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第二部
第71話 俺達と鑑定士
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「なんだ、これ」
「どうだったの?」
「……どういうわけか、読めないところがいくつかあるんだ」
「ええ⁉︎」
こんなことは今までになかった。
なんだよ、閲覧不可って。いや、まあ、そのままの意味で捉えたら俺じゃ見れないってことだろうが……。
あっ、でも案外そんなに大した話じゃないかもしれないな。
なぜなら──── 。
「まあ、こうして国が直々に管理してる場所が、大っぴらに公開してるんだ。やばいモノじゃあないんだろう」
「ん? んー……? たしかにそうかも……だね?」
よし。一旦冷静になれば考察するのは簡単だ。初めてのことだから一瞬、戸惑ったがな。
おそらく宝具も、術技や魔法や能力みたいになんらかの要因で成長することがあるんだろう。
そうして普通より上位に位置するタダモノじゃない宝具だから、俺の『宝具理解』程度じゃ鑑定が出来なかったわけだ。
うん、これならしっくりくる。
でもいいな。
仮説が正しければ、ロナのレベルを上げたり、単純に宝具をあつめたりする以外にも二人揃って強くなる方法はまだまだあるってことじゃないか。
とりあえず、こうして美術館に飾られてるってことは既にこれについて書かれた本や資料が確実にどっかにあるだろう。そのうちちゃんと調べてみよう。
「……あっ! ザン、ポケットの中が光ってるよ」
「マジか!」
ロナに言われて番号札を入れておいたポケットを見ると、たしかに明るい光がもれていた。急かすように点滅もしている。
もう三十分経ったのか、早いもんだ。
驚きもあったが、ミニデートはものすごく楽しかったな……。
「時間だな……教えてくれて感謝するぜレディ。じゃ、いこうか」
「うんっ」
俺達は展示場を出て、少しだけ急ぎ足で取引所へと戻った。
そして受付でヴァンプ族の男性に番号札を返却すると、二号室と書かれた扉に入るよう案内されたので、素直にそのまま向かった。
お高そうなソファ二つとテーブル、赤いバラが飾られた花瓶がアクセントとして置いてある……そんなシンプルだが高級感はあふれている空間がそこにあった。
ここは国営取引所だ。かなりの地位を持った人間が来ることもあれば、一般人も当然利用するだろう。
前者には失礼のないよう、しかし、後者には緊張させ過ぎぬよう……いい塩梅に仕上げられてる部屋だ。うん。
もし俺が将来、商売を始めて応接室を作ることになったら、このデザインを真似するのも悪くない。
それからとりあえずロナと共にソファに腰掛けで誰かが来るのを待っていると、背広を着て資料らしき紙の束を小脇にかかえた、清潔感のある小太りの男性がすぐに現れた。
「お待たせしましたー。ワタクシは今回ザン・コホーテ様とロナ・ドシランテ様の担当をさせていただきます、国家鑑定士のニック・ウマーシと申します、よろしくお願いしますー」
「は、はいっ! よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
「はい、では失礼しますー」
俺達と対面するよう、ニックと名乗った鑑定士が向こう側のソファに座る。
彼は慣れた動作で資料を机の端に置きつつ、俺とロナ自身のことを鑑定するかのように交互に深い目線を向けてきた。
「えー、では本題に入る前にお手数ですが改めてステータスカードの確認をさせていただきたくー」
「えっと、はいどうぞ」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
俺達のカードを受け取った鑑定士は、それを見てもそう大した反応を示さなかった。事前に受付のヴァンプ族から話を聞いていたんだろうか。
軽い礼を述べられつつカードが返却され、さっそく本題に入る。
「それで、えー、売却予定の鑑定希望の宝具をお見せいただけますか。あ、ちなみに大きさはどれくらいでー?」
「どっちも机に乗り切るサイズだな」
「さようですか。ではこちらにお願いしますー」
鑑定士はどこからともなく銀色のトレイを二枚取り出し、机に並べた。俺は促されるまま、その上に『トレジア』の二枚目と『解呪の黒鍵』を置く。
しかしまあ……まだ手放すわけじゃないが、こうして宝具を他人に任せるとなるとちょっとした抵抗が心の中に生まれてしまうな。
ま、不用なものでも宝は宝だもんな。
「ほぉ……ふむ。『ダンジョンの地図』と『解呪の黒鍵』です、か」
「ああ。どっちも新品で、鍵の方は使用回数も全部残ってる」
「そのようですねー。それで、これらの出処は?」
……さて、この質問が来たか。
これは信頼関係を結んでない高級品の取引相手に投げかけるべき、ごく普通の問いではある。
が、俺らが正直に「ダンジョン攻略で手に入れたんです」と答えると実は面倒しかない。
なぜなら、あんまり広めたくない俺の能力についてしっかり説明するか、あるいはそれをボカすような説明をわざわざ考え出さなきゃいけないからだ。
まあ、この質問をされることは分かりきっていたし、どう答えるかはクレバーに前もって考えてある。
あ、でもロナに前もって誤魔化す理由を説明しておくの忘れたな……!
