上 下
4 / 23

3. 星空観察で不思議な出会い!?

しおりを挟む
 初日は、藍ちゃんの言う通り委員会を決めたり、自己紹介をしたりで終わった。
 あと数日もしたら、また授業が始まるんだなぁ。
 でもその前に、クラスレクの日があるって言ってたっけ。係決めの時、レクの内容や取りまとめをする「レク係」だけ、なかなか決まらなかったんだよね。誰か立候補してくれないか~って先生は言ってたけど、私には無理だな。企画とか、楽しいことを創造していくのは苦手だもん。
 カラスがカァと鳴く帰り道。
 私はリュックを背負い直して、オレンジに染まった道を歩いていた。初日だけで色々あったけど、これから星空観察をするんだ! 趣味でしっかり息抜きしよっと。
「着いた~!」
 誰もいないのを良いことに、思いっきり伸びをする。
 目の前にはいっぱいの草原。元気な緑たちが、広い空に両腕を上げてるみたい。ぽつぽつと咲いてる花もとてもきれい。障害物が全くなくて、見えるのは草原と夜空だけ。ここは私とっておきの、星がよく見える丘なんだ。天ヶ丘そらがおか、って名前も好きで、よくここに来る。
 ふわっ。 制服のまま寝転ぶ。
 うーん、心地いいな。何だか寝ちゃいそう。
 空にはぽつぽつ、街の光に負けない星の光たち。
 この時間の空って、とても素敵。夕暮れじゃない、夜でもない、そんな時間。ふたつの時間を結ぶように、白い星がふたつみっつ輝いている。まるで、「もうすぐ夜だよ」って、お知らせしてくれてるみたいに。
「あっ! 今日北斗七星が見える!」
 私の髪留めと同じ、ひしゃくの形。明るい星が多いから、見つけやすいんだよね。
 暗い夜の中に、ピカピカッ。ピカピカッ。
 きれいだなぁ。星ってものすごく遠いところにあるのに……私のいる場所まで光を届けてくれる。本当にきれい。それに、すごい。
 あんなに星はがんばって光ってるから、私もがんばろう! って思える。
「ん?」
 気のせいかな。今、夜空にある星がゆれたような……。
「え……えっ、嘘!?」
 気のせいじゃない! やっぱりゆれたよ!
 私は思わず立ち上がって、じっと星を見つめた。
 星がゆれる。ゆらゆらっ。そして……星がひときわ眩しく、白く光った!
「っ! まぶしい……! 何?」
 うそ、今度は星が落ちてる! 今日は流れ星がみられるなんて予報はなかったのに。
 しかも、落ちてる星はどんどんこっちに近付いていて……この丘の近くに、白い光が落ちていった!
「あ、あっちに落ちた……?」
 つぶやいて、ごくり。息を飲む。
 近くに流れ星が落ちるなんて。
 危ないかもしれないし、ちょっと怖いけど……でも星のこととなると好奇心は抑えられなくて。
 私は星の落ちた場所に向かってみることにした。


 えっと……この辺だったかな?
 胸がドキドキする。だって、流れ星の落ちた場所なんて。
 大抵流れ星は、地上に落ちる前に燃え尽きちゃうんだ。ものすごい勢いで落ちてくるから、もし地上に落ちたらその場所に被害が出ることもある。
 でも落ちた時に、何も音はしなかったよね?
「よい……しょ」
 草をかき分けて、少し開けた場所に出た。
「かぐや姫」に出てくるおじいさんは、金色に光る竹を見つけた時こんな気持ちだったのかな。一歩。近付くたびにソワソワして。一歩、近づく度にこわくもなってくる。
 ものすごく近くまで来た。
 たぶん、この少し大きな岩。背後が白く光ってて、ぼんやりと照らされている。この岩の裏に……。
 私は息を飲んで、岩の裏手に回ってみた。
「……え? これって……」
 だけど。岩の裏に広がっていた光景は、私の想像していたものと違った。

 白い光がぽうぽうと輝く中に落ちていたのは。星ではなく、一匹の白いだった。

 えっ……えっ。な、なにこれ?
 眠っているみたい。背中を丸めて、目を閉じている。
 ぬいぐるみ、かな。大きさは、お店でよく見るテディベアと同じくらい。ふわふわとした毛はとっても触り心地が良さそう。首には青いスカーフが巻かれていて、さらに星の形をしたバッヂがついていた。
 でも、子ぐまのぬいぐるみにしてはおかしいところがある。

