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28 家族
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無事子を産んだ後、朱京湖は体力をかなり奪われたようで、しばらく胡晶鈴が二人の赤ん坊の面倒を見た。京湖の夫である朱彰浩は、体調が戻るまで仕事を休み家事をしている。
「面倒をかけてしまってすまない」
「そんなことないわ。こちらも助かっているもの。今はとにかく京湖が元気にならなければね」
「あの札のおかげで、いい薬が手に入っているから、時間の問題だと思う」
薬師の陸慶明の札が役に立ち、薬局で上等な薬を手に入れることが出来ている。晶鈴は都を出る前に、無理やりにでも持たせてくれた札を今はとても感謝していた。
二つ並んだ小さな籠からがさっと音が聞こえすぐに「ふぁうぅー」と赤ん坊の泣き声が聞こえた。
「あ、目が覚めたみたい」
「京樹のほうか」
「ええ。さきにそっちから乳をやるから、星羅が起きたらあやして待たせて」
「わかった」
晶鈴はそっと彰浩と京湖の息子、京樹を抱き寄せ乳を含ませる。赤子にしてははっきりとした目鼻立ちで、眉も濃く男児らしい力強さがある。吸い付く力は星羅よりもかなり強い。
「京樹は元気ねえ」
ごくごくと飲み、片方の乳房では飽き足らずもう一方の乳房にも吸い付いた。晶鈴は厭わずに、彼が満足するまで乳をのませた。ぷっくりとした唇を離したので、背中をさすりげっぷをさせてからまた籠に戻す。服装を直してから、彰浩に声をかけた。
「たくさん飲んだわ。星羅は?」
「まだ眠ってる。すまない。京樹にばかり……」
彰浩は星羅の分まで飲み干してしまっているような、京樹の様子にすまなそうな顔をする。
「気にしなくていいの。ちゃんと星羅も足りてるのよ。どうやら私は乳がたくさん出る質のようね」
「ありがとう……」
晶鈴は自分でも想像しなかったことだが、母乳がよく出るようで子供二人に十分に与えることができていた。丸々とした健康的な二人の赤ん坊を眺め胸元に手を置き笑んだ。
しばらくすると星羅も目を覚ます。すぐに泣くことはなく目をぱちぱち瞬かせている。そっと籠に近づいて晶鈴は星羅の表情を見る。顔立ちは自分に似ているようだが、髪が父親の曹隆明の血を受け継いだらしい。まだ短くまばらだが、黒く濃く艶のある髪をしている。
「あなたの髪が伸びたら、毎日触っていたくなるんでしょうねえ」
晶鈴は、隆明の滑らかでしっとりとした髪の毛の感触を思い起こす。会うたびに彼の美しい漆黒の髪に触れていた。手のひらを見ながら、そこに髪が流れていることを想像する。
「もう二度と触れられないかと思ったけれど……」
甘い思い出が胸に広がった。しかし晶鈴はその想いに浸ることなく、星羅を抱き上げ乳をのませることにした。
ひと月立つ頃に京湖もまともに起き上がることができた。残念ながら彼女はあまり乳が出ず、十分に赤ん坊に与えることができなかった。
「ごめんね……。だめな母ね……」
京樹の黒い瞳を正視できずに京湖は自分を責めている。
「もう少し体力がつけばきっと出るようになるわよ。そんなに自分を責めないで」
慰める晶鈴に、京湖は力なく首を横に振る。
「あなたに負担をかけてごめんなさいね。たぶん家系的にあまり出ないのだと思う」
「そうなの?」
「ええ。うちは、あの、私も、兄弟も人の乳をもらって育っていたし……」
「そうなのね」
それ以上の話は聞かずに晶鈴はそっと、京湖のそばに座り、二人で赤ん坊を抱いてあやした。
