちらに」
 そう言って入口の横に立ち、私を既定の場所に立たせます。
 「まずお相手の方の口上が述べられた後入場して参ります。その後チェリー様の口上が述べられますので、ご入場ください。その後握手をして開始線までお下がりください」
 「わかりました」
 私がそう言うと、NPCが登場口から赤い旗をパタパタと振ります。

 『皆さんお待ちかねの決闘大会第三回戦第一試合が間もなく開始されます。』
 先ほどまで司会をしていた人の声ではない声が響きます。
 「まずは白口からの入場だー! なんと一回戦二回戦共にスキルを使わずの勝利ー! いったい誰が初出場と言って信じるでしょうか! 美しい剣から放たれるスキルを我々は見ることができるのかー! 私は見てみたい! それではマクフィル選手の入場です!」
 先ほどの司会NPCがそう言って紹介をすると、歓声が地面を揺らすように響き、私の対戦相手が入場しました。
 「続いては赤口からの入場! なんと! なんと! 前回覇者アリス・キャロルを破った新人! なんとこちらも初出場です! ≪舞剣≫から繰り出されるスキルはまさに可憐! 一度は斬られてみたい! それではチェリー選手の入場です!」
 なんだよ。その紹介。
 私は心の中で悪態をつきながらも入場し、観客たちに手を振ります。

 すでに握手の為に手を構えている細身の男性の元へ歩き、握手をします。
 「よろしくお願いします」
 「よろ」
 結構無口な人なんですかね。
 そう考えながら開始線まで下がった私は武器を構えます。
 「おおっと! これはどういうことだ! チェリー選手! 剣でも刀でもなく二刀の短剣だ!」
 片方短刀ですけどね。
 「準備はよろしいですか?」
 私がコクリと頷き、対戦相手のマクフィルも頷きます。
 「それでは……三回戦第一試合……開始っ!」
 その声が聞こえた瞬間、私はスキルを発動せず、走り出します。
 距離を詰められるのは分かっていた、と言わんばかりにマクフィルは剣を構えています。
 どのようなスキルを持っているかは分かりませんが、細身の剣からして高速剣技、もしくは、切断力に特化したものでしょう。
 少し情報を分析しながら距離を詰めますが、その瞬間後頭部がチリッとし、違和感に気付きます。
 私はその瞬間STRとAGIに物を言わせた急停止からのバックステップで後方に二歩ほど下がります。
 そして先ほどまで私の顔があった部分を剣先が通り抜け、私のプリティーな前髪を少し切り落としました。
 ≪居合≫ですね。
 基本的に剣ではなく、刀で発動する方が多いスキルですが、剣でも発動は可能なので、決闘の初手で持ってくる人は多いです。
 「よく、わかったね」
 「ええ。私も使いますから。この間合い……≪居合≫だけではなく、≪射程延長≫もしくは≪刀身延長≫も併用してますね?」
 「見事です。でもそれだけじゃない」
 そう言ったマクフィルが地面に靴の踵をコツコツと当てます。
 土属性魔法が来る!
 そう思った私は出し惜しみをせずにスキルを発動します。
 「≪ハイジャンプ≫」
 闘技場の客席よりも高く飛び上がるほどのジャンプをし、上空から俯瞰して様子を見ます。
 「≪グラビティコントロール≫」
 ≪ハイジャンプ≫で高さを稼ぎ、≪グラビティコントロール≫でゆっくりと降下することで呼吸を整えます。
 足元は土属性魔法で生成された杭がたくさん出ており、このまま降りるのは不利ですね。
 仕方ありません。土属性魔法とは相性が悪いですが、雷魔法を使用するしかありませんね。
 「≪喚起〔ペインボルト〕≫」
 私は【短雷刀 ペインボルト】から精霊を呼び出し、精霊魔法の発動準備をします。
 「≪ライトニング・ピアス≫」
 私が発動した精霊魔法が、土属性魔法の壁に遮られます。
 私は精霊魔法の発動直後、精霊を上空に残したまま急降下し、地面に足を着けて走り出します。
 魔法を発動しながら、≪居合≫を使うのにはコツがいるので、その隙を吐こうとした作戦です。
 私はマクフィルの後ろに回り込み、【短雷刀 ペインボルト】で背中を斬り付けます。
 「くっ……?」
 そうしてマクフィルが振り向こうとした瞬間に私はさらに背後へと回り、【ナイトファング】でさらに斬り付けます。
 「≪居合≫」
 「遅い!」
 ≪居合≫を発動し、反撃しようとしたマクフィルの腕を再び【ナイトファング】で斬り、【短雷刀 ペインボルト】で首に一閃加え、沈黙させます。

 「勝者チェリー! 驚くほどの試合展開! まさかの両者とも魔法が扱えるとはー!」
 私先ほどの試合で精霊魔法使ってますけどね。
 一応勝利したのでお辞儀をし、赤口、自分が入ってきた出口から出ます。
 「お疲れさまでした」
 「ありがとうございます」
 「では次の試合が終わるまでこちらで待機をお願いします」
 そう言って別の場所に押し込まれたので、私は次の試合の終了を待つことになりました。
                                      to be continued...
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

運極さんが通る

スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。 そして、今日、新作『Live Online』が発売された。 主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

びるどあっぷ ふり〜と!

高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。 どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。 ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね? ※すでになろうで完結済みの小説です。

処理中です...