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第0章
第0章3幕
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『商都 ディレミアン』に存在する案内所は8階建ての建物で、遠目から見たら大学のようにも見えます。
1階は大きなホールになっており、パーティーの募集やギルドメンバーの募集が行われる場所です。
2階から4階まではクエスト等の受注ができ、階が上がるにつれ難易度が上がっていくといった感じになります。
5階から7階までは多目的なスペースとなっており、ホームを持たないギルドの会議スペースや決闘に使われるスペース、図書館などがあります。
8階は現在『ディレミアン』を統括しているギルドのみが使用できるスペースになっています。
用があったのは4階の<転生>クエストカウンターだったので私はそこに向かいます。
「チェリー! 心の準備はできたかい?」
すーはーすーはーとリアルで深呼吸をしてエルマに宣言します。
「大丈夫。今日こそはクリアしてくるよ」
「頑張って! 画面の向こうで紅茶飲みながら動画見るついでに応援してる!」
エルマのおかげで適度な緊張感を持ってクエストが受けられそうです。
NPCに話しかけ、<転生Lv.3>解放クエストと書かれた項目を選んでクリックします。
10秒ほどのカウントダウンが始まり、私は呼吸を整えます。
ヘッドフォン越しに聞こえてくる、ボリボリという音を意識から外して転送されるその瞬間を待ちます。
『<転生Lv.3>解放クエストを開始します。制限時間は20分です。』
何度も見たテロップが表示され、画面が光ったあと、闘技場に転送されました。
『ゴ゛ギャギャギャギャ』
ヘッドフォン越しに強敵の鳴き声が聞こえてきます。
では……参りましょうか!
モンスターは〔機械怪鳥 ヒクイ・ヴェロキラ〕という絡繰り仕掛けの大型鳥モンスターです。
外装がとても固く、斬ることを主力にしているプレイヤーにはとても強敵です。
まずいつも通り、〔ヴェロキラ〕の視界から逃れるために、右手に持った【ナイトファング】のアクティブスキルを発動させます。
「≪静かなる殺戮≫っ……」
数秒間敵に発見されなくなる武器固有スキルを発動し、〔ヴェロキラ〕の背後に回ります。
【ナイトファング】には未発見状態でAGIの10%分ダメージにボーナスが付く装備効果がついています。
「っと! ≪ダブルファング≫」
そしてもう一つの武器固有スキル≪ダブルファング≫は左右の手両方に短刀または短剣を装備している状態で2回分のダメージを与えられるアクティブスキルが備わっています。
『ゴギャッァ』
やはり堅い……!
この二つを併用して離脱、≪静かなる殺戮≫のクールタイムが終わったらもう一度と、何度も繰り返して今まで戦ってきました。
それでは勝てないのはすでに知っています。
今日〔ヴェロキラ〕を倒すために制作した左手の短剣【ペインボルト】を構えます。
こちらに向かって飛んでくる〔ヴェロキラ〕を横に飛んで回避し、【ペインボルト】の武器固有スキルを発動します。
「≪サンダーエンチャント≫」
10秒毎にMPを100消費しますが、武器に雷属性を付与することができるスキルを用いて大ダメージを狙います。
先ほどの一連の流れで私のMPは6720まで減っています。
闘技場ではポーション類が使えないのでエンチャントを維持できる時間は672秒、約11分で倒さなければなりません。
【ペインボルト】に≪サンダーエンチャント≫をした状態なら火力が低い私でもダメージを多めに通せることが分かりました。
しかし決定打になる攻撃はなく、〔ヴェロキラ〕の急所に私の刃では届きません。
みんなには内緒にしておいたのですが、ユニーク【称号】の【斬罪神】を持っています。
そちらのスキルは〔人型モンスター〕とプレイヤーにしか発動できないので使えません。
装備しているユニーク防具【イナーシャグローブ】のパッシブスキルも発動はしているのですがあまり効果がありません。
【イナーシャグローブ】にはもう一つアクティブスキルがあるのですが、発動した場合、私のプレイヤースキルでは攻撃をはずしてしまうかもしれません。
AGIは〔ヴェロキラ〕より勝っているので何とか避けれていますが、HPが16530しかない私にとって、一撃でもクリティカルした場合運が良くても瀕死という結果になってしまいます。
