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完結編
8 スタアシックスの帰還
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早いような遅いような一年が過ぎる。いよいよスタアシックスが帰ってくると連絡があった。やはり帰ってくる時間も方法も知らされていないが、元気だということだ。
商店街で待つ恋人たちはそわそわと、彼らの帰りを待ちわびていた。
客がひけ、テーブルを片付けているとカランとベルの音がする。
「あ、すみません。これから、休憩時間なんです」
茉莉は顔を上げ告げる。目の前には少し色が白くなって痩せた赤斗が立っていた。
「あ、あ、あ、赤斗さん!!!」
「ただいま。茉莉」
茉莉は転がるボールにとびかかるように、赤斗に抱きついた。勢いのよさに赤斗はよろめく。
「お、ととっ」
「あ、ご、ごめんなさい! 興奮しちゃって」
「いいんだ。俺だってそうしたい気持ちなんだから」
抱きしめ合ったまま、茉莉は尋ねた。
「少し痩せましたね」
「かな?」
実際は、太っていたのが宇宙に行って元に戻っただけだった。しばらく抱き合った後、両親とも再会を喜び合った。
「お腹空いてないんだけどさ。茉莉のご飯食べたいな」
爽やかな笑顔をみせる赤斗に茉莉は「すぐ作りますね!」といそいそと台所に立った。カツオのだしがふわっと香ると、赤斗はやっと帰ってきたんだなあとしみじみ実感した。
それぞれ帰国し、劇的な再会を味わっている中、『黒曜書店』の扉が開く。
「いらっしゃっいませ」
「コンニチワ」
イサベルだった。
「イサベルさん、どうしたんですか? あの黒彦さんもう帰ってきてますよねえ」
「ええ」
「何かあったんですか?」
不安になってくる桃香にイサベルは「落ち着いてね。身体には何も問題ないし元気よ」と静かに告げる。
「そうですか。あの、いつここに帰ってきます?」
「来週には」
「来週……」
宇宙にいるときはなんとか我慢していたが、もう今は地球にいるのだ。そうなると早く会いたくてたまらない。
「よく聞いてモモカ。クロヒコは身体は元気なんだけど、記憶を失っているの」
「え? 記憶? どうして? 何か宇宙で事故でも?」
心配で動機が始まり手が震えている桃香の手を、イサベルはとる。ぎゅっと握りしめイサベルは説明を始めた。
スタアシックスは地球の時間では1年の任務だが、彼らの体感時間は10年だった。10年孤独な宇宙にいるということは精神的な負担が大きい。そこで身体と共に脳の記憶も少しずつ、若返る装置の中で眠っていた。毎日少しずつ若返り、10年の記憶や衰えなどを1年に留めていたのだ。ところが――他のメンバーと違い、黒彦は1人睡眠時間をオーバーしていた。その分黒彦は1年以上若返るとともにその記憶も削除されてしまった。
「そ、そんな……。確かに黒彦さんはいつも寝坊ばかりして……」
「ええ。クロヒコはロングスリーパーだから……。みんなより寝てしまったのね」
「でも、なんで帰ってこないんですか?」
「もう少しメディカルチェックをして、記憶を元通りにできないかと色々してるんだけどね。モモカに心積もりをしていてもらおうかと」
「と言うと?」
「クロヒコの記憶はちょうど研究室の爆発の前までしかないの」
「そ、それって……」
「ええ。あなたとの出会い、過ごした時間の記憶は削除されているワ」
「そん、な……」
目の前が真っ暗になり、桃香は力が抜けしゃがみ込んだ。
「モモカ……」
そこへ帰還したスタアシックスたちがやってきた。
「ただいま、桃香ちゃん」
「久しぶり」
「元気だった?」
黒彦のことで駆け付けたのだ。
「み、みんな、おかえりなさい」
嬉しい再会のはずだが、黒彦不在の今、桃香にはまるで現実感のない夢の中の出来事のようだ。
白亜が神妙な面持ちで「桃、これからのこと考えよう」と桃香を立たせた。
「君の事が心配で俺たちはやってきた」
青音と黄雅は頷き合って桃香を見つめる。
