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120 家族の再会

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 ホールの床は黒い大理石が敷き詰められており、壁も白い大理石で色々な動植物が彫り刻まれている。いち早く支度が出来た蒼樹は、石造りの建築を見学し、華夏国にも何か生かせないかとよく観察する。奥の入り口から、すっと星羅が入ってきた。

「あっ」

 蒼樹は星羅の可憐な姿に息をのむ。真っ白な光沢のある衣装は、タイトで彼女の身体のラインをはっきり見せる。いつもまとめ上げている髪は降ろされ、加工されたらしく、波打つ髪型にされている。そしてたくさんの白い生花が飾られている。
 星羅は恥ずかしそうに近づいてきた。

「変じゃないかしら?」

 見入っていた蒼樹は咳払いして「なかなかいい」と答える。

「蒼樹もよく似合うのね」

 襟が詰まったカチッとした光沢のあるブルーグレーの衣装は、蒼樹をより硬質でクールな印象を高める。蒼樹の髪も降ろされ、帯状の布が帽子のように巻き付けられている。
 初めて出会うような新鮮な気持ちが湧き、不思議なときめきを感じたが、感想を言い合う前に彰浩と京湖が到着する。

「星羅!」
「かあさま!」 

 豊かな波打つ髪を乱れるのも気にせず、二人は駆け寄って抱き合った。

「かあさま、かあさま」
「まあまあ! いつまでも甘えん坊なのね!」

 星羅の身体を抱きしめ、髪をなでながら京湖も瞳を潤ませていた。しばらく再会を喜び合い、星羅は彰浩にも抱擁する。

「とうさま、元気そう」

 優しく誠実な笑顔はずっと変わらない彰浩に、星羅はほっと癒される思いがする。

「話したいことがいっぱいあるわ」
「ええ、たくさん聞きたいわ」

 仲睦まじい星羅と京湖の母娘の姿を優しく見守りながら、蒼樹と彰浩は腰掛ける。

「実は――」

 蒼樹が話を切り出すと、彰浩はうんと頷く。彰浩も京湖も、星羅の前夫、陸明樹が亡くなったことを知らなかった。蒼樹の話に、彰浩は悲しげな瞳を見せたが、ちらりと星羅の様子を見てまた笑んだ。

「君がいてくれてよかった。おかげで星羅は辛いことを乗り越えられたようだ」
「いえ、彼女自身が乗り越えたのでしょう」

 直接、励ますことも意見することもしなかったので、蒼樹は謙遜でもなく率直な感想を述べる。彰浩は首を横に振る。

「星羅自身が乗り越えられたと思うのなら、それは君がそばで長い間見守ってくれていたからだよ」
「どうでしょう」
「ありがとう。これからも頼む」

 話し込む前に、今度は京樹もやってきた。控えめな色合いの衣装でやってきた京樹だが頭角を現した彼は、大輪の花のようだ。西国の花と呼ばれた母の京湖の美貌と麗しさを受け継いでいたが、華夏国では開花しなかったようで木陰のような存在だった。今では、堂々として力強い華やかさを持つ。華夏国では星を読む存在だったが、西国の民にとっては彼が日の光そのものなのだ。

「星妹!」
「京樹にいさま」
「今日はゆっくり話せるね」
「ええ」

 華夏国の外交官として星羅と蒼樹はもてなされていたが、お互い遠くの席に離れていて公的な挨拶をするくらいだった。近しい距離で席に着き、まずはお互いの近況を報告する。京樹の夫人の話を聞き、仲の良さに皆安堵する。胡晶鈴に会ったことも話す。
 話していると徐々にリラックスする。辛いこともいっぱいあったが、傷はもう癒えていて、華夏国の家族で暮らしていたころに戻ったような気がした。
 マイペースで他人には関心のなさそうな蒼樹も、ちゃんと朱家に婿として交じり如才なく溶け込んでいる。
 ずっとこんな風に長く過ごしてきて、これからも永遠に一緒に過ごせる気がするようだ。まるで美しい夢を見ているように平和で温かな時間だった。しかしその時間は止まることはない。また別れる時が来るのだ。

「会えてうれしかったわ」
「きっとまたいつか会える時が来るわ」

 離れがたい星羅と京湖はくっ付いてしまうくらい抱き合う。それでも悲しい別れではないので傷つくことはなかった。

 風呂から上がった星羅と蒼樹は屋敷のバルコニーで夜の風に当たる。夜でもカラッとした風は汗ばむ身体をすぐ乾かす。軽やかな衣装は風になびき、爽やかだ。

「西国の衣装は着心地の良いものだな」
「ええ、羽のように軽いのね」
「大丈夫か?」

 寂しそうに見えるのか蒼樹は、星羅に優しい声をかける。

「ありがとう。みんなも元気そうだし、わたしもあなたがいるから」
「そうか」

 蒼樹は星羅の肩を抱きしばらく西国の夜空を見続けた。
 
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