5分ほど戦闘を続け、〔ヴェロキラ〕のHPを3割ほど削りました。
しかしこのペースのままだとMPが切れるまでに倒すことはできません。
苦戦しているとズズッという音と小さな声で「ご馳走様」と聞こえてきました。
「チェリー。集中してるときにごめんね」
「ううん。大丈夫」
「チェリー。今日失敗してもVRアプデの開始前までにもう1回は<転生>クエストうけられるよ。失敗しても大丈夫。【イナーシャグローブ】のスキルつかってみなよ」
「そう……だよね。エルマ。これで失敗したら呪うから」
「えっちょっとまって!それは怖い!」
エルマの発言を意図的に無視し、私は【イナーシャグローブ】のもう一つのスキル≪輝く軌跡≫を発動します。
「≪輝く軌跡≫」
TPを秒間100消費する代わりに、空気抵抗や摩擦などを含む、物体に存在するすべての抵抗を無視することができるスキルです。
このスキルの発動中は直線の動きしかできなくなります。もし武器が手に固定されていなければ持っていることさえ困難になるはずです。
私はTPの最大値が19000ありますが発動にTPを消費する≪ダブルファング≫を今まで15回ほど使用しているので10000しか残っていません。
残りのTPでは100秒しか持ちません。
だったら……
「削りきる!」
私がスキルの発動前に避けた〔ヴェロキラ〕がこちらに向かってきます。
横に動くこともできないので正面から迎え撃ちます。
左手の【ペインボルト】を構え、〔ヴェロキラ〕の突進を受けます。
『ゴギャッギャッギャッギャ?』
「くっ……!」
吹き飛ばされ闘技場壁に衝突したことによりHPが4000程度減っています。
しかし目に見えて〔ヴェロキラ〕へダメージが入りました。
頭部から尾部まで真っ二つに割れています。残りのHPも半分を切っているようです。
機械特有の配線類を裂け目から垂らし、黒いオイルのようなものを撒き散らしています。
真っ二つになっても羽と足で器用にバランスをとり立ち上がってくる〔ヴェロキラ〕に戦慄しましたが、残り85秒しかないので急いで追撃をします。
座り込んでなくてよかった。
座り込んでたら立てなかっただろうし。
「ハッ!」
『ゴギャァアアギャァァ』
壁から一直線に〔ヴェロキラ〕の右半身まで詰め寄り、もう一度【ペインボルト】を一閃し、身体の向きを変え、再び背中から壁に激突します。
1800程度と先ほどの半分程度のダメージなのは自分で操作して突っ込んだからでしょうか。
残り75秒。
今の位置からなら左右同時に斬れるっ!
向きを微調整し壁を蹴ります。
残り70秒。
一閃。
『ゴギャギャギャギャアアアアア』
『ギャァアアゴオゴゴゴアアアア』
左右両方の〔ヴェロキラ〕が苦悶の声をあげています。
〔ヴェロキラ〕のHP確認すると2割程度残っているようです。
距離があったので激突のダメージも大きく、2900ほどでした。
残り60秒。
残りHP6030。
再び一閃。
背後からノイズのような悲鳴が聞こえます。
あと2回で削り切らないと……少しの焦りが出てきます。
原型を留めていない〔ヴェロキラ〕がこちらを見つめています。
まずい……。
そう思ったときには遅く、〔ヴェロキラ〕が遠距離攻撃を放っていました。
避けることもできないので、HPが残ることを祈りました。
【アルティナローブ】という〔ユニークモンスター〕からドロップしたユニーク防具には20メートル以上離れた魔法攻撃のダメージを50%軽減する効果がありましたが、〔ヴェロキラ〕の攻撃が魔法かどうかもわからないので、本当に神頼みです。
少しばかりの抵抗と両手を身体の前でクロスし、防御姿勢もとってみます。
――直撃まで3秒
スローモーションのように感じられます。
――2秒
残り時間も50秒を切っています。
耐えきれても倒せるかどうかわかりません。
――1秒
視界をすべて奪う巨大な火の玉が私のキャラクターを飲み込もうとしています。
――0秒
ヘッドフォンを通して、直撃による爆音とそれではない何かの爆音が聞こえてきます。
また負けちゃったな……。
と思っていますが、頭のどこかではまだ生きているという期待が捨てきれませんでした。
20秒ほど画面が煙に包まれていましたが、それも晴れ、結果を見ることができました。
私のHPは940残っていました。
生き残った!
