上 下
40 / 59
第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者

しょうじょの なみだ

しおりを挟む




「いえ、こちらも村の人達を大変驚かせてしまいました。ここはお互い様にしませんか」

 伊達に幾千の修羅場を潜っていないレジェンドクラスの(以下略)
 勇者って、ある意味、神経って言うか精神的に強いよな。
 まぁ、そうでなくっちゃ、やってられないっていうのもあるんだろうけれど。

 子どもらしからぬ口調が気にならないのか、やんわりと微笑んでスルーのエルアルト。

「さすがはレジェンドの勇者、なんと慈悲深いことか」

「しっかりしたチビッコね。さぞかし、親御さんが立派に教育したのねぇ。ダァリィン、アタシも子どもが欲し」

「この近くに村があるのですか?」

 最後まで言わせねぇよ、という意味なのか、それとも照れ隠しなのか、エルアルトはママの言葉を切る。

「んもぅ、ダーリンの照れ屋さん! ドゥフフフフゥ」

 ぼそっと呟かれたママの笑い声を、不幸にも俺の耳は拾ってしまった。

 マジで怖い。
 その笑い、悪夢で今晩あたり再現されそうだ。

「我らの住む村は、名も無き小さな集落。村ばかりだけではなく、この森一帯が土地開発の危機にさらされておる」

 意識をノエルに戻すと、彼女はエルアルトにファルメールが計画している土地開発の一連を説明していた。
 この土地が彼等の聖地であること、そればかりか、子孫繁栄が限定されていることも。

「ここは……我々一族が生き残るための、大切な土地……っ!」

 ノエルは気丈に説明をしていたが、不意にぽろりと大粒の涙がこぼれた。
 それに胸を打たれた俺は思わず手を伸ばし、彼女の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「それで、ホワイトドラゴンの人形で撃退しようと」

 成る程とエルアルトが頷く。

「ホワイトドラゴンは、半端な戦士や魔法使いが敵うような相手じゃないからなぁ」

 村人の一人がそう言うと、他の男達もそれぞれ首を縦に振った。
 そりゃ、単体でもホワイトドラゴンと出くわしたら、大抵の人は逃げるだろう。

「ホワイトドラゴンが出たと……魔法使いから報告を受けたファルメールは、今度は大勢の傭兵や勇者達を募り始めたのだ」

 そこから複数の人形を用意する経緯に至ったそうだ。
 ホワイトドラゴンが次々と姿を現したら、それはもう相手にならない。
 玄人戦士ですら退避を余儀なくされるだろう。

「これでしばらくは攻撃の手が止まるかと思えば……」

 ノエルや村人はエルアルトとママを見た。

 そう、金にモノを言わせて、最高位の勇者と戦士を雇ったのだ。
 俺はオマケとしてだが。

 心の中を暗い気持ちが黒く染めていく。
 状況をまったく知らなかったとはいえ、罪もない人々に危うく手を掛けるところだったのだ。

 もし、俺が屋敷の庭でノエルに出会わなかったら……?

 ホワイトドラゴンの人形を見るなり、俺は広範囲系の魔法を放っていただろう。
 その魔法にノエルや村の人々が巻き込まれてしまっていたら……!

 自分で想像して震えがきた。
 俺はもう少しで人を殺してしまうところだったのだ。

「大丈夫。誰も犠牲になんかなっていない」

 顔色を見ただけで察したのか、バルトが気遣うように、そっと耳元で囁いた。
 それが少しだけ救いに思えて、小さく頷いてみせる。

「勇者殿、お助け下さい。ファルメールは己が欲望のために、我らの土地を奪おうとしておるのです!」

 ノエルが突然膝を折り、大地に擦りつけるように頭を下げると、次々に村人達も同じように頭を下げた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】ヒトリぼっちの陰キャなEランク冒険者

コル
ファンタジー
 人間、亜人、獣人、魔物といった様々な種族が生きる大陸『リトーレス』。  中央付近には、この大地を統べる国王デイヴィッド・ルノシラ六世が住む大きくて立派な城がたたずんでいる『ルノシラ王国』があり、王国は城を中心に城下町が広がっている。  その城下町の一角には冒険者ギルドの建物が建っていた。  ある者は名をあげようと、ある者は人助けの為、ある者は宝を求め……様々な想いを胸に冒険者達が日々ギルドを行き交っている。  そんなギルドの建物の一番奥、日が全くあたらず明かりは吊るされた蝋燭の火のみでかなり薄暗く人が寄りつかない席に、笑みを浮かべながらナイフを磨いている1人の女冒険者の姿があった。  彼女の名前はヒトリ、ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者。  ヒトリは目立たず、静かに、ひっそりとした暮らしを望んでいるが、その意思とは裏腹に時折ギルドの受付嬢ツバメが上位ランクの依頼の話を持ってくる。意志の弱いヒトリは毎回押し切られ依頼を承諾する羽目になる……。  ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者の彼女の秘密とは――。       ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さん、「ネオページ」さんとのマルチ投稿です。

魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙
ファンタジー
真実を司りし神ウェルスの名のもとに、 魔法公証人が秘められし真実を問う。 舞台は多くのダンジョンを近郊に擁する古都レッジョ。 多くの冒険者を惹きつけるレッジョでは今日も、 冒険者やダンジョンにまつわるトラブルで騒がしい。 魔法公証人ルロイ・フェヘールは、 そんなレッジョで真実を司る神ウェルスの御名の元、 証書と魔法により真実を見極める力「プロバティオ」をもって、 トラブルを抱えた依頼人たちを助けてゆく。 異世界公証人ファンタジー。 基本章ごとの短編集なので、 各章のごとに独立したお話として読めます。 カクヨムにて一度公開した作品ですが、 要所を手直し推敲して再アップしたものを連載しています。 最終話までは既に書いてあるので、 小説の完結は確約できます。

処理中です...