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番外編 第2部
<ジュンヤの一日>
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俺の一日は大学を卒業したときから変わらない。
朝起きて、仕事に行き、帰って来てゲームをする。これだけの一日ではあるが、それが何よりも幸せだった。
小さい頃ゲームは嫌いだった。
だってそうだろ?
一日1時間までなんて決められてたらなにもできやしない。
家が厳しかったのもある。
学校が終わったら課題をやり、11時には就寝する。それを徹底させられていた。
大学を卒業し、一人暮らしするまではずっとそんな日々だった。
就職難と言われる厳しい就職戦争になんとか勝ち残り、中堅の会社で、普通の仕事をする。
企業の役員である父からは酷くどやされたものだった。
特に名門の大学に行っていたわけでもないし、俺自身が努力をしなかったという理由もあり、父の言い分はもっともだった。
だから家を出て、一人で生きていくことにした。
とは言っても月に何度かは実家に帰り、母の手料理をたらふく食べてはいるのだが。
仕事は所謂、ブライダルプランナーというやつだ。
ブライダルプランナーという業種は女性が圧倒的に多いのだが、それはそれで楽しかった。
学生時代には女友達が多くいたからかもしれない。
カップルと一緒に人生最大の幸せを創り上げる。とてもやりがいのある仕事だ。
「斎藤さんー。すいませーん」
「なんですか?」
「えーっと、再来月挙式予定の藤堂様からお電話入ってますー。外線3番です」
「わかりました」
『お電話変わりました。斎藤でございます』
『ご相談がありまして……』
『はい。お伺いいたします』
俺はそう言い、資料がまとめてあるファイルを開く。
『先日決めた式場がありますよね?』
『はい』
『彼の会社の人もさらに追加で呼ぶことになりまして……』
『左様でございますか。何人ほどでしょうか?』
『15人くらいなんですけど』
『15人ですね。少々お待ちください』
一度電話を保留にする。
「ふぅー」
ファイルをめくり、現在押さえている式場の最大収容人数を確認する。
最大人数を超えているなぁ。
最近では結婚式は盛大にやることがほとんどなくなり、小型の式場で事足りるし、そもそも結婚式を挙げないカップルも増えてきている。
その中で久しぶりに担当した大型の案件だったので、何とか満足してもらえるように全力を尽くしていた。
「高橋さん。いまお時間大丈夫ですか?」
自分が新入社員として入社したとき、直属の上司にあたり、今でもわからないことがあったり、困ったことがあったら一番に相談する高橋に声をかける。
「なにかしら?」
「えっと再来月、ホテルウェールズで挙式予定のカップルから電話がありまして、招待を増やしたい、とのことだったんです」
「ええ」
そう相槌を打った高橋がくるっとこちらを向く。
「ですが式場の最大収容人数を超えてしまうようで」
「なるほど。式場の変更はご提案されたの?」
「いえ、まだ伝えておりません」
「じゃぁもし式場の変更が駄目だったらまた声かけてくれる?」
「わかりました」
自分のデスクに戻り、電話の保留を解除する。
『大変お待たせいたしました』
『はい』
『ホテルウェールズの最大収容人数が150人でして、15人追加となると式場の変更も考えなければなりません』
『そうですか……』
『できれば変更したくないですよね』
『はい……』
『私が式場に掛け合ってみます。テーブルの配置等を変えれば何とかなるかもしれません』
『お願いできますか』
『任せてください。と言いたいところですがまだ経験も浅く至らぬかもしれませんので、過度な期待は……』
『大丈夫です。いざとなったら彼ともう一度相談して、式場の変更も考えたいと思います』
『ありがとうございます。ではこちらからまたご連絡差し上げます』
『お願いします』
『失礼致します』
相手方が電話を切るのを確認してから受話器を置く。
電話でホテル側に相談したいところだが、直接赴いたほうが良いので、行ってみることにする。
相談に行くという旨だけ電話で伝える。
椅子に掛けていたジャケットを着、鞄に必要なものを詰めていく。
「すいません。外行ってきます」
「いってらしゃい」
同僚たちが声をだし、見送ってくれます。