同じ年の子を育てる、胡晶鈴と朱京湖はますますきずなが強まり、信頼関係も増していった。陶工である朱彰浩は陶器が焼きあがると町へ売りに行っている。日が暮れる前に帰ってきた彼は彼の馬と、ロバの明々を小屋につなぎ食卓に着いた。
「今日もありがとう。明々はいい子にしてたかしら?」
「ああ。明々がいると売り上げが上がるようだ」
「そうなの? 邪魔してなければよかったけど」
今では食卓を5人で囲んでいる。晶鈴と京湖はお互いの子を預けあいながら、家事を行っていた。乳がよく出るようになるという煎じ薬で、京湖も息子に十分な母乳を与えることができるようになった。おかげで彼女は明るい笑顔も取り戻す。
「そうだ。町の占い師たちに晶鈴の復帰はまだかと尋ねられた」
「あら、忙しいのかしら」
「特別忙しくなってはいないようだが、晶鈴を訪ねて来るものがいるということだ」
「うーん。そうは言われてもねえ」
「一応伝えておくとだけ言っておいたから」
考え込んでいる晶鈴に、京湖が提案をする。
「午前中くらい星羅をみてるから、仕事してきたら?」
「え、でも……」
「もう体は心配ないし、ちょこっとだけ行ってくるといいんじゃないかしら。彰浩もほとんどここで仕事しているし」
「そうねえ。京湖がそう言ってくれるなら行ってみようかな。お客は一人くらいだろうし」
「気晴らしでもしてきたらいいわよ」
「あら、京湖こそ、いいの? 町へ行きたくないの?」
勧められて晶鈴も少し町の空気を吸ってみてもいいと思うが、京湖はあまり町へ行きたがらない。出産前に晶鈴が町へ占いの仕事をしに出かけているときも、京湖は町へ行きたいと一言も言わなかったし、様子も聞きたがらない。
「人混みが苦手なの。ここで彰浩と晶鈴と子供たちだけでいるとホッとするのよ」
「そうなのねえ」
星羅も京樹もまだ眠っているばかりで大人しく、腹が減っていたりする身体的な不満がある以外ぐずることがなかった。こうして久しぶりに占いの仕事をするために町に行くことにした。
「面倒をかけてしまってすまない」
「そんなことないわ。こちらも助かっているもの。今はとにかく京湖が元気にならなければね」
「あの札のおかげで、いい薬が手に入っているから、時間の問題だと思う」
薬師の陸慶明の札が役に立ち、薬局で上等な薬を手に入れることが出来ている。晶鈴は都を出る前に、無理やりにでも持たせてくれた札を今はとても感謝していた。
二つ並んだ小さな籠からがさっと音が聞こえすぐに「ふぁうぅー」と赤ん坊の泣き声が聞こえた。
「あ、目が覚めたみたい」
「京樹のほうか」
「ええ。さきにそっちから乳をやるから、星羅が起きたらあやして待たせて」
「わかった」
晶鈴はそっと彰浩と京湖の息子、京樹を抱き寄せ乳を含ませる。赤子にしてははっきりとした目鼻立ちで、眉も濃く男児らしい力強さがある。吸い付く力は星羅よりもかなり強い。
「京樹は元気ねえ」
ごくごくと飲み、片方の乳房では飽き足らずもう一方の乳房にも吸い付いた。晶鈴は厭わずに、彼が満足するまで乳をのませた。ぷっくりとした唇を離したので、背中をさすりげっぷをさせてからまた籠に戻す。服装を直してから、彰浩に声をかけた。
「たくさん飲んだわ。星羅は?」
「まだ眠ってる。すまない。京樹にばかり……」
彰浩は星羅の分まで飲み干してしまっているような、京樹の様子にすまなそうな顔をする。
「気にしなくていいの。ちゃんと星羅も足りてるのよ。どうやら私は乳がたくさん出る質のようね」
「ありがとう……」
晶鈴は自分でも想像しなかったことだが、母乳がよく出るようで子供二人に十分に与えることができていた。丸々とした健康的な二人の赤ん坊を眺め胸元に手を置き笑んだ。