俺としたことが、もしかしたらレディを戸惑わせてしまうことに、な、なるかもしれない……のか。なんという不覚。
でも、この場はこのまま進めるしかないよなぁ……。
「あ……。あー、それはな。まず前提から話す必要があるんだが……俺のステータスを見てくれたから分かるとおもうが【呪い無効】って称号があっただろ?」
「ええ、ありましたねー。大変貴重で重宝します。……もしや、ザン様のお仕事は……」
「悪いが、パンドラの箱を開ける人じゃあない。やりたいことがあってな、仕事は別のことをしてる。でも知り合いから頼まれたら開けてるんだよ」
「ほう……?」
「で、俺は本業じゃないから、パンドラの箱一つ開けるのに別のパンドラの箱一つを金の代わりに貰ってるんだ。厄介払いができる上に大金まで払わなくていいからと、そこそこ喜ばれてる。……で、そいつらはそうやって手に入れたモノだな」
「ははぁ、なーるほどぉ……!」
「……ん? あれ?」
鑑定士はかなり納得した様子を見せてくれたが、一方で、ロナの頭の上にはてなマークが浮かんでいるのが見える。
後でちゃんと説明するからな。この紳士的じゃない俺をどうか許してくれ、ロナ。
=====
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「どうだったの?」
「……どういうわけか、読めないところがいくつかあるんだ」
「ええ⁉︎」
こんなことは今までになかった。
なんだよ、閲覧不可って。いや、まあ、そのままの意味で捉えたら俺じゃ見れないってことだろうが……。
あっ、でも案外そんなに大した話じゃないかもしれないな。
なぜなら──── 。
「まあ、こうして国が直々に管理してる場所が、大っぴらに公開してるんだ。やばいモノじゃあないんだろう」
「ん? んー……? たしかにそうかも……だね?」
よし。一旦冷静になれば考察するのは簡単だ。初めてのことだから一瞬、戸惑ったがな。
おそらく宝具も、術技や魔法や能力みたいになんらかの要因で成長することがあるんだろう。
そうして普通より上位に位置するタダモノじゃない宝具だから、俺の『宝具理解』程度じゃ鑑定が出来なかったわけだ。
うん、これならしっくりくる。
でもいいな。
仮説が正しければ、ロナのレベルを上げたり、単純に宝具をあつめたりする以外にも二人揃って強くなる方法はまだまだあるってことじゃないか。
とりあえず、こうして美術館に飾られてるってことは既にこれについて書かれた本や資料が確実にどっかにあるだろう。そのうちちゃんと調べてみよう。
「……あっ! ザン、ポケットの中が光ってるよ」
「マジか!」
ロナに言われて番号札を入れておいたポケットを見ると、たしかに明るい光がもれていた。急かすように点滅もしている。
もう三十分経ったのか、早いもんだ。
驚きもあったが、ミニデートはものすごく楽しかったな……。
「時間だな……教えてくれて感謝するぜレディ。じゃ、いこうか」
「うんっ」
俺達は展示場を出て、少しだけ急ぎ足で取引所へと戻った。
そして受付でヴァンプ族の男性に番号札を返却すると、二号室と書かれた扉に入るよう案内されたので、素直にそのまま向かった。
お高そうなソファ二つとテーブル、赤いバラが飾られた花瓶がアクセントとして置いてある……そんなシンプルだが高級感はあふれている空間がそこにあった。
ここは国営取引所だ。かなりの地位を持った人間が来ることもあれば、一般人も当然利用するだろう。
前者には失礼のないよう、しかし、後者には緊張させ過ぎぬよう……いい塩梅に仕上げられてる部屋だ。うん。
もし俺が将来、商売を始めて応接室を作ることになったら、このデザインを真似するのも悪くない。
それからとりあえずロナと共にソファに腰掛けで誰かが来るのを待っていると、背広を着て資料らしき紙の束を小脇にかかえた、清潔感のある小太りの男性がすぐに現れた。
