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好きになった人がタイプ
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花火が終わった後、俺は霧矢の家に連れてこられていた。手を繋いだまま離して貰えなかったのだ。
まぁ、話したい事があったからこちらとしても好都合なんだけど。
「あぁ~……すげー涼しい。最高。霧矢ん家はずっとエアコン付けっぱなしなの?」
「あぁ、そうだな」
「そっか、電気代大した変わらないって言うしそっちの方が良いのかもなぁ」
エアコンの効いた快適な部屋に、俺は思わずぐでっとテレビの前のソファに倒れ込んでしまう。
そんな俺の前に霧矢が氷の入ったルイボスティーを出してくれたので、俺はそれを一気に飲み干した。
はぁ~~、生き返る。萎びた身体に水分が染み渡る。
それにしても、ここの冷蔵庫には何かしらのオシャレなティーが常備されているのだろうか。
うちの冷蔵庫には麦茶しかないから、いつも麦茶出してごめんな霧矢……。
いや、麦茶は良いものなんだけどな。ミネラルが豊富だし……。
そんな馬鹿みたいな事を考えていると霧矢が隣に座った。
「優斗」
低くよく通る声で名前を呼ばれるだけで、霧矢が何を言いたいか分かってしまう。なんで嘘をついたか、だろうな。
「……待ち合わせ場所まで行ったら、窓の外から霧矢と、美人助手が一緒に居るのが見えて……」
「美人助手? ──月島さんの事か。あれは別に一緒に居た訳じゃなくて、偶々待ち合わせ場所が一緒だっただけだ」
「それは、分かってる。分かってたけど……彼女って、霧矢の好みのタイプだろ。浴衣着てて、それが凄く似合ってて……。別に比べられるとか、そんな風に思ってたわけじゃないけど……惨めになりそうで、足が竦んだ」
「優斗、俺は」
俺は霧矢に向かって首を振る。
「とりあえず全部言わせてくれ」
霧矢は尚も何か言いたそうにしていたが、代わりになのか膝に置いてあった俺の手を握った。
「友達だったら、そんな事気にしないだろ。普通。隣歩いてて、釣り合うかどうかとか。だから、俺……すごい、欲張りなんだけど……友達って立場だけじゃなくて、霧矢にとってもっと特別な存在になりたくなっちゃったんだ」
霧矢の目が見開かれる。握られている手に力が入るのを感じて、俺は目線を逸らした。
「つまり、その……番になってくれただけでも、感謝しなきゃいけないのに、本当、自分でも面倒くさいなと思うんだけど……。霧矢の事、す、好きなんだと思う。でも、だからって霧矢にどうこうして貰おうとかは思ってなくて、俺がそう思ってるって事だけ、知ってて貰いたくて……」
あぁ、もう自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。霧矢はこの支離滅裂な告白をどんな気持ちで聞いてるんだ。
俺が恐る恐る様子を窺うように霧矢の顔を見ると、霧矢は固い表情をしていた。
「──もう話しても良いか」
「あ、ああ……うん」
俺は頷く。次の瞬間、霧矢に引き寄せられて俺は霧矢の胸板にダイブすることになった。
ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられて、少し息が苦しい。霧矢の香りに包まれて胸がきゅうっとなる。
「まず、俺にどうこうして貰おうとかは思ってない、なんて言うな。前もそうだけど、勝手に自己完結して諦めるのやめてくれ。俺ってそんなにお前に冷たい男だと思われてんの? ……優斗には結構、優しくしてるつもりなんだけど」
「や、優しい、とは思ってるよ。ただ、霧矢そういう面倒くさかったり、重いの嫌いだろ」
「そうだな、嫌いだ。嫌いだけど、優斗は特別。お前にはもっと頼られたいし、甘えられたいし、求めて欲しい」
「ぅえ!? それって……」
霧矢にドキドキが伝わってしまうのではないかと思うくらいに、心臓がうるさい。
もしかしたら、という期待に胸が高鳴っている。
「俺は、お前があの時泣きながら『友達でいたかった』なんて言うから、友達のままで居た方が良いのかと思って今まで色々我慢してたんだ。番になったのが急だったから、心の方はゆっくり進展していければ良いと思ってた。……でも、もう『友達』はやめだ」
「え……?」
「好きだ、優斗。多分、かなり前から」
霧矢の手に顎を掴まれたかと思うと、上を向かされて噛み付くようにキスをされた。
すぐに舌が入ってきて、口の中は霧矢の舌でいっぱいになる。
舌を絡ませ、唾液を吸われ、下唇を甘噛みされて、すっかり力が抜けた所で肩を押されて、ソファに押し倒された。
性急なキスに息が上がって、目が潤む。
「ん……ほ、本当に……?」
だって、俺だぞ。霧矢の好みのタイプとは真逆で、何もかも普通で、唯一の特徴のオメガって所だって、霧矢にとってはマイナスでしかない。それなのに? 本当に?
