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レッドシャドウ 田中赤斗(たなか せきと)編
3 戦隊ごっこ
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イエローシャドウの井上黄雅が経営するおもちゃ屋『レモントイズ』の地下室に向かう。階段を下りてしまうと、もう他のメンバーたちはみんな揃っていた。
「赤斗遅いぞ」
「ごめんごめん。すぐ支度する」
とは言っても服の下にバトルスーツを着込んでいるので服を脱ぐだけだった。
「じゃ、今日の場所をどこにするかだな」
戦隊ごっこの場所決めは壁に貼った町の地図にダーツを投げつけるのだ。勿論、人が多いところは塗りつぶしている。
「ちょっと待ってくれないか。先に聞いてほしい」
赤斗はみんなに待ったをかける。
「なんだ?」
「どうかしたのか」
「俺もブラックシャドウになってみたいんだが、駄目かな?」
「ん? 敵になりたいの?」
「うん。黒彦、交代してくれないかな」
「まさか、ピンクをさらって、いたずらするつもりじゃないだろうな」
「えっ。レッドシャドウはそんなことしません!」
「なんだ。レッドをかばうのか」
「そうじゃないです! シャドウファイブは紳士なんです!」
「くっ!」
喧嘩を始めそうな黒彦と桃香を黄雅が「まあまあ二人とも」となだめる。
「ごめんごめん。ちょっと敵役をやってみたかっただけなんだ。一応ピンクをさらって戦闘終了したら、すぐ帰すよ」
「なんだ。それならそうと早く言えばいいのに」
「そうなんですかあ」
「ん? ピンク、その残念そうな声はなんだ」
「まあまあ!」
桃香のことになると黒彦は興奮しやすく、いつも黄雅が調停役を務めていた。
「それなら今度俺もブラックやりたい」
「俺も俺も!」
他のメンバーたちも騒ぎ出す。
「なんだ。お前たちそんなにブラックがやりたかったのか」
黒彦は満足げにふふんと笑って「いいだろう。ブラックとシャドウファイブをローテーションでやってみよう」と言い、更に「ピンク。お前もブラックをやるんだぞ」と桃香に告げる。
「ええ? 私も、ですか?」
「ああ、公平だろう」
「私、ちょっと自信がないかなあ」
ホワイトシャドウの松本白亜が「いいじゃん、それ」と言い始める。
「悪の女王っぽい衣装を作ってやるか」
ブルーシャドウの山本青音が桃香を下から上まで一瞥する。
「悪の女王か……」
グリーンシャドウの高橋緑丸がそこに反応する。
赤斗は話が変な方向になっているのでえへんと咳払いし「ローテーションはいいと思う。で、俺が今日ブラックやっていい?」と黒彦に尋ねる。
「ん。まあいいだろう」
「じゃあ、スーツ交換して」
「ああ。今脱ぐ」
平気でスーツを脱ぎだす二人に慌てて桃香は後ろを向く。彼らはスーツの下に下着をつけないからだ。
(なんでパンツくらい穿かないのかしら?)
着替え終わると、場所を選ぶことにする。ダーツが刺さった場所は広い河原だった。
「じゃ、そこへ向かおう」
「オッケー」
「揃ったら即戦闘ね」
「了解」
それぞれバイクで河原に出発する。桃香は黒彦の運転するサイドカーに乗り込んだ。
「いきなりブラックがやりたいなんてどうしたんでしょうね」
桃香は黒彦に尋ねてみる。
「寂しくなったんだろ」
「寂しい? 寂しいとシャドウファイブの方じゃないですか?」
「いや、赤斗は昔から人に囲まれ過ぎて、孤独に陥るタイプだからな。少し離れたいんだろ」
「そうなんですかあ。元気出してほしいですね」
「まったく。かまってちゃんなんだからな」
「え……」
(黒彦さんがそれ言う?)と言う言葉を飲みこんで桃香は涼しい風を感じた。
現場に到着するとシャドウファイブは揃っていた。ブラックシャドウ(今回は赤斗)は恐らく数分遅れて到着するだろう。
「今回はアイテム、なに使う気だったんっだ?」
「ああ、これだ」
レッドシャドウになっている黒彦は小さなボタンのついた卵くらいのカプセルを見せた。
「へえー」
白亜が手に取り眺めている。
「ボタンを押すと霧が出て、思ったことと口に出すことが――」
「ふんふん。ボタンを押すと」
プシュッっと音がし紫のガスが噴霧される。
「って! おい! 押したのか!」
「ボタンって押しちゃうじゃん!」