そう喜びましたが、《火傷》の状態異常が付いています。
《火傷》は秒間最大HPの100分の1ダメージを継続で与える状態異常です。
CONが60あっても105ダメージ受けます。
あと9秒しないうちに私は死亡し、<転生>クエストに失敗することでしょう。
最後のあがきとばかり残っていたMPをすべて注いでほぼ鉄屑と化した〔ヴェロキラ〕へ【ペインボルト】に備わった≪中級雷属性魔法≫を発動します。
「≪サンダーライン≫」
私が使える魔法の≪シェイプ≫の中で最も到達が早い≪ラインシェイプ≫を用いました。
1秒もかからず〔ヴェロキア〕に直撃しました。
悲鳴すら聞こえないので少しもダメージが入らなかったのでしょう。
魔法を全く使ってこなかったツケでしょうか。
『〔機械怪鳥 ヒクイ・ヴェロキラ〕の討伐を確認しました。クエストクリアおめでとうございます』
テロップが画面上に表示され、案内所のクエストカウンター前に転送されました。
「えっ?」
自然と口から疑問の声が漏れました。
「おちゅかれー! 倒せたかなー?」
ヘッドフォン越しに聞こえるエルマの声もどこか遠くから聞こえる気がします。
「チェリー?どうしたの?」
なにか話さないと……。
「う……うん。倒せた……のかな?」
「どゆことー?」
事の顛末を話します。
「えっ?それで最後に残りMP全つっぱの≪サンダーライン≫で倒せたわけ?」
結構エルマもびっくりしているみたいです。
「たぶん」
「…………」
「エルマ?」
すぅっと息を吸い込む音が聞こえエルマが話し始めます。
「〔ヴェロキラ〕討伐おめでとう! やっぱり私の目は間違っていなかった! チェリーは魔法系向いてると思ったんだ!」
≪中級魔法≫で20メートル以上の狙撃はかなり難しいとは知ってましたが、そこまで褒められることではないと思います。
「いやいや! ほとんど初めて使った攻撃魔法で既定距離以上の攻撃を成功させるのはほんとにすごいよ!」
「よくわからないけど、全く動けなくて、あとちょっとで死ぬって状態でも撃てる魔法にちょっと楽だなって気持ちはあるよ」
「VRでもできそうじゃない?」
「できるかもしれない」
「よっし<転生>すませて魔法系の武器制作素材集めに行こう!」
そういえば完了報告がまだでした。
『<転生Lv.3>解放クエスト完了。報酬をお受け取りください。』
NPCから報酬を受け取り確認します。
「えっと、報酬は……【機械怪鳥の片翼】? どんな効果だろう」
「ユニークだからね !私のとは違うはずだから確認してみなきゃ!」
「そうだね」
【機械怪鳥の片翼】
ユニーク特殊装備品
装備効果:装備中自身が発動した抵抗に関する能力の対象外になる
固有スキル:≪アンチ・グラビティ≫:アクティブスキル
STRの上限を100制限することにより発動
数ミリ空中に浮いた状態になる。
≪フライト・レギュレトリー≫:パッシブスキル
地面に接していない状態で姿勢の制御及び方向転換が可能となる
「だってさ。装備補正とかはないね」
「んーあんまりいいスキルとは言えないね。でも努力の証だから記念にとっておくんだよ!」
「うん。わかってる。【称号】は【輪廻転生】と【猪突猛進】の2個が増えたみたい」
「【猪突猛進】の効果は何かな?」
「えーっと、『直線の移動中に攻撃を行うとAGIの10%分追加ダメージを与える』だって」
「まんまじゃん」
「まんまだね」
「なんにせよお疲れ様!蓄積経験値でのレベルアップで何レべまで行った?」
「えーっと、転生Lv.3+8だね」
「おおー! Lv.308! あたしと一緒じゃん!」
「ステータス開いてるついでにポイントも割り振っちゃおう」
「それがいいねー! まだ振り直しはできないんだから慎重に振ってね!」
「言われなくてもわかってるよ」
今回の<転生>の完了とレベルアップでの獲得ポイントの合計が40ポイントでした。
レベルが一つ上がるごとに5ポイント貰えるのでそこに変化はないようです。
「いつもおもうんだけどさー?」
「なに?」
