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第一部
◆ 買い物準備の朝
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「今日はお洋服と防具だよね!」
「ああ、もしかしたらどっちか一方だけで時間がつぶれるかもしれないがな」
翌朝。
ロナはそこそこ上機嫌で今日の予定を確認してきた。
友達との買い物という状況によるワクワクと、防具を見に行くというワクワク、そのどちらもが合わさったような反応を見せている。
それにしても、昨日から雰囲気が変わったな。
いつもよりおめかしする時間も数分長かったし……。雑貨屋で買ったものを、試してみたという感じか。
「そういや化粧品を変えたんだな。今日の肌の艶が宝石みたいだぜ。あとブラシや櫛も……」
「え、あ、うん! そうなの、今まで化粧したことなかったから、なんか顔に塗るやつ……? 簡単そうだったから試してみたんだ! 私の叔父が昔にね、女性用の簡単な身だしなみ用の本を買ってくれて、そこから参考にしたの」
「へ、へぇ……そうか」
え、ぇええええ……嘘だろ。
今まで化粧をしたことがない……だと⁉︎ じゃあ今までの顔はすっぴん⁉︎ すっぴんであの顔なのか、ロナは……!
いや、たしかに今まで準備がレディにしてはやけに早いなとは思っていたけれど。実は、髪型を整えて着替えていただけだったとは。恐れ入ったぜ。
「それでヘアブラシも言う通り、良いもの買ったんだよー。そしたら髪の毛がツヤツヤになっちゃった」
「あ……あぁ、元からツヤツヤだったがな、よりいい感じになってるぜ、うん」
「それで、全体的にどうかな? ……やっぱりもっとお化粧、勉強した方がいいよね?」
「いやいや、そうでもない。現時点で美しいの一言に限るさ。あー、ロナはあれだ、下手にイジらない方がいいタイプの顔ってのもあるんだが、まさにそれだよ。今のままでパーフェクトだ」
「そ、そうなんだ。えへ……ありがと。ザンが言うなら、とりあえず今のままで過ごしてみようかなぁ」
度肝を抜かれたとはこのことだ。
そういえばエルフ族も基本的には化粧要らずと聞いたことがあるな。やっぱりロナの麗しさはそのレベルなんだな……。
俺がいくら彼女に多少の気があるとはいえ、決して過剰なほどの贔屓目なんて入っていない、それだけはたしかだ。
……これは絶対に口に出しては言えないことだが、今後、別のレディの容姿を褒めるとなった時、ロナと内心でセルフに比較してしまわないか心配になってきたぜ。
「なんか変だよ、どうしたの? やっば、ダメだった?」
「あ……いや、違う……その、なんだ。ロナのその可愛らしい表情を見ていたら頭がクラクラしてきたんだ」
「いつものことだけど、褒めすぎだよ?」
「いや……いや、こんな言葉じゃ全く足りないぜ」
「もー。ふふふっ」
うーん、もしかしなくても彼女の私服選びは超簡単なんじゃないか? これだけ美人なら似合わない服の方が珍しいだろう。
防具だってそうだ、これは性能面重視で選んで問題なさそうだな。
そうこうドギマギしているうちに準備が整ったので、さっそく宿から出ようとしたその時、宿屋のおっさんからカウンター越しに声をかけられた。
「おっ! ちょっと二人共! 今朝のニュースペーパーは見たかい?」
「いや……ニュースペーパーは取ってないんだ。どうしたんだ?」
「ほら、貴方達が巻き込まれた事件のこと、書かれてるんですよ! いやー、《大物狩り》が捕まったってのは本当だったようで」
