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ブルーシャドウ 山本青音(やまもと せいね)編

12 探偵モノガタリ

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 優奈は自分の住んでいるアパートに青音を招待した。朝から掃除をして、天井や壁に貼っている彼の写真をいったん剥がす。

「なんだか殺風景になっちゃうなー」

青音だらけだった部屋は、いきなりがらんどうになったようだ。

「掃除完了! えーっとお茶の支度してと」

部屋がきれいになり、もてなす用意も出来たと思った優奈は、風呂に入ってから着替えることにした。



 手書きの地図を見ながら「こんなところにアパートなどあっただろうか」とキョロキョロしながら青音はうっそうと茂る庭木に目をやる。

「ん……? ここかな?」

ぐるりと庭木に囲まれ隠されたような古い平屋の木造アパートには『青が丘荘』と表札が付いている。

「まだこんな建物が残ってるなんて……」

古民家とも言えそうな年代を感じさせるアパートに、青音は関心をもって進む。

「ふむ。アパートというよりも長屋といった雰囲気だろうか」

誰も住んでいない部屋の前を次々に通り過ぎ、一番奥の部屋の前に立つ。優奈は表札はつけていない。

「チャイムはどこだろうか?」

探していると後ろの方でガサガサと木々の揺れる音がしたので青音は振り向いた。チラッとピンク色の影が目に入り、それを目で追う。上から木の葉が落ちてきたと思った瞬間、大きなピンク色の塊も落ちてくる。

「むっ!?」
「ピンクシャドウ見参!」

青音の目の前にピンクシャドウが下りてきた。

「ピ、ピンク……」

冷静な青音が珍しく驚いている様子に満足した優奈はマスクを脱いだ。

「ようこそ、青音さん」
「優奈、さんだったのか……」
「借りたんです、桃香さんに」
「そうか。良く似合ってる」
「よかった」

青音は優奈のピンクシャドウの姿を見ると高揚感を得ながらも安らぎを感じている。優奈は今日の青音の姿にこれまで以上にない興奮を覚えた。茶色の着物に濃い緑の袴をはいた書生姿だ。

「あの、青音さん。その恰好は?」
「君が好きだろうと思って一番メジャーそうな装いをしてきたんだ。どうかな?」
「もう、なんていうか、こんなにかっこいい金田一さん、この世に存在しないと思います」
「気に入ってもらえて良かった。髪型が難しくてね。母に手伝ってもらったんだ。実は母もキンダイチファンらしい」
「ええ? お母さまもですか!?」
「うん。ああ、でも父はアケチ派って言ってたよ」
「むっ、明智! ま、まあ彼もいけてるかな」

いつもは黒いストレートの短髪で品よく横分けされているが、今日はトップの毛先を跳ねさせ、くしゃっとした無造作ヘアになっている。優奈は今までの見てきた俳優たちの画像が全て、青音に上書き保存された。

「しかし、こんなところ良く残っていたね」

青音はぐるりと古い木造アパートを見渡す。

「ええ、気分を味わいたくてやっと探して住んでるんですけど、もう再来月取り壊しなんですよ。住人は私一人なんです」
「へえ」
「あ、どうぞ」

優奈は自分の部屋に招き入れた。殺風景な部屋ではあるが、古びた木の温かみが、寒さを感じさせることはなかった。きしむ玄関をあがり畳の部屋に通される。

「古いけど味わいのあるいい部屋だね」
「ありがとうございます。部屋も2つあってなかなか広いんですよ。でももう普通のアパート見つけないとなあ」
「僕のところに来るのは嫌かな?」
「え? あ、青音さんのところ?」
「うん。うちは外からは見えないけど中庭に小さな離れと土蔵があるんだ。離れは祖母が使っていたんだが亡くなってからは空いていてね」
「離れに土蔵……」

ごくりと優奈は喉を鳴らす。

「君さえよければ僕たちの新居にしてもいい」
「し、新居」

目の前の、最高にかっこいい金田一ではなく青音と、土蔵の隣の離れで暮らすのだ。

「どうかな」
「ど、どうって……」

どこをどうとっても反対意見などない。しかしいきなり財宝の隠し部屋に遭遇したかのように優奈は目を見開くばかりだ。

「返事を急ぐわけじゃないけど、君のその姿に僕はそそられっ放しだよ」

優奈が気が付くと身体が逞しい青音に抱きあげられている。

「そっちが寝室?」

やっと頷くと青音はすっと襖を指で引っ掛け開く。やはり畳敷きの部屋で、ベッドが一つポツンとあった。
そっと優奈を降ろし口づけが始まる。優奈はもう頭の芯まで痺れるような感覚だ。
口づけをされながら、ジーっとウエストあたりのファスナーが降ろされるのを感じた。

