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ホワイトシャドウ(旧ピンク)松本白亜(まつもと はくあ)編
9 ピンクシャドウの正体
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しばらく歩き、適当に大手チェーンのカフェに入る。中途半端な時間らしく客はまばらだ。店員にお好きな席にどうぞと案内され、白亜は明るい窓際の席を選び、ミサキを奥に座らせる。
「何飲むかな。さすがに腹はいっぱい」
「ですね! ほんと、たこ焼、美味しかったな!」
無難にコーヒーを頼み、一口啜った後白亜から話す。
「さっきは俺の事選んでくれてありがとう。他に良さそうな男いなかった?」
「えーっと、こちらこそ、ありがとうございます。実は白亜さんの名前書いたのは、なんていうか、くじを引くみたいな感じだったんです。当たるとラッキーかなーって。すみません」
「え? くじ?」
実際、白亜の名前を書いたのはミサキだけで、ミサキの方が多く名前を書かれていたことを二人は知らない。
「白亜さんはどうして私の名前かいてくれたんですか?」
「うー、なんていうか、そのー」
ミサキに関心があったことは確かだが、出来心というか、責任感というか複雑な気持ちを白亜は上手く言えなかった。
「わかった! 気を使ってくれたんですよね。ありがとうございます」
「え、あ、いや、そんなつもりでもないんだけど」
「一瞬だけど白亜さんとカップルになれて嬉しかったです」
「ん? 一瞬? なんで?」
「え? なんでって?」
二人とも会話がかみ合わず困惑する。
「俺とはあの場限りってこと?」
「ええ!?」
「せっかくカップルになったんだしさあ。付き合ってみてもいいんじゃないかなあ」
「白亜さんと私が……?」
「うん。こっち帰ってきてから恋人もいないし」
「それなんですよね。なんで白亜さんに恋人がいなかったのかと」
「いやあ、俺も軽く考えてたんだよね。今までは恋人いなかったことなかったからさあ」
「は、はあ、やっぱり……」
「でも、これも何だっけえーっと、一期一会ってやつかな?」
「うーん。この場合『袖触れ合うも他生の縁』のほうがいいかなあ」
「ああ、それそれ。まあ気楽にいこうよ」
「でも……」
「何か問題があるの?」
ミサキは服を脱ぐと振られてきたことを思い出す。いくら気軽に付き合っても終焉が見える付き合いをする自信がなかった。
胸が小さいからきっと嫌になると思う、とはっきり言おうと口を開いた。
「あの、白亜さんはピンクシャドウをどう思います?」
自分の胸の話をしようと思ったが思わず別の話をしてしまう。
「え? ピンクシャドウ?」
「ええ、この町に居たら見かけたことあると思うんですが」
「えー、ま、まあね」
白亜はコーヒーを啜り平静を装う。
「男性ってきっとピンクシャドウさんみたいに女性らしい人が好きだと思うんですよ」
「そうなのかなあ。ところでピンクシャドウの女性らしさって?」
「前にも話しましたけど、慈愛に満ちた優しさとあのふくよかな胸……。はあ、きっとピンクシャドウさんはモテモテだろうなあ」
「ミサキさんだって優しいじゃない、気配りもなかなかだったしさ。他の男もミサキさん狙ってたよ」
「いえー、それはないですよー。だって」
「だって?」
「え、あ、あの……」
ミサキは胸元に視線を落とす。今回はありのままの胸の大きさで挑んだのだ。
「ねえ、ミサキさん。男がみんな大きいバストが好きなわけじゃないよ?」
「それはそう思いたいですけど、実際は……」
「確かに俺も男だから好きだよ、バストが。女性らしさが一番現れているところだと思っている」
「やっぱり……」
「だけど大きさにこだわったことは一度もないよ」
「そうですか。でも小ささにも限度があると思うんですよね」
「ミサキさんは確かに今まで見た中で一番小さいかもね」
「が、がーん……」
分かり切っていることだが、はっきり言われてショックを受け青ざめるミサキを見て白亜はしまったと思った。
「ごめん、ついつい……」
「いいんです。これでも結構タフになりましたから」
気まずさに白亜は話を変える。
「ミサキさんはなんでそんなに結婚したいの? そんなに焦ることないんじゃないの?」
「うち転勤族で、この町にやっと落ち着いたんですけど、私には故郷がないんですよね。両親にはあるけど。だからかな。早く結婚して落ち着きたいんです。なかなかうまくいかないけど」
「そっか」
「白亜さんはいいですね。地元で、仲間もいて、そういうの羨ましくて」
