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第二部

第99話 俺達と火の鳥のダンジョン 前編

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「はぁぁーっ!」


 全身が炎に包まれた謎の鳥の群れが、ロナの風の刃によって丁寧に首だけ跳ね飛ばされた。
 なんという緻密ちみつなコントロール……特訓の成果と食い意地のコラボレーションと言ったところか。

 ともかく群れはこれで四組目。計二十羽ちょい倒したな。
 それにもう、ダンジョンの半分ぐらいまでは進んでしまっただろう。

 まだここに入ってからそんなに時間も経っていない、かなりサクサク進んでいると言える。

 しかし、このダンジョン……赤い鳥か、炎に包まれた鳥か、その真ん中くらいのやつしか出てこないな。
 つまり、今回のテーマは「火」と「鳥」といったところか?
 なんとなく、この鳥肉達はスパイスをガッツリ利かせたローストにするのが一番美味いうまい気がしてきたなぁ。

 ホロホロになるまで煮込むのもいいか……。
 と、考えついたその時。俺は取り出しておいた『秘宝の羅針盤 ラボス』がオレンジ色の光を放ち始めたことに気がついた。


「ロナ、近くに隠し宝箱があるみたいだぜ」
「あ、ほんとだ! ここまで魔物以外何もなかったもんね、来るならそろそろかなーって思ってたよ」


 光を辿りながら進んでいくと、ただの壁に着いた。
 一見、他の景色のものとなんら変わりはないが、よくよく見たら何故か亀裂が走っている。なるほど、壁に埋め込まれてるのか。
 はたして、こんなの自力で気がつける人間はいるのだろうか……?

 とにかく、さっそく叩き割ってみると、中から金色の宝箱が現れる。どうせならパンドラの箱がよかったが、ま、悪くはない。
 罠が無いか警戒しつつ『ソーサ』で遠くから回収し、『シューノ』に仕舞い込んだ。

 一旦小休憩を挟んでから先に進むと、また魔物の群れと遭遇する。
 今度の敵もやはり空を飛んでおり、三体の鳥系の魔物の……。

 いや違う……! ただの鳥系じゃない!
 お、俺はコイツらを……いや、この女性達・・・を知っている。

 俺がまだ冒険者を志していた頃、この魔物だけにはもし遭遇したら気をつけなければならないと思っていた。
 なぜなら、この俺はジェントルマンとして彼女らを攻撃することができないから……!


「は……ハー、ピィ……」


 その姿は言うなれば、人間の女性と鳥系の魔物がいびつな形で融合ゆうごうしたナニカ。

 人間で言う腕の部分が羽根になっており、その先端には人間の手が劣化したような形の器官が存在する。

 そして下半身は脹脛ふくらはぎから先が鳥特有の脚になっており、全体から羽毛がワッサワッサと生えている。
 
 また、顔は人間の特徴と鳥の特徴の両方をあわせもつ。
 これがまた非常にグロテスク……いや、女性にそんな感想を抱くのは失礼だろう。……失礼なはずだ。

 何より一番の問題なのが、胴体は裸の女性そのものだということ。
 スタイルが良いとは言い難いが、そこだけ見ていれば普通に女の人となんら変わらない。

 だから……無理だ。傷つけるのも、傷つくところをみるのも。
 わかってはいるんだ。あれはれっきとした魔物だと。頭じゃ理解しているが、でも、ここまでヒトに近いと──── ! 


「だ、大丈夫⁉︎ 顔が真っ青だよ?」
「キェェェェェェェッ!」


 赤い羽を見にまとった三人のハーピィ達は、甲高かんだかい奇声をあげ、こちらに襲いかかってきた。
 声も女性と鳥の半々。なんだか身体の底がゾワゾワする。

 しかも、どうやら俺の『強制互角』が発動しない。

 ……いや、撤回しよう。なんとか発動はした。
 二つある発動条件のうち、向こうからの敵意という方法で。

 逆に言えば俺からは敵意を向けることができなかったんだ。
 ああ、俺は俺のポリシーを守っているようだ。良くも悪くも。


「ハーピィが苦手なの? ……ん、私もなんだか人みたいだから倒すのは気が引けるし、このまま逃げちゃおっか」
「あ、ああ」


 ロナは俺の手を取り、走り出した。
 幸い、ハーピィ達は他の魔物と同じように極度の弱体化に戸惑って追ってこない。

 やがて俺達は別の鳥の魔物の群れの前に辿り着き、そいつらを倒した後、一息つくことにした。


「はぁ……はぁ……」
「……ね。ザンって私がほんのちょっと怪我した時も取り乱してたし、もしかしてだけど、ハーピィの傷つくところも見たくなかったのかな? 気分悪くなっちゃうくらい」
「ああ、その通りだ。あれだけ人間の女性に近いと……ちょっとな」


 とはいえ俺自身も、本物のハーピィと出会ってここまでクールさを失うことになるとは思わなかった。
 あの三匹が倒され目の前でバラバラの死体になるところまで想像してしまって……な。耐えられなかったんだ。

 
「情けないよな……まったく。ごめん」


 俺のエゴが冒険の邪魔をしたのだから、謝って当然だし怒られて当然だ。
 しかし、彼女は怒るどころか首をゆっくりと横に振りつつ、微笑みながら再び俺の手を優しく握ってきてくれた。


「ううん。私なんてザンのその優しさに救われたんだから、情けなくないよ、大丈夫っ! むしろ、信念を貫き通しててかっこいいと思うな!」
「……そっか、ありがとう」


 あんな俺を見ても、まだかっこいいと言ってくれるのかロナは。
 なんてできたレディなんだ……ますます惚れてしまいそうだ。

 ま、でも確かに一度醜態しゅうたいさらしたくらいでクヨクヨするなんてノットジェントルだったかもな。
 はは、俺らしくない。さっさと気を取り直そうじゃあないか。


「……よし! おかげで持ち直せたぜ、助かった。さ、次に行こう」
「うん!」


 その後はハーピィと出会っても逃げて対処し、それ以外の魔物は今まで通り普通に倒して進んでいった。
 おかげで鳥肉がかなり収穫できたぜ。

 そして程なくして、宝箱が隠されているということも、罠があるということも特になく、そのままゴールまで辿り着いてしまう。

 どうやら、ハーピィを見て俺が勝手に取り乱したことを除けば、ほとんど前に進むだけのダンジョンだったようだ。
 ただ、ゴール前はそのままボスの部屋に繋がっておらず、赤く巨大な門がそこをさえぎっていた。
 
 ……とはいえそれにも別に何か仕掛けなどはなく。
 普通に押しただけで開いたので、俺達はそのまま中へ入っていった。



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