星につむぐ物語-イストリア-

冬原水稀

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4. 神話を書く?

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 家に帰った私は、息を吐いて自分の部屋に座り込んだ。
 はぁ、どっと疲れた……。子ぐまちゃんには一旦トートバッグの中に入ってもらって、ママとパパには見つからずに済んだ。本当に、見つからなくて良かったよ。だって。
「わぁーっ! ここがあなたの家ね、ステキ!」
 ……子ぐまちゃん、ずっとこんな調子で喋ってるんだもの。人形、って言うには無理があるよね。
 小さくて白いふわふわは、部屋の中を右往左往。好奇心旺盛に、私の部屋の中を歩き回ってる。床には星の図鑑。神話の本。子ども用の天体望遠鏡。
 好きなものが置きっぱなし。ちょっと片付けておけば良かったな。
「あっ、こら、あまり触らないで!」
 望遠鏡を転がし始めるものだから、ヒヤヒヤしちゃう。まるで小さな子どもを相手しているみたい。
 両脇を抱き上げて、膝の上に乗せる。
「まず、私は七星。帳七星。あなたの名前は?」
 まずは、状況の整理をしよう。この子が何なのか知らなきゃ。……まぁ覚えていないみたいだけれど。
 私が名前をたずねても、やっぱり子ぐまは小さな頭をこてんとかしげるだけだった。
「おぼえてない」
 そうだよね~……一体どうしたら良いんだろう? 名前も分からなくて、喋るくまなんて……ママたちには相談出来ないし、もちろん交番にだって連れていけない。
 子ぐまちゃんは部屋の中をまたきょろきょろ。それから、私を見上げた。
「ナナセのおへや、星がいっぱいね! 詳しいの?」
「え? うん……星が好きなの。詳しいって胸は張れないけれど、本はたくさん読んでるよ」
 それがどうかしたの?
 元気満々! って感じだったふわふわの顔が、今は考えこんでいる。そっか、夜空から落ちてきたって言ってたものね。星には親近感が……。
「ワタシ、夜空にいた星座だったの」
「えっ!?」
 まさかの、星そのもの!? だから、「空から落ちてきた」って言ったの?
「でも記憶がないの。あのいーーっぱいの星のどこに戻ったら良いのかも、自分の思い出も、分からない」
 だんだん子ぐまちゃんの声が震えて、私の胸は小さく締め付けられた。この子が今まで元気すぎたから気付けなかったけど、確かに思い出が何一つないって、不安なこと……だよね。
 もし私が、自分の名前も知り合いも、何も覚えていない状態で知らない場所にやってきたら。
 ……想像すると、とても怖い。どこを見ても真っ暗な宇宙に放り出された気持ちになるかも。
「不安なの。でも、『元のところに帰らなきゃ』って、気持ちだけはすごく残ってるの!! ねぇ、ナナセは、星が好きでよく知ってるんだよね」
 キラキラの瞳が、改めて私を見上げた。

「お願いナナセ、私の記憶神話を書いて!!」

 し……え? 話の方向が急に変わって、私は瞬きをした。
 神話を書くって、私が!?
「か、勝手にそんなこと出来ないよ! 神話って昔から伝えられてきた、歴史あるものなんだよ!?」
 子ぐまちゃんのことはかわいそうと思うけど、それとこれとは別!
「帰るためなの! 神話がないと、ワタシはたぶん星座には戻れないから……星が好きなナナセにしか頼めないの! おねがい!」
「できないできない! 絶対ムリ!」
 だってそんな、新しい神話を作ったところでこの子は星座に戻れるの? ……それに。
 私が一から神話を、物語を想像して作っていくなんて……
「う~~っ! じゃあワタシはどこにどうやって帰っていいのか……」
 しょぼん、と目に見えて落ち込む。
 そ、そういう顔されると、何だか申し訳なくなるな……。
 さっき、「もし私がこの子みたいな状況だったら」……って想像したら悲しくて、怖かった。それは確かだ。不安だから、無茶なお願いもしたくなるのかな。
 白い頭は、うなだれている。
 あ~っ、やっぱり放っておけない!
「て、手伝うくらいならいいよ!」
 パッと子ぐまが顔を上げた。
「新しい神話……はちょっと出来ないけど、あなたが帰る方法を、一緒に探す。あなたが元々何の神話なのかも、調べてみる! ……それでいいかな?」
 私は息を弾ませながら、そう伝えた。
 何だろう。声が、胸が、すごく熱い。
 慣れないことをしているからかな。こんなこと言っちゃって、不安だからかな。
 でも、星座を元に戻すって、何だかわくわくする響きだ。
「ほんと!? ほんとの、ほんと!?」
「うん、ほんと。でもさっきも行ったけど、神話を書くのは絶対ムリだからね」
「ムリなことはないけど……でもありがとう!」
 にぱっと、彼女は可愛らしい顔で笑った。さっきまであんなにしょげてたのに……まさか、あの悲しい顔が演技ってことはないよね?
「やったー! ナナセ大好き!!」
「わっ」
 白い毛玉が、顔に飛び込んできた。むぎゅむぎゅ、頬ずりしてくるふわふわ。く、くすぐったい……! けど、暖かい。
 うーん……この愛くるしさはきっと天然だね、はは。