海外暮らしが長く地元のことに意識はなかったが、ミサキに言われて改めて故郷とは良いものだと白亜も実感する。
「確かにこうやって地元にいると安心感があるよね」
「でしょ? たぶんピンクシャドウもこのあたりの人で地元を守っているんだなあって思います。私の勘ですけどピンクシャドウさんは他のシャドウファイブのメンバーの奥さんですよ。誰だろ、マッチョなグリーンシャドウかなあ」
「う、うえっ、緑丸と……」
白亜はミサキの勘は鈍いなと思っていた。
「ん? どうかしました?」
「あ、いや、こうなったら、らちが明かないな。やることやってみてから考えよっか、今後の事」
「え? やる事? なんですか?」
「フフッ。行こっ」
「ど、どこへ?」
会計をすまし、ミサキの手を引き白亜は歩き出す。
「俺の部屋」
ウィンクをしながら言う白亜にミサキの頭の中は真っ白になる。気が付くと『ヘアーサロン・パール』の裏口から白亜の部屋に通されていた。
こざっぱりとしたシンプルな部屋にはベッドしかない。生活感のなさにミサキは驚く。
「今流行りのミニマリストってやつですか?」
「なにそれ。そんなのはやってるの?」
「さあ、身近な人にはいなさそうなので、わかりませんけど」
「ちゃんと色々あるよ。そこのボタン押してみて」
「これ?」
白い壁に乳首のようについているピンク色のボタンを押すと、低い振動音が聞こえ壁が動き始める。
「え! 何これ! 忍者屋敷?」
壁がからくり扉のように裏と表が入れ替わり、そこには大型のパソコンが複数台とアンティークなタンスがあった。
「最新なのか、レトロなのかわかりませんね」
「いいものには新しいものも古いものもあるしね。でも寝てる時にそれが目に入るとごちゃごちゃして嫌だからひっくり返してるの」
「へえー、なんて凄いシステム。個人のお宅なのに。あ、あれ?」
ハンガーラックに一着洋服がかかっているのが見えたが、それは見覚えがあるものだ。
「フフッ、気づいた?」
さっと手を伸ばし、白亜はその洋服を身体にあてる。
「ぴ、ピンクシャドウ!」
ピンクシャドウの衣装だった。
「えっと、あの、どういうことですか?」
「フフフッ、バレちゃったらしょうがないね」
「白亜さんも熱烈なピンクシャドウのファンなんですね!」
「なんでだよっ!」
彼女の勘の悪さにずっこけながら白亜は自分で話すことになった。
「ピンクシャドウ(初期)は実は俺なんだ」
「えええええっー!!!」
ミサキの頭の中では、白亜とピンクシャドウがアルゼンチンタンゴを踊っている風景が浮かんでいた。
「何飲むかな。さすがに腹はいっぱい」
「ですね! ほんと、たこ焼、美味しかったな!」
無難にコーヒーを頼み、一口啜った後白亜から話す。
「さっきは俺の事選んでくれてありがとう。他に良さそうな男いなかった?」
「えーっと、こちらこそ、ありがとうございます。実は白亜さんの名前書いたのは、なんていうか、くじを引くみたいな感じだったんです。当たるとラッキーかなーって。すみません」
「え? くじ?」
実際、白亜の名前を書いたのはミサキだけで、ミサキの方が多く名前を書かれていたことを二人は知らない。
「白亜さんはどうして私の名前かいてくれたんですか?」
「うー、なんていうか、そのー」
ミサキに関心があったことは確かだが、出来心というか、責任感というか複雑な気持ちを白亜は上手く言えなかった。
「わかった! 気を使ってくれたんですよね。ありがとうございます」
「え、あ、いや、そんなつもりでもないんだけど」
「一瞬だけど白亜さんとカップルになれて嬉しかったです」
「ん? 一瞬? なんで?」
「え? なんでって?」
二人とも会話がかみ合わず困惑する。
「俺とはあの場限りってこと?」
「ええ!?」
「せっかくカップルになったんだしさあ。付き合ってみてもいいんじゃないかなあ」
「白亜さんと私が……?」
「うん。こっち帰ってきてから恋人もいないし」
「それなんですよね。なんで白亜さんに恋人がいなかったのかと」
「いやあ、俺も軽く考えてたんだよね。今までは恋人いなかったことなかったからさあ」
「は、はあ、やっぱり……」
「でも、これも何だっけえーっと、一期一会ってやつかな?」
「うーん。この場合『袖触れ合うも他生の縁』のほうがいいかなあ」
「ああ、それそれ。まあ気楽にいこうよ」
「でも……」
「何か問題があるの?」
ミサキは服を脱ぐと振られてきたことを思い出す。いくら気軽に付き合っても終焉が見える付き合いをする自信がなかった。
胸が小さいからきっと嫌になると思う、とはっきり言おうと口を開いた。
「あの、白亜さんはピンクシャドウをどう思います?」
自分の胸の話をしようと思ったが思わず別の話をしてしまう。