「黒彦の記憶はショックで一時的に失っているならいいんだけど、削除されているから帰国した時に、桃香ちゃんがここにいると黒彦が混乱すると思うんだ」
赤斗は非常に言い辛いと言った表情だ。
「桃香さんの気持ちはわかってる」
緑丸は力強く言う。
「みんな……」
思考もマヒし、これからどうしたらいいのか分からなくなってしまった桃香は泣くしかなかった。そして黒彦のことを想う。彼はいつもいつも私に色々な思いをさせるのだと。
イサベルが「何かいいアイデアがあるの?」とスタアシックスに尋ねる。
青音がこれからの計画を話す。
「まず、モモカさんにはこの書店でアルバイトとして、俺たちが雇っていたことにする。商店街の店の維持にこの書店だけ誰もいなかったから」
ぼんやりしている桃香の代わりにイサベルが質問する。
「黒彦じゃなくてあなたたちがモモカを採用したって変じゃない?」
「いや、大丈夫だ。黒彦の記憶は爆発前だから、そのあとこの宇宙の任務まで直結している。その間の偽の記憶をこのチップに入れている。これを差せば大丈夫だ」
青音は小さな黒いチップを見せる。これは以前、黒彦がムッキムキ怪人に使用したものの応用バージョンだ。
「そんなものがあるなら、モモカの記憶を黒彦に埋め込めばいいんじゃないのカシラ」
「いや、そこまでの膨大な量は今の技術では無理だ……」
どうやら、その場しのぎで桃香の存在をこじつけるようだ。
黄雅が確認するように桃香に尋ねる。
「桃ちゃん。記憶のない黒彦でも、そばに居たい?」
涙をため、放心状態のようだが桃香はしっかり頷いた。
「黒彦さんが私の事を知らなくても、私はそばに居たいです」
「うん。じゃあそうしよう」
一緒に『黒曜書店』で働く間に、黒彦の問題をどうにか出来るかもしれないとスタアシックスは考えている。それには少し時間がかかるだろう。
こうして桃香は今まで一緒に使っていた食器などをまとめて片付け、書店のそばにある小さなアパートに引っ越した。引越しの手伝いはみんなが手伝ってくれた。黒彦の記憶喪失には誰も触れなかったが、心から応援をしてくれているのが桃香にはよくわかった。今までより、1人で孤独を感じているだろうと誰かは必ず桃香の顔を見に来ていた。
そしていよいよ黒彦の帰国の日になる。
商店街で待つ恋人たちはそわそわと、彼らの帰りを待ちわびていた。
客がひけ、テーブルを片付けているとカランとベルの音がする。
「あ、すみません。これから、休憩時間なんです」
茉莉は顔を上げ告げる。目の前には少し色が白くなって痩せた赤斗が立っていた。
「あ、あ、あ、赤斗さん!!!」
「ただいま。茉莉」
茉莉は転がるボールにとびかかるように、赤斗に抱きついた。勢いのよさに赤斗はよろめく。
「お、ととっ」
「あ、ご、ごめんなさい! 興奮しちゃって」
「いいんだ。俺だってそうしたい気持ちなんだから」
抱きしめ合ったまま、茉莉は尋ねた。
「少し痩せましたね」
「かな?」
実際は、太っていたのが宇宙に行って元に戻っただけだった。しばらく抱き合った後、両親とも再会を喜び合った。
「お腹空いてないんだけどさ。茉莉のご飯食べたいな」
爽やかな笑顔をみせる赤斗に茉莉は「すぐ作りますね!」といそいそと台所に立った。カツオのだしがふわっと香ると、赤斗はやっと帰ってきたんだなあとしみじみ実感した。
それぞれ帰国し、劇的な再会を味わっている中、『黒曜書店』の扉が開く。
「いらっしゃっいませ」
「コンニチワ」
イサベルだった。
「イサベルさん、どうしたんですか? あの黒彦さんもう帰ってきてますよねえ」
「ええ」
「何かあったんですか?」
不安になってくる桃香にイサベルは「落ち着いてね。身体には何も問題ないし元気よ」と静かに告げる。
「そうですか。あの、いつここに帰ってきます?」
「来週には」
「来週……」
宇宙にいるときはなんとか我慢していたが、もう今は地球にいるのだ。そうなると早く会いたくてたまらない。
「よく聞いてモモカ。クロヒコは身体は元気なんだけど、記憶を失っているの」
「え? 記憶? どうして? 何か宇宙で事故でも?」
