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56 星読み

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 いつも静かな太極府が今、朱京樹の見解に、命術、卜術、相術の主任以上の占い師たちは騒めいている。太極府長官の陳賢路が咳払いすると少し静かになった。

「では、京樹よ。そなたの星読みによるとここ数年で王朝の危機が来るということだな?」
「はい」

 京樹は慎重に答えた。

「うーむ……」

 幼いころから、異国民である朱京樹はこの太極府で星を読んできた。最初の数年は異国のものに、華夏国のことを読ませるなどと嫌悪を表すものや、無理だろうと能力を軽んじてみるものなどがいた。しかし京樹は自国民でないからこそ、冷静に客観的に星を読むことができた。その能力はもうすでに陳賢路を超えているだろうと、陳賢路本人が自覚している。
 それゆえ、京樹のこの国家に来る危機を笑い飛ばせないでいるのだ。

「何度も観察して考察したのじゃな?」
「今に始まったことではありません。去年から観察と考察と過去の記録を照らし合わせました」
「もう少し、具体的な内容はわかりそうかね?」
「それがまだわかりません。人災か天災か……。しかし国家の星と王の星が危うい瞬きを見せ、厄星と凶角をとっています」
「うむ……」

 陳老師は白いひげを何度も何度も、動揺をなだめるように撫でつけた。そしてそれぞれの占い師たちに王族と官僚たちのことを鑑定する様に命じる。彼らに大きな異変があれば、少しでも原因がわかるだろう。また都と各地方の天変地異や庶民の動きも、周期的に占わせることにした。今までは飢饉対策に、毎年の収穫と天候について大まかに占うだけだった。にわかに太極府は忙しくなる。このことはまだ他の機関には内密である。

「では陳老師。また空を見てきます」
「ああ、わかった。もうそんな時間か」

 いつの間にか深夜になっている。星を見るのに最適な時間のようだ。すっと朱京樹は立ち上がり、闇の中に紛れていく。浅黒く艶のある肌と大きな輝く瞳を持つ京樹は、夜空の下に立っているとまるで夜の帝王のようだ。
 陳賢路は彼こそが自分の後継者にふさわしいと思っているが、残念ながら異国の民である。また国家がどうなっているのかもわからない。とにかくここ数年で今まで何百年と続いた王朝に異変があるかもしれない。
 太極府のものは占うことしか行わない専門機関なので、華夏国の王朝が数百年で交代してきたことを知ってはいるが、重きを置いてはいない。
 歴史的な見解で王朝交代を考察するのは図書館と学舎に属する長官たちだが、そのような話も出てきてはいない。地質を調べている機関からも、大陸に大きな変動は見られていない。
 唯一、太極府が、朱京樹が異変を感じ取っているのだ。数年早く異変がみられることが分かっただけでも救いかもしれない。

「晶鈴がいればのう……」

 今の時点で国家のほころびがあれば、胡晶鈴の鑑定で分かったかもしれない。

「いやいや」

 陳老師は首を横に振る。胡晶鈴は、自分の代わりにこの星読みのエキスパート、朱京樹を連れてきたのかもしれないと不思議な縁を感じた。
 彼女の娘、朱星羅は母親の血を受け継がなかったようで占い師としての資質はない。占い師とは代々受け継がれるものではないようで、この太極府にいる者たちもみな、親族に占い師がいるわけではなかった。

「さてと」

 陳賢路も立ち上がって、夜空を見るために外にでる。目を凝らし、空を見る。ここ何年か目の衰えにより星の瞬きが見えなくなっている。国家と王の星の色の変化を、京樹のように見出すことはできなかった。それでもなお空を見続ける。

「星は美しい」

 月は満ち足りかけたりして、不安を感じさせる。その点、星は暗闇の中に埋もれてしまわずに光る。陳賢路はどんなに辛く苦しい時でも星を見れば、希望が湧くと信じていた。 
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