「<転生>すると転生Lv.3+0とか表示されるじゃん?」
「そうだね」
「<転生>前は転生Lv.2+100じゃん?」
「うん」
「同じ300なのにややっこしいよね!」
同じことを私も一度目の<転生>の時に思いました。
「運営にとっては意味があるんだと思うよ」
「そっかー」
と話してる間にポイントの割り振りが完了しました。
「MNDに+20、INTに+20振ったよ」
「片方に振らなかったの?」
「まだ魔法系慣れてないからね。慣れるころにはまたポイントたまってるだろうし」
「チェリーらしい考えだねー!」
「そうかな?」
「これでMND系とINT系のスキルレベル9まで使えるようになったよ。」
「あれ? レベル8までのスキルじゃないの? MNDもINTも82だよね?」
「そうだけど【アルティナローブ】のパッシブで1つあがってるから」
「あっそうか! そのパッシブほんとすごい効果だよね!」
<Imperial Of Egg>では対応するステータスの10分の1のスキルレベルをもつものしか発動できないという制約があるのでこういったスキルはとても貴重だそうです。いままで魔法系全然つかってこなかったからすごさがわかりませんでした。
「チェリーの<転生>も終わったことだしどうする?狩りでも行く?」
「素材掘りしたいけど、さすがにちょっと疲れたから仮眠とってくるよ」
「だよねー!」
「ここで落とすのはよくないし『ヴァンヘイデン』まで転移しよっかな」
「あたしもホームにいるみんなにチェリーの勇姿を伝えるから戻るね!≪テレポート≫」
「≪ディメンション・ゲート≫」
to be continued...
1階は大きなホールになっており、パーティーの募集やギルドメンバーの募集が行われる場所です。
2階から4階まではクエスト等の受注ができ、階が上がるにつれ難易度が上がっていくといった感じになります。
5階から7階までは多目的なスペースとなっており、ホームを持たないギルドの会議スペースや決闘に使われるスペース、図書館などがあります。
8階は現在『ディレミアン』を統括しているギルドのみが使用できるスペースになっています。
用があったのは4階の<転生>クエストカウンターだったので私はそこに向かいます。
「チェリー! 心の準備はできたかい?」
すーはーすーはーとリアルで深呼吸をしてエルマに宣言します。
「大丈夫。今日こそはクリアしてくるよ」
「頑張って! 画面の向こうで紅茶飲みながら動画見るついでに応援してる!」
エルマのおかげで適度な緊張感を持ってクエストが受けられそうです。
NPCに話しかけ、<転生Lv.3>解放クエストと書かれた項目を選んでクリックします。
10秒ほどのカウントダウンが始まり、私は呼吸を整えます。
ヘッドフォン越しに聞こえてくる、ボリボリという音を意識から外して転送されるその瞬間を待ちます。
『<転生Lv.3>解放クエストを開始します。制限時間は20分です。』
何度も見たテロップが表示され、画面が光ったあと、闘技場に転送されました。
『ゴ゛ギャギャギャギャ』
ヘッドフォン越しに強敵の鳴き声が聞こえてきます。
では……参りましょうか!
モンスターは〔機械怪鳥 ヒクイ・ヴェロキラ〕という絡繰り仕掛けの大型鳥モンスターです。
外装がとても固く、斬ることを主力にしているプレイヤーにはとても強敵です。
まずいつも通り、〔ヴェロキラ〕の視界から逃れるために、右手に持った【ナイトファング】のアクティブスキルを発動させます。
「≪静かなる殺戮≫っ……」
数秒間敵に発見されなくなる武器固有スキルを発動し、〔ヴェロキラ〕の背後に回ります。
【ナイトファング】には未発見状態でAGIの10%分ダメージにボーナスが付く装備効果がついています。
「っと! ≪ダブルファング≫」
そしてもう一つの武器固有スキル≪ダブルファング≫は左右の手両方に短刀または短剣を装備している状態で2回分のダメージを与えられるアクティブスキルが備わっています。
『ゴギャッァ』
やはり堅い……!
