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第二部
第103話 俺達と理解
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「──── そのようじゃな。驚いた。なんじゃこの力は」
ハーピィのお姉さんは静かにそう言った。
自分がどういう状況になったかをすぐに理解したんだろう、想定より取り乱す時間が短かった。
さすがはダンジョンのボスのトップか。
「それは俺のステータスカードをみたらわかる」
「たしか、現世のお主らの力量の確認手段だったか? 気になるな、是非見せてもらおう」
俺は胸ポケットからステータスカードを取り出そうとした。……が、麗しき相棒に抱きつかれているので不可能だった。
本心を言えば、この状況のまま百年過ごしても構わないんだが、まあ、そうもいかないよな。
「ロナ、悪いが身動きが取れないんだ。ハグしてくれるのは嬉しいが一旦離れてくれ」
「あ……う、うんっ! ご、ご、ごめんね」
「いいさ、俺の方が謝らなきゃいけないこと沢山あるしな」
そういや、俺と互角になったことでお姉さんから威圧の力も無くなったのか、ロナの震えが止まっている。
これなら彼女も問題なくお話に参加できそうだ。
抱擁から解放された俺はカードを取り出し、お姉さんの方に向ける。彼女は人差し指を軽く曲げ、投げてこいとジェスチャーをした。
俺はお望み通り、実にクールにそれを投げ飛ばす。うん、中々綺麗に飛んだもんだ。
無論、強者であるハーピィのお姉さんも一発でカッコよく……。
「あっ。すまん、失敗した」
カッコよく背後に落ちたカードを拾い上げ、それを眺め始めた。……お茶目なところもあるとは、素敵なお姉さんだぜ。
それから俺のカードを読み進めていくほどに、だんだんと彼女の口角は上がっていった。
なんなら読み終えた頃には、満面の笑みで笑い出していた。
「くくく……はは……。あはははははは! はぁ、そうか。そうかそうか。女に拘り初めてから、もしやとは思っていたが……おいザンとやら。今度はその帽子をよく見せてみろ。あ、投げなくて良い、掲げろ」
「ああ、こうか?」
俺は愛帽を手に取って、言われた通りに掲げてみた。
ハーピィのお姉さんはそれ見て満足そうに頷く。どうやらこの帽子に見覚えがあったようだ。
「やはりそうか! 話に聞いた馬鹿な少年とはお主のことじゃな。緑宝玉のような骨の男と剣を交えたであろう? そして、その帽子は彼奴から受け取ったもののはずじゃ」
「よく知っているな。ってことは、あの骨の剣士は……」
「うむ、妾の同胞にして同格の存在じゃな」
あー、やっぱりそうだったのか。
そうなると、俺とロナは初めてのダンジョン攻略でいきなり最高峰の強さを持つ魔物を引き当てたってことになるな。
まったく運が良いんだか、悪いんだか。
いや、出会った上で打ち勝てて強い宝具まで貰ってるから、かなり良い方なんだろうな。
ていうか、ダンジョンのボス同士って連絡が取り合えるのか。
そして連絡を取れるってことは、生きてるんだなアイツ。まあ、思えば当然のように帰り際に喋りかけてきたしな……首取れたまま。
「彼奴を軽々と倒せるんじゃ、妾が敵うはずもなかった。お主の呪いに塗れた力は、弱点こそ数多くあれど……妾達のように真正面から挑戦者を向かえねばならぬ存在には滅法強いな」
「ああ、そうかもな」
「お主のような者が現れるとは……世の中、何が起こるかわからぬものよ」
そう言ったのち、ハーピィのお姉さんは気品を感じる優雅な歩みでこちらへ近づき始めた。
それを見たロナは、慌てて俺を守るために立ちはだかろうとしてくれたが……俺はそれを必要ないと止める。
お姉さんからはもう、全く敵意を感じられない。
事実、俺たちの目の前まで来た彼女は、ステータスカードを差し出しながらこう述べた。
「……さて、ザン。お主はお互い無傷で戦いを終えるのが望みだったか? よかろう、妾の負けじゃ。その願い叶えてやる。妾もすっかり戦う気を無くしたしな」
「おお! それは感謝するぜレディ」
「しかし……互いに戦意がない状況など、この場では普通あり得ぬ話。せっかくじゃ、もう少しゆっくりしていかぬか? 妾にお主らのことを聞かせてみよ」
つまりは俺達とのんびりお話がしたいってことか。そいつはいい、むしろ俺から誘いたかったところだ。
ははは……ダンジョンのボスと世間話を試みた人間なんて、俺の他にはいないだろうな。
「もちろんさレディ、よろこんで。それじゃあ、ここからは楽しいティータイムとしよう」
「おお、茶か。そんなもの最後には飲んだのはいつだったか……茶菓子はあるんだろうな?」
「ああ」
「えっ! ザン、お菓子なんていつの間に用意してたの?」
「今まで言わなかっただけで、こういう時のために紅茶に合うお菓子はいくらか保存してるのさ」
いつ、どこで、レディ達とティータイムを楽しむチャンスがあるかわからないからな。紳士に準備不足やぬかりなどないのさ……たまにしか。
というわけで俺は、久しく紅茶を飲んでいないというレディのために最高の一杯を淹れよう。
(たぶん)高貴な女性のお口に、この紳士の紅茶が合うといいんだがな。
ちなみに茶菓子はケーキだ。
先々週、ドロシア嬢達がお土産にくれた高級なやつだ。まだ半ホール残っているため、それを綺麗に三等分する。
『シューノ』は腐敗や味の劣化を気にしなくていいから助かるぜ。
机と椅子も取り出して……うん、これでよし。
