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第二部

第96話 俺達と宝箱開封 前編

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「……素晴らしい」


 俺は、リビングを見渡して思わずそう呟いた。
 ロナもそれに同意して激しく何度も頷き、うっとりとした表情を浮かべている。


「完成だね!」
「ああ、完っ璧にな」


 この家を正式に譲り受けてから、もう八日は経ったか。
 二人で住むにしては広いこの家に必要なものを揃えるのに、かなりの時間を要してしまった。

 だが、これからはこの家で何でもやり放題だ。
 ロナのトレーニング器具も買い揃えたし、俺の調理器具やガーデニングセットも揃えた。各々、好きなことを好きなだけできる。

 家具も選びに選び抜き、今まで見てきたものを参考にしつつ、二人で相談し合って決め、非常にオシャレで落ち着く空間を作り出せた。
 家全体の掃除や整備も済んだし、今ところはこれ以上の手の付けようがないだろう。

 何千万もの臨時収入のおかげで資金を気にせず買いたいものを買えたのが良かった。また、『シューノ』と『ソーサ』のおかげで重い家具の移動が俺一人で全部できたのも良かった。

 今この瞬間は、俺たちにとってこれ以上素晴らしい場所は存在しないだろうな。


「おうち……私達だけのおうち……! えへへ」
「これで生活の基盤は整った。本格的に活動を再開できるな」
「そだね!」


 ダンジョン攻略にはもう二週間近く行っていないことになる。
 だから俺たちは久しぶりに、明日、四度目のダンジョン攻略をする予定だ。

 この二週間の間……魔物は一切倒してないから、レベルは上がっていないものの、伝説の冒険者による四日間の特別授業を受け、さらに忙しい中でも毎日数時間ずつ特訓を欠かさなかった。

 だから、正直だいぶ強くなっている。主にロナが。
 いや、ちょっと違うかな? 彼女が強くなったっていうよりは、強かったことにちゃんと気がついたっていうか……まあいい。
 
 とにかく明日は俺達の成果をダンジョンにぶつける。
 どんな結果になるのか、楽しみで仕方ないぜ。


「あと、今日はどうするんだっけ。お家でのんびりするんだっけ?」
「いいや。この日までとっておいたお楽しみがあるだろう。それをしなきゃな」
「お楽しみ……? あ、叔父さんからもらったパンドラの箱だ!」
「そうだ。それの中身の確認をしようぜ」
「うんうんっ、そだね」


 叔父の講義の初日、彼は俺の元に七つのパンドラの箱をホクホクとした様子で持ってきた。改めて【呪い無効】の知り合いができたことが心底嬉しかったようだ。

 ただ『七つ』ってのは綺麗に半分にできない数であり、二つでワンセットである俺の決めた取引内容では、残念ながら全てを開けることができない。

 ……が、今回は特別に講義の礼ということで、俺が三つもらい、ザスターに四つ残す配分で引き受けたんだ。

 ちなみに、そんな彼の取り分のうち一つがどうしても欲しかった宝具が入ってるという箱だった。それ以外の箱はこちらに自由に選ばせてくれたな。

 なんでも、その宝具さえあれば、ザスターはまた一段と強くなるそうだ。黄色い目を少年のように輝かせながらそう言っていたぜ。
 でもあれ以上強くなるって、一体どんな宝具なんだ……?

 また、箱の中身がわかっていたのは、彼の相棒であるオレンズのおっさんの能力らしいな。便利な力もあったものだ。
 
 とにかく、そうして手に入れた三つのパンドラの箱の中身の確認は、ゴタゴタが全部済むまでお預けにしておいた。
 いや、開けてゆっくり確認する時間がなかったってのが正しいか。
 

