上 下
142 / 259
第4章 精霊駆動

第4章53幕 白熱<heated discussion>

しおりを挟む
 「早速だが嬢ちゃん絵は描けるか?」
 「絵ですか? 人並みには描けますよ?」
 「そいつは助かるぜ。どんな形にするかちょっと描いてみてくれ」
 「わかりました」
 私は受け取った紙にそこらに転がっていたペンでイメージを描きだします。
 数分ペンを走らせ、完成した絵を見せます。
 「これでどうでしょうか?」
 「「「…………」」」
 「チェリー……。これ……」
 「ん? 何か変?」
 エルマにまで疑問をぶつけられますが、私はちゃんと自分のイメージを絵に起こしたので何故不思議がられてるか分かりません。
 「脚の生えた竹輪……」
 「はぁ? 酷くない?」
 エルマにそう言われ、憤慨した私はエルマから紙をむしり取り、改めて確認します。
 「あれ? さっきと違う?」
 「違くないよ! まさかチェリーがこんなに下手くそだとは……」
 あれ? なんかショック。
 「あー。うん。まー。あー」
 デュレアルから語彙力が欠落します。
 「あの……なんかすいませんでした……」
 「気にすんなよ。嬢ちゃん。絵が下手くそでも生きていけるぜ」
 死にたい……。
 分かりますか? 自信満々で描いた絵が他人の語彙力を奪うレベルの殺傷力あるんですよ? 想像したくもありません。
 「まぁなんだ。イメージを伝えてくれ。俺達が起こしてやるよ」
 「ではお願いします……」
 人並みには描ける方だと思っていたんです。信じてください。

 私がイメージを伝えると、3DCGかと見間違ってしまう程の絵が完成しました。
 「これです。これ。私はこれを描きたかったんです」
 「お、おうよ。んでな、ここと、ここに精霊駆動を積もうと思ってる」
 デュレアルは前輪のちょうど上らへんと、後輪のちょうど上らへんを木の細長い棒で指します。
 「これで理論上は上手く行けると思うんだがな。一度、仮で組んでみないと分からんがな」
 「デュレアル。俺の工房からフレーム取って来るわ。余りでいいパーツあんだわ」
 「そういうことなら俺も精霊駆動を突っ込む筒の改良品あるから取って来るわ」
 アインとリベラルがそう言って工房から出て行きました。
 「おう。わりいな。すまんな嬢ちゃん達」
 「いえ。大丈夫です」
 一人で少し思考し、心を落ち着けることができたのでまともな返答ができるようになりました。
 「みんな精霊駆動と乗り物が大好きでよ。かくいう俺も精霊駆動を模倣した疑似精霊駆動で二輪車作ってあいつらとひとっ走り行くのが毎週の楽しみなんだ」
 「みなさん本当に好きなんですね。楽しそうなのが伝わってきます」
 「そういやそっちのちんまい嬢ちゃんは二輪車いらねぇのか?」
 デュレアルがそうエルマに聞きます。
 するとエルマは少ししょんぼりした顔をしながら答えます。
 「正直欲しい。でも精霊駆動取ってきてないし」
 「出力と燃費は悪くなるが、俺が作った改良型疑似精霊駆動で一台組むか?」
 「えっ? いいの?」
 「あぁ。構わねぇ。代金もいらねぇぞ。こんな面白い事に首突っ込ませてもらってる礼だと思ってくれ」
 「わーい!」
 子供の用にはしゃぎまわるエルマを微笑ましく眺め、二人の帰りを待ちます。

 「デュレアル待たせたな。予備フレーム2種類あったから持って来たわ。新人の【鍛冶職人】雇ったかいがあったわ」
 「おう。アイン、もどったか。まだリベラルは帰ってねえぞ」
 「しゃーねー。あいつの工房汚えからな!」
 「だよな!」
 ガッハッハと二人して笑っています。
 「現実のバイクと似たようなフレームだね」
 エルマが私にそう言います。
 「現実のバイクってあんまり見たことないから分からないや」
 「そっか。まぁチェリーだもんね。竹輪!」
 「ねぇ。お願い。本当に忘れて?」
 「おっと。口が滑った。っとまぁ現実のバイクと大差ない感じになると思うってね。ガソリンの代わりに魔力を使ってるんのかな?」
 「おっ? ちんまい嬢ちゃんいい線ついてるな!」
 「ほんと!?」
 「あぁ。本当なら燃料を入れる方が効率がいいんだが、いい燃料が無くてな。それで精霊の原型を閉じ込めた球体の精霊駆動ってわけだ。俺が作った疑似精霊駆動は燃料で動くぞ」
 「へぇ!」
 エルマの目が輝きを増します。
 まぁ高級外車に乗ってるわけですし、こういう話題は好きなのかもしれませんね。
 そう言えばサツキも高級外車乗ってるらしいです。あっ。精霊駆動式二輪車できたらサツキにも乗ってもらおう。たぶんめっちゃ似合う。
 私が思考の海を泳いでいると裏口がバーンと開かれ、リベラルが帰ってきます。
 「デュレアル。戻ったぜ。改良型の筒二つだ。でもよ。ちょっと戻ってくる間に思いついたことあるからやってみていいか?」
 「おっ? どんな感じだ?」
 「気になるな」
 デュレアルとアインが身を乗り出し、リベラルの話に耳を傾けます。よく見たらエルマも押しつぶされそうになりながら聞いています。
 「この筒の内側にもう一個筒を入れんだよ。こう。コップを二つ重ねるみたいに」
 「それで?」
 「んで精霊駆動に魔力を流し込んで膨張させるだろ? そうすっとこのコップが離れる」
 「おぉ! 流石だな!」
 「んでよ? このコップの側面に棒と歯車をくっつけて動かせば効率いいんじゃねぇか?」
 「お前天才かよ」
 お前天才かよ。エンジンという概念はなかったはずですが、かなり近いものになってきました。そのうちこの人たちがエンジンを作るかもしれませんね。『科学都市 サイエンシア』を差し置いて。

