上 下
252 / 259
第6章

第6章36幕 宝<treasure>

しおりを挟む
 「で? それがなんだ?」
 「実はあるプレイヤーについて聞きたいんや」
 「しっている範囲なら答えるが、俺は情報屋じゃねぇ。期待すんなよ」
 「ムンバさん。ファンダンって覚えてますか?」
 私が【彫刻師】である彼、ムンバの名前を呼び、過去に一度連れてきたことのあるファンダンのことについて問います。
 「ファンダン? 特徴は?」
 「大柄でゴリラみたいなゴリラです」
 「なんとなく覚えているが」
 「私の像を大金叩いて買った奴です」
 「あいつか。覚えているぞ。あの後も頻繁に来てな。正直太客だ」
 「そんでな、そのファンダンっちゅーのが……」
 もこちねるが事情の説明を始め、それをムンバは目を閉じゆっくりと聞いていました。

 「自分の利益の為に仲間を捨てるような奴だったか?」
 一通り聞き終えたムンバから出た言葉はそれだけでした。
 「私も同じギルドだったからわかるんですが、そんなことをする人じゃない、と思ってました」
 「となると、女絡みだな。あいつを手籠めにした女がいるんじゃないか?」
 「かもしれないですね」
 ファンダンは女に弱かったですから。
 「掛け金を追加しろ。そしたら俺も動いてやる」
 ムンバからそう提案があります。
 「掛け金?」
 「あぁ。爆乳で可愛くて、やばい女を連れてこい。そいつの銅像を作らせてもらう」
 金じゃなくて銅像ですか。ぶれませんね。この人。
 「一人心当たりがあります」
 「呼べ」
 「分かりました」
 私はそうムンバに返事を返し、マオにチャットします。

 『マオ。ちょっと力を貸してほしいんだけど』
 『なに、かしら?』
 『『アイセルティア』の【彫刻師】がマオの銅像を作ってもいいなら手伝ってくれるって言ってて』
 『銅像? いい、わ。楽しそう』
 『じゃぁ今から迎えに行くね。今どこ?』
 『まだ、ホーム、よ』
 『了解』

 その内容をもこちねる達に軽く伝え、私は『騎士国家 ヨルデン』のセカンドホームまで≪テレポート≫で戻ってきました。
 「お待たせ」
 「はいやいねー。その【彫刻師】ってチェリーの像を作ったひとー?」
 ステイシーにそう聞かれたので、私は頷きマオの手を取ります。
 「少しだけ、マオ借りていくね。終わったらここまで連れて帰ってくるから」
 「まってー。僕たちもいくよー」
 「あぁ。ワタシ達も行く気でいる」
 「ボクも賛成だよ」
 ステイシーの言葉にサツキとリーリが同意し、ステイシー達もついてくることになりました。

 ≪ワープ・ゲート≫で『鉱山都市 アイセルティア』まで帰ってきた私はステイシー達とムンバのお店に向かいます。
 「もどりました」
 私がそう言って扉を開けると、ムンバとエルマがもこちねるの像で悩殺ポーズを作って遊んでいました。
 「きたな。それでどいつだ? 掛けき……」
 そう言ってこちらを振り向いたムンバが視界にマオを捉えた瞬間、ドシンという音を立てて顔から地面に倒れこみました。
 「ムンバさん!?」
 驚いた私が立たせようと近づくと、ムンバが大声で笑い始めました。
 「天使だ。君は俺の天使だ!」
 そう大声を出しながら立ち上がったムンバがマオの前で跪き、薔薇を一本取り出し、差し出します。
 「君の像を世界で最も美しく作れるのは俺だけだ。こちらでも向こうでも、君の像を舐めましていいかい?」
 少し口調が丁寧なのが気持ち悪いですね。
 「像? なら、いいわ。でも手を、出したら、お仕置き、よ」
 上手い。さすがマオ。返しが上手い。
 「あぁ。もちろんだ。早速作るぞ」
 そう言ったムンバが先ほどとは違う倉庫から金属を取り出しました。
 全体的に赤身のある金属で、見る場所によって色が変わる代物でした。
 そしてその金属を、ここにいる全員が知っています。
 〔ヒヒイロコガネ〕という<Imperial Of Egg>で間違いなく最高級の金属です。
 錬金によって生成することができないソレは、〔ユニークモンスター〕からドロップした武具を溶かす事によってしか得ることができません。
 それをこの量持っているということは、おそらくムンバは戦闘力も高いはずです。
 「こいつは厄介な代物でな。加工に時間がかかる。その間、待ってろ。地下にフリースペースを増築してある。天使と俺が暴走しない様に……ロリ、残ってくれ」
 「そのロリっていうのやめてくんない?」
 本気で嫌がっていそうに見えるエルマの抗議を一蹴し、ムンバは〔ヒヒイロコガネ〕をこねこねしています。

