42 / 136
第一部
第40話 俺達と待ち合わせ
しおりを挟む
俺とロナが出会ってから四日目。
俺達は王都内の、とあるあまり人気のないちょっとした広場の公共のベンチで、二人なかよく並んで座っていた。
午前十時前……嗚呼、これから昼時に移り変わっていく最中、こんな美少女と一緒にのんびりと、遠目から街を行き交う人々を眺めるってのは、なんと優雅で紳士的なのだろう。
こんなゆったりとした時間が、俺のジェントルな魂をより清らかにしてくれるんだ。
俺はふと、ロナの方を見た。
その腕にはたくさんの露店で買ったお菓子や小料理が抱えられており、それらをとても嬉しそうに頬張っている。すんごい満面の笑みだ。
うん。やはり、彼女は美しい。
「……う? どしたのザン……食べる?」
おっと、長いこと眺めていたらどうやら食べ物を狙っていると思われたようだ。
小首を傾げながら、何かの串付きフライを差し出してくる。
「いや、相変わらず美味しそうに食べるなと思って見てただけさ。お気遣いはありがたいが、俺はランチが食べられなくなりそうだから遠慮しておくぜ」
「そっかー」
ロナは再び抱えてるものを食べ始めた。
昨日の夜も料理屋で約束していた通り俺の奢りで超大量に食事して、今朝はブレックファーストだってしっかり摂ったんはずなんだが、間食でこの量……食欲は止まることを知らないようだ。
だが、流石に一緒に過ごして半週間経ったんだ。
彼女を見る周りの目にも、彼女自身の胃袋の強さにも、既に慣れつつある。
それに能力を得たことで、食事が彼女にとって魔力回復の一番の手段になったんだ。
来週の今頃になれば、もう微塵も気にしなくなっているかも知れないな……たぶん。
「それにしてもさ、ザン」
「なんだ?」
いつのまにか、抱えていたもの全て食べ終わっいたらしいロナは、心配そうな表情を俺に向けていた。
口角にベリー系のソースがついている……。
その場所を指してやると、ロナは恥ずかしそうにそれを拭った。
「あっ、えへへ……。で、でね。今更だけど、今から会う人達ってザンが呪われる原因でしょ? その時のこと思い出したりして辛くならない?」
「なに、その点はノープロブレムだ。そもそも呪われたこと自体、思い悩んで苦しんだ時間が短いからな」
「そうなんだ」
「だって呪われた直後にロナと運命的な出会いをしたんだぜ? 落ち込む暇なんてなかったさ」
思えば俺が呪われて、ギルドを飛び出してから一時間も経たずにロナを救ったんだよな。
レディを助けるのに己の精神状態は関係ない……か。
ふっふっふ、さすが俺だ。これこそスーパーなジェントルマンだろう。
「そっか……」
「まぁ、紳士だからな! ふっふっふ。……って、お? もう時間か」
近くに建てられていた柱時計の針が指し示す。
午前十時丁度、つまり約束の時間が来たようだ。
それと同時に、こちらに向かって歩いてくる大小様々な四つの人影があった。
……俺みたいな素人でも遠目で見てもわかる、その四人のカリスマ性と凄まじい強さ。
ギルド『リブラの天秤』が誇る、全メンバーがSランクで構成されたパーティ、『ヘレストロイア』。その全員が揃い踏みだ。
道行く人々に次々と声をかけられているものの、軽い返事で済ませながら前に進んでいる。これが人気者ってやつか。
……ただ、その声をかけている人々は気がついているのだろうか。
そのほとんど全員の表情が、とても暗く、澱んでいることに。
ふむ。あの雰囲気と空気感だと、俺に話しかけてくるまでにそこそこまごつきそうだな。
ならばここは紳士的に、俺から声をかけてやろうじゃないか。
この最初のコンタクトで元気そうに振る舞えば、ドロシア嬢の目的も果たしやすくなるというものだろう。
というわけで、俺は立ち上がって『ヘレストロイア』に近いた。
「やぁやぁ、ごきげんよう諸君。三日ぶりじゃあないか」
「ザンくん……ごめん。待たせてた、みたいだね」
「いやぁ、なに。俺も今来たところさ」
本当は余裕を持って三十分前にはこの場所にやってきていたが、その間ずっとロナと優雅な時間を過ごせたので、問題はない。
さて、ドロシア嬢以外の三人は……あー、真近に来てみるとさらによくわかるな。目が死んでるってやつだ。
せめてこの幼い見た目で愛くるしい、ホビット族のカカ嬢だけは笑顔にしてやりたいものだが……。