「お待たせしましたー。ワタクシは今回ザン・コホーテ様とロナ・ドシランテ様の担当をさせていただきます、国家鑑定士のニック・ウマーシと申します、よろしくお願いしますー」
「は、はいっ! よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
「はい、では失礼しますー」
俺達と対面するよう、ニックと名乗った鑑定士が向こう側のソファに座る。
彼は慣れた動作で資料を机の端に置きつつ、俺とロナ自身のことを鑑定するかのように交互に深い目線を向けてきた。
「えー、では本題に入る前にお手数ですが改めてステータスカードの確認をさせていただきたくー」
「えっと、はいどうぞ」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
俺達のカードを受け取った鑑定士は、それを見てもそう大した反応を示さなかった。事前に受付のヴァンプ族から話を聞いていたんだろうか。
軽い礼を述べられつつカードが返却され、さっそく本題に入る。
「それで、えー、売却予定の鑑定希望の宝具をお見せいただけますか。あ、ちなみに大きさはどれくらいでー?」
「どっちも机に乗り切るサイズだな」
「さようですか。ではこちらにお願いしますー」
鑑定士はどこからともなく銀色のトレイを二枚取り出し、机に並べた。俺は促されるまま、その上に『トレジア』の二枚目と『解呪の黒鍵』を置く。
しかしまあ……まだ手放すわけじゃないが、こうして宝具を他人に任せるとなるとちょっとした抵抗が心の中に生まれてしまうな。
ま、不用なものでも宝は宝だもんな。
「ほぉ……ふむ。『ダンジョンの地図』と『解呪の黒鍵』です、か」
「ああ。どっちも新品で、鍵の方は使用回数も全部残ってる」
「そのようですねー。それで、これらの出処は?」
……さて、この質問が来たか。
これは信頼関係を結んでない高級品の取引相手に投げかけるべき、ごく普通の問いではある。
が、俺らが正直に「ダンジョン攻略で手に入れたんです」と答えると実は面倒しかない。
なぜなら、あんまり広めたくない俺の能力についてしっかり説明するか、あるいはそれをボカすような説明をわざわざ考え出さなきゃいけないからだ。
まあ、この質問をされることは分かりきっていたし、どう答えるかはクレバーに前もって考えてある。
あ、でもロナに前もって誤魔化す理由を説明しておくの忘れたな……!
俺としたことが、もしかしたらレディを戸惑わせてしまうことに、な、なるかもしれない……のか。なんという不覚。
でも、この場はこのまま進めるしかないよなぁ……。
「あ……。あー、それはな。まず前提から話す必要があるんだが……俺のステータスを見てくれたから分かるとおもうが【呪い無効】って称号があっただろ?」
「ええ、ありましたねー。大変貴重で重宝します。……もしや、ザン様のお仕事は……」
「悪いが、パンドラの箱を開ける人じゃあない。やりたいことがあってな、仕事は別のことをしてる。でも知り合いから頼まれたら開けてるんだよ」
「ほう……?」
「で、俺は本業じゃないから、パンドラの箱一つ開けるのに別のパンドラの箱一つを金の代わりに貰ってるんだ。厄介払いができる上に大金まで払わなくていいからと、そこそこ喜ばれてる。……で、そいつらはそうやって手に入れたモノだな」
「ははぁ、なーるほどぉ……!」
「……ん? あれ?」
鑑定士はかなり納得した様子を見せてくれたが、一方で、ロナの頭の上にはてなマークが浮かんでいるのが見える。
後でちゃんと説明するからな。この紳士的じゃない俺をどうか許してくれ、ロナ。
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