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第一部

◆ 宝具コレクション

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 ディナーを終え、宿に戻ってきてしばらく経った頃。
 風呂から上がって身を清め終えた俺は、あることを思い立ち、寝る前ではあるが羽ペンを持って羊皮紙と向かい合っていた。


「いいお湯だったよー。あれ、ザン、なにしてるの?」
「ああ、おかえり。ちょっとな」


 同じく宿の浴場から戻ってきたロナが、俺の後ろから机を覗き込む。

 石鹸のふんわりとした良い匂いと、火照った上でしっとりとした肌。……ああ、風呂上がりの美少女というのは、なにゆえこうも魅力的なのか。

 信じられるか? この清純そうに見える麗しい少女が、今晩のディナーも一人で七万ベルを超えたんだぜ。普通の料理店で。

 そして俺はそれを全額、おごったのさ。
 ……まあ約束だから仕方ない、俺の中じゃ、それが朝に半裸を見てしまったお詫びだしな。

 しかしだ。今もちょっとそのハプニングと似たような問題が起こっている。

 本人は気がついていないのか、ロナは俺の背後から書いてるものの様子を見るのに、かなり身体と顔を近づかせているんだ。
 つまり、肩あたりに大きな塊がポヨンという擬音をたてながら何度も当たっているんだな、これが。

 そんなこんなで今俺は、俺の頭の中でピンク色のイメージと欲を抑えながら耐えている。そう、紳士的に。

 彼女に注意するべきか否か、この件は非常に微妙なラインだから様子見を選んだってわけだな。
 ……決して、やましい気持ちがあり、この状況から解放されたくないわけじゃないさ。


「んー、あ! 宝具の名前書いてるんだね!」
「うぉお……⁉︎」


 さらに押し付けられる。
 耐えろ、耐えるんだ紳士よ。ちゃんとした受け答えをするんだ!


「ぉ、おおう。……そ、その通りだ。二人合わせて宝具がかなり増えたし、わかりやすくまとめておこうと思ってな」
「そっか! マメだね」
「ま、紳士だからな」


 どの宝具があるかをきちんと把握していれば、『異次元の皮袋 シューノ』から取り出すときにスムーズに行くだろうし、宝具同士の良さそうな掛け合わせ方法も思いつくかもしれない。

 そんな考えでこうして羊皮紙に書き留めるってわけだ。我ながらクレバーだろう。
 ま、まあ、今ちょっと別のことに気を取られつつあるものの、な。


「……よし、これで全部か」
「みせて!」
「どうぞ」


 俺はロナに記入したものを手渡した。
 彼女の身体と柔らかい温もりが、俺の肩から離れる。
 俺の中のちょっとした緊張がほぐれた……。


-----

・武器類
「夜風の剣 ヒューロ」
「半月の銃弓 ハムン」
「巨大化する大槌 バイルトン」
「四つ身の剣 フォルテット」
「治癒のナイフ メディメス」

・防具/衣服類
「月夜の羽付き帽 ルナル」
「巨大化する丸盾 バイルド」

・装飾品類
「操りの指輪 ソーサ」
「剛力のグローブ リキオウ」
「治癒の指輪 メディロス」

・その他
「ダンジョンの地図 トレジア」
「秘宝の羅針盤 ラボス」
「異次元の皮袋 シューノ」

・札(未使用)
「能力上昇の札」
「能力の札 呼応招来」

-----


「おおぉ……」


 ロナはその黄金の目をキラキラと輝かせながら、息を吐くように感嘆の声をあげた。
 文面上でもお宝がこれだけずらりと並んでいたら圧巻だよな。


「合計で十六個あるぜ。札は使ったら消えるせいで、宝具じゃないかどうかの判別が難しいからな、使用済みなのはその中に入れなかった。もしそれも含めるなら二十個近いぜ」
「そっかぁ……!」


 俺とロナはダンジョン攻略をし始めて二日目だ。
 普通はたった二日なんかで、こんなに宝具を手に入れることなんてできないだろう。

 パンドラの箱も何個開けたんだ? 
 店主のも合わせると七個、俺達の取り分だけでも五個は開けたことになるのか?
 よくまあ、これだけ呪いを吸い込んだものだぜ、俺は。


「こうしてみると、ホントすごいね! ザンのおかげだよ!」
「いやいや、いやいや。そんなこと……あるぜっ!」


 口角を思いっきり広げつつ、親指を立てる。
 ちょっとふざけてみたが……彼女は口を抑えながら笑ってくれた。
 よ、よかっだぜウケて。
 スルーされたらハートにダメージが入っていた。


「ふ、ふふっ! う、うん、そうだねっ……! ところでさ、『能力上昇の札』ってザンの中で使い道決まった?」
「いや、からっきしだな。ロナは?」
「ん、私も。なんか何に使ってももったいない気がして」
「だよな」


 能力の段階を一つ上げられる宝具。
 使い所が良ければ非常に強力な一品だ。

 だが、その分、気軽に使ってしまえば無駄にもなりやすい。
 今日手に入れたばかりのものだしな、慌てずに、なんなら何週間も時間をかけて考えても構わないだろ。


「ま、保留にしても食い物じゃないから腐らないしな。ゆーっくり、のんびり、考えようぜ。それこそ、その間にもっと強力な能力だって増えてるだろうしな」
「そうだね!」
「よし、じゃあこんなところだな。そろそろ寝るか」


 俺はメモをロナから返してもらい、そのままそれをシューノにしまってそう呼びかけてみた。
 ロナは頷きながら、まだ少し眠たくなさそうな声で答える。


「もう寝るの? ん……じゃあ私も寝るよ。お休みなさい!」
「ああ、おやすみ。麗しいレディよ。また朝日と共に君の笑顔を見れること、楽しみにしてるぜっ」
「うんっ」


 俺は少しカッコつけてからベッドに潜り込んだ。
 良い感じに頭を使ったから、今日もよく眠れそうだ。

 ……背中にまだ少し、あの柔らかい感触が残っていることは秘密だぜ。




=====
 
・この世界の宝具について

この世界の『宝具』と呼ばれるアイテムには、説明系の能力やアイテムで調べても記述されない効果がいくつかあります。

その中でも

*使用者のサイズに合うように大きさを微調整する。
*壊れにくく、劣化しにくく、非常に頑丈。

という二点の効果は、ほぼ全ての宝具に付与されています。

なので、例えば大人が使っていた宝具を子供に渡しても、その子供が使いやすい大きさに勝手になりますし、人の作った武器だと壊れるほどの衝撃を受けてもある程度耐えられます。

なお、前者の効果は研究され尽くして簡単な付与効果の部類になっているので、人が作ったものでも、防具や衣類にはほとんどの場合ついています。


・宝具の価値

宝具はこの世界で重宝されており、高いものだと一つ数億ベルで取引されていますが、当たり外れの差もあります。

……ソーシャルゲームのガチャガチャで、最高レアリティのものでも、性能等で当たり外れの格差があるのと一緒だと考えてください。

ちなみに、現在ザン達が所持している宝具の中で、市場に出された場合、扱いがわかりやすいのは以下の通りです。

*アタリ(取引額五千万ベル以上確定の高級品)
『リキオウ、トレジア、シューノ、札→ライフオン=オルゼン』
*ハズレ(取引額三桁万円)
『ハムン、フォルテット、札→強制互角、呼応招来』


次回から再び本編です!
どうぞお楽しみに。
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