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第一部

◆ 広い雑貨屋にて

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 自身の髪のように顔が赤くなってしまい、すっかり静かになったロナを連れて俺は宿屋から外に出た。

 俺は、この街に滞在して十日になる。
 そのうちおよそ半分以上が予定外の忙しさに見舞われ、運命も大きく動いたが……それはさておき、こんな呪われた身体になる前に三日間かけ、この地区、つまり王都南部にある店はだいたい把握しておいてあるのさ。クレバーにな。

 日用品は大きな雑貨屋がここから広い道を直進しつつ途中で一度右に曲がれば十分ほどで着く場所にあるし、俺たちにとって必要なアイテムも置いてあるであろう冒険者道具店はその斜め前に建っている。

 今日の目的の品々は、この二軒で揃うだろう。
 万が一、欲しいものがなかった場合はいつもの黄色い屋根の店に行けばいい。あそこも一応、道具店でもあるしな。


「さあ、行こうかロナ」
「う、うんっ」


 俺と彼女、二人並んで街を歩く。
 無論、この紳士はいつもレディの歩幅に合わせて歩くようにしている。当たり前だが、今もそうだ。

 紅茶淹れと同様、実は紳士としてこれは極めており、俺はどんな女性の歩幅にも合わせられる自信がある。
 そのうち能力が称号として認められないだろうか……。

 途中、道が食べ物の屋台の並ぶ範囲に入ったころ。
 ロナはあちこち目移りしていたが、唾を飲み込むばかりで買い食いしようとせず、我慢していることに俺は気がついた。

 ……だが、俺は予算や時間に狂いが生じるのを危惧し、あえて買い食いを促す発言は控えた。
 心地よく食べ物を頬張る可愛いロナを見たい……が、そういう意味では俺も我慢しなければならないんだ。

 やがて俺達は目指していた雑貨屋の方に辿り着く。
 
 しかしまあ、ここに来るのは二度目だが、すっごいデカさの雑貨屋だ。俺の村の村長ん家、十軒分は敷地があるんじゃなかろうか。
 いや、嘘だ。流石に五軒分だろう。

 とにかく田舎者だとバレないようにあんまりキョロキョロしないようにしなきゃな……。


「普通のお店より明らかに大きいよね、ここ。入るのは初めて」
「前は通りかかったことあるんだな。まあ、俺もそんなもんだ。じゃ、入るか」


 いざ入店。
 ……まあ、当然だが外が大けりゃ、中も広かった。
 思わずそのデカさに唖然としちまったほどだ。

 田舎者なのがバレると思いすぐに正気に戻ったが、ロナも俺と似たような反応をしていたので、気にしすぎだったみたいだ。


「なぁロナ」
「……はっ! な、なぁに?」
「あれだけ買い物デートって言っておいてなんだが、今回は生活に必要なものを買う日なんだ。普通より特に、黙って買いたいものが多かったりするだろうから別々に行動しようぜ」
「うん、いいけど。黙って買いたいものってどんなもの?」


 まさかその疑問が飛んでくるとは思わなかった。
 特に女性の場合はそういうのが多いはずだが、やはり「ロナは箱入り娘説」は信憑性を帯びてきたな。


「例えばだぞ? 実は口臭が気になってて、日頃から消臭薬を摂るようにしてる……なんて人が居たとして、それを買うところを友達に見られたいと思うか?」
「あー、なるほどぉ」
「まぁ、今回はそういう買い物だけどさ。必要なものが揃ってたら、これだけ広いんだ、また別の日に、二人でブラブラとただ物色するのに周るのもいいよな」
「そだね!」
「じゃ、待ち合わせは……あのカウンターの近くでな。終わり次第そこで集合だ」
「うん!」


 というわけで、せっかくの初のショッピングデートだし名残惜しいが、俺とロナは別行動を取ることに。
 
 さて、俺の買うべきものは決まっている。

 まず、普通の生活に必要そうなものは、実は村で準備してきたり、村のみんながくれたりしたからな。買う必要はない。
 タオルとか、レターセットとか、メモ用紙とか、筆記用具とかな。

 あと宿屋泊まりの間は不要であり、自宅を手に入れてから買うべきものも今は考えるべきじゃない。
 調理器具や掃除道具、庭の手入れ用品などだな。

 つまり俺が求めているのは多く持っておいて損はない消耗品や、紳士的に身だしなみを整えるための品だ。
 主に石鹸、男性用香水、髭剃りや剃刀、くし。服の染み抜きや、皺伸ばし、埃取り。あとすね毛用の脱毛クリームとか……レディと過ごすのに必要なラインナップ。

 ああ、あと調理器具は必要ないとは思ったが、紅茶を嗜むためのセットは必要だよな。
 いつまでも宿の備え付けのやつ使うのは、出せる味に限度がある。茶菓子だってないしな。
 どうせ百万ベル以上予算があるんだ、これらはかなりいいものを揃えよう。

 ……とまあ、いろいろあるが。
 これだけの大きさのある雑貨屋なんだ、どれもこれも過不足なく揃うだろ。

 というわけで、いざ、ショッピング開始だ────!


◆◆◆


「ごめんザン、待たせちゃった!」
「いや、いいさ。しかしずいぶん買い込んだみたいだな」


 俺の買い物が終わってから一時間後、ロナが大量の荷物を持って俺の前に姿を現した。

 今まで一緒に生活してきて、異様に故郷から持ち込んだのであろう日用品が少なかったのは知っていたから、この時間と物量は想定の範囲内だ。

 しかし……流石に準備不足が過ぎていたと思うな。
 今日まで宿に備えつけてあるものや、貸し出しされているもので凌いでたみたいだが。
 俺と出会う前はどうしていたんだ?
 
 ……おっとと、悪い思考だな。
 レディの過去を考察するのはダメだって、何回も自分に言い聞かせているんだが。


「買いたいものは買えたか?」
「うん、これでしばらくは大丈夫だと思う! 店員さんにおすすめ聞いたり……すごく、いっぱい買っちゃった……! えへへ」
「その荷物、良ければ帰るまで俺の『シューノ』で預かるぜレディ」
「いいの? ありがと!」
「なに、紳士ならレディとの買い物に荷物持ちを買って出るのは当然さ」


 昔からの予定では、こんな感じでレディと買い物デートした時、荷物もちは自分の手で行うつもりだったんだ。
 それが小さい頃から半分憧れでもあった。
 だが、今やこの宝具があるからな、自分の荷物すらほぼ手ぶらだ。

 便利なのはいいが、なんかこう……紳士的じゃないように見えてしまう。
 ま、これは俺のエゴだな。クレバーじゃない。
 便利なものは使った方がいいに決まってるさ。


「さ、次は冒険者用品だな」
「そうだね!」


 俺とロナは、いつこの雑貨屋を再び訪れて二人で周ってみるかを少しだけ話し合いつつ、斜め前にある冒険用具店へと足を運んだ。









=====

今回は日を跨いじゃいました、申し訳ありません!

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