48 / 127
48 頭痛
しおりを挟む
軍師省の様子を絹枝に報告しようと陸家にやってきた。使用人に絹枝に会いたいと告げると、今来客中なので、しばらく客間で待っていてほしいということだった。馬を繋いでもらい、星羅は庭が見える客間で静かに待つことにした。
「なんだか頭重たいわ」
昨日、初めて飲んだ酒が残っているのだろうか、なんとなく身体がすっきりしない。こめかみを揉んでいると陸慶明が通りがかった。
「おや、星羅」
「おじさまこんにちは。絹枝老師を待たせてもらってます」
「そうか。頭でも痛いのか?」
「いえ、痛いほどでもないのですが、昨日お酒を飲みまして……」
「ふふっ。酒か、どれ、少し診てあげよう」
星羅の隣に、慶明はそっと座り、手首をとり脈を測る。
「まあ二日酔いではないらしい。女人特有の身体の調子によるものかもしれないな」
「ありがとうございます。医局長のおじさまに診察してもらえるなんて光栄です」
「それにしても、星羅は酒が飲めるのだな。晶鈴は酒を飲まなかったが」
「へえ。そうなんですかあ」
慶明は遠い空を眺めながら晶鈴のことを話す。
「晶鈴は頭痛持ちだったから、もしかしたら君もそうかもしれない」
「うーん。どうなのかなあ」
「もう少し診ておくかな」
「え、いいですいいです」
「身体は大切にせねば、ほらここに持たれてごらん」
慶明は自分の身体に星羅を抱き寄せるように、身体を預けさせる。星羅は言われるまま横向きになり顔を彼の胸に埋める。慶明は背中をとんとんと触診していく。
「おじさま、なんだか心地よいです」
「そうかね? 今度は前を向いて喉をみせてごらん」
「はい」
口を開き喉の奥を見せる。
「綺麗なのどだ」
「よかった」
「少し胸元を開いてごらん」
素直に帯をゆるめ、胸元を緩める。慶明は首筋を撫で、鎖骨に指を這わせ、なだらかにふくらみはじめる胸元にトントンと人差し指で叩く。
「健康的な身体だ」
医局長の彼に言われると、とても安心だと星羅が思っていると「奥様のお客様が帰られましたよ!」と大きな声が聞こえた。
振り返るときつい顔をする春衣が立っている。
「そうか。ではこれで、何かあったらすぐに相談するんだよ」
「おじさまありがとうございます」
慶明がさっと立ち去った後、春衣も後をついていった。星羅は着物を直して絹枝の書斎へと向かうことにした。
慶明の後を付いて行きながら、春衣は苦々しい思いを抱く。厩舎を通った時に、星羅の馬がつながれているのがわかった。星羅の馬は、慶明が軍師見習いの試験に受かったお祝いに彼女に与えたものだ。美しい栗毛をもち額に白い模様がある。その模様が星のようであるということでその馬を選んだ。気性はおっとりしていて人懐っこいので、星羅は『優々』と名付けている。
絹枝が来客中で、慶明がいるのを知っていた春衣は何かあったらいけないと急いで客間に向かった。見ると慶明は診察という名目で星羅に触れていた。星羅は純粋に診察だと思っているだろうが、慶明は恐らく違う思惑があるはずだと春衣は睨んでいる。
「星羅さんはどこかお悪いんですか?」
春衣はわざと慶明に尋ねる。
「ん、いや。健康そのものだよ」
何事もないような言い方が、また春衣の神経を逆なでする。
「もうこの屋敷にはあまり来ないでしょうね。軍師見習いとしてお忙しいだろうから」
「いや、夫人に会いに来るだろう。それに健康診断のために月に一度は私の所へ来るように言ってある」
春衣はそのことを聞いて目の前が真っ暗になる。健康診断はきっと絹枝のいないときを狙うはずだ。今は胡晶鈴の娘への親切心だろうが、そのうちどうなるか分からない。慶明が星羅を我が物にすることなど薬品でも使えば赤子の手を捻ることに等しい。