俺が務める会社は東京の千代田区にあり、式場となるホテルウェールズは長野県にある。新幹線で行けばおよそ3時間弱でつく距離だ。
まだ正午は回っていないので、上手くいけば夜9時には自宅に帰れるかもしれない。
電車を乗り継ぎ、新幹線に乗り換える。
買っておいた駅弁を堪能し、到着までの間、携帯端末を用いて書類を作成する。
よく仕事熱心だとか言われるが、この程度普通だと思う。
本音を言えば残業しないで帰り、ゲームがしたいっていうだけなんだが。
ゲームを好きになったのは就活が終わった後だった。
卒業論文を書き上げ、地元をうろうろし、時間を浪費するだけだった。
それにも飽きてきて、大学の授業を受けるために使っていたパソコンでネットサーフィンをするようになった。
動画サイトを見ることが趣味みたいになってきたとこ、贔屓にしていた動画配信者がとあるゲームのβテストの様子を公開していた。
たくさんのプレイヤーで同じモンスターを倒すMMORPGというものだったようで、自分も参加してみたくなった。
その後別のゲームではあるが、MMOゲームを始め、次第にその魅力にとらわれていった。
そのころからゲームは生活の一部になった。
親から幾度も注意されはしたが、大学の補講だと言い逃れをし、ゲームを遊んでいた。親には感謝している。もし受験や就活の前にこの楽しさに気付いていたら、まずいことになっていたかもしれない。
基本的に努力は嫌いだったが、ゲームだとそれも苦にならない。楽しいかどうかということはとても大事なんだと思い知らされた。
書類の作成が終わり、もうすぐ式場の最寄り駅に到着する頃になった。
携帯端末でニュースサイト等を見つつ、到着を待っていた。
駅に着き、電車を降り、タクシーを捕まえる。交通が整備され、ほとんどすべての国民が車に安全に乗れる世の中になったが、
タクシーの需要は消えていない。もちろん絶対数は減っているのだが。
「ホテルウェールズまでお願いします」
「はい」
先ほど会社を出る前に、行く旨だけは連絡しておいたので、最寄りの駅に到着し、タクシーに乗ったということを電話で連絡する。
『斎藤です。はい。最寄り駅に着きまして、タクシーに乗ってます。はい。あと10分ほどで着きます。はい。突然申し訳ございません』
そう言い電話を切る。
「お客さん。大変ですねー。営業ですか?」
「えぇ。まぁそんなところです」
「がんばってください」
「ははっ。ありがとうございます」
タクシーの運転手に支給されているカードから料金を支払い、ホテルの前に着いた。
ふぅっと息を吐き、ネクタイを良く締める。
この行動だけで全身に気合が入る。
自動ドアをくぐり、フロントのスタッフに声をかける。
「すいません。株式会社ブライド・イナセの斎藤が来たと大張さんに連絡していただけますか?」
大張というのはこのホテルで貸し切りや、イベント等を担当しているスタッフだ。
「かしこまりました。少々お待ちください」
二言三言、会話をしフロントのスタッフがこちらを見て言う。
「すぐ来られるそうなので、そちらにお座りになってお待ちください」
「ありがとうございます」
指されたソファーに座り、大張の到着を待つ。
2分ほど待っていると恰幅の良い、中年男性がこちらにやってくる。
「お待たせしました」
「こちらこそ突然のことで申し訳ございません」
立ち上がって一礼する。
「では応接室で話しましょう。こちらです」
「はい」
そう言った大張についていき、応接室に入る。
丁寧にもお茶が用意されており、一流ホテルであることを再認識した。
「それでお話というのは?」
「はい。再来月こちらで挙式予定の藤堂様の件についてお願いがございまして」
「お伺いします」
「はい。招待の人数を15人増員できないかということなのですが」
「15人ですか……となると……」
「その通りです。最大収容人数を上回ってしまうので今回ご相談に参りました」
「そうだったんですか」
「15人の増員となると、テーブルの増設が必要にもなります。最大でいくつほど用意できますでしょうか」
「そうですね。当ホテルで用意できる分は7人掛け30テーブルが限界になります」
「なるほど。現在26テーブルご用意していただいてましたよね?」
「はい。その通りです」
「でしたらテーブルは足りそうですね」
「そうなります」