 白熱する議論を経て今日はお開きになりました。彼らはこれから居酒屋で死ぬほど語らうと言っていたので遠慮した形になっています。
 「思ったよりも遅くなっちゃったね」
 「そうだね。ステイシー達には事情言ってあるし、皆自分のやりたいことやるって言ってたから別にいいかなってね」
 ステイシーは素材探しの旅に、サツキは修行に、愛猫姫はお酒を飲みに行くと言っていました。
 「とりあえずいい物ができるといいね」
 「ねー! じゃぁまた明日工房に行こうか」
 「そうだね」

 その後エルマと晩御飯を食べ宿屋に戻ってきた私達は、宿屋の部屋の前で別れます。
 「じゃまた明日ねー」
 「また明日」
 エルマと別れ部屋に入ろうとすると奥から一人の人物がこちらに向かって歩いてくるのに気が付きました。
 「あっ。チェリーさん」
 仕事終わりのような姿のアンナでした。
 「アンナさん。お仕事終わりですか?」
 「はい」
 「少しお話でもしませんか?」
 少し話したいこともありますし、私は会話に誘います。
 「いいですね。では行きつけのバーがあるのでそちらに行きませんか」
 「分かりました」
 一度開けた扉をそっと閉め、アンナとともに宿屋を出ます。
 「どの辺にあるのですか?」
 「えっと。そのバーは私の家のすぐ近くなんですよ。だいたい歩いて10分くらいでしょうか」
 「意外と近いんですね」
 「都市は意外と狭いですからね」
 「そうですね」
 仕事の話を少し聞きながら歩いているとあっという間についてしまいました。
 「こちらです」
 「おお。なかなかおしゃれですね」
 「女性に大人気ですよ」
 「期待できますね」
 「お酒も料理も期待にそぐわないと思います」
 「おー!」
 そのまま扉を開け入るアンナに続き私も入ります。
 「こんばんわ」
 「お邪魔します」
 「おっ? アンナちゃん今日もありがとね! そちらはお連れさんかい? ならいい席用意してやんなきゃね。パフェ。二階の1番用意して」
 「あいあい!」
 パフェと呼ばれたNPCの少女が敬礼をして二階へと走っていきました。
 「常連さんなんですね」
 「お仕事のある日は毎日寄ってますから」
 「そうなんですね」
 「悪いね。アンナちゃん、もうちっと待ってくれ」
 「ゆっくりでいいですよ」
 そうアンナが返事をした瞬間、どこからともなく現れた、パフェがご案内します!と言ってアンナの荷物を持って二階へ上がっていきました。
 「仕事はほんとにできるやつなんだけどなぁ」
 そう呟くマスターの声は一階にいた客全てが聞き取れたと思います。
                                      to be continued...
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~

滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。 島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

DEADNIGHT

CrazyLight Novels
SF
総合 900 PV 達成!ありがとうございます! Season 2 Ground 執筆中 全章執筆終了次第順次公開予定 1396年、5歳の主人公は村で「自由のために戦う」という言葉を耳にする。当時は意味を理解できなかった、16年後、その言葉の重みを知ることになる。 21歳で帝国軍事組織CTIQAに入隊した主人公は、すぐさまDeadNight(DN)という反乱組織との戦いに巻き込まれた。戦場で自身がDN支配地域の出身だと知り、衝撃を受けた。激しい戦闘の中で意識を失った主人公は、目覚めると2063年の未来世界にいた。 そこで主人公は、CTIQAが敗北し、新たな組織CREWが立ち上がったことを知る。DNはさらに強大化しており、CREWの隊長は主人公に協力を求めた。主人公は躊躇しながらも同意し、10年間新しい戦闘技術を学ぶ。 2073年、第21回DVC戦争が勃発。主人公は過去の経験と新しい技術を駆使して戦い、敵陣に単身で乗り込み、敵軍大将軍の代理者を倒した。この勝利により、両軍に退避命令が出された。主人公がCREW本部の総括官に呼び出され、主人公は自分の役割や、この終わりなき戦いの行方について考えを巡らせながら、総括官室へ向かう。それがはじまりだった。

処理中です...