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ホワイトシャドウ(旧ピンク)松本白亜(まつもと はくあ)編

4 白亜の計画

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 白亜は『黒曜書店』にやってきた。黒彦に前田ミサキのことを相談するためだ。白亜も含め、仲間たちはみんな黒彦を頼りにしていることが多い。博識で見識も深く探究者である黒彦は所謂、知恵袋だった。相談して直接解決方法が出なかったとしても、何かしら方法を示唆してくれるのだった。
 店内に入るとちょうど黒彦が店番をしているところだった。

「いらっしゃい。ん? 白亜か。どうした」
「あのさあ。トラウマの克服ってどうしたらいいと思う?」
「克服か……」

黒彦は白亜が前田ミサキの事を言っているとわかったが触れることはしない。もちろん白亜も黒彦の怪人によるものだとは言わない。

「そっち方面ならあいつのほうが詳しいな。今掃除してるから、ちょっと呼んでくる」
「そうなの? 悪いね」

待つ間しばらく店内を見ていると、コーナーの一角が『心を元気にしましょう!』と特集が組まれていた。メンタルトレーニングや心理学、料理など精神にいい影響を及ぼす本が積まれている。桃香による丁寧な字で、それぞれの本の内容とおすすめ度が書かれてある。

「いいよね、桃は。真面目で前向きで明るくて。根暗な黒彦にぴったりだよな」

彼女の性格が表れているような字を眺めていると、桃香が奥からやってきた。

「白亜さん、こんにちは。私でお役に立てればいいですけど」
「ん。トラウマ克服ってなんかいい方法ある? そんな簡単なことじゃないのはわかってるけどね」

桃香も白亜が前田ミサキのことを言っているのが分かっていた。ミサキは以前、ここで本を買っていった。
その本は『決定版! 一度病んじゃった精神科医が教える心が強くなる10の方法とあとはこれを食べるだけ! 最強の心で異世界へ』だった。桃香も勿論ミサキが買った本の事は、個人情報なので言わない。

「何冊か読んだのと、私の経験なんですけど――」
「教えて」
「同じ状況に、年月を置いて立ち向かえて克服できるのが一番かなっては思うんですけど、ちょっと辛いですよね。でも仲間がいると立ち向かえると思うんです」
「確かに、一人だと不安でも仲間がいると違うよね」

白亜も桃香もシャドウファイブのメンバーとして、共に敵に立ち向かったことを熱く思い出している。しかし敵のボスが黒彦だと思うと少し冷めた。

「後は自分もやっぱり強くなるための努力が必要ですよね。たとえ気持ちで負けてても、身体を鍛えたりすると少し自信が出てくるというか」
「うん。桃は緑丸のじいちゃんとこで太極拳始めて強くなっていったよね」
「ええ。仲間がいて、鍛えると強くなれると思いました。誰かと比べるってことじゃないけど」

おっとりしている桃香だが根が真面目なのだろう。いいと思うことはやってきたようだ。最初はお飾りだったピンクシャドウだったが、後半は彼女以外にピンクシャドウは考えられないとシャドウファイブのメンバーは考えていた。

「同じ状況と仲間……」

白亜はミサキを怪人に襲わせ誰かが助けても、トラウマは解消しないのだと考えた。実際にスピーカー怪人に襲われたミサキのカウンセリングを、白亜は行ったが傷は残っていた。
ムッキムキ怪人に襲われた青年はあの後大丈夫だったのだろうか。緑丸に熱い視線を送りながら立ち去ったが。
とにかく本人が立ち向かい、乗り越えるしかないのだ。

「私も白亜さんたちのおかげで色々乗り越えられましたから」
「ふふっ。そう言われると光栄だけど桃は頑張り屋さんだからね」
「そうですか?」

甘い雰囲気の二人の後ろで「えへん! えへん!」と黒彦が咳払いしている。白亜は笑いながら「ありがと。じゃ帰るよ」と書店を後にする。後姿を見送りながら桃香は呟く。

「上手くいくといいですね」
「大丈夫だろう。白亜はチャラチャラしているように見えて最後までやり抜くやつだからな」
「へー。やっぱり素敵ですね!」
「ちっ……」

自分が褒めても桃香が褒めると気に入らない黒彦だった。そんな黒彦の腕をそっととり桃香は身体を寄せる。黙って寄り添っていると黒彦の機嫌が直っていくようだ。独占欲の強さは早くに両親を亡くしたせいかもしれない。