「会場の設営デザインを担当している物と打ち合わせをし、デザインの変更によって15人の増員は可能でしょうか」
「当ホテルとしては問題ありませんが……15人の増員となると……大丈夫でしょうか?」
「デザイナーと相談致します。少しお電話よろしいですか」
「はい。どうぞ」
「では失礼致します」
そう席を立ち、部屋をでて電話を掛ける。
『突然ご連絡申し訳ございません。株式会社ブライド・イナセの斎藤でございます』
『あー斎藤さん。お世話になっております』
『再来月挙式予定の藤堂様の件で、先日採用になった式場デザインのことなのですが』
『はいはい』
『15人の増員したい、とのことでデザインの相談のお電話なのですが』
『なるほど。テーブルいくつ用意できるそうです?』
『追加4テーブルで30テーブル大丈夫だそうです』
『了解しました。すぐデザイン案出して端末に送りますね』
『お願いします』
応接室に戻り、大張に話しかける。
「いまデザイナーの方に連絡しまして、すぐに別の案を用意するとのことでした」
「了解しました。ではお時間もいいところですのでお食事でもいかがですか?」
先ほど食べたばかりではあるが、小腹が減っている頃なのでありがたく頂戴する。
運ばれてきた弁当を大張とともに食べ、世間話をする。
「最近は大掛かりな結婚式も減りましたね」
「そうですね。私も久しぶりに大きな案件を受けました」
「ですよね。当ホテルでもこの規模は久しぶりでございます」
「いい式に、一生の記憶に残る式にしてあげたいです」
「わかります」
弁当を食べ終えたころ、携帯端末に着信が入る。
失礼いたします、と部屋を出て電話を取る。
『斎藤さん。デザイン案を2件ほど送っておきました。確認お願いします。何かあったらまた電話でしらせてください』
『急な頼みで申し訳ございませんでした』
『いえいえ。いいですよ』
送られてきたデザイン案を確認し、応接室へ戻る。
「お待たせいたしました。デザイン案が届きましたのでスクリーンに映します」
「おねがいします」
返事を聞き、デザイン案を壁のスクリーンに転送し、映す。
「なるほど。どちらのデザインでも大丈夫そうですね」
「ありがとうございます」
「ではどちらにするかは藤堂様にご確認いただいて後日ご連絡いただいてもよろしいでしょうか」
「かしこまりました。本日は突然申し訳ございませんでした」
「いえ。いい式を作りましょう」
「はい。では失礼致します」
そう告げ、ホテルを出ると目の前にタクシーが止まっていた。
そのタクシーに乗り込み駅へと向かう。
新幹線を待つ間に会社に連絡を入れる。
『……ということで藤堂様に確認して決定します』
『かしこまりました。あっそうだ、斎藤君今日は直帰でいいわよー』
『わかりました。高橋さんは残業ですか?』
『久々の神前式だからねー。ちょっと気合はいっちゃっててね』
『あまり根を詰めすぎないようにしてくださいね』
『心配してくれるの? うれしいわ。でも慣れっこだから大丈夫よ』
『ははは。では失礼致します』
『はーい』
直帰は素直にうれしい。
早く帰ってゲームができると思い、少し弾む心をなだめつつ新幹線に乗る。
購入した軽めの駅弁を食べてからニュースサイトを開き、今日のゲームでは何をしようかと考える。
そして一つの文章が目に留まった。
『明日<Imperial Of Egg>VR専用端末販売開始』
「あ?」
動揺で声をだしてしまい、あまり人が乗っていない新幹線とは言え恥ずかしくなり、少し顔が赤くなった。
色々他のサイト等を覗いていたが、通販は全滅で店頭販売分が少し残っているという情報を目にし、その店に一目散に向かうことにした。
東京駅で新幹線を降り秋葉原まで向かう。
記載のあった家電量販店へ早歩きで向かうとまだ数人しか並んでいなかった。
安堵に胸を撫でおろし、最後尾に並ぶ。
スーツを着たサラリーマンが多いように見える。
俺と同じで帰り道情報を見て急いで買いに来たというところだろうか。
続々と列が伸びていくのを先頭付近で携帯端末を使い、暇つぶしをして待ちながら見る。
来月のVR化が今から楽しみだ。
あっ、そうだ。もし俺のギルメンで買えなかった奴が居たら可哀そうだから何個か買っておくかな。
<ジュンヤの一日完>
朝起きて、仕事に行き、帰って来てゲームをする。これだけの一日ではあるが、それが何よりも幸せだった。
小さい頃ゲームは嫌いだった。
だってそうだろ?
