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第5章

第5章57幕 宴会<banquet>

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 「じゃぁ〔オブザーバーボスモンスター〕戦の勝利と、不動一派への勝利を祝して! かんぱーい!」
 エルマが音頭を取り、皆でグラスをチンとぶつけ合います。
 「一番きつかったのはなんだかんだ、不動彰、本物の方だった気がするね」
 サツキが度数の強い酒をグビリと飲みながら言います。
 「あたしもそう思う。毒はキツイ」
 「結局クーリと犬面は不動にやられたわけだし。【焔龍真神 ドラグジェル・バールドライド】との戦闘に参加できなかったから、報酬もなし」
 空蝉がそう言いながら、女子力高めのお酒をチビッと飲みます。
 「でも一番意外だったのはあそこでチェリーが一対一の勝負を受けたことかなー」
 ステイシーがそう言いながら私の方を見てきたので、あの時の私の心を説明します。
 「この【ナイトファング】に宿ったていう精霊だか悪魔だがよくわからないモノがさ、そうしろって言ったような気がしたんだよ。たぶん信じてもらえないだろうけど。最後の一戦を貰ってくれって言われたらやっぱり断れないよ」
 そこまでしゃべった私はビールを飲んでから続きを話します。
 「実際は、今後も【焔龍真神 ドラグジェル・バールドライド】は〔オブザーバーボスモンスター〕だから戦うこともあるだろうけど、私とこの子が【焔龍真神 ドラグジェル・バールドライド】と戦うことはもうないからさ」
 私が話し終え、皆の顔をちらりとみると、一様に、驚いた、という表情をしていました。
 「えっ? なんでそんなに驚いてるの?」
 「いやすまない。意外だったんだ。チェリーはそれでも、自分の心情を抜きに確実に勝てる方を選択する人間だと思っていたからね」
 サツキがすぐにフォローに走りました。
 「私そこまで冷静な方じゃないよ」
 「あぁ。そうだったな。飲みなおしだ」
 そう言ってサツキが再びグラスを手に持ち、私に近づけて来たので、私もグラスを近づけ、チンと音を鳴らします。

 体感的には数時間、実際は二時間ほど酒を飲み、潰れる人が数人出る頃、私は一度酒場を出て、辺りを見回します。
 「ふぅ」
 不動達が来る前と変わらないであろう、私が初めて見る元々のこの都市の活気を目にし、安堵のため息を漏らします。
 これで良かったんですよね。

 そして酒場に戻ると、空蝉がマスクを外したり、サツキがフリフリドレスを着ていたりなど面白いことが起きていました。
 「なにやってるの?」
 「見ての通りだ。ワタシは嫌だといったんだ。それでも酔っぱらったエルマとマオに無理やり……」
 「酔ってない!」
 「こんな、のは、水よ」
 確かにマオはいつも通りですが、エルマはちょっと怪しい出す。
 「チェリーも着よっか!」
 「ちょっと待って。私いまメイド服じゃん? 一応服はカワイイから見逃してほしいかなーなんて」
 「無理!」
 「やめ……」
 案の定私はアクセサリーを解除させられ、身ぐるみはがされて可愛い服を着せられました。
 「ぐす……」
 「なくなチェリー。ワタシのほうが泣きたいくらいだ」
 「サツキィ……」
 「ヤな予感がするー」
 突然ステイシーが立ち上がり、酒場の外へ逃げ出しました。
 「ちっ! ばれたか! 追うぞ!」
 エルマが酒場から走って出て行くと、マオもノリノリで出て行きました。
 「酒場だからもっと静かにしようよ」
 私の声は届かず、どこかへ消えていきました。

 顔と耳を真っ赤にしながら女装したステイシーに女性陣からの異様なプレッシャーがかかっていましたが、今日はお開きとなりましたので一度宿屋に戻りました。
 「明日、ここを出るのかい?」
 サツキが私に聞いてきます。
 「分からないけど、もうあとは小さな村を残すだけだし、色々と情報屋に話したいことがあるから私は一度帰りたいかな?」
 「僕も賛成ー」
 「あたしも」
 「マオもよ」
 「私達はまだ残るよ。まんちかんたちと合流すると思うから」
 「そっか。短い間だったけど、楽しかったよ」
 私は空蝉にそう伝え、部屋へと戻りました。

 宿屋でログアウトした私は現実に帰ってきましたが、お風呂に入る気力や、食事を取る気力がわかず、そのまま深い睡眠を取りました。
 次の日、目を覚ました私は、空腹を訴えるお腹をさすりながら、自動調理機で食事を用意します。
 「和食だな!」
 誰に聞かれるわけでもないので、大き目の独り言を言いながら操作します。
 携帯端末を操作しつつ、完成を待っていると、ポーンと携帯端末に通知がきます。
 なんだろう、私はそう思いながらそのメッセージを開きます。

 『お知らせ』
 『[Multi Game Corporation]<Imperial Of Egg>運営部門、部門長白河美華夏と申します』
 『この度、弊社の<Imperial Of Egg>に於きまして、キャラクター名『チェリー』様が規定に到達したことをお知らせいたします。後日詳細を電子データでご自宅に送付致します。』
 『これからも<Imperial Of Egg>をよろしくお願いいたします。』