この二つを併用して離脱、≪静かなる殺戮≫のクールタイムが終わったらもう一度と、何度も繰り返して今まで戦ってきました。
それでは勝てないのはすでに知っています。
今日〔ヴェロキラ〕を倒すために制作した左手の短剣【ペインボルト】を構えます。
こちらに向かって飛んでくる〔ヴェロキラ〕を横に飛んで回避し、【ペインボルト】の武器固有スキルを発動します。
「≪サンダーエンチャント≫」
10秒毎にMPを100消費しますが、武器に雷属性を付与することができるスキルを用いて大ダメージを狙います。
先ほどの一連の流れで私のMPは6720まで減っています。
闘技場ではポーション類が使えないのでエンチャントを維持できる時間は672秒、約11分で倒さなければなりません。
【ペインボルト】に≪サンダーエンチャント≫をした状態なら火力が低い私でもダメージを多めに通せることが分かりました。
しかし決定打になる攻撃はなく、〔ヴェロキラ〕の急所に私の刃では届きません。
みんなには内緒にしておいたのですが、ユニーク【称号】の【斬罪神】を持っています。
そちらのスキルは〔人型モンスター〕とプレイヤーにしか発動できないので使えません。
装備しているユニーク防具【イナーシャグローブ】のパッシブスキルも発動はしているのですがあまり効果がありません。
【イナーシャグローブ】にはもう一つアクティブスキルがあるのですが、発動した場合、私のプレイヤースキルでは攻撃をはずしてしまうかもしれません。
AGIは〔ヴェロキラ〕より勝っているので何とか避けれていますが、HPが16530しかない私にとって、一撃でもクリティカルした場合運が良くても瀕死という結果になってしまいます。
5分ほど戦闘を続け、〔ヴェロキラ〕のHPを3割ほど削りました。
しかしこのペースのままだとMPが切れるまでに倒すことはできません。
苦戦しているとズズッという音と小さな声で「ご馳走様」と聞こえてきました。
「チェリー。集中してるときにごめんね」
「ううん。大丈夫」
「チェリー。今日失敗してもVRアプデの開始前までにもう1回は<転生>クエストうけられるよ。失敗しても大丈夫。【イナーシャグローブ】のスキルつかってみなよ」
「そう……だよね。エルマ。これで失敗したら呪うから」
「えっちょっとまって!それは怖い!」
エルマの発言を意図的に無視し、私は【イナーシャグローブ】のもう一つのスキル≪輝く軌跡≫を発動します。
「≪輝く軌跡≫」
TPを秒間100消費する代わりに、空気抵抗や摩擦などを含む、物体に存在するすべての抵抗を無視することができるスキルです。
このスキルの発動中は直線の動きしかできなくなります。もし武器が手に固定されていなければ持っていることさえ困難になるはずです。
私はTPの最大値が19000ありますが発動にTPを消費する≪ダブルファング≫を今まで15回ほど使用しているので10000しか残っていません。
残りのTPでは100秒しか持ちません。
だったら……
「削りきる!」
私がスキルの発動前に避けた〔ヴェロキラ〕がこちらに向かってきます。
横に動くこともできないので正面から迎え撃ちます。
左手の【ペインボルト】を構え、〔ヴェロキラ〕の突進を受けます。
『ゴギャッギャッギャッギャ?』
「くっ……!」
吹き飛ばされ闘技場壁に衝突したことによりHPが4000程度減っています。
しかし目に見えて〔ヴェロキラ〕へダメージが入りました。
頭部から尾部まで真っ二つに割れています。残りのHPも半分を切っているようです。
機械特有の配線類を裂け目から垂らし、黒いオイルのようなものを撒き散らしています。
真っ二つになっても羽と足で器用にバランスをとり立ち上がってくる〔ヴェロキラ〕に戦慄しましたが、残り85秒しかないので急いで追撃をします。
座り込んでなくてよかった。
座り込んでたら立てなかっただろうし。
「ハッ!」
『ゴギャァアアギャァァ』
壁から一直線に〔ヴェロキラ〕の右半身まで詰め寄り、もう一度【ペインボルト】を一閃し、身体の向きを変え、再び背中から壁に激突します。
1800程度と先ほどの半分程度のダメージなのは自分で操作して突っ込んだからでしょうか。
残り75秒。
今の位置からなら左右同時に斬れるっ!