「あなたのこと、ホクトって呼んでいいかな?」
 自分の名前を覚えていないみたいだし、いつまでも「子ぐまちゃん」って呼ぶわけにはいかないしね。
 可愛いソプラノ声は、「ほくと、ホクト……」と、何度も名前を口の中で転がした。それから、ぱふぱふと両手を叩く。
「ステキ! ありがとう!」
 良かった、気に入ってくれたみたい。
「じゃあ、ホクト。私は出来るだけホクトが帰るお手伝いをする。帰ることが出来るまでは、私の家にいてもいいよ」
「やった!」
「でもね、約束して。いつも私と一緒にいるって」
 ふわふわの体を抱き上げて、膝に乗せた。
 体を動かしたくて、ウズウズしてるのが伝わってくる。うーん、こういうところはやっぱり心配だ。
 しっぽの長いクマなんて目立つし、喋ったりしたらみんな驚いちゃうもの。
 ホクトはパッと顔を輝かせた。
「わかった! ナナセ、ワタシがいないとさみしいんだね!」
「……ん?」
「へへーワタシが側にいてあげるから!」
 よしよーし、って昔ママがしてくれたみたいに頭を撫でてくれる。
 何か優しくて落ち着くな……って違う!
「あのねホクト、そういうことじゃなくて……」
「ナナセと一緒にいるんだよね? 簡単!」
 そうなんだけど……まぁ、肝心なところは伝わってるし、別に良いか。
「あとはね、私以外の人がいる場所では、お人形のふりをしていてほしいの」
「お人形?」
「動かないでいてほしいってこと」
「いいよ!」
 早っ!! ちょっと、本当に意味分かってる?
「そうしたらナナセ、手伝ってくれるんだよね! ホクトはおりこうさんにしてるから!」
 ほ、本当かなぁ……。
 言った側から私の腕の中でぴょんぴょんしてるけど。
「本当の本当ね。喋ってもダメだからね?」
「息は?」
「それはして!」
「わかったよ!」
 ふんすっとお茶目に鼻を鳴らす。
 し、心配だ……。でもホクトを信じるしかないね。ママには「新しい人を形買ったの」って説明しよう。
 えーとそれで、確かこの辺に……あった!
「ナナセ、それなぁに?」
「『星と神話』って書いてあるの」
 そう。これは星の図鑑。星座に関しての情報と、一緒に星座も書いてある本だから、便利なんだ。
 春夏秋冬で分かれてるし、ポケットサイズだから持ち運びにも良くて……って、そんなことはいいの。
「まずはこの本で、ホクトの星座を見つけてみよう」
「見つける!」
 ホクトが、本のページをめくる私の手を見つめる。小さい子どもに読み聞かせしてるみたい。
 見つけてみようって言っても、大体予想はついてるんだけどね。
 尾っぽの長い、小さいクマと言えば……パッと開きなれたページを開く。
「ねぇ、ホクトの星座ってこれじゃないかな」
「もう見つけたの!?」
 開いたページには、こう書いてある。

 ──『こぐま座』。

 実は、一目見た時からこの星座を思いついてたんだよね。見た目はこぐま、でもしっぽが長い……っていう、まさしくホクトと同じ特徴を持ってるの。しっぽの先に「北極星」がある、すごい星座なんだよ!
 北極星っていうのは、その名の通り、空の北のほうにある星。ずーっと北の方角に見えるから、昔の人は北極星を見て「こっちが北だ」っていうのを判断したんだって! 全部の星座は、この北極星の周りを回るように動いてるように見えるんだ。私は、「星の中のリーダーみたい」って思ってる。
 ちょっと男の子っぽいけど「ホクト」って名付けたのは、この星座の形の呼び名、北斗七星から来てるんだ。まぁ北斗七星と呼ばれているのは「おおぐま座」の方で、こぐま座は正しくは、「小北斗七星」って言うんだけどね。
 でもどうみても、これってホクトだよね?
 他にホクトの特徴にあてはまる星座って、無い。早くもホクトの役に立てたんじゃない?
「……うーん……」
 あれっ?
 ホクトの表情は、何だかモヤモヤしてる。納得! って感じじゃない。違った?
「うーん……ごめんなさい。全然びびっ! とこないの。ワタシがこれだったか、覚えてない……」
 そんな。こぐま座の情報を見たら、自然と思い出すと思ったのに。
 じゃあ、何だろう。私の知らない星座なのかな。
「ごめんねナナセ……」
「ううん! もしかしたら、まだ情報が足りないのかも。また、調べてみるよ」
 本当は、「こぐま座で合ってるんじゃないか」っていう期待はあったけど……でも仕方ない。
 明日また、学校の図書室で調べてみようかな。
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