 えっ? えっ?
 規定? 何?
 私の頭の中にたくさんの疑問符が浮かびます。
 完成してからしばらく経ってしまった食事を取りつつ、私は掲示板などで情報を探します。
 しかし、これと言って明確な答えが得られないままでした。
 ゲーム内の友人にこちら側でメッセージを送ろうか、とも考えたのですが、そこまで差し迫った問題ではなさそうなので、ゲーム内で聞くことにします。
 私は食事を取り終えてすぐにログインしました。

 「あっ。おはよ。ステイシー」
 宿屋の部屋を出ると、ばったりステイシーに出くわしました。
 「やー。おはよー。チェリー<あいおえ>の運営からメッセージ来なかったー?」
 「えっ? ステイシーも来たの?」
 「もってことはチェリーにも来てたんだねー」
 「うん。よくわからないから後で戻ったら情報屋とかに聞くつもりでいた」
 「僕もだよー。とりあえずー、他の人達を待とうかー」
 テクテク歩き、どこかに向かうステイシーに私はついて行くことにしました。
 「どこかいくの?」
 「もうしばらくここには来ることがないからねー。散歩ー」
 「なるほどね」

 あてもなくぶらぶらしているとエルマやサツキ、マオがログインしてきました。
 宿屋の前で待ち合わせをし、合流します。
 「おはよう」
 「おはよ」
 サツキの挨拶に返事をし、ついでにメッセージのことについて聞きます。
 「運営からメッセージって来た?」
 「いいや? 来ていないが。何かあったのかい?」
 「えっとね、私とステイシーには運営からメッセージがきてたんだよ」
 「マオ、にも、来たわ」
 「あたしは来てない」
 その場にいたエルマとサツキには来ておらず、私とステイシーとマオには来ているという事に少しの疑問を浮かべながらも、私達は『無法地帯 ヴァンディーガルム』を出るべく、『龍恵都市 ドラグニア』を出発することにしました。

 来る時とは違い、性向度による不利益が一切なくなっているので、心置きなく、狩りができますね。
 自分たち二人だけ仲間外れにされたからか、エルマとサツキが異常に好戦的にモンスターを狩っていましたが、それ以外はいつも通りでした。

 来るとき通った火山洞窟を逆側から進み、『無犯都市 カルミナ』が見えてきました。
 門番に扉を開けてもらい、中に入ります。
 久々の『無犯都市 カルミナ』ですが、入ってすぐ見知った顔のプレイヤーがこちらに歩いてくるのが見えました。
 「あっ!」
 こちらに気付いた彼女が指をさしながら私の元へ歩いてきます。
 「チェリー。久しいなぁ。こんなところでどないしたん? 探検? レベリング?」
 「探検ですね。もこちんさんは?」
 「調査やね。『叡智会』の。ところでお連れさんは?」
 「あっ紹介するね。エルマとステイシー、サツキ、愛猫姫だよ。みんなこちらはもこちねるさん。『情報ギルド 叡智会 キャンドラ支部』の人」
 エルマ達がペコリと頭を下げると、もこちねるが顎に手を当てながら皆を見回します。
 「ほー。揃いも揃って有名どころやな。みな一癖二癖ありそうやしな。せやせや。営業せんとな。おもろい情報あったら高額で買うで?」
 「〔オブザーバーボスモンスター〕と運営からのメッセージ」
 私がそう言うと、特にお茶を飲んでいたわけでもないもこちねるが「ブバッ」と何かを吹き出し、むせ始めました。
 「ちょいまちぃ! なんでチェリーがそんなことしっとるん!?」
 「戦いましたから」
 「あり得んやろ……。その〔オブザーバーボスモンスター〕っちゅーのに会うためにわざわざ性向度下げてまで来たんやで? それなら最初から頼めばよかったわ。はー。かなわんなー」
 一人でぶつぶつ言い出したもこちねるに情報を渡します。
 「この先を進んだ所に火山洞窟があってね。そこを抜けてさらに進むと『龍恵都市 ドラグニア』っていうところがあるよ。そこに行けばたぶん分かるんじゃないかな? あっ。あと空蝉っていうプレイヤーなら詳しく説明してくれるんじゃないかな?」
 私がそう言うともこちねるはハッとしながらメモを取り、私にぽいっと巾着を放り投げてきました。
 「これは礼や! とっとき!」
 「えっ。お金とかいらないよ?」
 私がそう返すと、もこちねるは顔を真っ赤にしながら、巾着を回収しました。
 「なんで、あんたはこう、人を辱めるのが好きなんやろか……。ほんま……はずいわ。情報感謝するで、このお礼はいつかかえすで」
 そう言って私に投げキッスを飛ばしてきたのでありがたく頂戴し、手を振って見送ります。
 「さて、知人に遭遇するというイベントが起こったが、これ以上のことが起こらないうちに早急に撤退しようか」
 サツキがそう言い歩き出したので、それに続き私達も歩き始めます。
                                      to be continued...
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