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第一部
第42話 俺からのエール 後編
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「ま、とにかくだ! 俺は気にしてないし、アンタらはちゃんと反省してる。むしろ落ち込む分だけ厄介事が増える。……なら、もういいじゃないか! な? Sランクになるまでにアンタらはたくさん成功したし、失敗もしたんだろ? なら今回の件はそれと同じように過去の失敗にしてしまって、今からは前を向いて進もうぜ、ほら」
一押しとして、そんな自分でも恥ずかしくなるほどのおおげさな身振り手振りを添え、締め括るように言ってみた。
ちょっと台詞がクサイが、我ながら紳士的で壮大な演説劇だったと思う。俺ってば演説家や思想家の才能もあるかもしれないな……ふふふ。
それから俺は、ヘレストロイアの四人の反応を探るためにあえて黙り、様子を見てみることにした。
この幕劇を始めた当初、一番落ち込んでいたはずのカカ嬢が、ホットミルクでも飲んだかのような温かいため息をつきながら、俺の目をじっと見つめつつ口を開く。
「……キミに、ザンくん本人にそこまで言われたら仕方ないのです。こんなに説得されて、それでもグズグズしてたら、アタシ、Sランクの冒険者として、『リブラの天秤』の一員として、とても恥ずかしいのですよね」
「……! じ、じゃあ、カカ」
「ん、冒険者……辞めることを、辞めるのです」
「……っ!」
ドロシア嬢が感極まったかのように、カカ嬢を抱きしめた。
そんな彼女の背中を、抱きしめられた本人は小さい手でヨシヨシと撫でている。
「アタシ、こんなに心配かけてたのですか。かさねがかさね、ごめんなさいなのですよ」
「いい。思い直してくれたなら、それで……!」
ほほう。……なんと、なんと美しい光景だろうか。
この眺めだけで俺の呪いが一つ消し飛んでしまいそうだ。
さて、こうなれば男性陣の方も同じように、思い直してくれるだけで円満解決となるんだが、どうだ?
「カカと全くの同意見だ。許されるのなら、俺はこの反省を冒険者としての活動で示そう」
「そ、そうだよな! そうだよな‼︎ 本人から許すって言われちゃあ仕方ないぜ。オレもウジウジすんのはこれで終わりだ! こっからは今まで通りでいくぜ!」
「それはいいがなリオ。お前はとりあえず、危険物を持っている時にふざけた真似をするな。二度とな。まずはそこからだ」
「うっ……」
よし。
これで俺のステータスを見せるっていう、最終手段を使う前に、ドロシア嬢のお願いは叶えられたことになったか。
となれば今の俺って超最高にジェントルマンなんじゃないだろうか。
Sランク三人をまとめて説得させた紳士……字面だけ見るとカッコ良すぎるぜ。
そうだな、仕上げにもう少し紳士的に場を和ませるとしよう。
「そうさ、やはり貴女方のような麗しい花には、後悔の涙よりも、眩しい笑顔のほうがよく似合う。さあ、もっと微笑んで見せてくれレディ達……」
俺はカカ嬢とドロシア嬢の前に跪いて、懐から今朝ロナが屋台を回ってる間に買っておいた花を取り出し、両手に移し替えつつクールに差し出した。
「ふふ、ありがとなのです!」
「……ん、私、口説かれちゃった……」
「はぁああああああ⁉︎ テメェ、なぁにこんなしみじみとした話のすぐ後で俺の仲間を目の前でナンパしてんだよ! しかも二人同時に! ふざけんな、このヤロー!」
ちなみにあとでロナに渡す分もある。
レディには平等にしないとな。真顔で俺のことじーーっと見つめてきてるし……。えっと、一応これ、食べれる花では無いんだがな?
「まあ、我々を和ませるためのものだろう。リオ、落ち着け」
「そうなのですよ、落ち着くのです」
「そうそう……」
「なっ……オレか? 今のはオレが悪いのか⁉︎」
「ぷっ……」
「お、おい、『ぷっ』てなんだよ!」
なるほどな、これが本来の『ヘレストロイア』のやり取りか。
実力者同士のパーティがこうして仲がいいってのは、実に微笑ましい。
そりゃあ、ドロシア嬢が必死になるわけだ。
誰だって、こんな居場所、取り戻せるならそうするだろうぜ。
四人の笑い声が晴れた後、ブリギオが俺の肩を軽く叩いた。
ひどく感心したような表情を浮かべている。
「しかしザン。キミは中身が尋常じゃないほどに強いな。まだ酒も飲めない年齢に見えるが……過去に何か一つ、大きなことをやり遂げたような、そんな凄みを感じる」
「……そう。そいつは、どうも」
「あ! それだよ、ブリギオの言う通りだぜ。いくらステータスがオレ達ほど重要じゃないつってもよ、大事なものには変わりないだろ? こんな早く立ち直れるか、普通?」
……ふむ、なるほど。これはちょうどいい機会だ。
切り札の予定だった俺のステータス公開をしてしまおうか。どのみちこの四人なら、俺の力を悪用しようなんて考えに至らないだろうしな。
「ま、それには実はちゃんとした理由があるんだな。ドロシア嬢は既に知っているんだが」
「そうなのか……! まさか、呪いを無効化できたとかか?」
「ちょっと違うが、俺のステータスをよく見てみてもらえればわかる。ほら、これだ」
「お……!」
俺はカードを取り出して、リオに渡そうとした。
……が、思い直してカカ嬢のほうにその手を持っていく。