「とりあえず、そこのベンチに腰をかけよう。レディを立ちっぱなしにさせるというのは俺の紳士的な性分に合わないからな……。俺の連れが居るが気にせず腰掛けてくれ」
「……わかった」
「だが待てよ。あの椅子は三人用だな。よし、男は立ってろ」
「お、お前、そういうキャラだったのか……」
獅子族であり、俺が呪われた身になった原因とも言えるリオという男がそうツッコミを入れてきた。
声色は落ち込んでいるが、コイツはこの様子だと、俺のステータスカードを見て『強制互角』を調べ、俺の力を理解できれば、簡単に元気になりそうだな。
「ロナちゃん……だっけ、お隣、失礼するね」
「は、はいっ」
ロナは椅子の右端に身を寄せ、真ん中にドロシア嬢、左端にカカ嬢が座った。
いや、カカ嬢は座ったっていうよりドロシア嬢が座らせたか。自分で動く気力もないようだ。
……ああ、特に彼女はこの四人の中で特に覇気がない。ずっと下を俯いたままだ。
自分が宝箱を手放さなければ、俺が呪われることもなかった、なーんて今も考えているのだろうな。この様子だと。
さて、これから俺がドロシア嬢とカカ嬢のために一肌脱げばいいんだろう。気合を入れてジェントルにいこう。
まあレディのためなら、無償で何肌でも脱ぐがな!
=====
非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
俺達は王都内の、とあるあまり人気のないちょっとした広場の公共のベンチで、二人なかよく並んで座っていた。
午前十時前……嗚呼、これから昼時に移り変わっていく最中、こんな美少女と一緒にのんびりと、遠目から街を行き交う人々を眺めるってのは、なんと優雅で紳士的なのだろう。
こんなゆったりとした時間が、俺のジェントルな魂をより清らかにしてくれるんだ。
俺はふと、ロナの方を見た。
その腕にはたくさんの露店で買ったお菓子や小料理が抱えられており、それらをとても嬉しそうに頬張っている。すんごい満面の笑みだ。
うん。やはり、彼女は美しい。
「……う? どしたのザン……食べる?」
おっと、長いこと眺めていたらどうやら食べ物を狙っていると思われたようだ。
小首を傾げながら、何かの串付きフライを差し出してくる。
「いや、相変わらず美味しそうに食べるなと思って見てただけさ。お気遣いはありがたいが、俺はランチが食べられなくなりそうだから遠慮しておくぜ」
「そっかー」
ロナは再び抱えてるものを食べ始めた。
昨日の夜も料理屋で約束していた通り俺の奢りで超大量に食事して、今朝はブレックファーストだってしっかり摂ったんはずなんだが、間食でこの量……食欲は止まることを知らないようだ。
だが、流石に一緒に過ごして半週間経ったんだ。
彼女を見る周りの目にも、彼女自身の胃袋の強さにも、既に慣れつつある。
それに能力を得たことで、食事が彼女にとって魔力回復の一番の手段になったんだ。
来週の今頃になれば、もう微塵も気にしなくなっているかも知れないな……たぶん。
「それにしてもさ、ザン」
「なんだ?」
いつのまにか、抱えていたもの全て食べ終わっいたらしいロナは、心配そうな表情を俺に向けていた。
口角にベリー系のソースがついている……。
その場所を指してやると、ロナは恥ずかしそうにそれを拭った。
「あっ、えへへ……。で、でね。今更だけど、今から会う人達ってザンが呪われる原因でしょ? その時のこと思い出したりして辛くならない?」
「なに、その点はノープロブレムだ。そもそも呪われたこと自体、思い悩んで苦しんだ時間が短いからな」
「そうなんだ」
「だって呪われた直後にロナと運命的な出会いをしたんだぜ? 落ち込む暇なんてなかったさ」
思えば俺が呪われて、ギルドを飛び出してから一時間も経たずにロナを救ったんだよな。
レディを助けるのに己の精神状態は関係ない……か。
ふっふっふ、さすが俺だ。これこそスーパーなジェントルマンだろう。
「そっか……」
「まぁ、紳士だからな! ふっふっふ。……って、お? もう時間か」
近くに建てられていた柱時計の針が指し示す。
午前十時丁度、つまり約束の時間が来たようだ。
それと同時に、こちらに向かって歩いてくる大小様々な四つの人影があった。