素直に喜びたい気持ちと、信じられない気持ちが入り混じって当惑してしまう。
「本当。というか、今思うと結構分かりやすかったと思うんだけどな。俺」
「ぜ、全然分かんねーし! かなり前からっていつからだよ」
「優斗がオメガって診断される前から」
俺は驚きで目を見開く。
え、それは流石に嘘だろ……?
番になって情が移ったとか、そういう話じゃないのか!?
「う、嘘だ……。だって霧矢、彼女居たじゃん」
「それはまぁ、気付いてなかったとはいえ悪い事したと思ってる。本命がすぐそばに居るんだから、そりゃ長く続かないよな」
反論する材料がどんどん減っていって、声が震える。
「お、俺、全然霧矢のタイプじゃないし」
俺の苦し紛れの反論に、霧矢は困ったように眉を寄せながら、手遊びみたいに俺の髪を指で梳いた。
「今まで付き合ってきたやつに似たようなタイプが多いのは否定しない。でも、例えば今日俺は月島さんの浴衣姿を見ても動きにくそうだなと思っただけだったし」
俺を見下ろしていた霧矢の目がきゅっと細くなる。
「優斗の浴衣姿はイイと思った。かなりそそる。何枚も写真に撮って、専用のアルバムを作りたいくらいだ。……初めて見たのがクソ男に絡まれてる時じゃなきゃもっと良かったんだけどな」
霧矢が覆い被さってきて、ソファがぎしりと軋む音がした。
耳を舐められて俺は思わず「ひゃっ」と声を出してしまう。
「ちょっと着崩れてるから、前屈みになる度に乳首がちらちら見えて、さっきから気が気じゃなかった」
「ち、乳首!?」
俺が動揺していると、浴衣の衿の部分から霧矢の手がすっと差し込まれる。
噂の乳首を指先でカリカリと引っ掻かれて、甘い痺れが走る。
「あぅ……」
この前のヒートの時に、目の前の男によって散々弄られたそこは、すっかり性感帯の一つとして育っており、えっちな漫画だったら確実にハートマークがついてるであろう声が出てしまった。
「かーわい、優斗」
霧矢が蕩けたように笑う。その宝物を目の前にしたかのような笑顔と言葉が胸にじんと染み渡った。
「こんな可愛くていやらしい乳首、絶対他のヤツに見せたくない。浴衣はエロくて興奮するけど、今度からは俺の前だけで着ろよ?」
霧矢の顔が下がり、乳首を唇で喰まれて俺の口からはまた甲高い声が出てしまった。
もう片方の乳首も指で愛撫され、空いた手は浴衣の裾を割って、俺の太ももの内側から際どい所を悪戯な手つきで撫でてくる。
快感にびくびくと身体が跳ねる。あぁ、もうなんでこんなに敏感になってしまったのか。
「んんっ、ぁう……俺の浴衣にそんな、っ風に思うやつ、誰も居ない、だろ」
霧矢の動きが不自然に止まる。不思議に思ってぼんやりと霧矢を見上げると、霧矢は据わった目で俺の事をじっと見ていた。
「俺の目の前でナンパされておいてまだそんな事を言うか、この口は」
霧矢に唇を摘まれてぐにぐにされる。
た、確かにそうでした……。いや、でもなぁ……。
「あんまり危機感持たないようなら、閉じ込めて外に出られなくするぞ」
「ふぇ、ふぁ、ひょふふっへ、ふぁふぁら」
むぅ……唇を摘まれているせいで、上手く喋れない。
「冗談だと思ってるだろ。俺は本気だからな。アルファの番に対する独占欲舐めんなよ」
霧矢の顔が余りにも真剣で少し怖いくらいだったので、俺はこくこくと頷いた。
霧矢は「よし」と言ってやっと唇から手を離してくれて、ふっと笑った。
──……という事は、俺と霧矢は両想いって事で。
ぽぽぽっと顔が熱くなる。……うれしい。嬉しい……!