いけない、いけない。俺としたことが忘れかけていたぜ。
「おっと悪いな、そういえば俺はレディファースト主義だ。やっぱりカカ嬢からどうぞ」
「……お、お前ってやつはよォ⁉︎」
=====
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一押しとして、そんな自分でも恥ずかしくなるほどのおおげさな身振り手振りを添え、締め括るように言ってみた。
ちょっと台詞がクサイが、我ながら紳士的で壮大な演説劇だったと思う。俺ってば演説家や思想家の才能もあるかもしれないな……ふふふ。
それから俺は、ヘレストロイアの四人の反応を探るためにあえて黙り、様子を見てみることにした。
この幕劇を始めた当初、一番落ち込んでいたはずのカカ嬢が、ホットミルクでも飲んだかのような温かいため息をつきながら、俺の目をじっと見つめつつ口を開く。
「……キミに、ザンくん本人にそこまで言われたら仕方ないのです。こんなに説得されて、それでもグズグズしてたら、アタシ、Sランクの冒険者として、『リブラの天秤』の一員として、とても恥ずかしいのですよね」
「……! じ、じゃあ、カカ」
「ん、冒険者……辞めることを、辞めるのです」
「……っ!」
ドロシア嬢が感極まったかのように、カカ嬢を抱きしめた。
そんな彼女の背中を、抱きしめられた本人は小さい手でヨシヨシと撫でている。
「アタシ、こんなに心配かけてたのですか。かさねがかさね、ごめんなさいなのですよ」
「いい。思い直してくれたなら、それで……!」
ほほう。……なんと、なんと美しい光景だろうか。
この眺めだけで俺の呪いが一つ消し飛んでしまいそうだ。
さて、こうなれば男性陣の方も同じように、思い直してくれるだけで円満解決となるんだが、どうだ?
「カカと全くの同意見だ。許されるのなら、俺はこの反省を冒険者としての活動で示そう」
「そ、そうだよな! そうだよな‼︎ 本人から許すって言われちゃあ仕方ないぜ。オレもウジウジすんのはこれで終わりだ! こっからは今まで通りでいくぜ!」
「それはいいがなリオ。お前はとりあえず、危険物を持っている時にふざけた真似をするな。二度とな。まずはそこからだ」
「うっ……」
よし。
これで俺のステータスを見せるっていう、最終手段を使う前に、ドロシア嬢のお願いは叶えられたことになったか。
となれば今の俺って超最高にジェントルマンなんじゃないだろうか。
Sランク三人をまとめて説得させた紳士……字面だけ見るとカッコ良すぎるぜ。
そうだな、仕上げにもう少し紳士的に場を和ませるとしよう。
「そうさ、やはり貴女方のような麗しい花には、後悔の涙よりも、眩しい笑顔のほうがよく似合う。さあ、もっと微笑んで見せてくれレディ達……」
俺はカカ嬢とドロシア嬢の前に跪いて、懐から今朝ロナが屋台を回ってる間に買っておいた花を取り出し、両手に移し替えつつクールに差し出した。
「ふふ、ありがとなのです!」
「……ん、私、口説かれちゃった……」
「はぁああああああ⁉︎ テメェ、なぁにこんなしみじみとした話のすぐ後で俺の仲間を目の前でナンパしてんだよ! しかも二人同時に! ふざけんな、このヤロー!」
ちなみにあとでロナに渡す分もある。
レディには平等にしないとな。真顔で俺のことじーーっと見つめてきてるし……。えっと、一応これ、食べれる花では無いんだがな?
「まあ、我々を和ませるためのものだろう。リオ、落ち着け」
「そうなのですよ、落ち着くのです」
「そうそう……」
「なっ……オレか? 今のはオレが悪いのか⁉︎」
「ぷっ……」
「お、おい、『ぷっ』てなんだよ!」
なるほどな、これが本来の『ヘレストロイア』のやり取りか。
実力者同士のパーティがこうして仲がいいってのは、実に微笑ましい。
そりゃあ、ドロシア嬢が必死になるわけだ。
誰だって、こんな居場所、取り戻せるならそうするだろうぜ。
四人の笑い声が晴れた後、ブリギオが俺の肩を軽く叩いた。
ひどく感心したような表情を浮かべている。
「しかしザン。キミは中身が尋常じゃないほどに強いな。まだ酒も飲めない年齢に見えるが……過去に何か一つ、大きなことをやり遂げたような、そんな凄みを感じる」
「……そう。そいつは、どうも」
「あ! それだよ、ブリギオの言う通りだぜ。いくらステータスがオレ達ほど重要じゃないつってもよ、大事なものには変わりないだろ? こんな早く立ち直れるか、普通?」
……ふむ、なるほど。これはちょうどいい機会だ。
切り札の予定だった俺のステータス公開をしてしまおうか。どのみちこの四人なら、俺の力を悪用しようなんて考えに至らないだろうしな。
「ま、それには実はちゃんとした理由があるんだな。ドロシア嬢は既に知っているんだが」
「そうなのか……! まさか、呪いを無効化できたとかか?」
「ちょっと違うが、俺のステータスをよく見てみてもらえればわかる。ほら、これだ」
「お……!」
俺はカードを取り出して、リオに渡そうとした。
……が、思い直してカカ嬢のほうにその手を持っていく。
いけない、いけない。俺としたことが忘れかけていたぜ。
「おっと悪いな、そういえば俺はレディファースト主義だ。やっぱりカカ嬢からどうぞ」
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