一日1時間までなんて決められてたらなにもできやしない。
家が厳しかったのもある。
学校が終わったら課題をやり、11時には就寝する。それを徹底させられていた。
大学を卒業し、一人暮らしするまではずっとそんな日々だった。
就職難と言われる厳しい就職戦争になんとか勝ち残り、中堅の会社で、普通の仕事をする。
企業の役員である父からは酷くどやされたものだった。
特に名門の大学に行っていたわけでもないし、俺自身が努力をしなかったという理由もあり、父の言い分はもっともだった。
だから家を出て、一人で生きていくことにした。
とは言っても月に何度かは実家に帰り、母の手料理をたらふく食べてはいるのだが。
仕事は所謂、ブライダルプランナーというやつだ。
ブライダルプランナーという業種は女性が圧倒的に多いのだが、それはそれで楽しかった。
学生時代には女友達が多くいたからかもしれない。
カップルと一緒に人生最大の幸せを創り上げる。とてもやりがいのある仕事だ。
「斎藤さんー。すいませーん」
「なんですか?」
「えーっと、再来月挙式予定の藤堂様からお電話入ってますー。外線3番です」
「わかりました」
『お電話変わりました。斎藤でございます』
『ご相談がありまして……』
『はい。お伺いいたします』
俺はそう言い、資料がまとめてあるファイルを開く。
『先日決めた式場がありますよね?』
『はい』
『彼の会社の人もさらに追加で呼ぶことになりまして……』
『左様でございますか。何人ほどでしょうか?』
『15人くらいなんですけど』
『15人ですね。少々お待ちください』
一度電話を保留にする。
「ふぅー」
ファイルをめくり、現在押さえている式場の最大収容人数を確認する。
最大人数を超えているなぁ。
最近では結婚式は盛大にやることがほとんどなくなり、小型の式場で事足りるし、そもそも結婚式を挙げないカップルも増えてきている。
その中で久しぶりに担当した大型の案件だったので、何とか満足してもらえるように全力を尽くしていた。
「高橋さん。いまお時間大丈夫ですか?」
自分が新入社員として入社したとき、直属の上司にあたり、今でもわからないことがあったり、困ったことがあったら一番に相談する高橋に声をかける。
「なにかしら?」
「えっと再来月、ホテルウェールズで挙式予定のカップルから電話がありまして、招待を増やしたい、とのことだったんです」
「ええ」
そう相槌を打った高橋がくるっとこちらを向く。
「ですが式場の最大収容人数を超えてしまうようで」
「なるほど。式場の変更はご提案されたの?」
「いえ、まだ伝えておりません」
「じゃぁもし式場の変更が駄目だったらまた声かけてくれる?」
「わかりました」
自分のデスクに戻り、電話の保留を解除する。
『大変お待たせいたしました』
『はい』
『ホテルウェールズの最大収容人数が150人でして、15人追加となると式場の変更も考えなければなりません』
『そうですか……』
『できれば変更したくないですよね』
『はい……』
『私が式場に掛け合ってみます。テーブルの配置等を変えれば何とかなるかもしれません』
『お願いできますか』
『任せてください。と言いたいところですがまだ経験も浅く至らぬかもしれませんので、過度な期待は……』
『大丈夫です。いざとなったら彼ともう一度相談して、式場の変更も考えたいと思います』
『ありがとうございます。ではこちらからまたご連絡差し上げます』
『お願いします』
『失礼致します』
相手方が電話を切るのを確認してから受話器を置く。
電話でホテル側に相談したいところだが、直接赴いたほうが良いので、行ってみることにする。
相談に行くという旨だけ電話で伝える。
椅子に掛けていたジャケットを着、鞄に必要なものを詰めていく。
「すいません。外行ってきます」
「いってらしゃい」
同僚たちが声をだし、見送ってくれます。
俺が務める会社は東京の千代田区にあり、式場となるホテルウェールズは長野県にある。新幹線で行けばおよそ3時間弱でつく距離だ。
まだ正午は回っていないので、上手くいけば夜9時には自宅に帰れるかもしれない。
電車を乗り継ぎ、新幹線に乗り換える。
