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106 浪漫国へ
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浪漫国へ向かう隊商は土耳其国(トルコ)に立ち寄り、荷物の半分を交易する。土耳其国も大きな国だが民族と宗教の分裂により、まとまりがない。西国との関係は悪くもなく良くもなかった。ここでも奴隷として売られている人間を何人か手に入れシルクロードを通り浪漫国に向かう。
骨の転がる砂漠を越え、赤い岩山を上り、青々とした草原を渡る。見る景色が全て新しく感じた晶鈴にとって奴隷として売られていく長旅が辛いものではなかった。
実際に自国で奴隷の身分でいるよりも、浪漫国で奴隷として暮らすほうがより人間らしい暮らしができる。そのため、西国でも土耳其国でも浪漫国への奴隷市が開催されると、最下層の者がこぞって応募してくる。噂によると、浪漫国では奴隷の身分であっても金をため市民の身分を買うことが出来るらしい。生まれた時にすでに身分が決まってしまう奴隷にとって夢のような話だ。
隊商に連れられた奴隷たちは逃げ出すことをせず、浪漫国に夢を抱いているかのようだ。
「建物も衣服も華夏国に負けず劣らず発展しているのに、身分は変化しないのね」
晶鈴は王族以外、身分制度のない華夏国は素晴らしい国なのだと自画自賛する。ほかの奴隷たちに華夏国の話をするとどうだろうか。きっと信じられないだろう。
一年以上かけての旅は過酷で、隊商は最初の3分の2の人数になっている。浪漫国に到着したときに半分以上残っていればいいほうだ。旅慣れた屈強の商人たちはおおよそ残るが、奴隷の半数は病にかかり、水に当たり死んでいく。この旅は奴隷の自然の選別でもあった。シルクロードを越えることのできる奴隷の価値はとても高い。身体の頑丈さと精神力が並の人間とは違うのだ。半分失っても、隊商の儲けは莫大だ。
一年も一緒に旅をすると家族のような親密さが生まれる。晶鈴は「もたない」ほうだろうと思われていた。西国人とも土耳其人とも違い、白く華奢で弱々しく見える。さすがに日焼けをして小麦色の肌になっているが、強そうには見えなかった。
「お前は見た目とは違ってなかなか屈強だな」
「私たち華夏国民は肉体だけではない。気が大事なのよ」
「面白いことを言うな」
いつの間にか言葉も覚え、よく話した。国民性なのか、西国人も土耳古人も陽気で難しく考えることはしない。
長旅もいよいよ終わりに近付いた。キャラバンの隊長が浪漫国の国境に差し掛かった時大きく息をして肩を上げ下げした。
「やあ、今回も無事についた」
隊長の言葉に、奴隷たちが騒めく。
「どこに売られるんだろう」「何をさせられるだろうか」「主人は厳しいだろうか」
真黒な顔をした隊長は「よく頑張ったな」と仲間のように奴隷に声を掛ける。
「お前たちのような奴隷は並の者は買うことが出来ない。富豪や役人であるから給金もいいだろうよ」
隊長の言葉は偽りがないことを知っているので奴隷たちは希望を持つ。
「明日は早速、奴隷市にいく。今夜は宿に泊まり、身体を洗い身綺麗にしておくのだ。より高く売れるようにな」
浪漫国に入り、雑多な市を抜け大きな宿屋に隊商は落ち着いた。奴隷たちは隊長からコインを一枚もらう。
「これで風呂に入り何か買って食べると良い」
「言葉がわからないのだけど」
晶鈴が尋ねると隊長は白い歯を見せる。
「大丈夫だ。新顔のお前たちが明日奴隷として売られることが風呂屋も屋台の者もすぐわかる。金を渡すだけで融通をきかせてくれるだろう」
そういうものなのかと晶鈴は頷いて宿屋の外に出る。浪漫国も土耳古国も西国も、そして華夏国も国境に近い町は色々な民族が交じり合い、雑多で、喧騒で、色彩の渦だった。
明日、奴隷になるというのに晶鈴は、新しい国に興奮していた。しばらくうろうろして屋台を眺め、一切れのチーズを買って食べる。
「華夏国の酥(そ)に似てるのねえ」
白い肌に金色や茶色の髪の人が多いのだなと眺めていると、華夏国の国境の町で占いをしていたカード使いの女を思い出した。
「彼女はまだあの町にいるかしらね」
華夏国を思い出すと、次々に娘の星羅や、京湖、慶明や隆明など様々な人の顔が浮かぶ。
「元気でいてくれてるといいわね」