 私達はムンバに言われた通り、地下のフリースペースにやってきたのですが、ここはフリースペースというより展示場ですね。
 大小様々な大きさの銅像や彫刻が並んでいます。
 「おっ? これはチェリーの像じゃないか?」
 サツキに言われて、私はその像を見ます。
 「たしかに、私の像だね。細部が変更されてる……え? まって? これ私がこないだ変更したばっかりの服じゃない?」
 前に作ってもらった時はメイド服でしたが、今の格好は異なります。そしてその変更後の格好で像が作られているってことは……。
 私は両手で自分の身体を抱き、ブルルと身を振るわせます。
 「気にするな。きっとたまたまだ」
 「いやいや。たまたまでレースの模様まで再現されてたまるか!」
 私がそう声を上げると、サツキはクスクス笑いました。
 しかし直後サツキも固まる発言がリーリからされました。
 「サツキのもあるね」
 「ちょっとまってくれ。私が認識できていないだけだろう。何故、ワタシの像がここにあるのか。ワタシは初めてここに来たんだぞ」
 「あるものは、あるんだ。ほら」
 そういってリーリが指さす先には、いつか、それもかなり昔にサツキが女の子っぽい衣装を着ていた時のものでした。
 それを見たサツキの顔から血の気が引き、フラッとしたので私が支えると、サツキはうわ言のようになにかぶつぶつ呟いていました。
 サツキをお姫様抱っこし、椅子に寝かせ、展示場の続きを眺めています。

 2時間ほど見回ると飽きてきますが、丁度そのタイミングでエルマが降りてきました。
 「完成だってさ。サツキどうしたの?」
 見回して、サツキが椅子に寝ころんでいるのを見てそう言いました。
 「あー。これこれー」
 ステイシーが指さした像を見たエルマが納得したように「なーる」と言いました。
 「サツキ動けるー?」
 ステイシーがサツキに声を掛けると、「あぁ」という返事があり、サツキは立ち上がりました。

 みんなで上に登ると、地面に頭を擦り付け、何かを請うムンバの姿が見えました。
 「頼む。一生のお願いだ。俺を踏んでくれ」
 「? いい、わよ」
 グシャッと容赦なく後頭部を踏みつけたマオに「ありがとうございます!」とムンバは言っていました。
 「戻ったか。見ろこの出来だ」
 そう言って銅像に被せられていた布を外します。
 一瞬、像そのものが光ったかのように錯覚するほど美しい像でした。
 「すごい」
 私が一言発しますが、他のみんなも声が出ないほど驚いていました。
 髪の毛一本一本にまで魂が宿っていると見間違うほど精巧な作りで、正直「すごい」以外の感想がでてきません。
 「こいつは造形の時に注いだMPで硬さや弾力を決められる優秀な金属だ」
 そう言ってムンバはマオ像の胸のあたりを両手で揉みしだきます。
 「死ぬまでの宝だ。誰にも触らせん」
 そう言って喚く、ムンバをすごく冷たい目で見ていたマオには気付かないふりをしました。
                                      to be continued...
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~

滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。 島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

DEADNIGHT

CrazyLight Novels
SF
総合 900 PV 達成!ありがとうございます! Season 2 Ground 執筆中 全章執筆終了次第順次公開予定 1396年、5歳の主人公は村で「自由のために戦う」という言葉を耳にする。当時は意味を理解できなかった、16年後、その言葉の重みを知ることになる。 21歳で帝国軍事組織CTIQAに入隊した主人公は、すぐさまDeadNight(DN)という反乱組織との戦いに巻き込まれた。戦場で自身がDN支配地域の出身だと知り、衝撃を受けた。激しい戦闘の中で意識を失った主人公は、目覚めると2063年の未来世界にいた。 そこで主人公は、CTIQAが敗北し、新たな組織CREWが立ち上がったことを知る。DNはさらに強大化しており、CREWの隊長は主人公に協力を求めた。主人公は躊躇しながらも同意し、10年間新しい戦闘技術を学ぶ。 2073年、第21回DVC戦争が勃発。主人公は過去の経験と新しい技術を駆使して戦い、敵陣に単身で乗り込み、敵軍大将軍の代理者を倒した。この勝利により、両軍に退避命令が出された。主人公がCREW本部の総括官に呼び出され、主人公は自分の役割や、この終わりなき戦いの行方について考えを巡らせながら、総括官室へ向かう。それがはじまりだった。

処理中です...