「ま、まずい! 吸うな!」
もう時すでに遅し、みんな霧を吸い込んでしまった後だった。その時だった。ブラックシャドウの爽やかな笑い声が聞こえた。
「はーっははっ! 諸君待たせたな。では行くぞ! トウッ!」
小高い所から回転しながらブラックシャドウはシャドウファイブの前に立ちはだかった。
一番近いブルーシャドウが光の刀を抜きブラックシャドウの前に構える。
「はーっはは。ブルーからか」
「いや違う」
「違うのか」
「ああ、違う」
「?」
「くっ!」
なぜかブルーシャドウは落ち着きを無くし、後ろに下がる。
その後ろでホワイトとレッドが何やら揉めているようで、間にイエローが入っている。
なぜか無言でグリーンとピンクが構えをとっている。
「二人組か、いいだろう」
ブラックシャドウが両手を開き翼の形をとると、ピンクとグリーンは頷き合って、左右から連続の突きを入れる。
それをブラックシャドウは器用に受けている。しかし太極拳の一番の熟練者であるグリーンを片手で相手をするのは困難だ。
そこでブラックシャドウはギリギリの攻防を紙一重でかわしつつ、すきを見て抜け出し、ピンクとグリーンを同士討ちさせることに成功した。
もちろん寸止めでお互いにダメージはないが、河原の石でピンクは転んだ。ブルーに転ぶ寸前に支えられたピンクはなぜかブルーに「やめてください!」と怒っている。
なんだかおかしいと思いつつも、ブラックシャドウは一網打尽にすべく、ねばねばする蜘蛛の巣をピンクシャドウ以外のシャドウファイブに投網を投げるようにかける。
うまくシャドウファイブはからめとられ手も足も出ない。そしてピンクシャドウを連れ去って終わりにしようと思い彼女の手を持った。
「さて、ピンクは頂いた! さらば!」
「いってらっしゃい!」
「またね!」
「?」
なぜかピンクを連れて行ってくれと、みんな叫んでいる。
ピンクも抵抗している振りはするが「早く行きましょう」と言っている。
「な、なんかおかしいなあ」
とりあえずブラックシャドウはピンクを抱き上げさっと林の中に連れ去った。
木陰の中でブラックシャドウはピンクシャドウをおろし一息ついた。
「ふう。なんか今日変だな。メンバーチェンジでなんか難しかったのかな」
「いいえ、とってもやりやすかったですよ」
「そう? まあいいか。じゃ、みんなのところへ帰ろう」
「いやです。帰りたくありません」
「え?」
「このまま、ここに居たい」
「あ、その、それって?」
まさかピンクシャドウはこのままブラックシャドウに不埒な真似をされるのを望んでいるだろうか。
「ピ、ピンク」
「はやくきて」
ピンクはそう言いながら両手をバサバサ交差させている。
「君、ほんとに……」
「もう待てない」
彼女に覆いかぶさそうとした瞬間「おーい!」とシャドウファイブたちの声が聞こえた。
「ん?」
「あ、みんな!」
息を切らしながらシャドウファイブは「はあー、やっと効果が切れたー」とマスクを脱いだ。
「一体何なんだ? 今日は変だぞ」
「実はさっき開発アイテムをシャドウファイブ側で使ってしまったんだ」
黒彦が開発した今回のアイテムは言葉があべこべになるもので「はい」が「いいえ」、「好き」が「嫌い」などに変わってしまうのだ。
「なんてもの開発するんだよ」
「いやあ。味方同士で使う気はもちろんなかったが白亜のやつが」
「ボタンあったら押しちゃうってば」
「全く恐ろしいアイテムだ。自分の言いたいことが反対になるとこんなに躊躇ってしまうものなんだな」
理知的で衝動的に話すことのない青音は自分の思考の反対の発言に衝撃を受けたようだ。
「ああ、でもさっきの蜘蛛の巣、改良版? 自動で溶けるんだな」
「うん。前の黒彦のは張り付いて大変だったからな」
「いいね。後片付け楽なアイテムって」
皆でアイテムについて散々話し合った後、戦隊は解散することにした。あまり戦えなかったので地下室で色々遊んでからそれぞれ帰宅した。
赤斗はベッドに寝っ転がり、桃香の「はやくきて」と言う言葉を思い出していた。
「逆だったのか。だよね」
あのまま誰も来ず、桃香がいいと言っても、きっと赤斗は何もしなかっただろう。少し残念ではあるが。
しかし、やったことのない『奪う』という行為を、バーチャルでも経験できて満たされる思いもある。
「でも俺には略奪は合ってないな」