向きを微調整し壁を蹴ります。
残り70秒。
一閃。
『ゴギャギャギャギャアアアアア』
『ギャァアアゴオゴゴゴアアアア』
左右両方の〔ヴェロキラ〕が苦悶の声をあげています。
〔ヴェロキラ〕のHP確認すると2割程度残っているようです。
距離があったので激突のダメージも大きく、2900ほどでした。
残り60秒。
残りHP6030。
再び一閃。
背後からノイズのような悲鳴が聞こえます。
あと2回で削り切らないと……少しの焦りが出てきます。
原型を留めていない〔ヴェロキラ〕がこちらを見つめています。
まずい……。
そう思ったときには遅く、〔ヴェロキラ〕が遠距離攻撃を放っていました。
避けることもできないので、HPが残ることを祈りました。
【アルティナローブ】という〔ユニークモンスター〕からドロップしたユニーク防具には20メートル以上離れた魔法攻撃のダメージを50%軽減する効果がありましたが、〔ヴェロキラ〕の攻撃が魔法かどうかもわからないので、本当に神頼みです。
少しばかりの抵抗と両手を身体の前でクロスし、防御姿勢もとってみます。
――直撃まで3秒
スローモーションのように感じられます。
――2秒
残り時間も50秒を切っています。
耐えきれても倒せるかどうかわかりません。
――1秒
視界をすべて奪う巨大な火の玉が私のキャラクターを飲み込もうとしています。
――0秒
ヘッドフォンを通して、直撃による爆音とそれではない何かの爆音が聞こえてきます。
また負けちゃったな……。
と思っていますが、頭のどこかではまだ生きているという期待が捨てきれませんでした。
20秒ほど画面が煙に包まれていましたが、それも晴れ、結果を見ることができました。
私のHPは940残っていました。
生き残った!
そう喜びましたが、《火傷》の状態異常が付いています。
《火傷》は秒間最大HPの100分の1ダメージを継続で与える状態異常です。
CONが60あっても105ダメージ受けます。
あと9秒しないうちに私は死亡し、<転生>クエストに失敗することでしょう。
最後のあがきとばかり残っていたMPをすべて注いでほぼ鉄屑と化した〔ヴェロキラ〕へ【ペインボルト】に備わった≪中級雷属性魔法≫を発動します。
「≪サンダーライン≫」
私が使える魔法の≪シェイプ≫の中で最も到達が早い≪ラインシェイプ≫を用いました。
1秒もかからず〔ヴェロキア〕に直撃しました。
悲鳴すら聞こえないので少しもダメージが入らなかったのでしょう。
魔法を全く使ってこなかったツケでしょうか。
『〔機械怪鳥 ヒクイ・ヴェロキラ〕の討伐を確認しました。クエストクリアおめでとうございます』
テロップが画面上に表示され、案内所のクエストカウンター前に転送されました。
「えっ?」
自然と口から疑問の声が漏れました。
「おちゅかれー! 倒せたかなー?」
ヘッドフォン越しに聞こえるエルマの声もどこか遠くから聞こえる気がします。
「チェリー?どうしたの?」
なにか話さないと……。
「う……うん。倒せた……のかな?」
「どゆことー?」
事の顛末を話します。
「えっ?それで最後に残りMP全つっぱの≪サンダーライン≫で倒せたわけ?」
結構エルマもびっくりしているみたいです。
「たぶん」
「…………」
「エルマ?」
すぅっと息を吸い込む音が聞こえエルマが話し始めます。
「〔ヴェロキラ〕討伐おめでとう! やっぱり私の目は間違っていなかった! チェリーは魔法系向いてると思ったんだ!」
≪中級魔法≫で20メートル以上の狙撃はかなり難しいとは知ってましたが、そこまで褒められることではないと思います。
「いやいや! ほとんど初めて使った攻撃魔法で既定距離以上の攻撃を成功させるのはほんとにすごいよ!」
「よくわからないけど、全く動けなくて、あとちょっとで死ぬって状態でも撃てる魔法にちょっと楽だなって気持ちはあるよ」
「VRでもできそうじゃない?」
「できるかもしれない」
「よっし<転生>すませて魔法系の武器制作素材集めに行こう!」
そういえば完了報告がまだでした。
『<転生Lv.3>解放クエスト完了。報酬をお受け取りください。』
NPCから報酬を受け取り確認します。
「えっと、報酬は……【機械怪鳥の片翼】? どんな効果だろう」
「ユニークだからね !私のとは違うはずだから確認してみなきゃ!」
「そうだね」
【機械怪鳥の片翼】
ユニーク特殊装備品
装備効果:装備中自身が発動した抵抗に関する能力の対象外になる
固有スキル:≪アンチ・グラビティ≫:アクティブスキル
STRの上限を100制限することにより発動
数ミリ空中に浮いた状態になる。
≪フライト・レギュレトリー≫:パッシブスキル
地面に接していない状態で姿勢の制御及び方向転換が可能となる
「だってさ。装備補正とかはないね」
「んーあんまりいいスキルとは言えないね。でも努力の証だから記念にとっておくんだよ!」
「うん。わかってる。【称号】は【輪廻転生】と【猪突猛進】の2個が増えたみたい」
「【猪突猛進】の効果は何かな?」
「えーっと、『直線の移動中に攻撃を行うとAGIの10%分追加ダメージを与える』だって」
