上 下
63 / 136
第一部

◆ 買い物準備の朝

しおりを挟む
「今日はお洋服と防具だよね!」
「ああ、もしかしたらどっちか一方だけで時間がつぶれるかもしれないがな」


 翌朝。
 ロナはそこそこ上機嫌で今日の予定を確認してきた。
 友達との買い物という状況によるワクワクと、防具を見に行くというワクワク、そのどちらもが合わさったような反応を見せている。

 それにしても、昨日から雰囲気が変わったな。
 いつもよりおめかしする時間も数分長かったし……。雑貨屋で買ったものを、試してみたという感じか。


「そういや化粧品を変えたんだな。今日の肌の艶が宝石みたいだぜ。あとブラシや櫛も……」
「え、あ、うん! そうなの、今まで化粧したことなかったから、なんか顔に塗るやつ……? 簡単そうだったから試してみたんだ! 私の叔父が昔にね、女性用の簡単な身だしなみ用の本を買ってくれて、そこから参考にしたの」
「へ、へぇ……そうか」


 え、ぇええええ……嘘だろ。
 今まで化粧をしたことがない……だと⁉︎ じゃあ今までの顔はすっぴん⁉︎ すっぴんであの顔なのか、ロナは……!
 
 いや、たしかに今まで準備がレディにしてはやけに早いなとは思っていたけれど。実は、髪型を整えて着替えていただけだったとは。恐れ入ったぜ。


「それでヘアブラシも言う通り、良いもの買ったんだよー。そしたら髪の毛がツヤツヤになっちゃった」
「あ……あぁ、元からツヤツヤだったがな、よりいい感じになってるぜ、うん」
「それで、全体的にどうかな? ……やっぱりもっとお化粧、勉強した方がいいよね?」
「いやいや、そうでもない。現時点で美しいの一言に限るさ。あー、ロナはあれだ、下手にイジらない方がいいタイプの顔ってのもあるんだが、まさにそれだよ。今のままでパーフェクトだ」
「そ、そうなんだ。えへ……ありがと。ザンが言うなら、とりあえず今のままで過ごしてみようかなぁ」


 度肝を抜かれたとはこのことだ。
 そういえばエルフ族も基本的には化粧要らずと聞いたことがあるな。やっぱりロナの麗しさはそのレベルなんだな……。

 俺がいくら彼女に多少の気があるとはいえ、決して過剰なほどの贔屓目なんて入っていない、それだけはたしかだ。
 
 ……これは絶対に口に出しては言えないことだが、今後、別のレディの容姿を褒めるとなった時、ロナと内心でセルフに比較してしまわないか心配になってきたぜ。


「なんか変だよ、どうしたの? やっば、ダメだった?」
「あ……いや、違う……その、なんだ。ロナのその可愛らしい表情を見ていたら頭がクラクラしてきたんだ」
「いつものことだけど、褒めすぎだよ?」
「いや……いや、こんな言葉じゃ全く足りないぜ」
「もー。ふふふっ」

 
 うーん、もしかしなくても彼女の私服選びは超簡単なんじゃないか? これだけ美人なら似合わない服の方が珍しいだろう。
 防具だってそうだ、これは性能面重視で選んで問題なさそうだな。

 そうこうドギマギしているうちに準備が整ったので、さっそく宿から出ようとしたその時、宿屋のおっさんからカウンター越しに声をかけられた。


「おっ! ちょっと二人共! 今朝のニュースペーパーは見たかい?」
「いや……ニュースペーパーは取ってないんだ。どうしたんだ?」
「ほら、貴方達が巻き込まれた事件のこと、書かれてるんですよ! いやー、《大物狩り》が捕まったってのは本当だったようで」


 見せてくれたそのニュースペーパーには、たしかに《大物狩り》が捕らえられたことが記事として書かれていた。
 『ヘレストロイア』が急に襲ってきたものの、その四人が主戦となり、その場に居た通りすがりの冒険者二人と協力して返り討ちにしたことになっている。

 俺のことはギルド側に伏せるようお願いしたため、本来は『ヘレストロイア』だけの功績と書かれそうなもんだが……俺の巨大化した『バイルド』と巨核魔導爆弾の目撃者があまりにも多かったようだな。
 その理由づけとして止むなくこういう書き方になったと言ったところか。


「まさか、いや、これは勝手な憶測ですけどね? この通りすがりの協力者ってのはお二人のことなのではないかなーと。そう思っとるのですが……」
「あー、うん、その通りだ。そこに書かれている巨大化できるアイテムっていうのは俺が貸したんだよ、あの四人に。目立った活躍といえばそのくらいしかしてないさ。な?」
「う、うんっ」


 この人は俺が『バイルド』の収納場所がなかった頃に、それを持って彷徨いているのを見られているからな。変に嘘をつくよりこう言っておいた方がいいだろう。
 ロナも冷や汗をかきながらいつもより早く首を縦に振っている。


「おおお! いやいや、道具を貸しただけでも立派ですよ、立派! 巨核魔導爆弾でしょ? あれを防いでもらってなかったら、この店だけでなく私や家内まで……おお、恐ろしい! というわけでですね、礼と言っちゃなんですが、部屋の掃除サービスの方はいつもより綺麗にしておきますんで、へへっ! しかし街中であんなもんブッパなそうだなんて、罪人のやることはわかりませんな……」


 あの爆弾の出どころはまだわからないのか、ニュースペーパーにも書いてなかったし、普通に考えてこわいよな。
 俺も操作していた『バイルド』越しにあれがどれほどのものか体感してるから……店主、いや、周りの人々の恐怖心がよくわかる。


「ああ、全くだ……。じゃ、俺たちは出かけてくるぜ」
「ええ、行ってらっしゃいませ」


 ……しかしあれだな、目の前で感謝されると間接的にでも人を救うってのは良いもんだなと思えるな。実に紳士的だ。
 今日は一日、より上機嫌で過ごせそうだぜ。





=====

いやはや、また一日空けてしまい申し訳ないです。
私、基本的に偏頭痛持ちなくらいで身体はいたって丈夫なんですけどね? 中身の方が脆いんで稀にこういうことあるんですよー。

非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不死王はスローライフを希望します

小狐丸
ファンタジー
 気がついたら、暗い森の中に居た男。  深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。  そこで俺は気がつく。 「俺って透けてないか?」  そう、男はゴーストになっていた。  最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。  その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。  設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

不本意な転生 ~自由で快適な生活を目指します~

ファンタジー
どうやら交通事故で死んだらしい。気がついたらよくわからない世界で3歳だった。でもここ近代化の波さえ押し寄せてない16~18世紀の文化水準だと思う。 両親は美男美女、貴族には珍しい駆け落ちにも似た恋愛結婚だったらしいが、男爵家の三男って貴族の端の端だよ!はっきり言って前世の方が習い事させてもらったりしてセレブだったと思う。仕方がないので、まず出来る事から始めてみます。 主人公が大人になる後半にR18が入るかも。 入るときは R18 を明記。 ※ ★マークは主人公以外の視点。

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

処理中です...