同じ女性を愛しても、きっと赤斗は身を引くのだろう。彼は正義を愛するレッドだからだ。
ただ、林の中で愛する女性と結ばれるシチュエーションはなかなか良かったと興奮していた。
「赤斗遅いぞ」
「ごめんごめん。すぐ支度する」
とは言っても服の下にバトルスーツを着込んでいるので服を脱ぐだけだった。
「じゃ、今日の場所をどこにするかだな」
戦隊ごっこの場所決めは壁に貼った町の地図にダーツを投げつけるのだ。勿論、人が多いところは塗りつぶしている。
「ちょっと待ってくれないか。先に聞いてほしい」
赤斗はみんなに待ったをかける。
「なんだ?」
「どうかしたのか」
「俺もブラックシャドウになってみたいんだが、駄目かな?」
「ん? 敵になりたいの?」
「うん。黒彦、交代してくれないかな」
「まさか、ピンクをさらって、いたずらするつもりじゃないだろうな」
「えっ。レッドシャドウはそんなことしません!」
「なんだ。レッドをかばうのか」
「そうじゃないです! シャドウファイブは紳士なんです!」
「くっ!」
喧嘩を始めそうな黒彦と桃香を黄雅が「まあまあ二人とも」となだめる。
「ごめんごめん。ちょっと敵役をやってみたかっただけなんだ。一応ピンクをさらって戦闘終了したら、すぐ帰すよ」
「なんだ。それならそうと早く言えばいいのに」
「そうなんですかあ」
「ん? ピンク、その残念そうな声はなんだ」
「まあまあ!」
桃香のことになると黒彦は興奮しやすく、いつも黄雅が調停役を務めていた。
「それなら今度俺もブラックやりたい」
「俺も俺も!」
他のメンバーたちも騒ぎ出す。
「なんだ。お前たちそんなにブラックがやりたかったのか」
黒彦は満足げにふふんと笑って「いいだろう。ブラックとシャドウファイブをローテーションでやってみよう」と言い、更に「ピンク。お前もブラックをやるんだぞ」と桃香に告げる。
「ええ? 私も、ですか?」
「ああ、公平だろう」
「私、ちょっと自信がないかなあ」
ホワイトシャドウの松本白亜が「いいじゃん、それ」と言い始める。
「悪の女王っぽい衣装を作ってやるか」
ブルーシャドウの山本青音が桃香を下から上まで一瞥する。
「悪の女王か……」
グリーンシャドウの高橋緑丸がそこに反応する。
赤斗は話が変な方向になっているのでえへんと咳払いし「ローテーションはいいと思う。で、俺が今日ブラックやっていい?」と黒彦に尋ねる。
「ん。まあいいだろう」
「じゃあ、スーツ交換して」
「ああ。今脱ぐ」
平気でスーツを脱ぎだす二人に慌てて桃香は後ろを向く。彼らはスーツの下に下着をつけないからだ。
(なんでパンツくらい穿かないのかしら?)
着替え終わると、場所を選ぶことにする。ダーツが刺さった場所は広い河原だった。
「じゃ、そこへ向かおう」
「オッケー」
「揃ったら即戦闘ね」
「了解」
それぞれバイクで河原に出発する。桃香は黒彦の運転するサイドカーに乗り込んだ。
「いきなりブラックがやりたいなんてどうしたんでしょうね」
桃香は黒彦に尋ねてみる。
「寂しくなったんだろ」
「寂しい? 寂しいとシャドウファイブの方じゃないですか?」
「いや、赤斗は昔から人に囲まれ過ぎて、孤独に陥るタイプだからな。少し離れたいんだろ」
「そうなんですかあ。元気出してほしいですね」
「まったく。かまってちゃんなんだからな」
「え……」
(黒彦さんがそれ言う?)と言う言葉を飲みこんで桃香は涼しい風を感じた。
現場に到着するとシャドウファイブは揃っていた。ブラックシャドウ(今回は赤斗)は恐らく数分遅れて到着するだろう。
「今回はアイテム、なに使う気だったんっだ?」
「ああ、これだ」
レッドシャドウになっている黒彦は小さなボタンのついた卵くらいのカプセルを見せた。
「へえー」
白亜が手に取り眺めている。
「ボタンを押すと霧が出て、思ったことと口に出すことが――」
「ふんふん。ボタンを押すと」
プシュッっと音がし紫のガスが噴霧される。
「って! おい! 押したのか!」
「ボタンって押しちゃうじゃん!」
「ま、まずい! 吸うな!」
もう時すでに遅し、みんな霧を吸い込んでしまった後だった。その時だった。ブラックシャドウの爽やかな笑い声が聞こえた。
「はーっははっ! 諸君待たせたな。では行くぞ! トウッ!」
小高い所から回転しながらブラックシャドウはシャドウファイブの前に立ちはだかった。
