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124 大軍師

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 諸外国との国交も順調で、華夏国も持ち直し安定している。国が安定していると学問に精が出るのか、軍師省では過去最高の人数が所属することとなった。それでも教官の孫公弘は「みなどうも小粒でなあ」と不満を口に出している。
 そこへ片腕を亡くし体力的な衰えを感じている郭蒼樹が教官になりたいと申し出る。孫公弘は大歓迎だ。

「まさか郭家の者が教官職につくとはなあ!」
「よくよく考えてみれば、自分が軍師になるよりも、軍師を多く育て上げることのほうが重要かと思いましてね」
「そうだ! そうだ! さすがよくわかっているじゃないか」
「軍師には星羅がいるし十分でしょう」
「うむ。次期大軍師は星羅だろう」

 誰もの予想通り、大軍師、郭嘉益が引退し、次期大軍師に星羅を指名する。当然の結果とは言え、まだまだ現役だろうと思っていた郭嘉益の引退に星羅は物申す。

「星羅、馬に乗れ。少し遠乗りしようぞ」
「え? 遠乗りですか? わかりました」

 都を離れ星羅は、郭家の汗血馬に乗り郭嘉益の後を追う。馬の優々はもういない。今はロバの明々の隣で安らかに眠っている。汗血馬は頑丈で駆ける速度が速い。ぼんやりしていると、試すかのように乗っているものを振り落そうとするので星羅は気が抜けない。前を走る郭嘉益は余裕で馬を走らせている。その雄々しく若々しい姿を見るだけで、まだまだ引退には時期尚早にみえる。

 乾いた土地を超え、まばらに樹木が生えている手つかずのような丘で郭嘉益はとまる。馬を降り、適当な木の枝に馬を繋いだので星羅もまねた。

「ここはどこですか?」

 気持ちの良い木陰がある場所だが何の変哲もない丘に見える。

「その茂みを超えてみるといい」
「はあ」

 ガザガザと身長くらいの草木を超えると都が一望できた。

「へえ。ここはいい見晴らしの場所ですね」
「うむ。銅雀台がよく見えるであろう」

 天高くそびえるような銅雀台を正面から見ることが出来る景観に星羅は感心する。

「では、こっちだ」

 また茂みに入りしばらく行くと草が刈られ土が大きく盛り上がった場所に出る。星羅があたりを見渡していると郭嘉益は地面に座りその盛り上がった部分に向かってひれ伏し、三回額づいた。

「こ、ここは!?」

 立ち上がった郭嘉益は「ここが高祖の墓なのだ」と静かに敬意をこめて発言した。

「こ、高祖のっ」

 星羅も慌てて額づき拝礼した。その姿に郭嘉益はうんうんと満足そうに頷いた。

「よい。立ちなさい」

 言われるまま立ち上がるが星羅はここに高祖が眠っているのだと思うと、高揚感と畏怖感が沸き上がる。

「高祖の墓は一般には幻の墓と言われておる。高祖は死後、自分の墓を暴かれぬように72基用意したからな」

 目を輝かせて星羅は話の続きを待つ。

「大軍師に就いたものだけが高祖の墓を知ることになる」
「大軍師だけ」
「そうだ。まさか息子ではなく、息子の嫁に教えることになるとは思わなかったがな。わはははっ」

 愉快そうに笑う郭嘉益に「やはり蒼樹には知らせてはいけないのですか」と問う。

「うむ。たとえ肉親でもだめじゃ。まあ、あやつは高祖の墓になど興味ないだろな」
「そうかも……」
「なるべくしてそなたが大軍師となったのだろう」
「義父上。お早くないですか? まだまだ現役でいられるでしょうに」
「いや、引き際が肝心だ。そなたは十分に資格がある。才は早く使わねばな。馬秀永大軍師には悪いことをした。わしが不甲斐ないばかりに長く就任させてしまったことよ」
「そんな……」
「矯めるなら若木のうちに。好機を逃してはならん」
「わかりました。精一杯務めさせていただきます」
「うんうん。しかし運命というのは不思議なものだ。高祖の血がそうさせたのだろうか」
「えっ」

 驚く星羅に、郭嘉益は優しい目を向ける。

「太極府と軍師省の上層部だけはそなたの出自を知っておる」
「そうなのですか!」

 太極府の陳賢路もなんとなく含みのある物言いをしていたが、星羅が王の曹隆明の娘だとやはり知っていたのだ。

「そなたの母は賢明であったな。もしも身籠った時に騒いでおれば……」

 星羅にも想像がつく。曹隆明の子を孕んだと、胡晶鈴が訴えればおそらく良くて冷宮送り、そして生かされていれば星羅も王の妃の誰かの公主として、後宮から出されず育ったことだろう。

「まさに運命的だと言わずにおれぬ。高祖の血を引くそなたが、王の娘が大軍師となり、そしてその息子が王になるのだからな」    

 郭嘉益はまた高祖の墓に額づき拝礼をした。星羅も隣に座り一緒になって心からの拝礼をささげる。高祖がいつまでも安らかな眠りについていられますようにと。
 
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