しばらくすると星羅も目を覚ます。すぐに泣くことはなく目をぱちぱち瞬かせている。そっと籠に近づいて晶鈴は星羅の表情を見る。顔立ちは自分に似ているようだが、髪が父親の曹隆明の血を受け継いだらしい。まだ短くまばらだが、黒く濃く艶のある髪をしている。
「あなたの髪が伸びたら、毎日触っていたくなるんでしょうねえ」
晶鈴は、隆明の滑らかでしっとりとした髪の毛の感触を思い起こす。会うたびに彼の美しい漆黒の髪に触れていた。手のひらを見ながら、そこに髪が流れていることを想像する。
「もう二度と触れられないかと思ったけれど……」
甘い思い出が胸に広がった。しかし晶鈴はその想いに浸ることなく、星羅を抱き上げ乳をのませることにした。
ひと月立つ頃に京湖もまともに起き上がることができた。残念ながら彼女はあまり乳が出ず、十分に赤ん坊に与えることができなかった。
「ごめんね……。だめな母ね……」
京樹の黒い瞳を正視できずに京湖は自分を責めている。
「もう少し体力がつけばきっと出るようになるわよ。そんなに自分を責めないで」
慰める晶鈴に、京湖は力なく首を横に振る。
「あなたに負担をかけてごめんなさいね。たぶん家系的にあまり出ないのだと思う」
「そうなの?」
「ええ。うちは、あの、私も、兄弟も人の乳をもらって育っていたし……」
「そうなのね」
それ以上の話は聞かずに晶鈴はそっと、京湖のそばに座り、二人で赤ん坊を抱いてあやした。
同じ年の子を育てる、胡晶鈴と朱京湖はますますきずなが強まり、信頼関係も増していった。陶工である朱彰浩は陶器が焼きあがると町へ売りに行っている。日が暮れる前に帰ってきた彼は彼の馬と、ロバの明々を小屋につなぎ食卓に着いた。
「今日もありがとう。明々はいい子にしてたかしら?」
「ああ。明々がいると売り上げが上がるようだ」
「そうなの? 邪魔してなければよかったけど」
今では食卓を5人で囲んでいる。晶鈴と京湖はお互いの子を預けあいながら、家事を行っていた。乳がよく出るようになるという煎じ薬で、京湖も息子に十分な母乳を与えることができるようになった。おかげで彼女は明るい笑顔も取り戻す。
「そうだ。町の占い師たちに晶鈴の復帰はまだかと尋ねられた」
「あら、忙しいのかしら」
「特別忙しくなってはいないようだが、晶鈴を訪ねて来るものがいるということだ」
「うーん。そうは言われてもねえ」
「一応伝えておくとだけ言っておいたから」
考え込んでいる晶鈴に、京湖が提案をする。
「午前中くらい星羅をみてるから、仕事してきたら?」
「え、でも……」
「もう体は心配ないし、ちょこっとだけ行ってくるといいんじゃないかしら。彰浩もほとんどここで仕事しているし」
「そうねえ。京湖がそう言ってくれるなら行ってみようかな。お客は一人くらいだろうし」
「気晴らしでもしてきたらいいわよ」
「あら、京湖こそ、いいの? 町へ行きたくないの?」
勧められて晶鈴も少し町の空気を吸ってみてもいいと思うが、京湖はあまり町へ行きたがらない。出産前に晶鈴が町へ占いの仕事をしに出かけているときも、京湖は町へ行きたいと一言も言わなかったし、様子も聞きたがらない。
「人混みが苦手なの。ここで彰浩と晶鈴と子供たちだけでいるとホッとするのよ」
「そうなのねえ」
星羅も京樹もまだ眠っているばかりで大人しく、腹が減っていたりする身体的な不満がある以外ぐずることがなかった。こうして久しぶりに占いの仕事をするために町に行くことにした。
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