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17. 頼もしいチーム

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 私たちのチーム以外が、教室からいなくなった。ここから五分、私たちの待ち時間だ。
「で? 俺たちは何を探せばいいの?」
「簡単な星座がい~な~」
 男子三人の内、ふじくんと一条いちじょうくんが言う。それに対して、
「簡単難しいはないよ。探す星の数は大体同じにしてるんだから」
 とひぃちゃん。
 ちぇ、とおどけて言う男子に私は噴き出してから、手に持っていた紙を広げて見せた。
「これだよ……『こぐま座』」
 そう、クジで引いたのは、なんとこぐま座だった。ホクトのことを思い出して、ちょっとドキッとしたよ。
 そんなホクトは、今日もかばんの中。昨日の夜のことがあって心配だけど、「ダイジョーブ! 今日はめいっぱいいっしょに楽しむ!」とニコニコしていたから、大丈夫だって思うことにした。
 レク中の私のことも、見つからないようになんとなく追いかけるって言ってたし。ホクト、楽しいことは大好きだもんね。あまり心配しすぎても、よくないもの。
「で、帳先生! こぐま座の星ってどんなのですか!」
 さっきの二人じゃない、もう一人の男子が手を上げる。さっきレクを提案したときに、真っ先に「楽しそう」って言ってくれた南雲なぐもくんだ。
「こぐま座っていうのは、北斗七星の小さい版みたいな感じだよ。北斗七星は知ってる?」
「あーひしゃくの形してるってやつ?」
「そう! おおぐま座のものと比較して、小北斗七星って言われてるんだ。だから星は七個だよ」
「小北斗七星って、何か北斗七星の劣化版みたいだな」
「そんなことないよ! こぐま座は北極星を持つ、すごい星座なんだから!」
 南雲くんの言葉に思わず反論してしまう。あ、ムキになっちゃった……南雲くんもちょっと驚いたような顔をする。でも「そうなんだ」と笑ってくれた。
「私たちは七星がいるおかげで星調べの手間がないから、作戦を立ててきたいよね」
 ひぃちゃんが机にヒジを立てて、手を組む。男の子三人は、うんうんとうなずいた。
 確かに、手あたり次第探すのもいいけど、作戦があった方がいいよね。チームで別行動はとっちゃダメだし、あらかじめ探す場所をしぼったほうがいいかも。
「探す場所は、主にこの階と、図書室だけか~」
 おもむろに立ち上がったのは一条くん。黒板の前に立って、白いチョークを手に取った。すらすら……書き始めたのは、学校の構内図!
「すごい! 見てないのによく書けるね……!」
「こうして図で見たほうが~、考えがまとまりやすいでしょ?」
 並べられた四角の中に、「コンピューター室」「1-A」「1-B」、と部屋の名前が書き加えられていく。なるほど、目標の場所が目について、分かりやすいかも!
 すると、その図をぼーっと眺めていた藤くんが「あっ」と声を上げた。
「すげーどうでもいいことだけどさ、意外と星を探す部屋って限られてね?」
「限られてる?」と光ちゃん。
「今この時間は、各クラスがそれぞれでレクをやってるんだぜ。星を隠すのは先生に頼んだって言うけど……他のクラスの教室には隠さないんじゃないか?」
「「「「あ~~!!」」」」
 四人で同時に納得する。他のクラスの教室に隠したら、レクをやってる他クラスの人に迷惑がかかっちゃうもんね。意外とすごい発見かも。探す場所、だいぶしぼれるもん。
「やるじゃん!」と藤くんの肩を抱く南雲くん。みんなが予想外に喜んでくれたからか、藤くんはへへっと照れ臭そうに笑ってた。
「ということは、他クラスの教室を除くと~?」
 バッテン。バッテン。一条くんが自分の書いた地図にバツをつけていく。それを見ながら、南雲くんが地図を指さす。
「残るはコンピューター室と多目的室と、空き教室と、トイレと廊下だな!」
「待て待て、一個忘れてるところがあるぞ。この教室!」
「そっか! この教室も候補の中の一つなのか、またナイス気づきだな、藤!」
 すごい、何だかゲームをスムーズに進められる気がしてきたよ!
 ピピピピピピ!!!!
 その時、私たちの中心で鳴ったアラーム音。
 五人で、顔を見合わせる。ハンデの五分が終わったんだ! いよいよ、私たちのゲームも始まる。
「よし、じゃあ俺たちも探すか!」
「「「「おー!!」」」」
 ふふ、何だか頼もしいね。このチームなら、勝てる気がしてきたよ!