一番近いブルーシャドウが光の刀を抜きブラックシャドウの前に構える。
「はーっはは。ブルーからか」
「いや違う」
「違うのか」
「ああ、違う」
「?」
「くっ!」
なぜかブルーシャドウは落ち着きを無くし、後ろに下がる。
その後ろでホワイトとレッドが何やら揉めているようで、間にイエローが入っている。
なぜか無言でグリーンとピンクが構えをとっている。
「二人組か、いいだろう」
ブラックシャドウが両手を開き翼の形をとると、ピンクとグリーンは頷き合って、左右から連続の突きを入れる。
それをブラックシャドウは器用に受けている。しかし太極拳の一番の熟練者であるグリーンを片手で相手をするのは困難だ。
そこでブラックシャドウはギリギリの攻防を紙一重でかわしつつ、すきを見て抜け出し、ピンクとグリーンを同士討ちさせることに成功した。
もちろん寸止めでお互いにダメージはないが、河原の石でピンクは転んだ。ブルーに転ぶ寸前に支えられたピンクはなぜかブルーに「やめてください!」と怒っている。
なんだかおかしいと思いつつも、ブラックシャドウは一網打尽にすべく、ねばねばする蜘蛛の巣をピンクシャドウ以外のシャドウファイブに投網を投げるようにかける。
うまくシャドウファイブはからめとられ手も足も出ない。そしてピンクシャドウを連れ去って終わりにしようと思い彼女の手を持った。
「さて、ピンクは頂いた! さらば!」
「いってらっしゃい!」
「またね!」
「?」
なぜかピンクを連れて行ってくれと、みんな叫んでいる。
ピンクも抵抗している振りはするが「早く行きましょう」と言っている。
「な、なんかおかしいなあ」
とりあえずブラックシャドウはピンクを抱き上げさっと林の中に連れ去った。
木陰の中でブラックシャドウはピンクシャドウをおろし一息ついた。
「ふう。なんか今日変だな。メンバーチェンジでなんか難しかったのかな」
「いいえ、とってもやりやすかったですよ」
「そう? まあいいか。じゃ、みんなのところへ帰ろう」
「いやです。帰りたくありません」
「え?」
「このまま、ここに居たい」
「あ、その、それって?」
まさかピンクシャドウはこのままブラックシャドウに不埒な真似をされるのを望んでいるだろうか。
「ピ、ピンク」
「はやくきて」
ピンクはそう言いながら両手をバサバサ交差させている。
「君、ほんとに……」
「もう待てない」
彼女に覆いかぶさそうとした瞬間「おーい!」とシャドウファイブたちの声が聞こえた。
「ん?」
「あ、みんな!」
息を切らしながらシャドウファイブは「はあー、やっと効果が切れたー」とマスクを脱いだ。
「一体何なんだ? 今日は変だぞ」
「実はさっき開発アイテムをシャドウファイブ側で使ってしまったんだ」
黒彦が開発した今回のアイテムは言葉があべこべになるもので「はい」が「いいえ」、「好き」が「嫌い」などに変わってしまうのだ。
「なんてもの開発するんだよ」
「いやあ。味方同士で使う気はもちろんなかったが白亜のやつが」
「ボタンあったら押しちゃうってば」
「全く恐ろしいアイテムだ。自分の言いたいことが反対になるとこんなに躊躇ってしまうものなんだな」
理知的で衝動的に話すことのない青音は自分の思考の反対の発言に衝撃を受けたようだ。
「ああ、でもさっきの蜘蛛の巣、改良版? 自動で溶けるんだな」
「うん。前の黒彦のは張り付いて大変だったからな」
「いいね。後片付け楽なアイテムって」
皆でアイテムについて散々話し合った後、戦隊は解散することにした。あまり戦えなかったので地下室で色々遊んでからそれぞれ帰宅した。
赤斗はベッドに寝っ転がり、桃香の「はやくきて」と言う言葉を思い出していた。
「逆だったのか。だよね」
あのまま誰も来ず、桃香がいいと言っても、きっと赤斗は何もしなかっただろう。少し残念ではあるが。
しかし、やったことのない『奪う』という行為を、バーチャルでも経験できて満たされる思いもある。
「でも俺には略奪は合ってないな」
同じ女性を愛しても、きっと赤斗は身を引くのだろう。彼は正義を愛するレッドだからだ。
ただ、林の中で愛する女性と結ばれるシチュエーションはなかなか良かったと興奮していた。
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