「まんまじゃん」
「まんまだね」
「なんにせよお疲れ様!蓄積経験値でのレベルアップで何レべまで行った?」
「えーっと、転生Lv.3+8だね」
「おおー! Lv.308! あたしと一緒じゃん!」
「ステータス開いてるついでにポイントも割り振っちゃおう」
「それがいいねー! まだ振り直しはできないんだから慎重に振ってね!」
「言われなくてもわかってるよ」
今回の<転生>の完了とレベルアップでの獲得ポイントの合計が40ポイントでした。
レベルが一つ上がるごとに5ポイント貰えるのでそこに変化はないようです。
「いつもおもうんだけどさー?」
「なに?」
「<転生>すると転生Lv.3+0とか表示されるじゃん?」
「そうだね」
「<転生>前は転生Lv.2+100じゃん?」
「うん」
「同じ300なのにややっこしいよね!」
同じことを私も一度目の<転生>の時に思いました。
「運営にとっては意味があるんだと思うよ」
「そっかー」
と話してる間にポイントの割り振りが完了しました。
「MNDに+20、INTに+20振ったよ」
「片方に振らなかったの?」
「まだ魔法系慣れてないからね。慣れるころにはまたポイントたまってるだろうし」
「チェリーらしい考えだねー!」
「そうかな?」
「これでMND系とINT系のスキルレベル9まで使えるようになったよ。」
「あれ? レベル8までのスキルじゃないの? MNDもINTも82だよね?」
「そうだけど【アルティナローブ】のパッシブで1つあがってるから」
「あっそうか! そのパッシブほんとすごい効果だよね!」
<Imperial Of Egg>では対応するステータスの10分の1のスキルレベルをもつものしか発動できないという制約があるのでこういったスキルはとても貴重だそうです。いままで魔法系全然つかってこなかったからすごさがわかりませんでした。
「チェリーの<転生>も終わったことだしどうする?狩りでも行く?」
「素材掘りしたいけど、さすがにちょっと疲れたから仮眠とってくるよ」
「だよねー!」
「ここで落とすのはよくないし『ヴァンヘイデン』まで転移しよっかな」
「あたしもホームにいるみんなにチェリーの勇姿を伝えるから戻るね!≪テレポート≫」
「≪ディメンション・ゲート≫」
to be continued...
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「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」
何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は
「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」
武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!!
..........寝ながら。
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~
オイシイオコメ
SF
75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。
この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。
前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。
(小説中のダッシュ表記につきまして)
作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
Recreation World ~とある男が〇〇になるまでの軌跡〜
虚妄公
SF
新月流当主の息子である龍谷真一は新月流の当主になるため日々の修練に励んでいた。
新月流の当主になれるのは当代最強の者のみ。
新月流は超実戦派の武術集団である。
その中で、齢16歳の真一は同年代の門下生の中では他の追随を許さぬほどの強さを誇っていたが現在在籍している師範8人のうち1人を除いて誰にも勝つことができず新月流内の順位は8位であった。
新月流では18歳で成人の儀があり、そこで初めて実戦経験を経て一人前になるのである。
そこで真一は師範に勝てないのは実戦経験が乏しいからだと考え、命を削るような戦いを求めていた。
そんなときに同じ門下生の凛にVRMMORPG『Recreation World』通称リクルドを勧められその世界に入っていくのである。
だがそのゲームはただのゲームではなく3人の天才によるある思惑が絡んでいた。
そして真一は気付かぬままに戻ることができぬ歯車に巻き込まれていくのである・・・
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも先行投稿しております。
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