「もう開封はしてある。のんびり見ていこうぜ」
「ザン、今回も説明よろしくお願いしますっ」
「ふっ……任せておいてくれたまえ、レディ」


 というわけでさっそく見ていこう。
 まず、アイテムの個数は合計で十一個、宝具の数は九個だ。

 ……あー、パンドラの箱から出る宝具は最低三つ、多くて四つのハズだから、どうやら今回は下振れてしまったみたいだ。
 ま、そういうこともあるよな。

 で、宝具じゃないものは、なんかの魔物のウロコ一枚と、[スピルウル]という魔法が入った札一枚だった。
 前者は俺たちにとっては単なる換金用だが、後者は違う。

 ロナによればこの魔法は、速度上昇の補助魔法らしい。
 それも上級。人が自力で覚えられる限界である、最上級の一歩手前だ。

 速度上昇ってだけで剣士のロナとは相性抜群なのに、既に成長済みなのは嬉しすぎるぜ。
 これは宝具ではないが、俺達にとってはかなり当たりだったと言っていいだろう。

 
 そして肝心の宝具だが……。
 一つ目の宝箱からは『雪隠れの弓 ラグフット』という氷属性の弓と、<隠雪氷撃おんせつひょううち>という氷属性の弓矢用の究極術技が出た。
 
 一応ロナは弓も扱えるらしいが、彼女自身はそれを得物にするつもりは全くなく、そして俺の持つ力とも噛み合わないため、この氷属性の弓矢セットは売却することになりそうだ。
 
 ただ、同じくその宝箱から出てきた、この『妖雪兎の御守石 サムウサ』だけは違った。


-----
「雪兎の御守石 サムウサ」<宝具>

 このアイテムは、自身の血液と魔力を込めた者を所有者とする。

 上記で得た所有権は、所有者本人が意図して再び自身の血を捧げる、所有者の死亡、所有者がこのアイテムを紛失した上で存在を忘れる、このいずれかを満たすと解除される。

 また、以下の効果はこのアイテムを身近に置いていないと発揮されない。

・所有者が受ける氷属性の攻撃の威力を極大ダウンさせる。
・魔力を10から60消費し、消費した魔力の数値と同じ分数だけ寒さに強くなり、気温が低い環境でも問題なく活動できるようになる。
-----


 まあ、冒険者じゃないからこれを使うほど寒い場所に行く機会なんてあるか正直微妙だが、いざという時は便利だろう。とりあえずとっておくことに越したことはないよな。

 そして二つ目の宝箱からは、『魔法上昇の札』というものが出てきた。
 これは前に入手した、『能力上昇の札』と同系列のアイテムで、覚えている魔法の成長段階を一つ上げることができるようだ。

 例えばさっき手に入れた上級魔法を、さっそく最上級にできたりするわけだな。
 で……それが何故か三枚ある。ああ、全く同じものが三枚だ。
 
 たしかにいくらあっても困るもんじゃないけれど、一つの宝箱から複数枚出てくるとは実に予想外。こういうこともあるのか、覚えておこう。


 当然、これは全てロナへプレゼントすることになるわけだが……彼女は、今回から遠慮せずにきちんと受け取ってくれるはずだ。

 というのも、この家に引っ越してからの優雅なティータイムの最中。
 その時していた話の流れから、俺が箱開け屋として仕事をし、手に入れた宝具の処遇をしっかりと決めることになったんだ。

 いや……決めたっていうより説得した、だな。

『たしかに箱開けにはロナは関与してないが、俺達コンビは二人で一人みたいなもの。ロナが強くなることは、俺の安全に直結する』

『だから俺がロナへ渡すべきだと決めたものは、素直に受け取ってほしい。そのかわり、不要な宝具を売って得た金は俺の取り分にする』

 ま、要約するとこんな感じのことを彼女に言ったわけだ。
 特にロナが強くなる、イコール、俺の安全になるってのが説得の決め手になったみたいで、その言葉を聞いて強く頷いていたっけな。

 手紙と共に口説くのもそれはそれで悪くはないのかもしれないが、クールに考えてめっちゃ効率悪いからなアレ。
 とりあえずこれで良かったはずだ。……ちょっと寂しいけど。



 
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