さ、戦場になるはずだったこの場所で、ゆったりとした平和的な時間を過ごそうじゃあないか。
=====
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ハーピィのお姉さんは静かにそう言った。
自分がどういう状況になったかをすぐに理解したんだろう、想定より取り乱す時間が短かった。
さすがはダンジョンのボスのトップか。
「それは俺のステータスカードをみたらわかる」
「たしか、現世のお主らの力量の確認手段だったか? 気になるな、是非見せてもらおう」
俺は胸ポケットからステータスカードを取り出そうとした。……が、麗しき相棒に抱きつかれているので不可能だった。
本心を言えば、この状況のまま百年過ごしても構わないんだが、まあ、そうもいかないよな。
「ロナ、悪いが身動きが取れないんだ。ハグしてくれるのは嬉しいが一旦離れてくれ」
「あ……う、うんっ! ご、ご、ごめんね」
「いいさ、俺の方が謝らなきゃいけないこと沢山あるしな」
そういや、俺と互角になったことでお姉さんから威圧の力も無くなったのか、ロナの震えが止まっている。
これなら彼女も問題なくお話に参加できそうだ。
抱擁から解放された俺はカードを取り出し、お姉さんの方に向ける。彼女は人差し指を軽く曲げ、投げてこいとジェスチャーをした。
俺はお望み通り、実にクールにそれを投げ飛ばす。うん、中々綺麗に飛んだもんだ。
無論、強者であるハーピィのお姉さんも一発でカッコよく……。
「あっ。すまん、失敗した」
カッコよく背後に落ちたカードを拾い上げ、それを眺め始めた。……お茶目なところもあるとは、素敵なお姉さんだぜ。
それから俺のカードを読み進めていくほどに、だんだんと彼女の口角は上がっていった。
なんなら読み終えた頃には、満面の笑みで笑い出していた。
「くくく……はは……。あはははははは! はぁ、そうか。そうかそうか。女に拘り初めてから、もしやとは思っていたが……おいザンとやら。今度はその帽子をよく見せてみろ。あ、投げなくて良い、掲げろ」
「ああ、こうか?」
俺は愛帽を手に取って、言われた通りに掲げてみた。
ハーピィのお姉さんはそれ見て満足そうに頷く。どうやらこの帽子に見覚えがあったようだ。
「やはりそうか! 話に聞いた馬鹿な少年とはお主のことじゃな。緑宝玉のような骨の男と剣を交えたであろう? そして、その帽子は彼奴から受け取ったもののはずじゃ」
「よく知っているな。ってことは、あの骨の剣士は……」
「うむ、妾の同胞にして同格の存在じゃな」
あー、やっぱりそうだったのか。
そうなると、俺とロナは初めてのダンジョン攻略でいきなり最高峰の強さを持つ魔物を引き当てたってことになるな。
まったく運が良いんだか、悪いんだか。
いや、出会った上で打ち勝てて強い宝具まで貰ってるから、かなり良い方なんだろうな。
ていうか、ダンジョンのボス同士って連絡が取り合えるのか。
そして連絡を取れるってことは、生きてるんだなアイツ。まあ、思えば当然のように帰り際に喋りかけてきたしな……首取れたまま。
「彼奴を軽々と倒せるんじゃ、妾が敵うはずもなかった。お主の呪いに塗れた力は、弱点こそ数多くあれど……妾達のように真正面から挑戦者を向かえねばならぬ存在には滅法強いな」
「ああ、そうかもな」
「お主のような者が現れるとは……世の中、何が起こるかわからぬものよ」
そう言ったのち、ハーピィのお姉さんは気品を感じる優雅な歩みでこちらへ近づき始めた。
それを見たロナは、慌てて俺を守るために立ちはだかろうとしてくれたが……俺はそれを必要ないと止める。
お姉さんからはもう、全く敵意を感じられない。
事実、俺たちの目の前まで来た彼女は、ステータスカードを差し出しながらこう述べた。
「……さて、ザン。お主はお互い無傷で戦いを終えるのが望みだったか? よかろう、妾の負けじゃ。その願い叶えてやる。妾もすっかり戦う気を無くしたしな」
「おお! それは感謝するぜレディ」
「しかし……互いに戦意がない状況など、この場では普通あり得ぬ話。せっかくじゃ、もう少しゆっくりしていかぬか? 妾にお主らのことを聞かせてみよ」
つまりは俺達とのんびりお話がしたいってことか。そいつはいい、むしろ俺から誘いたかったところだ。
ははは……ダンジョンのボスと世間話を試みた人間なんて、俺の他にはいないだろうな。
「もちろんさレディ、よろこんで。それじゃあ、ここからは楽しいティータイムとしよう」
「おお、茶か。そんなもの最後には飲んだのはいつだったか……茶菓子はあるんだろうな?」
「ああ」
「えっ! ザン、お菓子なんていつの間に用意してたの?」
「今まで言わなかっただけで、こういう時のために紅茶に合うお菓子はいくらか保存してるのさ」
いつ、どこで、レディ達とティータイムを楽しむチャンスがあるかわからないからな。紳士に準備不足やぬかりなどないのさ……たまにしか。
というわけで俺は、久しく紅茶を飲んでいないというレディのために最高の一杯を淹れよう。
(たぶん)高貴な女性のお口に、この紳士の紅茶が合うといいんだがな。
ちなみに茶菓子はケーキだ。
先々週、ドロシア嬢達がお土産にくれた高級なやつだ。まだ半ホール残っているため、それを綺麗に三等分する。
『シューノ』は腐敗や味の劣化を気にしなくていいから助かるぜ。
机と椅子も取り出して……うん、これでよし。
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