二度と会えないかもしれないが、辛い気持ちにはならなかった。ふっとため息をついて見上げると、赤ら顔で着衣を乱している人たちが大きな建物から出てくるのが見えた。
「ああ、ここが風呂かしら」
大きな建造物に圧倒されながらも、晶鈴は好奇心に満ちローマ風呂へと入っていった。
骨の転がる砂漠を越え、赤い岩山を上り、青々とした草原を渡る。見る景色が全て新しく感じた晶鈴にとって奴隷として売られていく長旅が辛いものではなかった。
実際に自国で奴隷の身分でいるよりも、浪漫国で奴隷として暮らすほうがより人間らしい暮らしができる。そのため、西国でも土耳其国でも浪漫国への奴隷市が開催されると、最下層の者がこぞって応募してくる。噂によると、浪漫国では奴隷の身分であっても金をため市民の身分を買うことが出来るらしい。生まれた時にすでに身分が決まってしまう奴隷にとって夢のような話だ。
隊商に連れられた奴隷たちは逃げ出すことをせず、浪漫国に夢を抱いているかのようだ。
「建物も衣服も華夏国に負けず劣らず発展しているのに、身分は変化しないのね」
晶鈴は王族以外、身分制度のない華夏国は素晴らしい国なのだと自画自賛する。ほかの奴隷たちに華夏国の話をするとどうだろうか。きっと信じられないだろう。
一年以上かけての旅は過酷で、隊商は最初の3分の2の人数になっている。浪漫国に到着したときに半分以上残っていればいいほうだ。旅慣れた屈強の商人たちはおおよそ残るが、奴隷の半数は病にかかり、水に当たり死んでいく。この旅は奴隷の自然の選別でもあった。シルクロードを越えることのできる奴隷の価値はとても高い。身体の頑丈さと精神力が並の人間とは違うのだ。半分失っても、隊商の儲けは莫大だ。
一年も一緒に旅をすると家族のような親密さが生まれる。晶鈴は「もたない」ほうだろうと思われていた。西国人とも土耳其人とも違い、白く華奢で弱々しく見える。さすがに日焼けをして小麦色の肌になっているが、強そうには見えなかった。
「お前は見た目とは違ってなかなか屈強だな」
「私たち華夏国民は肉体だけではない。気が大事なのよ」
「面白いことを言うな」
いつの間にか言葉も覚え、よく話した。国民性なのか、西国人も土耳古人も陽気で難しく考えることはしない。
長旅もいよいよ終わりに近付いた。キャラバンの隊長が浪漫国の国境に差し掛かった時大きく息をして肩を上げ下げした。
「やあ、今回も無事についた」
隊長の言葉に、奴隷たちが騒めく。
「どこに売られるんだろう」「何をさせられるだろうか」「主人は厳しいだろうか」
真黒な顔をした隊長は「よく頑張ったな」と仲間のように奴隷に声を掛ける。
「お前たちのような奴隷は並の者は買うことが出来ない。富豪や役人であるから給金もいいだろうよ」
隊長の言葉は偽りがないことを知っているので奴隷たちは希望を持つ。
「明日は早速、奴隷市にいく。今夜は宿に泊まり、身体を洗い身綺麗にしておくのだ。より高く売れるようにな」
浪漫国に入り、雑多な市を抜け大きな宿屋に隊商は落ち着いた。奴隷たちは隊長からコインを一枚もらう。
「これで風呂に入り何か買って食べると良い」
「言葉がわからないのだけど」
晶鈴が尋ねると隊長は白い歯を見せる。
「大丈夫だ。新顔のお前たちが明日奴隷として売られることが風呂屋も屋台の者もすぐわかる。金を渡すだけで融通をきかせてくれるだろう」
そういうものなのかと晶鈴は頷いて宿屋の外に出る。浪漫国も土耳古国も西国も、そして華夏国も国境に近い町は色々な民族が交じり合い、雑多で、喧騒で、色彩の渦だった。
明日、奴隷になるというのに晶鈴は、新しい国に興奮していた。しばらくうろうろして屋台を眺め、一切れのチーズを買って食べる。
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「彼女はまだあの町にいるかしらね」
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「元気でいてくれてるといいわね」
二度と会えないかもしれないが、辛い気持ちにはならなかった。ふっとため息をついて見上げると、赤ら顔で着衣を乱している人たちが大きな建物から出てくるのが見えた。
「ああ、ここが風呂かしら」
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