「あっ」

ピンクのバトルスーツはするっと脱がされ下半身はショーツ一枚になる。

「だめだな。興奮が抑えられない」
「え、えっ、あ、や、い、いきなりっ、ひっ」

青音はショーツも剥ぎ取りいきなり優奈の敏感な部分に舌を這わせる。クールな青音が淫靡な水音を立て激しく愛撫するさまに優奈は、羞恥と興奮と快感を隠せない。

「だ、だめ、そんなに、したら、も、もう、いっ、いっちゃっ、ああっ!」

いきなりの激しい口唇愛撫に優奈は瞬く間に絶頂を迎えた。

「気持ち良かった?」
「あ、は、はぃ……」

優しく髪を撫でる青音に呼吸を整えた優奈は「こ、今度は私が」と身体を起こそうとした。青音は微笑みながら顔を横に振り優奈をまた寝かせる。

「あの、また、この前みたいに……」
「もう、いいんだ。嬉しかったけど今度は君の中で……」

快感の余韻が残るそこにまた強い刺激が走る。

「きゃあっんっ!」

いつの間にか袴は脱ぎ捨てられ青音は起立をすっかり優奈の中に埋め込んだ。

「優奈、さん、今度は、君の中で果てたい……」
「あ、あんっ、青音さ、んっ、あっ、ん、き、もち、いっ」

正確に狙ったところを同じリズムで突き続かれ、優奈はさっきとはまた別の快感に肌を粟立たせる。絶頂の波が押し寄せると同時に、きつく抱きしめられ、青音の呻く声を聞いた。

 しばらく抱き合った後身体を起こした青音が「申し訳ない。焦ってしまって」と謝罪する。
2人は上半身は着物とバトルスーツだった。

「い、いえ、私こそ、夢中で、なにがなんだか……」
「ちゃんと感じさせられただろうか……」
「ええ、もう、十分……」
「いや、優奈さん、気を使ってくれなくていいんだ。こういうのは、とてもじゃないけど紳士的ではない」
「え……?」
「やはりちゃんとしなければ」

優奈は繋がった内部からまた圧力を感じ始める。

「んっ、な、なか……」

するっとバトルスーツを脱がされ、全裸になった優奈を見ながら、青音も上の着物を脱いだ。白く引き締まった筋肉質の身体に優奈はまた興奮してしまう。

「う、優奈さんも、欲しがってくれてるのかな」

締め付けに呻きながら、青音は優奈の上半身を丁寧に愛撫始める。

「も、もう一回、ですか? あんっ」
「うん。もっと君を感じさせたい」
「あ、青音さん」

それから青音は言葉通りに優奈を何度も絶頂に導いてから果てた。

 逞しい青音の胸の上で優奈はぼんやりとくつろぐ。今までは天上に貼ってあった青音の写真を眺めていたが、今は自分の身体の下に彼そのものがいる。目を閉じても青音が存在しているのだ。
温かい肌の感じを楽しんでいると、ぽつりと青音がつぶやいた。

「優奈さんは、僕だけのピンクシャドウだな」
「青音さんは、金田一さんを超えた存在です」

ふふふと笑い合い、またベッドでじゃれ合い始めた。
住人が誰もいないアパートのおかげで、行為の音に苦情が出ずに済んだことを二人は知らない。



**************** 

 ちらちらと粉雪が舞い始める寒い夜、優奈はターゲットを尾行をしていた。

「うーん。全然寒くない。すごいスーツだなあ」

 青音は優奈のためにバトルスーツを用意した。このスーツはN〇S〇開発のパワードスーツを更に改良したもので、耐熱耐冷保湿撥水放熱機能があり、さらに打撃にも強い。薄手で伸縮自在なため服の下に着込んでも、下着よりも気にならない。
おかげでどんな季節でも活動が快適だ。

「あ、動き出した」

一定の距離をとり、ターゲットにばれないように跡をつけた。今夜も確実に浮気の証拠をつかむはずだ。

 優奈の後ろにやはり一定の距離をとって、彼女をつけている人物がいる。そのことに優奈は気づいていない。

「ふふっ。僕の尾行力もなかなかのものだな」

 追跡者は青音だった。町中に監視カメラがあり、今は犯罪の起こらない平和な町だが、やはり夜中に行動をとっていると聞いてから、青音は彼女を心配して様子を見ていたのだ。何かあれば素早く登場する予定だ。もちろん中にはブルーシャドウのバトルスーツを着込んでいる。



青音編終わり
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