上 下
44 / 136
第一部

第42話 俺からのエール 後編

しおりを挟む
「ま、とにかくだ! 俺は気にしてないし、アンタらはちゃんと反省してる。むしろ落ち込む分だけ厄介事が増える。……なら、もういいじゃないか! な? Sランクになるまでにアンタらはたくさん成功したし、失敗もしたんだろ? なら今回の件はそれと同じように過去の失敗にしてしまって、今からは前を向いて進もうぜ、ほら」


 一押しとして、そんな自分でも恥ずかしくなるほどのおおげさな身振り手振りを添え、締め括るしめくくるように言ってみた。
 ちょっと台詞がクサイが、我ながら紳士的で壮大な演説劇だったと思う。俺ってば演説家や思想家の才能もあるかもしれないな……ふふふ。
 
 それから俺は、ヘレストロイアの四人の反応を探るためにあえて黙り、様子を見てみることにした。

 この幕劇を始めた当初、一番落ち込んでいたはずのカカ嬢が、ホットミルクでも飲んだかのような温かいため息をつきながら、俺の目をじっと見つめつつ口を開く。


「……キミに、ザンくん本人にそこまで言われたら仕方ないのです。こんなに説得されて、それでもグズグズしてたら、アタシ、Sランクの冒険者として、『リブラの天秤』の一員として、とても恥ずかしいのですよね」
「……! じ、じゃあ、カカ」
「ん、冒険者……辞めることを、辞めるのです」
「……っ!」


 ドロシア嬢が感極まったかのように、カカ嬢を抱きしめた。
 そんな彼女の背中を、抱きしめられた本人は小さい手でヨシヨシと撫でている。


「アタシ、こんなに心配かけてたのですか。かさねがかさね、ごめんなさいなのですよ」
「いい。思い直してくれたなら、それで……!」


 ほほう。……なんと、なんと美しい光景だろうか。
 この眺めだけで俺の呪いが一つ消し飛んでしまいそうだ。

 さて、こうなれば男性陣の方も同じように、思い直してくれるだけで円満解決となるんだが、どうだ?


「カカと全くの同意見だ。許されるのなら、俺はこの反省を冒険者としての活動で示そう」
「そ、そうだよな! そうだよな‼︎ 本人から許すって言われちゃあ仕方ないぜ。オレもウジウジすんのはこれで終わりだ! こっからは今まで通りでいくぜ!」
「それはいいがなリオ。お前はとりあえず、危険物を持っている時にふざけた真似をするな。二度とな。まずはそこからだ」
「うっ……」

 
 よし。
 これで俺のステータスを見せるっていう、最終手段を使う前に、ドロシア嬢のお願いは叶えられたことになったか。

 となれば今の俺って超最高にジェントルマンなんじゃないだろうか。
 Sランク三人をまとめて説得させた紳士……字面だけ見るとカッコ良すぎるぜ。

 そうだな、仕上げにもう少し紳士的に場を和ませるとしよう。


「そうさ、やはり貴女方のような麗しい花には、後悔の涙よりも、眩しい笑顔のほうがよく似合う。さあ、もっと微笑んで見せてくれレディ達……」


 俺はカカ嬢とドロシア嬢の前にひざまづいて、ふところから今朝ロナが屋台を回ってる間に買っておいた花を取り出し、両手に移し替えつつクールに差し出した。


「ふふ、ありがとなのです!」
「……ん、私、口説かれちゃった……」
「はぁああああああ⁉︎ テメェ、なぁにこんなしみじみとした話のすぐ後で俺の仲間を目の前でナンパしてんだよ! しかも二人同時に! ふざけんな、このヤロー!」


 ちなみにあとでロナに渡す分もある。
 レディには平等にしないとな。真顔で俺のことじーーっと見つめてきてるし……。えっと、一応これ、食べれる花では無いんだがな?


「まあ、我々を和ませるためのものだろう。リオ、落ち着け」
「そうなのですよ、落ち着くのです」
「そうそう……」
「なっ……オレか? 今のはオレが悪いのか⁉︎」
「ぷっ……」
「お、おい、『ぷっ』てなんだよ!」


 なるほどな、これが本来の『ヘレストロイア』のやり取りか。
 実力者同士のパーティがこうして仲がいいってのは、実に微笑ましい。

 そりゃあ、ドロシア嬢が必死になるわけだ。
 誰だって、こんな居場所、取り戻せるならそうするだろうぜ。

 四人の笑い声が晴れた後、ブリギオが俺の肩を軽く叩いた。
 ひどく感心したような表情を浮かべている。


「しかしザン。キミは中身が尋常じゃないほどに強いな。まだ酒も飲めない年齢に見えるが……過去に何か一つ、大きなことをやり遂げたような、そんな凄みを感じる」
「……そう。そいつは、どうも」
「あ! それだよ、ブリギオの言う通りだぜ。いくらステータスがオレ達ほど重要じゃないつってもよ、大事なものには変わりないだろ? こんな早く立ち直れるか、普通?」


 ……ふむ、なるほど。これはちょうどいい機会だ。
 切り札の予定だった俺のステータス公開をしてしまおうか。どのみちこの四人なら、俺の力を悪用しようなんて考えに至らないだろうしな。


「ま、それには実はちゃんとした理由があるんだな。ドロシア嬢は既に知っているんだが」
「そうなのか……! まさか、呪いを無効化できたとかか?」
「ちょっと違うが、俺のステータスをよく見てみてもらえればわかる。ほら、これだ」
「お……!」


 俺はカードを取り出して、リオに渡そうとした。
 ……が、思い直してカカ嬢のほうにその手を持っていく。
 いけない、いけない。俺としたことが忘れかけていたぜ。


「おっと悪いな、そういえば俺はレディファースト主義だ。やっぱりカカ嬢からどうぞ」
「……お、お前ってやつはよォ⁉︎」






=====

非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

不本意な転生 ~自由で快適な生活を目指します~

ファンタジー
どうやら交通事故で死んだらしい。気がついたらよくわからない世界で3歳だった。でもここ近代化の波さえ押し寄せてない16~18世紀の文化水準だと思う。 両親は美男美女、貴族には珍しい駆け落ちにも似た恋愛結婚だったらしいが、男爵家の三男って貴族の端の端だよ!はっきり言って前世の方が習い事させてもらったりしてセレブだったと思う。仕方がないので、まず出来る事から始めてみます。 主人公が大人になる後半にR18が入るかも。 入るときは R18 を明記。 ※ ★マークは主人公以外の視点。

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

不死王はスローライフを希望します

小狐丸
ファンタジー
 気がついたら、暗い森の中に居た男。  深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。  そこで俺は気がつく。 「俺って透けてないか?」  そう、男はゴーストになっていた。  最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。  その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。  設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。

処理中です...