それでなくても顔が良いのに、いつもより三割増しくらいに霧矢が格好良く見えて、キラキラと眩しい。
俺は手を伸ばして、キラキラ輝く霧矢の綺麗な顔を両手で挟むようにして包んだ。
「霧矢、俺のこと好き?」
「好きだよ」
「もう一回言って」
「好き」
「もう一回」
「好きだ。好きだよ。優斗が好き」
霧矢がくすりと笑って、頭を撫でてくれる。
こんな面倒なやり取り、霧矢が一番嫌いなやつなのに俺を見る霧矢の目は驚く程に優しい。夢みたいだ。
「……俺も好き」
顔を寄せてちゅっと霧矢にキスをする。すると、今度は霧矢からキスをしてくれた。
霧矢が返してくれたキスは深くて、気持ち良い。甘くてほろ苦い香りに包まれて頭がふわふわする。
夢中になって舌を絡めていると、浴衣の裾をがばっと開かれて、霧矢の手が下着越しに俺のモノに触れる。
形を確かめるように指で挟まれ、上下に擦られるとじわじわと熱が溜まって、鼻から「んっんっ」と快感の色を含んだ息が漏れてしまう。
「ん、ぁっ……霧矢、俺今ヒートじゃないけど……」
「? ヒートじゃなきゃ触っちゃダメなのか?」
「そ、そんな事、ないの……かな?」
「そんな事ない」
「そっか……」
ヒートじゃなくてもしたいって言って良いのか。
両想いならそうなのか。
俺が再び両想いという事実に浮かれていると、霧矢の手が下着の中に侵入してくる。
直接性器を握られて太腿がびくっと痙攣した。
「あ、んん、はぁっ……やっ、ちょっ……待って」
「待たない」
ヒートの時は頭がバカになってたからそれほど羞恥心というものを感じなかったが、正気だと物凄く恥ずかしい。
大人の男二人が組み合うには流石に狭いソファの上で、なんとか落ちないように身を捩る。
固くなりつつあるそこをゆるゆると上下に扱かれながら、霧矢の舌が俺の胸辺りを這う。
ダメだ、気持ち良くて自ら誘うように脚を広げてしまう。
空いた片手で衿を広げられて、顕になった肩を甘噛みされる。そしてそのまま霧矢の唇が俺の腋辺りに近付いたところで俺はハッとなり、渾身の力で霧矢の肩を押し返した。
「ま、待て!! まずはシャワー浴びさせて!!」
暑い中慣れない格好でうろうろしていたから、今日はかなり汗をかいた。クーラーの効いた室内で一瞬不快感を忘れていたが、ずっとべたべたしてて気持ち悪かったのだ。
こんな状態でセックスは出来ない。
イケメンは汗をかかないのか、俺と違って涼しげな顔をした霧矢は少し考えて「わかった」と頷いた。
俺はホッとしてそれじゃあ、と霧矢の下から抜け出そうとしたが霧矢に手首を掴まれ拘束されて動けない。
「あの……? 霧矢?」
「とりあえず浴衣のまま一回ヤってから、その後一緒に風呂入ろう」
「な?」と霧矢がミスターコン四連覇も確実な良い笑顔を見せたかと思うと、本当にすぽんっと音が出そうなくらいな勢いで下着を脱がされる。
膝裏を掴まれて上から体重をかけられ、膝が胸についてしまうくらいに身体を折り畳まれた。
ぴょこんっと元気良く飛び出した俺の愚息を、霧矢が躊躇なくぱくりと咥える。
俺は突然の強い快感に大きく喘いでしまう。
「ひぁっ!! き、霧矢ぁ……!?」
話が違う!! わかったって言ってくれただろ!?
「折角の浴衣なのに浴衣セックスしないのは勿体無いだろ」
そういう問題じゃない……!!
性器を生温くぬるぬるとした口内に包まれる気持ち良さに、腰から下が甘く痺れてロクな抵抗が出来ない。太ももがぷるぷると震える。
そんな俺に気付いたのか、手首の拘束が解かれてその手は俺の後ろへと伸ばされた。
「……ちゃんと濡れてるな」
嬉しそうな声でそう言った霧矢の指が中へと入ってきて、掻き回すようにくちゅくちゅと体内で動く。
「あっ、あっ、ん、くっ……!!」
前と後ろを同時に愛撫されて、俺は呆気なく霧矢の
口内へと精液を放ってしまった。
──き、霧矢の口の中に出しちゃった……!!