買っておいた駅弁を堪能し、到着までの間、携帯端末を用いて書類を作成する。
よく仕事熱心だとか言われるが、この程度普通だと思う。
本音を言えば残業しないで帰り、ゲームがしたいっていうだけなんだが。
ゲームを好きになったのは就活が終わった後だった。
卒業論文を書き上げ、地元をうろうろし、時間を浪費するだけだった。
それにも飽きてきて、大学の授業を受けるために使っていたパソコンでネットサーフィンをするようになった。
動画サイトを見ることが趣味みたいになってきたとこ、贔屓にしていた動画配信者がとあるゲームのβテストの様子を公開していた。
たくさんのプレイヤーで同じモンスターを倒すMMORPGというものだったようで、自分も参加してみたくなった。
その後別のゲームではあるが、MMOゲームを始め、次第にその魅力にとらわれていった。
そのころからゲームは生活の一部になった。
親から幾度も注意されはしたが、大学の補講だと言い逃れをし、ゲームを遊んでいた。親には感謝している。もし受験や就活の前にこの楽しさに気付いていたら、まずいことになっていたかもしれない。
基本的に努力は嫌いだったが、ゲームだとそれも苦にならない。楽しいかどうかということはとても大事なんだと思い知らされた。
書類の作成が終わり、もうすぐ式場の最寄り駅に到着する頃になった。
携帯端末でニュースサイト等を見つつ、到着を待っていた。
駅に着き、電車を降り、タクシーを捕まえる。交通が整備され、ほとんどすべての国民が車に安全に乗れる世の中になったが、
タクシーの需要は消えていない。もちろん絶対数は減っているのだが。
「ホテルウェールズまでお願いします」
「はい」
先ほど会社を出る前に、行く旨だけは連絡しておいたので、最寄りの駅に到着し、タクシーに乗ったということを電話で連絡する。
『斎藤です。はい。最寄り駅に着きまして、タクシーに乗ってます。はい。あと10分ほどで着きます。はい。突然申し訳ございません』
そう言い電話を切る。
「お客さん。大変ですねー。営業ですか?」
「えぇ。まぁそんなところです」
「がんばってください」
「ははっ。ありがとうございます」
タクシーの運転手に支給されているカードから料金を支払い、ホテルの前に着いた。
ふぅっと息を吐き、ネクタイを良く締める。
この行動だけで全身に気合が入る。
自動ドアをくぐり、フロントのスタッフに声をかける。
「すいません。株式会社ブライド・イナセの斎藤が来たと大張さんに連絡していただけますか?」
大張というのはこのホテルで貸し切りや、イベント等を担当しているスタッフだ。
「かしこまりました。少々お待ちください」
二言三言、会話をしフロントのスタッフがこちらを見て言う。
「すぐ来られるそうなので、そちらにお座りになってお待ちください」
「ありがとうございます」
指されたソファーに座り、大張の到着を待つ。
2分ほど待っていると恰幅の良い、中年男性がこちらにやってくる。
「お待たせしました」
「こちらこそ突然のことで申し訳ございません」
立ち上がって一礼する。
「では応接室で話しましょう。こちらです」
「はい」
そう言った大張についていき、応接室に入る。
丁寧にもお茶が用意されており、一流ホテルであることを再認識した。
「それでお話というのは?」
「はい。再来月こちらで挙式予定の藤堂様の件についてお願いがございまして」
「お伺いします」
「はい。招待の人数を15人増員できないかということなのですが」
「15人ですか……となると……」
「その通りです。最大収容人数を上回ってしまうので今回ご相談に参りました」
「そうだったんですか」
「15人の増員となると、テーブルの増設が必要にもなります。最大でいくつほど用意できますでしょうか」
「そうですね。当ホテルで用意できる分は7人掛け30テーブルが限界になります」
「なるほど。現在26テーブルご用意していただいてましたよね?」
「はい。その通りです」
「でしたらテーブルは足りそうですね」
「そうなります」
「会場の設営デザインを担当している物と打ち合わせをし、デザインの変更によって15人の増員は可能でしょうか」