「ずっと一緒にいましょうね」
「ん、うん」

店の扉が開き、客がくる気配を感じて二人は身体を離す。

「いらっしゃいませ」

見えないレジの下で二人はしばらく手をつないでいた。



 アイボリーとピンクで構成されたロマンチックな部屋で、前田ミサキはワードローブを眺めてため息をつく。

「この髪型とワンピースってほんとに合わないな」

以前のストレートロングだった時はばっちりはまっていたスタイルは、ベリーショートだとちぐはぐだ。まるで中学生の男の子にいきなり女装させたみたいだ。
短いサラサラした髪を撫でる。また伸ばすことを考えるが、スピーカー怪人に引っ張られた怖さを思い出してしまう。

「やっぱり伸ばせないな」

ふうっとため息をつく。髪を切ってから婚活も失敗ばかりだ。髪が長い時は街コンなどでは必ずカップルになってきた。

「だけど……」

いつも付き合って三ヵ月で振られる。清楚で優し気で何より艶やかな黒いストレートロングの髪が男性たちの人気をかっさらうが、身体の関係に到ったってからいつも振られるのだった。

「髪の毛って最初の印象だけなんだよね」

ミサキはベッドで寝ころんでほとんど平らな胸を撫でる。

「ピンクシャドウさん……」

怪人に襲われ、ピンクシャドウに助けてもらい震えるミサキは、彼女(本当は白亜)の豊満な(作り物)の胸に抱かれ髪を撫でられた。あの時の安堵と言ったらなかった。

「あーあ。Bとまで言わないからせめてAカップにならないかなあ」

ミサキはAAカップだった。豆乳や牛乳を飲みマッサージも頑張ったが大きくならなかった。長い髪と柔らかいワンピースはちょうど胸を隠し、なんとなくBカップくらいには見えているようだった。流石に一度の関係で振られることはなかったが、だんだんと男性からフェイドアウトされていった。

怪人に髪を引っ張られた恐怖で髪は切ったが、それに合わせてボーイッシュな服装に変えることは出来なかった。性格が活発ではなく大人しいからだ。つまり外見と中身がきちんと揃っていたにもかかわらず、男性の胸に対する思い込みにより振られてきてしまった。

「ピンクシャドウさんみたいな強くてセクシーで女らしい人になれたらなあ」

叶わない夢と知りながらミサキはピンクシャドウ(白亜)にあこがれを寄せている。


 次のミサキのカットの日に、白亜は彼女に『もみの木接骨院』で緑丸の祖父、高橋朱雀が行っている太極拳教室を勧めてみた。教室には桃香と茉莉が通っており、緑丸の恋人である高村里沙も指導者として加わっている。
少し他人本位な気がしないでもないが、ミサキのトラウマを克服する強さと仲間づくりに役に立つはずだと白亜は考えた。もちろん、嫌だと言えばそれ以上勧められることはないが。

「太極拳ですかあ。健康になれそうですね」
「もちろん健康にもいいんだけど、武闘派だからねー。強くなれるよ。師範が強い女性でさー」
「へー。強い女性なんですかあ。ピンクシャドウくらい強いんでしょうかね」
「ああ、ピンクシャドウも太極拳の達人だよー」
「え? そうなんですか?」
「うん」
「ちょっと、いってみようかな」
「いいと思うよー。俺の紹介って言えば大丈夫」

太極拳教室に向かわせることは成功のようだ。前向きな桃香たちと触れ合うことでミサキもきっと自信をもっていくだろう。
カットと一応のセットが終わるとミサキは明るい表情を見せ、次回の予約を取って出て行った。