「ん……沢山出たな?」
ごくり、と俺の放った物を飲み干した霧矢は、美味いものでもないだろうに、熱っぽい目をして満足気に笑った。
──母さん。母さんの言った通り男は普段と違う格好に弱いみたいです。
まぁ、話したい事があったからこちらとしても好都合なんだけど。
「あぁ~……すげー涼しい。最高。霧矢ん家はずっとエアコン付けっぱなしなの?」
「あぁ、そうだな」
「そっか、電気代大した変わらないって言うしそっちの方が良いのかもなぁ」
エアコンの効いた快適な部屋に、俺は思わずぐでっとテレビの前のソファに倒れ込んでしまう。
そんな俺の前に霧矢が氷の入ったルイボスティーを出してくれたので、俺はそれを一気に飲み干した。
はぁ~~、生き返る。萎びた身体に水分が染み渡る。
それにしても、ここの冷蔵庫には何かしらのオシャレなティーが常備されているのだろうか。
うちの冷蔵庫には麦茶しかないから、いつも麦茶出してごめんな霧矢……。
いや、麦茶は良いものなんだけどな。ミネラルが豊富だし……。
そんな馬鹿みたいな事を考えていると霧矢が隣に座った。
「優斗」
低くよく通る声で名前を呼ばれるだけで、霧矢が何を言いたいか分かってしまう。なんで嘘をついたか、だろうな。
「……待ち合わせ場所まで行ったら、窓の外から霧矢と、美人助手が一緒に居るのが見えて……」
「美人助手? ──月島さんの事か。あれは別に一緒に居た訳じゃなくて、偶々待ち合わせ場所が一緒だっただけだ」
「それは、分かってる。分かってたけど……彼女って、霧矢の好みのタイプだろ。浴衣着てて、それが凄く似合ってて……。別に比べられるとか、そんな風に思ってたわけじゃないけど……惨めになりそうで、足が竦んだ」
「優斗、俺は」
俺は霧矢に向かって首を振る。
「とりあえず全部言わせてくれ」
霧矢は尚も何か言いたそうにしていたが、代わりになのか膝に置いてあった俺の手を握った。
「友達だったら、そんな事気にしないだろ。普通。隣歩いてて、釣り合うかどうかとか。だから、俺……すごい、欲張りなんだけど……友達って立場だけじゃなくて、霧矢にとってもっと特別な存在になりたくなっちゃったんだ」
霧矢の目が見開かれる。握られている手に力が入るのを感じて、俺は目線を逸らした。
「つまり、その……番になってくれただけでも、感謝しなきゃいけないのに、本当、自分でも面倒くさいなと思うんだけど……。霧矢の事、す、好きなんだと思う。でも、だからって霧矢にどうこうして貰おうとかは思ってなくて、俺がそう思ってるって事だけ、知ってて貰いたくて……」
あぁ、もう自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。霧矢はこの支離滅裂な告白をどんな気持ちで聞いてるんだ。
俺が恐る恐る様子を窺うように霧矢の顔を見ると、霧矢は固い表情をしていた。
「──もう話しても良いか」
「あ、ああ……うん」
俺は頷く。次の瞬間、霧矢に引き寄せられて俺は霧矢の胸板にダイブすることになった。
ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられて、少し息が苦しい。霧矢の香りに包まれて胸がきゅうっとなる。
「まず、俺にどうこうして貰おうとかは思ってない、なんて言うな。前もそうだけど、勝手に自己完結して諦めるのやめてくれ。俺ってそんなにお前に冷たい男だと思われてんの? ……優斗には結構、優しくしてるつもりなんだけど」
「や、優しい、とは思ってるよ。ただ、霧矢そういう面倒くさかったり、重いの嫌いだろ」
「そうだな、嫌いだ。嫌いだけど、優斗は特別。お前にはもっと頼られたいし、甘えられたいし、求めて欲しい」
「ぅえ!? それって……」
霧矢にドキドキが伝わってしまうのではないかと思うくらいに、心臓がうるさい。
もしかしたら、という期待に胸が高鳴っている。
「俺は、お前があの時泣きながら『友達でいたかった』なんて言うから、友達のままで居た方が良いのかと思って今まで色々我慢してたんだ。番になったのが急だったから、心の方はゆっくり進展していければ良いと思ってた。……でも、もう『友達』はやめだ」
「え……?」
「好きだ、優斗。多分、かなり前から」
霧矢の手に顎を掴まれたかと思うと、上を向かされて噛み付くようにキスをされた。
すぐに舌が入ってきて、口の中は霧矢の舌でいっぱいになる。
舌を絡ませ、唾液を吸われ、下唇を甘噛みされて、すっかり力が抜けた所で肩を押されて、ソファに押し倒された。
性急なキスに息が上がって、目が潤む。
「ん……ほ、本当に……?」
だって、俺だぞ。霧矢の好みのタイプとは真逆で、何もかも普通で、唯一の特徴のオメガって所だって、霧矢にとってはマイナスでしかない。それなのに? 本当に?