見せてくれたそのニュースペーパーには、たしかに《大物狩り》が捕らえられたことが記事として書かれていた。
『ヘレストロイア』が急に襲ってきたものの、その四人が主戦となり、その場に居た通りすがりの冒険者二人と協力して返り討ちにしたことになっている。
俺のことはギルド側に伏せるようお願いしたため、本来は『ヘレストロイア』だけの功績と書かれそうなもんだが……俺の巨大化した『バイルド』と巨核魔導爆弾の目撃者があまりにも多かったようだな。
その理由づけとして止むなくこういう書き方になったと言ったところか。
「まさか、いや、これは勝手な憶測ですけどね? この通りすがりの協力者ってのはお二人のことなのではないかなーと。そう思っとるのですが……」
「あー、うん、その通りだ。そこに書かれている巨大化できるアイテムっていうのは俺が貸したんだよ、あの四人に。目立った活躍といえばそのくらいしかしてないさ。な?」
「う、うんっ」
この人は俺が『バイルド』の収納場所がなかった頃に、それを持って彷徨いているのを見られているからな。変に嘘をつくよりこう言っておいた方がいいだろう。
ロナも冷や汗をかきながらいつもより早く首を縦に振っている。
「おおお! いやいや、道具を貸しただけでも立派ですよ、立派! 巨核魔導爆弾でしょ? あれを防いでもらってなかったら、この店だけでなく私や家内まで……おお、恐ろしい! というわけでですね、礼と言っちゃなんですが、部屋の掃除サービスの方はいつもより綺麗にしておきますんで、へへっ! しかし街中であんなもんブッパなそうだなんて、罪人のやることはわかりませんな……」
あの爆弾の出どころはまだわからないのか、ニュースペーパーにも書いてなかったし、普通に考えてこわいよな。
俺も操作していた『バイルド』越しにあれがどれほどのものか体感してるから……店主、いや、周りの人々の恐怖心がよくわかる。
「ああ、全くだ……。じゃ、俺たちは出かけてくるぜ」
「ええ、行ってらっしゃいませ」
……しかしあれだな、目の前で感謝されると間接的にでも人を救うってのは良いもんだなと思えるな。実に紳士的だ。
今日は一日、より上機嫌で過ごせそうだぜ。
=====
いやはや、また一日空けてしまい申し訳ないです。
私、基本的に偏頭痛持ちなくらいで身体はいたって丈夫なんですけどね? 中身の方が脆いんで稀にこういうことあるんですよー。
非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
「ああ、もしかしたらどっちか一方だけで時間がつぶれるかもしれないがな」
翌朝。
ロナはそこそこ上機嫌で今日の予定を確認してきた。
友達との買い物という状況によるワクワクと、防具を見に行くというワクワク、そのどちらもが合わさったような反応を見せている。
それにしても、昨日から雰囲気が変わったな。
いつもよりおめかしする時間も数分長かったし……。雑貨屋で買ったものを、試してみたという感じか。
「そういや化粧品を変えたんだな。今日の肌の艶が宝石みたいだぜ。あとブラシや櫛も……」
「え、あ、うん! そうなの、今まで化粧したことなかったから、なんか顔に塗るやつ……? 簡単そうだったから試してみたんだ! 私の叔父が昔にね、女性用の簡単な身だしなみ用の本を買ってくれて、そこから参考にしたの」
「へ、へぇ……そうか」
え、ぇええええ……嘘だろ。
今まで化粧をしたことがない……だと⁉︎ じゃあ今までの顔はすっぴん⁉︎ すっぴんであの顔なのか、ロナは……!