 この子ぐま、ものすごくしっぽが長い。

 くまと言えば、可愛くて丸い小さな尻尾だよね?
 それがこの子のしっぽは、この子自身の身丈くらいにしっぽが長い。
「くまじゃないのかな……?」
 くまに手を伸ばしてみる。
 わ、本当にふわふわだ……! わたがし、雲、世界のふわふわを全て集めて作ったみたい。
 もふ。もふ。気持ちよくて、思わず何回かなでなで。誰かの落とし物なら、交番に届けなきゃいけない。けど、もう少しだけ……。
 その時。 パチッ! と、勢いよく目が開いた!!
「うわぁっ!?」
「ふわぁぁよく寝た!! おはよう!!」
 しかも話しかけてきた!?
 子どもっぽくて、高い、女の子の声だ。
「よ、よく出来たお人形さん……」
「ねぇ、ここどこ? 気がついたら寝ちゃってたよぉ、帰らなきゃ」
 帰らなきゃ……って、持ち主のところに、ってこと?
 もぞもぞ動き始めた子ぐまを慌てて抱えなおす。目が開くし、喋るし、動くの!? 最近のぬいぐるみって本当によく出来てる。
 子ぐまは辺りをきょろきょろしたかと思うと、私のほうを見上げた。
 くりくり、ビー玉のような透き通った目だ。夜と全く色をしている。その色の中に、鮮やかな金色、赤や青がパチパチ。はじけて見えた。瞳の中に星が光っているみたい。綺麗……。
「ねぇ、あそこに帰る方法を知らない?」
「あそこ?」
 短い腕、柔らかそうな肉球が指す方向。
 それは私がさっきまで眺めていた、満点の星空だった。
「……え?」
「ワタシ、あそこから落ちてきたはずなの! なんでかは覚えてないけど……元の場所に帰らなきゃならないの! ……どこに戻らなきゃいけないかは覚えてないけど……」
「覚えてないことだらけじゃない……」
 それに、星空から落ちてきたってどういうこと?
 何だか、人形らしくない。けどこれが人形じゃないとなると、しっぽの長い子ぐまが喋ってるってことになるし……この子は、一体?
「ねぇ、もっと詳しく色々教えて? 分からないことだらけだし、私も混乱しちゃうよ」
 聞いてみると、返ってきたのはコテン、という首を傾げるしぐさだけ。
 きゅん、と胸が鳴る。何者なのか分からないのはさておき、やっぱり可愛い。
「分からない……だってワタシ、『あそこから落ちてきた』ってこと以外、なにも覚えてないんだもの」
 それって、記憶喪失ってやつなんじゃ……?

 がさがさっ。

 ふと背後から物音がして振り返る。何!?
 後ろには、うすぐらーい色をした、ちょっと背の高い草だけ。
「なんかいるね!」
「や、やめてよ、怖いから」
 腕の中できゃっきゃとはしゃぐ子ぐまちゃん。全然わくわくしないって!
 そのまま二人、私たちは草影を見つめ続ける。
 すると……ヌッ……と、黒い影がゆっくり現れた。そして、言った。
「……見つけた……」
 ヒッ。喉が引きつる。
「ねぇ、君…………」
「きゃあああああああっ!!」
 話しかけられた! 見つけたって何!? 怖い、もう無理!
 パニックになった私、目をつむって、きびすを返して猛ダッシュ! 子ぐまちゃんを抱えたままだとか、家に帰ってどう説明しようとか、そんなのも考えられなかった。
 子ぐまちゃんは、まだ楽しそうに笑っている。
「『みつけた』、だって。かくれんぼみたーい!!」
「のんきだなぁもう!」
 次から次へと、何なのよ~~~っ。




 ──私が子ぐまを連れて逃げ帰る。その背中をぼんやり見送っていたのは……私と同い年くらいの見た目をした、少年だった。
 全身黒服の少年はぽつりと呟く。

「……逃げられてしまったな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

現実の世界

チルカワ桜那
児童書・童話
時は争いの時代。1人の少女がいた。

魔法が使えない女の子

咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。 友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。 貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。

時間泥棒【完結】

虹乃ノラン
児童書・童話
平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行くと、不思議な空間に迷いこんでしまう。 ■目次 第一章 動かない猫 第二章 ライオン公園のタイムカプセル 第三章 魚海町シーサイド商店街 第四章 黒野時計堂 第五章 短針マシュマロと消えた写真 第六章 スカーフェイスを追って 第七章 天川の行方不明事件 第八章 作戦開始!サイレンを挟み撃て! 第九章 『5…4…3…2…1…‼』 第十章 不法の器の代償 第十一章 ミチルのフラッシュ 第十二章 五人の写真

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

ショコラ

ももちよろづ
児童書・童話
触れられると、体が溶けてしまう女の子・ショコラ。 友達が欲しくて、一人、当て所無く彷徨う。 或る冬の日、ショコラは、 自分を溶かさない相手と、運命の出会いを果たす。 ※本文中イラストの無断転載は禁止

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

コチラ、たましい案内所!

入江弥彦
児童書・童話
――手違いで死んじゃいました。 小学五年生の七瀬こよみの死因は、事故でも事件でもなく書類上のミス!? 生き返るには「たましい案内所」略してタマジョとして働くしかないと知ったこよみは、自分を手違いで死に追いやった閻魔見習いクロノとともにタマジョの仕事を始める。 表紙:asami様

処理中です...