素直に喜びたい気持ちと、信じられない気持ちが入り混じって当惑してしまう。
「本当。というか、今思うと結構分かりやすかったと思うんだけどな。俺」
「ぜ、全然分かんねーし! かなり前からっていつからだよ」
「優斗がオメガって診断される前から」
俺は驚きで目を見開く。
え、それは流石に嘘だろ……?
番になって情が移ったとか、そういう話じゃないのか!?
「う、嘘だ……。だって霧矢、彼女居たじゃん」
「それはまぁ、気付いてなかったとはいえ悪い事したと思ってる。本命がすぐそばに居るんだから、そりゃ長く続かないよな」
反論する材料がどんどん減っていって、声が震える。
「お、俺、全然霧矢のタイプじゃないし」
俺の苦し紛れの反論に、霧矢は困ったように眉を寄せながら、手遊びみたいに俺の髪を指で梳いた。
「今まで付き合ってきたやつに似たようなタイプが多いのは否定しない。でも、例えば今日俺は月島さんの浴衣姿を見ても動きにくそうだなと思っただけだったし」
俺を見下ろしていた霧矢の目がきゅっと細くなる。
「優斗の浴衣姿はイイと思った。かなりそそる。何枚も写真に撮って、専用のアルバムを作りたいくらいだ。……初めて見たのがクソ男に絡まれてる時じゃなきゃもっと良かったんだけどな」
霧矢が覆い被さってきて、ソファがぎしりと軋む音がした。
耳を舐められて俺は思わず「ひゃっ」と声を出してしまう。
「ちょっと着崩れてるから、前屈みになる度に乳首がちらちら見えて、さっきから気が気じゃなかった」
「ち、乳首!?」
俺が動揺していると、浴衣の衿の部分から霧矢の手がすっと差し込まれる。
噂の乳首を指先でカリカリと引っ掻かれて、甘い痺れが走る。
「あぅ……」
この前のヒートの時に、目の前の男によって散々弄られたそこは、すっかり性感帯の一つとして育っており、えっちな漫画だったら確実にハートマークがついてるであろう声が出てしまった。
「かーわい、優斗」
霧矢が蕩けたように笑う。その宝物を目の前にしたかのような笑顔と言葉が胸にじんと染み渡った。
「こんな可愛くていやらしい乳首、絶対他のヤツに見せたくない。浴衣はエロくて興奮するけど、今度からは俺の前だけで着ろよ?」
霧矢の顔が下がり、乳首を唇で喰まれて俺の口からはまた甲高い声が出てしまった。
もう片方の乳首も指で愛撫され、空いた手は浴衣の裾を割って、俺の太ももの内側から際どい所を悪戯な手つきで撫でてくる。
快感にびくびくと身体が跳ねる。あぁ、もうなんでこんなに敏感になってしまったのか。
「んんっ、ぁう……俺の浴衣にそんな、っ風に思うやつ、誰も居ない、だろ」
霧矢の動きが不自然に止まる。不思議に思ってぼんやりと霧矢を見上げると、霧矢は据わった目で俺の事をじっと見ていた。
「俺の目の前でナンパされておいてまだそんな事を言うか、この口は」
霧矢に唇を摘まれてぐにぐにされる。
た、確かにそうでした……。いや、でもなぁ……。
「あんまり危機感持たないようなら、閉じ込めて外に出られなくするぞ」
「ふぇ、ふぁ、ひょふふっへ、ふぁふぁら」
むぅ……唇を摘まれているせいで、上手く喋れない。
「冗談だと思ってるだろ。俺は本気だからな。アルファの番に対する独占欲舐めんなよ」
霧矢の顔が余りにも真剣で少し怖いくらいだったので、俺はこくこくと頷いた。
霧矢は「よし」と言ってやっと唇から手を離してくれて、ふっと笑った。
──……という事は、俺と霧矢は両想いって事で。
ぽぽぽっと顔が熱くなる。……うれしい。嬉しい……!