……俺みたいな素人でも遠目で見てもわかる、その四人のカリスマ性と凄まじい強さ。
ギルド『リブラの天秤』が誇る、全メンバーがSランクで構成されたパーティ、『ヘレストロイア』。その全員が揃い踏みだ。
道行く人々に次々と声をかけられているものの、軽い返事で済ませながら前に進んでいる。これが人気者ってやつか。
……ただ、その声をかけている人々は気がついているのだろうか。
そのほとんど全員の表情が、とても暗く、澱んでいることに。
ふむ。あの雰囲気と空気感だと、俺に話しかけてくるまでにそこそこまごつきそうだな。
ならばここは紳士的に、俺から声をかけてやろうじゃないか。
この最初のコンタクトで元気そうに振る舞えば、ドロシア嬢の目的も果たしやすくなるというものだろう。
というわけで、俺は立ち上がって『ヘレストロイア』に近いた。
「やぁやぁ、ごきげんよう諸君。三日ぶりじゃあないか」
「ザンくん……ごめん。待たせてた、みたいだね」
「いやぁ、なに。俺も今来たところさ」
本当は余裕を持って三十分前にはこの場所にやってきていたが、その間ずっとロナと優雅な時間を過ごせたので、問題はない。
さて、ドロシア嬢以外の三人は……あー、真近に来てみるとさらによくわかるな。目が死んでるってやつだ。
せめてこの幼い見た目で愛くるしい、ホビット族のカカ嬢だけは笑顔にしてやりたいものだが……。
「とりあえず、そこのベンチに腰をかけよう。レディを立ちっぱなしにさせるというのは俺の紳士的な性分に合わないからな……。俺の連れが居るが気にせず腰掛けてくれ」
「……わかった」
「だが待てよ。あの椅子は三人用だな。よし、男は立ってろ」
「お、お前、そういうキャラだったのか……」
獅子族であり、俺が呪われた身になった原因とも言えるリオという男がそうツッコミを入れてきた。
声色は落ち込んでいるが、コイツはこの様子だと、俺のステータスカードを見て『強制互角』を調べ、俺の力を理解できれば、簡単に元気になりそうだな。
「ロナちゃん……だっけ、お隣、失礼するね」
「は、はいっ」
ロナは椅子の右端に身を寄せ、真ん中にドロシア嬢、左端にカカ嬢が座った。
いや、カカ嬢は座ったっていうよりドロシア嬢が座らせたか。自分で動く気力もないようだ。
……ああ、特に彼女はこの四人の中で特に覇気がない。ずっと下を俯いたままだ。
自分が宝箱を手放さなければ、俺が呪われることもなかった、なーんて今も考えているのだろうな。この様子だと。
さて、これから俺がドロシア嬢とカカ嬢のために一肌脱げばいいんだろう。気合を入れてジェントルにいこう。
まあレディのためなら、無償で何肌でも脱ぐがな!
=====
非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
不死王はスローライフを希望します
小狐丸
ファンタジー
気がついたら、暗い森の中に居た男。
深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。
そこで俺は気がつく。
「俺って透けてないか?」
そう、男はゴーストになっていた。
最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。
その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。
設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪
不本意な転生 ~自由で快適な生活を目指します~
楓
ファンタジー
どうやら交通事故で死んだらしい。気がついたらよくわからない世界で3歳だった。でもここ近代化の波さえ押し寄せてない16~18世紀の文化水準だと思う。
両親は美男美女、貴族には珍しい駆け落ちにも似た恋愛結婚だったらしいが、男爵家の三男って貴族の端の端だよ!はっきり言って前世の方が習い事させてもらったりしてセレブだったと思う。仕方がないので、まず出来る事から始めてみます。
主人公が大人になる後半にR18が入るかも。
入るときは R18 を明記。
※ ★マークは主人公以外の視点。
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる