上 下
69 / 136
第二部

第54話 俺達と目標の壁

しおりを挟む
「「はっ……八千万ベル⁉︎」」


 俺とロナの驚愕きょうがくした声が、店内にこだまする。
 ……おっと、意図せず声が揃っちまった。
 店の中で大声を出したことを紳士的に恥ずべきか、コンビとして俺と彼女の息が合ったことに喜ぶべきか……ふっ、悩ましいところだ。


「はい、お二人のご要望に沿う形ですと、だいたいそのくらいのお値段には……どうしてもなってしまいますね」


 今、俺達は前に黄色い屋根の店の店主から紹介された不動産屋に、朝一番から足を運んで、相談をしている。
 
 俺達の目標の一つである、自分達だけの拠点を持つこと。
 それを達成するために必要な金額を、そろそろハッキリさせようと思ってな。

 求める家の条件は、「借家でなく土地ごと購入」「庭付きの一戸建てであること」「鍛錬が可能な部屋があること」の三点。

 本当は一から自分達で好みの家を建てたいなんて話もあったんだが、それは流石にかかる金額や時間、あと考えたくはないが俺たち二人の間に万が一のことがあった場合に面倒だということで、中古でも良いということになったんだ、が……。

 まさか、それでも八千万ベルもするなんてな。
 おほ……一億近いじゃあないか。

 いや、俺だって五千万ベルは下らないだろうとクレバーに予想はしていたさ。
 なんてったって、国の中心であるこの王都に家を持つってんだから、そのくらいはするだろうと、な。
 覚悟はしていたんだ。でも覚悟が足りなかったみたいだな。

 ……どうやら、ここまで高額になった理由は、王都だからってだけでなく、「鍛錬用の部屋」の存在が大きいようだ。

 なんでも、一般的にそういう部屋は術技を放っても大丈夫なように、『空間を歪めて拡張される機能』と『自己修復する機能』がエンチャントという形でそなわっていて、まあ、それが値段を釣り上げてる一番の理由らしい。


「ど、どうしよっかザン。私の要望のためにそんな……八千万なんて……! あ、あの、えと、普通の家なら……」
「……いや、それだと俺達が家を買う意味がないぜレディ」
「それは、そうかもだけど……」
「なに、問題はないさ」


 そうだ。

 一瞬、その金額の多さにこの紳士すら気負いしてしまったが、本来なら八千万ベルだろうが、一億ベルだろうが、俺達にとってあんまり大きな問題ではナッシングなのさ。


「元々、家を買うのは目標だろ? 目標としてはいい金額だ、そう思わないか? 俺達ならまあ、そのくらいどうにかなる。超えられるもののはずだ」
「あ。た、たしかにそうだね! 私達二人なら大丈夫! ……かも?」
「そうだ、俺たちなら行ける。それに元から慌てる必要なんてないんだしな」
「うん! ……うんうん!」


 ま、流石に二億とかなら厳しかったけど。
 冷静に、クレバーに考えれば考えるほど、八千万という数字は良いように思えてくる。


「おや、今後の参考に値段を知りたいとのことでしたが……そのご様子だと、問題はなかったようですね」
「ああ、ありがとう。かなりタメになったよ」
「ありがとうございました」
「いえいえ、相談に乗るのも我々の仕事。もし本格的にご購入が決まった際は是非うちで」
「そうさせてもらうよ」


 俺とロナは礼を言いつつ店を出た。
 外はまだまだ、朝日が眩しい。
 ……いいね。なんだか、やる気が込み上げてくる。

 ふんわりとしていた目標。それの、目指すべき到達点をはっきりとさせた。
 はは、それだけで心持ちがこうも上向きになるものなんだ。とても紳士的な気分だぜ。
 
 ロナも俺と同じ気持ちのようだ。
 眉と口角を上げ、目には太陽に負けないほどの輝きが灯っている。相変わらず可愛らしい。


「さて……! ザン、私達、これから久しぶりにダンジョン攻略に行くんだもんね!」
「ああ」
「よーし……なんだかすごく頑張れる気がする!」
「奇遇だな、俺もそんな気分だ」


 元から、今日は俺達の本業であるダンジョン攻略に行く予定だった。
 えっと、前に行ったのはいつだったか……八、いや九日前か?
 色んなものに巻き込まれたせいで、ずいぶん日が空いてしまったな。

 そして金欠とまではいかないものの、この数日間の間に生活用品やら防具やらをしっかり揃えたため、まあまあ所持金が減った。
 
 更新された目標に加え、働く理由もやる気も万全だ。
 ならば、どうだろう。
 ここで一度、いつもより一歩踏み込んだダンジョン攻略をしてみるのは。


「なぁ、ロナ。俺、『リブラの天秤』のギルドで世話になってた時、ダンジョンに関するある話を聞いたんだ」
「ん? なぁに?」
「ダンジョンの長さによって、隠されている宝箱の数が違う……ってな。俺たちは今まで、なるべく最短のダンジョンを選んできただろ?」
「うんうん」
「どうだ? 今の実力と新調した防具、そして目標により近づくために、今回はいつもよりワンランク長めのダンジョンに挑むってのは」
「うん! いいね、そうしよう!」


 なんという強い頷きと、心地よい返事。
 さながら俺たちの今のコンディションは、ダンジョンに宝探しに行く身としては最高なんじゃないだろうか。


「よし、じゃあそうと決まれば……!」


 俺は収納用の宝具『シューノ』から、ダンジョンを示す宝具『トレジア』を取り出し、それを魔力を込めて広げた。
 さあ……攻略と行こうじゃないか、ジェントルにな!


 







=====

第二部、第一話の閲覧ありがとうございます!
今話の時系列は、第一部の終わり(53話)から二日後、閑話の最後の翌日となっています。
まさか去年の六月に一度打ち切っていた作品が、やる気が復活したことによりここまで続けることになるとは思ってもみませんでした。
そのやる気が今もなお継続しているのも、私個人的に2人のやりとりを見続けたいという欲望と、皆様からのコメントやお気に入り登録など、目に見える形で応援してもらえている実感があるためでございます。ありがとうございます。
これからもどうか、応援をよろしくお願いします。
さすれば、これからも物語を描き続けられますゆえ……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

処理中です...