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ちぐはぐ。第八話
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「――まえ、しろ! お前、何やってんだ……!!」
俺は部屋の中に飛び込み、靴を履いたままで合鍵を投げ捨てると、前城を押さえにかかった。
やつは、きょとんとした顔で俺を見ている。
俺は彼の包丁を持つ手元をがっと掴もうと思ったところで――
流しの横に、丸のケーキがあることに気が付いた。
何だよ、これは。
お前、ケーキは明日だって、言ったじゃん。
「あの、俺間違えちゃって。ケーキ、今日だったんです。だからさっき、店まで取りに行ったの」
どこをどうにも…………こいつ……(怒)。
「桂木さん、包丁持ってるのにぶつかって来たら、危ないじゃないですかあ! 気を付けて下さいよお!」
危ないのはお前だろうが!
――と言いたいけれど……。
この状況では、たぶん危ないのは俺なのだろう。
酔っぱらいは、前城ではなくてどうやら俺だったのだ……が、俺がそんなに焦っていたのは、きっと酒のせいではない。
とりあえず、俺は靴を脱いで玄関に並べると、前城の前に身を正す。
「前城……お前に言ってなかったことがある。」
「何ですか? 飲み会終わったんですね」
「俺はバイだ」
「倍?」
俺の台詞に、前城は首を傾げた。
そうだよな。俺とお前は、ことごとくかぶらないんだよな、何もかもが。
好きな女の子のタイプも、違ったろ? だからきっと、性癖もだと思う。
だが、もう言わずにはいられないんだ。だから、言わせてほしい。
「違う。カタカナだ。――俺は、バイセクシャルだ。つまり、男も好きだ」
「……はあ」
「それで、お前も好きだ。……ごめん、間違った。『も』じゃないな。お前が、好きだ」
「はあ……」
包丁を持った手で、前城はきょとんとしている。
無理もない。だから、とりあえず包丁は置かせて……。
俺は、もう告白をするしかない。今まで通りにいるとするなら、それは俺にとって拷問なんだ。
俺は自嘲ぎみに言う。
「お前が、女が好きなのは、重々承知してる。だけど、もう……友達づきあいは、俺には限界かもしれない」
「…………はあ」
「俺はお前には、今まで通り頼って欲しい。困った時には助けてやりたい。だから、ぜひそうして欲しいんだけど…………って、あれ……?」
それじゃ今までと何ら変わりやしない。
「はあ」
馬鹿か、俺は。
いつのまにか、前城みたいになってしまった。結局俺は、何が言いたいのだ。
俺は必死で考える。
「……えーっと、何だ、つまり……。これは……一応言っておく、っていうことに、なるんだろうか……そう、なのかな……そうなんだな……そういうことか……。
えーと、前城……。俺はお前が好きだ。それを、知っておいて欲しい」
「はあ」
珍しく、しどろもどろになった俺だった。
目の前の前城は、怪訝な顔で聞いていたが、やがて、ぷっと噴き出した。
そして、あははと笑い出した。
俺はムッとする。こっちが、心配してヒヤヒヤして盛大な決心のうえに告白したというのに。
前城のくせに生意気だ。
真面目な相手に笑うなんて、失礼じゃないか。
でも、気味悪いと思われなかっただけ、まだマシなのだろうか、と俺が思っていると、前城は話しだした。
「す、すみませーん! 桂木さんが、珍しくはちゃめちゃになってるから、俺面白くって」
前言撤回。やはり、前城は失礼だ。
彼は、目の前で笑いを堪えながら続ける。
「好きって……桂木さん、ここ出て行く前にも、同じこと俺に言いましたよね」
それは言った、確かに言った。でもそれは意味が違うだろ?
「俺が言ったら、答えましたよね?
俺が先に、言ったじゃないですか。俺、桂木さんのことが、好きですって」
それは、言った。言ったけどさ……。
やつは姿勢を正し、もう一言、付け加えた。
「俺も、言ってなかったことがあって。俺も、バイです。カタカナの方です」
……そこはちぐはぐじゃないのかよ?
