上 下
14 / 25
カフェ 卯月(うげつ)堂

第十四話

しおりを挟む


「一人で探すより、大勢で探した方が効率良いじゃない」

 ナオヤがへらりと笑みを見せる。

「私は貴方達と出会ったばかりなのに?」

 知り合いでも、友達でもないのに。

「私の問題なの。貴方達には何のメリットもないわ」

「メリット?」

 きょとんとトシキが目をしばたたかせた。

「チヒロちゃんがそれで笑ってくれるなら、嬉しいから……かな。俺達の自己満足」

 彼はそう答えると朗らかな笑みを浮かべた。

 彼女の心に暖かな何かを感じ始めたそのとき、トシキの視線が徐々に泳ぎ始める。
 チヒロが注意深く眺めていると、

「自分でもクサイ台詞吐いたなぁ」

 そう呟いて、気恥ずかしげに顔を両手で覆った。

「うん、さらりと凄いこと言ったなぁって思ってた」

「青春だなぁ」

「その台詞、使わせてもらいます」

 コウスケが、そしてナオヤとノリヒトが言葉を続けると、

「やめて、穴掘って埋まりたくなるから!」

 穴を掘って埋まる代わりにカウンターへと突っ伏す。
 耳まで真っ赤だ。
 少し天然らしい。

「ふふっ」

 チヒロは小さく笑いを漏らした。

「さて、目的の物はわかったとして……」

 ナオヤがトシキに目配せをする。
 彼は察したのか、溜め息と共に、

「探しに行きたいんでしょ?」

「あ、わかった?」

「……良いよ。仕入れの方は俺が回るから」

「悪いね! 今度は一緒に行くからさ」

「はいはい」

 ナオヤがあっけらかんとした表情で謝罪するのを、慣れた様子でトシキはひらりと手を振った。

「それじゃあ、探しに行こうか!」

 張り切った様子でカウンターから出てくると、チヒロに手を差し伸べる。
 今から大冒険に出掛けるかのように楽しそうだ。

「ノリ君とコウスケも一緒に来る?」

「あ、私は原稿があるので」

「僕は行く!」

「よし、それじゃあコウスケも行こう!」

「よーし、探そう、探そう!」

 ナオヤとコウスケが盛り上がる中、

「あまり遅くならないようにしてくださいね」

 ノリヒトは紅茶を飲み干して、カップを片付け始める。

「ここは私が片付けますから、皆さん、行ってください」

「ノリ君、ありがとう!」

 チヒロは、ほんわかと微笑むコウスケに、僅かながらもほんわかとした笑みをノリヒトが返したように見えた。

「夕飯までには帰ってくるんだよ!」

 トシキの声を背に受けながら、彼女は右手をナオヤに、左手をコウスケに、二人に引かれて店を後にした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『元』魔法少女デガラシ

SoftCareer
キャラ文芸
 ごく普通のサラリーマン、田中良男の元にある日、昔魔法少女だったと言うかえでが転がり込んで来た。彼女は自分が魔法少女チームのマジノ・リベルテを卒業したマジノ・ダンケルクだと主張し、自分が失ってしまった大切な何かを探すのを手伝ってほしいと田中に頼んだ。最初は彼女を疑っていた田中であったが、子供の時からリベルテの信者だった事もあって、かえでと意気投合し、彼女を魔法少女のデガラシと呼び、その大切なもの探しを手伝う事となった。 そして、まずはリベルテの昔の仲間に会おうとするのですが・・・・・・はたして探し物は見つかるのか? 卒業した魔法少女達のアフターストーリーです。  

しゃぼん玉

ほのぼの
キャラ文芸
ネグレクトを受けていた少女と小さな秘密を抱えた青年の温かい日常……

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

王女とメイド

けいご
キャラ文芸
すごく短い物語です。 王女とメイドの 日常のやりとり。

四季

トウリン
キャラ文芸
あたしと、大好きなチィちゃんのお話。

樹海男VS神奈川県横浜市

夜桜サトル
キャラ文芸
舞台は【神奈川県横浜市】。 『横浜相席居酒屋ハッピーチョイス』のリア充(リアルに充実)している店長は、求人面接で、一人の男を馬鹿にして殴られる。 その男は、42歳になるまで、『富士の樹海』の奥で猿達と生活していた、樹海男であった。 樹海男は馬鹿にされたことにプライドが傷付き、「謝ってオラのことを雇うまで帰らない」と言う。 店長は警察に連絡して、樹海男を追い出すが、樹海男のしつこさに何かを感じ、ある条件をクリアすれば、謝って雇うことを考えてもいいと言い放つ。 条件は『閉店時間までに、新規の女性客三人を連れて来ること。ただし、美女で十八歳以上であること、北海道出身と京都出身と沖縄出身であること、A型と0型とB型であること、そして最後に処女であること』であった。 樹海男は即答する。 しかし、今までこの条件をクリアできた者はいなく、不可能な条件であった。 さらに『横浜』の人間達による数々の試練が、樹海男に襲い掛かるのであった。 ※他サイトでも投稿されている重複投稿作品です。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...