 この後、私たちは順調に星を集めていった。
 一個目の星は藤くんの予想した通り、最初の教室にあったの! それも、藤くんの座っていた席の引き出しに入っていたから、みんなで笑っちゃった。
 まだ教室にもあと何個か星は隠されてるかな、と思ったけど、ここだけで星を集めるのもつまらないから、私たちは教室を離れたんだ。
 廊下には、調べものを終えた他のチームが! のんびりしてられないね。
「多目的室も空き教室も、みんな探しそうな場所でしょ~? だったら最初にトイレ探してみよう」
 一条くんのそういうアドバイスもあって、次に行ったのはトイレ。
 もちろん私とひぃちゃんは女子トイレ、男子三人は男子トイレへ。分かれて探してみると。
「うわー!! あった!!」
「南雲、声でかっ」
「他のチームに聞かれたら、こっち来ちゃいそうだね……」
 壁越しに南雲くんの叫び声が聞こえてきて、私たちは肩をすくめる。だけど、男子トイレに一個あったんだね。これで二個ゲットだよ!
「ううん七星、三個だよ」
「あったの!?」
 うん、と少しほこらしげにうなずくひぃちゃんの右手には、キラキラ光る星の折り紙が! 掃除ロッカーの中に、きれいに置いてあったみたい。
「あと四個か~。スムーズに集まってるな~。」
「星の配置は、帳にまかせていいか?」
「うん、まかせて」
 私は、持っている小さいホワイトボードに星をくっつけた。実はこの星、裏に小さいマグネットをつけてるんだ。これで、ホワイトボードに星座を並べる、と。
 ここまで私、何も出来てないもんね。星のことでチームの役に立とう! そんな風に張り切ってたら。
「そんなことない。七星もチームの力になってるよ」
 ってひぃちゃん。男の子三人もうなずいて。
「ハンデの時間があってもどうにかなってんのは、帳のおかげだしな!」
「それに帳さん優しいし、みんなのことほめて、すごくモチベ上げてくれるし~」
「ってかみんなの力だよな! みんなで力合わせてサイキョー! みたいな!」
「藤の言い方は適当すぎるけど……まぁそういうことだよ、七星」
 みんな……。優しいのは、みんなの方だよ。みんなより私は、って思っちゃうけど、そう言ってくれると元気が出るな。
「ありがとう……残りもがんばろう!」
 残り四つ。次はどこを探そうか? ってなった時に、「そろそろ俺らの出番だな」と声をあげたのは南雲くん。その視線は、ひぃちゃんを見ていて。
 ひぃちゃんは一回不思議そうな顔をしたあと、「あぁ」と不敵な笑みを浮かべてうなずいた。
 え、何? 何があるの?
「帳、あれだよあれ」
「七星のためにがんばってくるね。……チャンスカード」


「かっっこよかったぁ……!!」
 息を吐き出す。先生の出すチャレンジ──校庭のバスケのゴールに三回連続シュートとか、その時いた他チームのメンバーと腕ずもうとか──を難なくクリアしたひぃちゃん。本当にかっこよかった!!
 南雲くんと光ちゃん二人の手には、チャンスカード。一チームに一枚、ってことにしてるみたいだから、二人で一枚受け取ったんだ。
 ほんと、運動が得意な二人がいて助かったよ!
「よし、じゃあ次は……」
「七星ーーっ!!」
 私を呼ぶ声に顔を上げた。向こうからぱたぱた走ってきてるのは……藍ちゃん!?
 春、あたたかくなったばかりなのに顔を汗びっしょりにして、なのに顔は青ざめてる。ただ事じゃないみたい。私たちの前まで来た藍ちゃんは、ヒザに手をついて、息を切らした。私はその背中をさする。
「一体どうしたの? チームで別行動を取ったら、失格になっちゃうよ?」
「そ……! そんな、場合じゃ、……はぁ、なくなっちゃった、の……!!」
 そんな場合じゃなくなった?
 五人で顔を見合わせる。
 藍ちゃんは今にも泣きそうに。
「助けて七星……あれって、レクの、仕掛けじゃないよね……!?」
「藍ちゃん、本当にどうしたの? ゆっくり教えて」
「ひ……ッ、が」
 ドックンッ!! と私の心臓が跳ね上がった。
 羊……まさか……!!


「ひつじが、みんなのこと連れて行っちゃった……どうしよう七星ぇっ……!!」
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