「当ホテルとしては問題ありませんが……15人の増員となると……大丈夫でしょうか?」
「デザイナーと相談致します。少しお電話よろしいですか」
「はい。どうぞ」
「では失礼致します」
そう席を立ち、部屋をでて電話を掛ける。
『突然ご連絡申し訳ございません。株式会社ブライド・イナセの斎藤でございます』
『あー斎藤さん。お世話になっております』
『再来月挙式予定の藤堂様の件で、先日採用になった式場デザインのことなのですが』
『はいはい』
『15人の増員したい、とのことでデザインの相談のお電話なのですが』
『なるほど。テーブルいくつ用意できるそうです?』
『追加4テーブルで30テーブル大丈夫だそうです』
『了解しました。すぐデザイン案出して端末に送りますね』
『お願いします』
応接室に戻り、大張に話しかける。
「いまデザイナーの方に連絡しまして、すぐに別の案を用意するとのことでした」
「了解しました。ではお時間もいいところですのでお食事でもいかがですか?」
先ほど食べたばかりではあるが、小腹が減っている頃なのでありがたく頂戴する。
運ばれてきた弁当を大張とともに食べ、世間話をする。
「最近は大掛かりな結婚式も減りましたね」
「そうですね。私も久しぶりに大きな案件を受けました」
「ですよね。当ホテルでもこの規模は久しぶりでございます」
「いい式に、一生の記憶に残る式にしてあげたいです」
「わかります」
弁当を食べ終えたころ、携帯端末に着信が入る。
失礼いたします、と部屋を出て電話を取る。
『斎藤さん。デザイン案を2件ほど送っておきました。確認お願いします。何かあったらまた電話でしらせてください』
『急な頼みで申し訳ございませんでした』
『いえいえ。いいですよ』
送られてきたデザイン案を確認し、応接室へ戻る。
「お待たせいたしました。デザイン案が届きましたのでスクリーンに映します」
「おねがいします」
返事を聞き、デザイン案を壁のスクリーンに転送し、映す。
「なるほど。どちらのデザインでも大丈夫そうですね」
「ありがとうございます」
「ではどちらにするかは藤堂様にご確認いただいて後日ご連絡いただいてもよろしいでしょうか」
「かしこまりました。本日は突然申し訳ございませんでした」
「いえ。いい式を作りましょう」
「はい。では失礼致します」
そう告げ、ホテルを出ると目の前にタクシーが止まっていた。
そのタクシーに乗り込み駅へと向かう。
新幹線を待つ間に会社に連絡を入れる。
『……ということで藤堂様に確認して決定します』
『かしこまりました。あっそうだ、斎藤君今日は直帰でいいわよー』
『わかりました。高橋さんは残業ですか?』
『久々の神前式だからねー。ちょっと気合はいっちゃっててね』
『あまり根を詰めすぎないようにしてくださいね』
『心配してくれるの? うれしいわ。でも慣れっこだから大丈夫よ』
『ははは。では失礼致します』
『はーい』
直帰は素直にうれしい。
早く帰ってゲームができると思い、少し弾む心をなだめつつ新幹線に乗る。
購入した軽めの駅弁を食べてからニュースサイトを開き、今日のゲームでは何をしようかと考える。
そして一つの文章が目に留まった。
『明日<Imperial Of Egg>VR専用端末販売開始』
「あ?」
動揺で声をだしてしまい、あまり人が乗っていない新幹線とは言え恥ずかしくなり、少し顔が赤くなった。
色々他のサイト等を覗いていたが、通販は全滅で店頭販売分が少し残っているという情報を目にし、その店に一目散に向かうことにした。
東京駅で新幹線を降り秋葉原まで向かう。
記載のあった家電量販店へ早歩きで向かうとまだ数人しか並んでいなかった。
安堵に胸を撫でおろし、最後尾に並ぶ。
スーツを着たサラリーマンが多いように見える。
俺と同じで帰り道情報を見て急いで買いに来たというところだろうか。
続々と列が伸びていくのを先頭付近で携帯端末を使い、暇つぶしをして待ちながら見る。
来月のVR化が今から楽しみだ。
あっ、そうだ。もし俺のギルメンで買えなかった奴が居たら可哀そうだから何個か買っておくかな。
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