「え? ピンクシャドウ?」
「ええ、この町に居たら見かけたことあると思うんですが」
「えー、ま、まあね」
白亜はコーヒーを啜り平静を装う。
「男性ってきっとピンクシャドウさんみたいに女性らしい人が好きだと思うんですよ」
「そうなのかなあ。ところでピンクシャドウの女性らしさって?」
「前にも話しましたけど、慈愛に満ちた優しさとあのふくよかな胸……。はあ、きっとピンクシャドウさんはモテモテだろうなあ」
「ミサキさんだって優しいじゃない、気配りもなかなかだったしさ。他の男もミサキさん狙ってたよ」
「いえー、それはないですよー。だって」
「だって?」
「え、あ、あの……」
ミサキは胸元に視線を落とす。今回はありのままの胸の大きさで挑んだのだ。
「ねえ、ミサキさん。男がみんな大きいバストが好きなわけじゃないよ?」
「それはそう思いたいですけど、実際は……」
「確かに俺も男だから好きだよ、バストが。女性らしさが一番現れているところだと思っている」
「やっぱり……」
「だけど大きさにこだわったことは一度もないよ」
「そうですか。でも小ささにも限度があると思うんですよね」
「ミサキさんは確かに今まで見た中で一番小さいかもね」
「が、がーん……」
分かり切っていることだが、はっきり言われてショックを受け青ざめるミサキを見て白亜はしまったと思った。
「ごめん、ついつい……」
「いいんです。これでも結構タフになりましたから」
気まずさに白亜は話を変える。
「ミサキさんはなんでそんなに結婚したいの? そんなに焦ることないんじゃないの?」
「うち転勤族で、この町にやっと落ち着いたんですけど、私には故郷がないんですよね。両親にはあるけど。だからかな。早く結婚して落ち着きたいんです。なかなかうまくいかないけど」
「そっか」
「白亜さんはいいですね。地元で、仲間もいて、そういうの羨ましくて」
海外暮らしが長く地元のことに意識はなかったが、ミサキに言われて改めて故郷とは良いものだと白亜も実感する。
「確かにこうやって地元にいると安心感があるよね」
「でしょ? たぶんピンクシャドウもこのあたりの人で地元を守っているんだなあって思います。私の勘ですけどピンクシャドウさんは他のシャドウファイブのメンバーの奥さんですよ。誰だろ、マッチョなグリーンシャドウかなあ」
「う、うえっ、緑丸と……」
白亜はミサキの勘は鈍いなと思っていた。
「ん? どうかしました?」
「あ、いや、こうなったら、らちが明かないな。やることやってみてから考えよっか、今後の事」
「え? やる事? なんですか?」
「フフッ。行こっ」
「ど、どこへ?」
会計をすまし、ミサキの手を引き白亜は歩き出す。
「俺の部屋」
ウィンクをしながら言う白亜にミサキの頭の中は真っ白になる。気が付くと『ヘアーサロン・パール』の裏口から白亜の部屋に通されていた。
こざっぱりとしたシンプルな部屋にはベッドしかない。生活感のなさにミサキは驚く。
「今流行りのミニマリストってやつですか?」
「なにそれ。そんなのはやってるの?」
「さあ、身近な人にはいなさそうなので、わかりませんけど」
「ちゃんと色々あるよ。そこのボタン押してみて」
「これ?」
白い壁に乳首のようについているピンク色のボタンを押すと、低い振動音が聞こえ壁が動き始める。
「え! 何これ! 忍者屋敷?」
壁がからくり扉のように裏と表が入れ替わり、そこには大型のパソコンが複数台とアンティークなタンスがあった。
「最新なのか、レトロなのかわかりませんね」
「いいものには新しいものも古いものもあるしね。でも寝てる時にそれが目に入るとごちゃごちゃして嫌だからひっくり返してるの」
「へえー、なんて凄いシステム。個人のお宅なのに。あ、あれ?」
ハンガーラックに一着洋服がかかっているのが見えたが、それは見覚えがあるものだ。
「フフッ、気づいた?」
さっと手を伸ばし、白亜はその洋服を身体にあてる。
「ぴ、ピンクシャドウ!」
ピンクシャドウの衣装だった。
「えっと、あの、どういうことですか?」
「フフフッ、バレちゃったらしょうがないね」
「白亜さんも熱烈なピンクシャドウのファンなんですね!」
「なんでだよっ!」
彼女の勘の悪さにずっこけながら白亜は自分で話すことになった。
「ピンクシャドウ(初期)は実は俺なんだ」
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ミサキの頭の中では、白亜とピンクシャドウがアルゼンチンタンゴを踊っている風景が浮かんでいた。
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