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後日談

告白はセックスの合間に④

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 漏れた。ローション。何故。ローション。椎原はぐるぐると短い単語と疑問だけを頭で回しながら岡地をベッドに下ろす。答えはすぐ分かった。「気持ち悪い」と岡地が自分のズボンとパンツを脱いだからだ。

「え、何これ」

 パンツと岡地の股間の間に糸が引く。アナル用の粘ついたローションが、一筋垂れて防水シーツの上に早速落ちた。

「準備しといた」

 事もなげに岡地は椎原の疑問に答える。
 
「えっ、これ!? 風呂で? 帰ってきてから?」
「そう」
「ずっと尻にローション仕込んだまま飲んでたの?」
「うん」

 淡々と岡地は頷く。その素直な物言いは酔っているからこそだが、平坦なテンションはいつも通りだ。更に「すぐ入るようにしてある、さっさと突っ込め」とまで言われると岡地の合理的なプレイになる。あまりにも即物的だ。挿れて出すだけのセックスをしようと言われている。岡地のこういうムードを大事にしないところが椎原は嫌いだった。
 ――嫌いだったのに。

「え~~~~~、待って……お前がこれ解したの? 自分で?」

 今日は逆だ。自分とセックスするためにわざわざ最後まで一人で準備してしまったという。即物的なはずの岡地のその行動にやけに興奮する。

「めっちゃテカってるし濡れてる」
「あっ、やめろ、触んな」
「やわらかい……えっろ」

 椎原に死んだと思われたほどの長風呂で、岡地は散々尻穴を解していた。だから今更前戯なんて必要ないはずなのに、椎原は指を突っ込んでくる。二本を簡単に飲み込んで、岡地は自分の手で口を塞いで声を我慢する。

「ふっ……ん」
「そんでもう感じちゃうし。何で? この間のやつで開発しきっちゃった? 岡地がえろ過ぎてキレそうなんだけど」
「はっ、ん、ぐっ」

 とんとん、と椎原が岡地の中の膨らんだところを叩く。たっぷり仕込まれたローションがくちゅくちゅと音を立てる。

「あっ、やめ……っ、しいはらっ」

 あっあっ、と気持ち良さそうな声を上げる岡地に、椎原は怒りにも似た劣情を覚える。何でこんなに感じているんだ。岡地の尻をいじるのはまだ二回目のはずだ。

「お前本当にケツやんの初めて?」
「ぐぅ、当たり前だろ……っ」
「少し触っただけでビンビンになるとかさ、もう出来上がってんじゃん」

 すっかり勃ち上がっている岡地の前を、椎原が指で押す。口で言うのと同じように指摘するような指の動きに、ドッドッと岡地は心臓の音が大きくなる。早く擦って欲しいとどうしても期待してしまう。だが椎原は前には触らず、後ろの穴に3本目の指を入れる。

「はっ、しいはら、あっ、あ」

 3本までは岡地は自分でも解すために挿れていた。だから難なく受け入れ、ずりずりと中を擦られ、声が出る。岡地は本当にアナルセックスを受け入れるのは初めてだ。でも感じることは分かっていた。
 
 椎原を受け入れるため、岡地は自分で尻穴を解そうと決めた。それは、自分が痛い思いをしないためでもあるが、早く椎原に良くなってもらおうと思ったからだ。男同士は面倒くさい、簡単にはセックス出来ない。やると言ってるときに出来ないと椎原は諦めるかもしれない。別に岡地は抱かれたいと思ったことはないが、椎原が自分とのセックスに興味を失うと同時に、自分への好意も失ってしまうかもしれないと思うと、岡地は嫌で嫌で仕方なかった。
 自分で自分の尻を仕込んでる間、岡地は椎原に抱かれる想像をした。尻で感じるためには雰囲気作り、感情を高めることが大事だからだ。そしてそれはそれなりに興奮して、ちゃんと感じることが出来た。良かった、椎原とセックスが出来る。
 でも本当に椎原に触られてる今の方がずっと感じる。
 岡地は椎原が好きだ。椎原が思ってるよりもずっと。

「はあっ、あっ、しいはら、しいはら……っ」
「……うん」

 何度も名前を呼ばれて、椎原は頷く。普段、こんなに岡地が椎原の名前を呼ぶことなんてない。求めるような呼びかけに、椎原はいつもと違う岡地の様子を察する。

「ごめん、なんかもう、たまんないわ。挿れていい?」
「は、だから、さっさと挿れろ……っ」
「言い方~~~」

 岡地の雑な言い方はいつもと変わらない。いつも通り椎原はそれを指摘するが、もう笑ってしまう。何でかこのやりとりに愛を感じる。椎原は本当はきちんと手順を踏んで前戯をしたかったのだが、岡地が可愛すぎて、言われた通りさっさと挿れたくなってしまった。

「ごめんな、次はもっとちゃんとするから」

 次。次があるのか。岡地は言われた意味をぼんやり考えながら、服を脱ぎ、正常位で足を抱える椎原を見上げる。ぐっと入ってくる感覚に息を吐いた。

「はっ、あ、あ……っ!」

 下から入ってくる分、上に逃げそうになる。シーツを掴んでそれを我慢して、岡地は椎原を受け入れる。自分で解した上に椎原にもいじられた穴は、根本まで椎原のものをちゃんと飲み込める。

「あ~、やばい、挿れただけでいきそう」
「……早漏……」
「挿れたの久しぶりだから!」

 椎原は岡地の減らず口をむに、と手で挟む。きっと初めてだろう岡地のために馴染むまで待とうとするのだが、正直我慢ならない。

「椎原、動け」

 岡地がそう言ってまたねだるから余計だ。

「うー、もうちょっと……」
「いくの我慢してんのか?」
「ちが、あ、締めんなよ」
「はは、っ」

 余裕ありそうに笑って振る舞うが、岡地は顔を歪めて息を詰める。自分で締めたくせに、と椎原は非難を思い浮かべるが言わない。試しに腰を少し引いてみると、ぬるぬると滑って動きはスムーズに出来る。岡地は声を我慢して眉根を寄せていた。その表情は痛いのかどうか椎原には判断つかない。気遣ってゆっくり中へ押し戻すと、びくびくと岡地の腰が震えた。ああ、これは駄目だ。椎原の方が気持ち良くて興奮する。

「はあ、もう、我慢できねー……」
「あっ、ぐ、んぅ」
「気持ちいい? 岡地、痛くない?」

 スムーズに出来る分、手加減無しに動いてしまいそうになる。岡地に様子を聞くが、「平気だ」と言うばかりで気持ちいいとも痛いとも言わない。だんだんと椎原の我慢がきかなくなり、動きが速く大きくなる。

「はあっ、あ……っ、しい、はらっ、あっ」

 名前を呼ばれると更に興奮する。返事をしなければもっと呼んでくれるかも、と椎原は黙って腰を振る。岡地は何度椎原が聞いても気持ちいいとは言わない。でも名前は呼んでくれる。しつこいくらいに。

「椎原、うぐ、あっ……しいはらぁ」

 椎原が喋らない分、岡地が喘ぐ。色っぽい声にぞくぞくする。そのまま椎原は荒い息だけ繰り返して岡地の声を聞いていれば良かったのに、欲が出た。

「岡地、俺のこと好き?」

 これだけ分かりやすいのに、きちんと聞きたくなってしまった。
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