それでなくても顔が良いのに、いつもより三割増しくらいに霧矢が格好良く見えて、キラキラと眩しい。
俺は手を伸ばして、キラキラ輝く霧矢の綺麗な顔を両手で挟むようにして包んだ。
「霧矢、俺のこと好き?」
「好きだよ」
「もう一回言って」
「好き」
「もう一回」
「好きだ。好きだよ。優斗が好き」
霧矢がくすりと笑って、頭を撫でてくれる。
こんな面倒なやり取り、霧矢が一番嫌いなやつなのに俺を見る霧矢の目は驚く程に優しい。夢みたいだ。
「……俺も好き」
顔を寄せてちゅっと霧矢にキスをする。すると、今度は霧矢からキスをしてくれた。
霧矢が返してくれたキスは深くて、気持ち良い。甘くてほろ苦い香りに包まれて頭がふわふわする。
夢中になって舌を絡めていると、浴衣の裾をがばっと開かれて、霧矢の手が下着越しに俺のモノに触れる。
形を確かめるように指で挟まれ、上下に擦られるとじわじわと熱が溜まって、鼻から「んっんっ」と快感の色を含んだ息が漏れてしまう。
「ん、ぁっ……霧矢、俺今ヒートじゃないけど……」
「? ヒートじゃなきゃ触っちゃダメなのか?」
「そ、そんな事、ないの……かな?」
「そんな事ない」
「そっか……」
ヒートじゃなくてもしたいって言って良いのか。
両想いならそうなのか。
俺が再び両想いという事実に浮かれていると、霧矢の手が下着の中に侵入してくる。
直接性器を握られて太腿がびくっと痙攣した。
「あ、んん、はぁっ……やっ、ちょっ……待って」
「待たない」
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大人の男二人が組み合うには流石に狭いソファの上で、なんとか落ちないように身を捩る。
固くなりつつあるそこをゆるゆると上下に扱かれながら、霧矢の舌が俺の胸辺りを這う。
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空いた片手で衿を広げられて、顕になった肩を甘噛みされる。そしてそのまま霧矢の唇が俺の腋辺りに近付いたところで俺はハッとなり、渾身の力で霧矢の肩を押し返した。
「ま、待て!! まずはシャワー浴びさせて!!」
暑い中慣れない格好でうろうろしていたから、今日はかなり汗をかいた。クーラーの効いた室内で一瞬不快感を忘れていたが、ずっとべたべたしてて気持ち悪かったのだ。
こんな状態でセックスは出来ない。
イケメンは汗をかかないのか、俺と違って涼しげな顔をした霧矢は少し考えて「わかった」と頷いた。
俺はホッとしてそれじゃあ、と霧矢の下から抜け出そうとしたが霧矢に手首を掴まれ拘束されて動けない。
「あの……? 霧矢?」
「とりあえず浴衣のまま一回ヤってから、その後一緒に風呂入ろう」
「な?」と霧矢がミスターコン四連覇も確実な良い笑顔を見せたかと思うと、本当にすぽんっと音が出そうなくらいな勢いで下着を脱がされる。
膝裏を掴まれて上から体重をかけられ、膝が胸についてしまうくらいに身体を折り畳まれた。
ぴょこんっと元気良く飛び出した俺の愚息を、霧矢が躊躇なくぱくりと咥える。
俺は突然の強い快感に大きく喘いでしまう。
「ひぁっ!! き、霧矢ぁ……!?」
話が違う!! わかったって言ってくれただろ!?
「折角の浴衣なのに浴衣セックスしないのは勿体無いだろ」
そういう問題じゃない……!!
性器を生温くぬるぬるとした口内に包まれる気持ち良さに、腰から下が甘く痺れてロクな抵抗が出来ない。太ももがぷるぷると震える。
そんな俺に気付いたのか、手首の拘束が解かれてその手は俺の後ろへと伸ばされた。
「……ちゃんと濡れてるな」
嬉しそうな声でそう言った霧矢の指が中へと入ってきて、掻き回すようにくちゅくちゅと体内で動く。
「あっ、あっ、ん、くっ……!!」
前と後ろを同時に愛撫されて、俺は呆気なく霧矢の
口内へと精液を放ってしまった。
──き、霧矢の口の中に出しちゃった……!!
「ん……沢山出たな?」
ごくり、と俺の放った物を飲み干した霧矢は、美味いものでもないだろうに、熱っぽい目をして満足気に笑った。
──母さん。母さんの言った通り男は普段と違う格好に弱いみたいです。
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