心配で動機が始まり手が震えている桃香の手を、イサベルはとる。ぎゅっと握りしめイサベルは説明を始めた。
スタアシックスは地球の時間では1年の任務だが、彼らの体感時間は10年だった。10年孤独な宇宙にいるということは精神的な負担が大きい。そこで身体と共に脳の記憶も少しずつ、若返る装置の中で眠っていた。毎日少しずつ若返り、10年の記憶や衰えなどを1年に留めていたのだ。ところが――他のメンバーと違い、黒彦は1人睡眠時間をオーバーしていた。その分黒彦は1年以上若返るとともにその記憶も削除されてしまった。
「そ、そんな……。確かに黒彦さんはいつも寝坊ばかりして……」
「ええ。クロヒコはロングスリーパーだから……。みんなより寝てしまったのね」
「でも、なんで帰ってこないんですか?」
「もう少しメディカルチェックをして、記憶を元通りにできないかと色々してるんだけどね。モモカに心積もりをしていてもらおうかと」
「と言うと?」
「クロヒコの記憶はちょうど研究室の爆発の前までしかないの」
「そ、それって……」
「ええ。あなたとの出会い、過ごした時間の記憶は削除されているワ」
「そん、な……」
目の前が真っ暗になり、桃香は力が抜けしゃがみ込んだ。
「モモカ……」
そこへ帰還したスタアシックスたちがやってきた。
「ただいま、桃香ちゃん」
「久しぶり」
「元気だった?」
黒彦のことで駆け付けたのだ。
「み、みんな、おかえりなさい」
嬉しい再会のはずだが、黒彦不在の今、桃香にはまるで現実感のない夢の中の出来事のようだ。
白亜が神妙な面持ちで「桃、これからのこと考えよう」と桃香を立たせた。
「君の事が心配で俺たちはやってきた」
青音と黄雅は頷き合って桃香を見つめる。
「黒彦の記憶はショックで一時的に失っているならいいんだけど、削除されているから帰国した時に、桃香ちゃんがここにいると黒彦が混乱すると思うんだ」
赤斗は非常に言い辛いと言った表情だ。
「桃香さんの気持ちはわかってる」
緑丸は力強く言う。
「みんな……」
思考もマヒし、これからどうしたらいいのか分からなくなってしまった桃香は泣くしかなかった。そして黒彦のことを想う。彼はいつもいつも私に色々な思いをさせるのだと。
イサベルが「何かいいアイデアがあるの?」とスタアシックスに尋ねる。
青音がこれからの計画を話す。
「まず、モモカさんにはこの書店でアルバイトとして、俺たちが雇っていたことにする。商店街の店の維持にこの書店だけ誰もいなかったから」
ぼんやりしている桃香の代わりにイサベルが質問する。
「黒彦じゃなくてあなたたちがモモカを採用したって変じゃない?」
「いや、大丈夫だ。黒彦の記憶は爆発前だから、そのあとこの宇宙の任務まで直結している。その間の偽の記憶をこのチップに入れている。これを差せば大丈夫だ」
青音は小さな黒いチップを見せる。これは以前、黒彦がムッキムキ怪人に使用したものの応用バージョンだ。
「そんなものがあるなら、モモカの記憶を黒彦に埋め込めばいいんじゃないのカシラ」
「いや、そこまでの膨大な量は今の技術では無理だ……」
どうやら、その場しのぎで桃香の存在をこじつけるようだ。
黄雅が確認するように桃香に尋ねる。
「桃ちゃん。記憶のない黒彦でも、そばに居たい?」
涙をため、放心状態のようだが桃香はしっかり頷いた。
「黒彦さんが私の事を知らなくても、私はそばに居たいです」
「うん。じゃあそうしよう」
一緒に『黒曜書店』で働く間に、黒彦の問題をどうにか出来るかもしれないとスタアシックスは考えている。それには少し時間がかかるだろう。
こうして桃香は今まで一緒に使っていた食器などをまとめて片付け、書店のそばにある小さなアパートに引っ越した。引越しの手伝いはみんなが手伝ってくれた。黒彦の記憶喪失には誰も触れなかったが、心から応援をしてくれているのが桃香にはよくわかった。今までより、1人で孤独を感じているだろうと誰かは必ず桃香の顔を見に来ていた。
そしていよいよ黒彦の帰国の日になる。
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