俺は部屋の中に飛び込み、靴を履いたままで合鍵を投げ捨てると、前城を押さえにかかった。
やつは、きょとんとした顔で俺を見ている。
俺は彼の包丁を持つ手元をがっと掴もうと思ったところで――
流しの横に、丸のケーキがあることに気が付いた。
何だよ、これは。
お前、ケーキは明日だって、言ったじゃん。
「あの、俺間違えちゃって。ケーキ、今日だったんです。だからさっき、店まで取りに行ったの」
どこをどうにも…………こいつ……(怒)。
「桂木さん、包丁持ってるのにぶつかって来たら、危ないじゃないですかあ! 気を付けて下さいよお!」
危ないのはお前だろうが!
――と言いたいけれど……。
この状況では、たぶん危ないのは俺なのだろう。
酔っぱらいは、前城ではなくてどうやら俺だったのだ……が、俺がそんなに焦っていたのは、きっと酒のせいではない。
とりあえず、俺は靴を脱いで玄関に並べると、前城の前に身を正す。
「前城……お前に言ってなかったことがある。」
「何ですか? 飲み会終わったんですね」
「俺はバイだ」
「倍?」
俺の台詞に、前城は首を傾げた。
そうだよな。俺とお前は、ことごとくかぶらないんだよな、何もかもが。
好きな女の子のタイプも、違ったろ? だからきっと、性癖もだと思う。
だが、もう言わずにはいられないんだ。だから、言わせてほしい。
「違う。カタカナだ。――俺は、バイセクシャルだ。つまり、男も好きだ」
「……はあ」
「それで、お前も好きだ。……ごめん、間違った。『も』じゃないな。お前が、好きだ」
「はあ……」
包丁を持った手で、前城はきょとんとしている。
無理もない。だから、とりあえず包丁は置かせて……。
俺は、もう告白をするしかない。今まで通りにいるとするなら、それは俺にとって拷問なんだ。
俺は自嘲ぎみに言う。
「お前が、女が好きなのは、重々承知してる。だけど、もう……友達づきあいは、俺には限界かもしれない」
「…………はあ」
「俺はお前には、今まで通り頼って欲しい。困った時には助けてやりたい。だから、ぜひそうして欲しいんだけど…………って、あれ……?」
それじゃ今までと何ら変わりやしない。
「はあ」
馬鹿か、俺は。
いつのまにか、前城みたいになってしまった。結局俺は、何が言いたいのだ。
俺は必死で考える。
「……えーっと、何だ、つまり……。これは……一応言っておく、っていうことに、なるんだろうか……そう、なのかな……そうなんだな……そういうことか……。
えーと、前城……。俺はお前が好きだ。それを、知っておいて欲しい」
「はあ」
珍しく、しどろもどろになった俺だった。
目の前の前城は、怪訝な顔で聞いていたが、やがて、ぷっと噴き出した。
そして、あははと笑い出した。
俺はムッとする。こっちが、心配してヒヤヒヤして盛大な決心のうえに告白したというのに。
前城のくせに生意気だ。
真面目な相手に笑うなんて、失礼じゃないか。
でも、気味悪いと思われなかっただけ、まだマシなのだろうか、と俺が思っていると、前城は話しだした。
「す、すみませーん! 桂木さんが、珍しくはちゃめちゃになってるから、俺面白くって」
前言撤回。やはり、前城は失礼だ。
彼は、目の前で笑いを堪えながら続ける。
「好きって……桂木さん、ここ出て行く前にも、同じこと俺に言いましたよね」
それは言った、確かに言った。でもそれは意味が違うだろ?
「俺が言ったら、答えましたよね?
俺が先に、言ったじゃないですか。俺、桂木さんのことが、好きですって」
それは、言った。言ったけどさ……。
やつは姿勢を正し、もう一言、付け加えた。
「俺も、言ってなかったことがあって。俺も、バイです。カタカナの方です」
……そこはちぐはぐじゃないのかよ?
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