 次回のカットの時にミサキの様子を見ながら出来そうであれば、怪人の登場となる。

「怪人とピンクシャドウと仲間か……。さて、こっちはどうすっかなあー」

この件に関しては桃香と黒彦に協力を求めるのはやめておこうと思っている。

「えーっと暇そうなのはっと」

優しい黄雅がきっと協力してくれるだろう。仲間役に茉莉か理沙どちらに頼もうかとしばらく悩み、理沙に決める。どちらもミサキとタイプが違うがボーイッシュな茉莉より、色気がやけに高くなった理沙の方がミサキに受けが良さそうだ。
理沙も『ヘアーサロン・パール』の客になってくれているので、今度来た時に相談することにする。白亜が理沙に会いに行き相談すれば、野次馬の朱雀がやってきて仲間全体に知れ渡ってしまう恐れがある。そうなると黒彦の耳にも入るかもしれない。理沙は口止めしておけば他言はしないだろう。

 綿密な計画を練る。早朝の太極拳教室が終わったころ、少し散歩をしようと理沙にミサキを公園へ連れて行ってもらう。そこへ黄雅の怪人が登場する。多少、理沙に怪人と戦ってもらい、白亜がピンクシャドウとして登場し、本格的に怪人と戦う。理沙にはミサキを安全な位置に連れて行ってもらい、ピンクシャドウが怪人を倒すまで待機する。

「うーん。ちょっと詰めが甘いかなあ」

いい筋書きだが、ミサキがただ守ってもらうだけではトラウマの解消にならないだろう。

「ちょっと荒療治だが……」

やはりミサキにも怪人に立ち向かわせるべきだろうと計画をさらに練り上げることにした。

「よし! 完璧!」

出来上がった計画を早速、黄雅に頼むべく『レモントイズ』に向かった。



 綺麗なオルゴールの音が優しく流れる『レモントイズ』にまるで童話の王子様のように黄雅は、子連れの母親に微笑んでいる。

「こちらは天然木でとても当たりが優しいんですよ」
「は、え、ええ。とっても素敵ですねっ。これにします!」

若い母親は頬を染めおもちゃを受け取っている。

「ありがとうございました」
「ま、また~」

店を出た母親に3歳くらいの子供が「ままー、おもちゃー」と手を引っ張った。

「あ、はっ! えっと、何買ったっけ……」
「木のブーブ」
「そう、そうそうだったわね。はい、どうぞ。大事にしようねー」
「はーい」

夢から覚めたように母親は現実に戻り、子供と手をつなぎ仲良く歩いて帰った。微笑ましく眺めながら白亜は『レモントイズ』にはいる。

「おっす。黄雅。ここは相変わらず社交界のようなおもちゃ屋だなあー」
「ん? はははっ、いらっしゃい。どうしたの?」
「ちょっと頼みたいことがあるんだよ」

白亜はこれまでの事を説明し協力を求める。

「うん。いいよ。確かに黒彦には頼まないほうがいいな」
「だろ? で、さあ。怪人のこと考えてないんだけどなんかいいアイデアない?」
「そうだねえ。もったいない怪人なんてどうだろうか?」
「もったいない怪人? お化けじゃなくて?」
「うん、大事にされないおもちゃたちの怨念が怪人になったっていう感じ? 脇に壊れかけのラジオを抱えさせてさ」
「まあ、あんまり狂暴そうじゃなくていいかもね。弱点はなに?」

「やっぱり気持ちじゃない? 大事にするっていう」
「なんか最後、戦わないで『うたう』とかが攻撃になった昔のゲームみたいだなあ」
「ダメ?」
「いや、いいよ。それでいこう。俺と理沙ちゃんがガチ戦闘だしさー」
「理沙さんに手加減してねって言っといてよ」
「ああ、そうだな。本気でこられるとマジやばそうだしな」
「はははっ」

笑顔で話している白亜と黄雅を見ると、誰でも舞踏会に来たような気分になるだろう。しかしここは残念ながら商店街だ。

「じゃ、たぶん来月予定してるからよろしくー」
「オッケー。久しぶりに腕を振るっておくよ」

星が振りまくような笑顔で黄雅は手を振った。

「黄雅ってほんといい奴だよな。でも大人女子にしたら遠い存在すぎるのかもなあー」

王子様のような彼に早くプリンセスが現れるといいなと、自分の事よりも黄雅の幸せを白亜は願っている。

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