いや、たしかに今まで準備がレディにしてはやけに早いなとは思っていたけれど。実は、髪型を整えて着替えていただけだったとは。恐れ入ったぜ。
「それでヘアブラシも言う通り、良いもの買ったんだよー。そしたら髪の毛がツヤツヤになっちゃった」
「あ……あぁ、元からツヤツヤだったがな、よりいい感じになってるぜ、うん」
「それで、全体的にどうかな? ……やっぱりもっとお化粧、勉強した方がいいよね?」
「いやいや、そうでもない。現時点で美しいの一言に限るさ。あー、ロナはあれだ、下手にイジらない方がいいタイプの顔ってのもあるんだが、まさにそれだよ。今のままでパーフェクトだ」
「そ、そうなんだ。えへ……ありがと。ザンが言うなら、とりあえず今のままで過ごしてみようかなぁ」
度肝を抜かれたとはこのことだ。
そういえばエルフ族も基本的には化粧要らずと聞いたことがあるな。やっぱりロナの麗しさはそのレベルなんだな……。
俺がいくら彼女に多少の気があるとはいえ、決して過剰なほどの贔屓目なんて入っていない、それだけはたしかだ。
……これは絶対に口に出しては言えないことだが、今後、別のレディの容姿を褒めるとなった時、ロナと内心でセルフに比較してしまわないか心配になってきたぜ。
「なんか変だよ、どうしたの? やっば、ダメだった?」
「あ……いや、違う……その、なんだ。ロナのその可愛らしい表情を見ていたら頭がクラクラしてきたんだ」
「いつものことだけど、褒めすぎだよ?」
「いや……いや、こんな言葉じゃ全く足りないぜ」
「もー。ふふふっ」
うーん、もしかしなくても彼女の私服選びは超簡単なんじゃないか? これだけ美人なら似合わない服の方が珍しいだろう。
防具だってそうだ、これは性能面重視で選んで問題なさそうだな。
そうこうドギマギしているうちに準備が整ったので、さっそく宿から出ようとしたその時、宿屋のおっさんからカウンター越しに声をかけられた。
「おっ! ちょっと二人共! 今朝のニュースペーパーは見たかい?」
「いや……ニュースペーパーは取ってないんだ。どうしたんだ?」
「ほら、貴方達が巻き込まれた事件のこと、書かれてるんですよ! いやー、《大物狩り》が捕まったってのは本当だったようで」
見せてくれたそのニュースペーパーには、たしかに《大物狩り》が捕らえられたことが記事として書かれていた。
『ヘレストロイア』が急に襲ってきたものの、その四人が主戦となり、その場に居た通りすがりの冒険者二人と協力して返り討ちにしたことになっている。
俺のことはギルド側に伏せるようお願いしたため、本来は『ヘレストロイア』だけの功績と書かれそうなもんだが……俺の巨大化した『バイルド』と巨核魔導爆弾の目撃者があまりにも多かったようだな。
その理由づけとして止むなくこういう書き方になったと言ったところか。
「まさか、いや、これは勝手な憶測ですけどね? この通りすがりの協力者ってのはお二人のことなのではないかなーと。そう思っとるのですが……」
「あー、うん、その通りだ。そこに書かれている巨大化できるアイテムっていうのは俺が貸したんだよ、あの四人に。目立った活躍といえばそのくらいしかしてないさ。な?」
「う、うんっ」
この人は俺が『バイルド』の収納場所がなかった頃に、それを持って彷徨いているのを見られているからな。変に嘘をつくよりこう言っておいた方がいいだろう。
ロナも冷や汗をかきながらいつもより早く首を縦に振っている。
「おおお! いやいや、道具を貸しただけでも立派ですよ、立派! 巨核魔導爆弾でしょ? あれを防いでもらってなかったら、この店だけでなく私や家内まで……おお、恐ろしい! というわけでですね、礼と言っちゃなんですが、部屋の掃除サービスの方はいつもより綺麗にしておきますんで、へへっ! しかし街中であんなもんブッパなそうだなんて、罪人のやることはわかりませんな……」
あの爆弾の出どころはまだわからないのか、ニュースペーパーにも書いてなかったし、普通に考えてこわいよな。
俺も操作していた『バイルド』越しにあれがどれほどのものか体感してるから……店主、いや、周りの人々の恐怖心がよくわかる。
「ああ、全くだ……。じゃ、俺たちは出かけてくるぜ」
「ええ、行ってらっしゃいませ」
……しかしあれだな、目の前で感謝されると間接的にでも人を救うってのは良いもんだなと思えるな。実に紳士的だ。
今日は一日、より上機嫌で過ごせそうだぜ。
=====
いやはや、また一日空けてしまい申し訳ないです。
私、基本的に偏頭痛持ちなくらいで身体はいたって丈夫なんですけどね? 中身の方が脆いんで稀にこういうことあるんですよー。
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