春衣はまた早く次の手を打たねばと考え始めた。
「なんだか頭重たいわ」
昨日、初めて飲んだ酒が残っているのだろうか、なんとなく身体がすっきりしない。こめかみを揉んでいると陸慶明が通りがかった。
「おや、星羅」
「おじさまこんにちは。絹枝老師を待たせてもらってます」
「そうか。頭でも痛いのか?」
「いえ、痛いほどでもないのですが、昨日お酒を飲みまして……」
「ふふっ。酒か、どれ、少し診てあげよう」
星羅の隣に、慶明はそっと座り、手首をとり脈を測る。
「まあ二日酔いではないらしい。女人特有の身体の調子によるものかもしれないな」
「ありがとうございます。医局長のおじさまに診察してもらえるなんて光栄です」
「それにしても、星羅は酒が飲めるのだな。晶鈴は酒を飲まなかったが」
「へえ。そうなんですかあ」
慶明は遠い空を眺めながら晶鈴のことを話す。
「晶鈴は頭痛持ちだったから、もしかしたら君もそうかもしれない」
「うーん。どうなのかなあ」
「もう少し診ておくかな」
「え、いいですいいです」
「身体は大切にせねば、ほらここに持たれてごらん」
慶明は自分の身体に星羅を抱き寄せるように、身体を預けさせる。星羅は言われるまま横向きになり顔を彼の胸に埋める。慶明は背中をとんとんと触診していく。
「おじさま、なんだか心地よいです」
「そうかね? 今度は前を向いて喉をみせてごらん」
「はい」
口を開き喉の奥を見せる。
「綺麗なのどだ」
「よかった」
「少し胸元を開いてごらん」
素直に帯をゆるめ、胸元を緩める。慶明は首筋を撫で、鎖骨に指を這わせ、なだらかにふくらみはじめる胸元にトントンと人差し指で叩く。
「健康的な身体だ」
医局長の彼に言われると、とても安心だと星羅が思っていると「奥様のお客様が帰られましたよ!」と大きな声が聞こえた。
振り返るときつい顔をする春衣が立っている。
「そうか。ではこれで、何かあったらすぐに相談するんだよ」
「おじさまありがとうございます」
慶明がさっと立ち去った後、春衣も後をついていった。星羅は着物を直して絹枝の書斎へと向かうことにした。
慶明の後を付いて行きながら、春衣は苦々しい思いを抱く。厩舎を通った時に、星羅の馬がつながれているのがわかった。星羅の馬は、慶明が軍師見習いの試験に受かったお祝いに彼女に与えたものだ。美しい栗毛をもち額に白い模様がある。その模様が星のようであるということでその馬を選んだ。気性はおっとりしていて人懐っこいので、星羅は『優々』と名付けている。
絹枝が来客中で、慶明がいるのを知っていた春衣は何かあったらいけないと急いで客間に向かった。見ると慶明は診察という名目で星羅に触れていた。星羅は純粋に診察だと思っているだろうが、慶明は恐らく違う思惑があるはずだと春衣は睨んでいる。
「星羅さんはどこかお悪いんですか?」
春衣はわざと慶明に尋ねる。
「ん、いや。健康そのものだよ」
何事もないような言い方が、また春衣の神経を逆なでする。
「もうこの屋敷にはあまり来ないでしょうね。軍師見習いとしてお忙しいだろうから」
「いや、夫人に会いに来るだろう。それに健康診断のために月に一度は私の所へ来るように言ってある」
春衣はそのことを聞いて目の前が真っ暗になる。健康診断はきっと絹枝のいないときを狙うはずだ。今は胡晶鈴の娘への親切心だろうが、そのうちどうなるか分からない。慶明が星羅を我が物にすることなど薬品でも使えば赤子の手を捻ることに等しい。
春衣はまた早く次の手を打たねばと考え始めた。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる