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第27話 俺達とダンジョンの戦利品 2 後編

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 ロナはこのまま喜びにひたらせておいて、俺はスピーディに残りのお宝を調べてしまおう。

 まずは保存玉をハンマーで叩き割って中身を取り出した。そこから黒い金属でできており、真ん中に三角錐の白い突起、血走ったような模様がついた、猪の巨人の防具に似た盾が出てくる。

 ハンマーと盾、それぞれ内容はこうなっていた。


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「巨大化する大槌 バイルトン」(宝具)

 この大槌の装備者は土属性の攻撃の威力が超大アップする。また、爆発を伴う攻撃の威力が特大アップする。

 魔力を消費することで巨大化させることができる。その大きさにより必要な魔力の消費量も変化する。装備者自身が意図的に解除するか、一定の時間が経つと、装備者に合わせた元の大きさに戻る。
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「巨大化する丸盾 バイルド」(宝具)

 この盾で防いだ攻撃が土属性を含んでいた場合、その威力を超大ダウンさせる。また、爆発を伴う攻撃の場合は特大ダウンさせる。

 魔力を消費することで巨大化させることができる。その大きさにより必要な魔力の消費量も変化する。装備者自身が意図的に解除するか、一定の時間が経つと、装備者に合わせた元の大きさに戻る。
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 モノが違うだけでほぼ一緒の効果だが……その肝心の巨大化っていうのが気になる。なにせ、その限界が記されていない。

 いや、本来は所有者の魔力量そのものがそれに該当するのだろうが、俺はアイテムに対してだったら魔力に際限がない。となると、大きさの限界もないってことになるのだろうか……?

 深く考えるのは後にして、次に『札』の方。
 短冊状だから、中身は単純に魔法が術技か能力を付与するモノだと思うが、個人的に少し気になることがある。それは『宝具理解』で見た場合、その覚えられるものの内容がわかるかどうかだ。なんやかんや今まで試さなかった。
 
 とりあえずやってみることにしよう。


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「魔法の札 [ハドルオン=バイゼン]」(宝具)

 この札を使用することで魔法[ハドルオン=バイゼン]を習得することができる。


・[ハドルオン=バイゼン]

 魔力を残量の半数消費することで発動できる。自分に対してのみ防御上昇の補助魔法効果を付与する。付与された効果は一度攻撃を受けると消滅する。
 術者の魔力強度の数値だけでなく消費した魔力量も効果に反映される。
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 普通にできた。これで今後はロナと俺で一つの札をオデコから周し見しなくてもよくなったのか。……それっていいことなのか?

 いや、一番の利点はその技の効果を俺が把握できることだろう。<月光風斬>もこうすれば詳細を頭に入れられていたのだろうが、ま、過ぎたことは仕方ない。どっちみちアレはロナに頼めばカードからいつでも調べられる。

 ……で、本題はこの札に入っていた魔法だ。
 [ハドルオン=バイゼン]、たしかロナの必殺技を受ける時、あの猪の戦士はこれを唱えようとしていた。究極の防御だとかなんとか言っていただろうか。

 記載されていた内容だけを見ると、魔力の消費量が多すぎるし、補助魔法なのに術者にしか効果がないし、その効果もたった一撃もらっただけで解除される。強そうな要素がどこにもない。

 だが、そんな魔法をわざわざあんな強そうな魔物が使ったりするだろうか。いや、しない。となれば何か秘密があるんだろう。


「ザン、鑑定終わったの?」
「ん。ああ、お待たせしたぜレディ」


 ロナが歓喜の舞を終え、俺の側に寄ってきた。彼女にはとりあえず調べた宝具全ての内容と、今後は札もしっかり『宝具理解』を使って調べる旨を伝える。


「で、配分はどうする? 『魔法の札』はロナが持つべきだとして、せっかく宝具の盾が出たんだ。戦士や剣士には必要だろ? これもロナの方がいいよな」
「うーん……そのことなんだけど、実は私、盾を持って戦うのって苦手で……。それに私としてはザンに身の安全をそれで確保してくれた方が安心できるよ。巨大化するって効果もザンの方が使いこなせそうだし」


 まあ、戦い方ってのは人それぞれ違うし、流派や流儀だなんてものもある。盾を使うのが苦手だと言うのなら仕方がない。それにロナの言う通り巨大化と操作を駆使すれば色々できそうだ。なら、この『バイルド』という盾は俺がもらおう。


「わかった、じゃあ俺が使わせてもらうぜ。ならハンマーはどうだ?」
「私、ハンマーの心得ないの。それにさっきの戦いで操作して結構使いこなせてたから、ザンがいいと思う」
「じゃ、これもとりあえず俺が預かっとくか」


 とは言ったものの、このハンマーは重いし大きいし置く場所や持ち運びに困りそうだ。スマートな紳士である俺にはパワフルなものは似合わないし、少々もったいないが様子を見て売却することも考えた方がいいだろう。


「そうだ、ここで魔法の札の中身も覚えちゃうね」


 宝具の行き先が決まりきった後、ロナは自分の額に札を当てながらそう言った。


「要らなさそうだったら売ってもいいんだぜ」
「私、補助魔法が一つもないから、弱そうでも覚えてみたくって。ついでに何かあっても周りに被害が出ないこの場所で、試してもみようと思うよ!」
「そうか、なら俺もここで巨大化ってのを体験してみるかな。……ロナは魔力が少なくなってるんだ、不調が出たらすぐ言ってくれよ?」
「うん!」


 ロナは魔法に向き合い始めた。俺もとりあえずハンマーの方を操作してみる。

 モノってのは巨大化したら重くなるはずだ。そして重くなったら『ソーサ』による操作も難しくなっていく。制御が効かなくなるタイミングも今はわからない。
 
 そのためハンマーは地面に放ったまま浮かせたりせず、巨大化に必要な魔力だけを送り続けてみた。

 そうすると、『バイルトン』はまるで膨らむかのようにみるみると巨大化していく。小屋、一軒屋、宿、教会、ギルド……。それら建物に比類するような、明らかに人では持てないサイズになってもなお限度が見えない。
 
 やがて大きくなりすぎた『バイルトン』はこの崖のような地形の両壁に挟まれた。大きさだけならまるで城、あるいは俺の心の広さのようだ。ここで一旦魔力を送るのを止めると、巨大化も止まる。

 そこから試しに、操作で持ち上げようとしても、案の定ビクともしな……いや、やっぱりほんの少しだけ動かせてるような気がしなくもない……? まあ、気のせいだとは思うが、もし、コレを本当に自由に動かせるなんてことになったらとんでもない。

 とりあえずこのハンマーについてまとめると、サイズを変えるのに時間が必要で即効性に欠き、そもそも動かせないという問題点が目立つ。だご男としてくすぐられるでかさというロマンがコレにはあった。心が少し売却から遠ざかったぜ。


「す、すごい……。おっきい……」
「ああ、圧巻ってやつだよな」


 気がつくと、ロナが口をポカンと開けて肥大した『バイルトン』を眺めていた。
 予想通りの反応はいいとして、彼女が纏っているこの凄まじいものはなんだ? コレがあの[ハドルオン=バイゼン]とやらなのか?


「……で、そっちはどうだった? なんかすごいのが漂ってるけど」
「ばっちりこの魔法の強いとこがわかったよ! ほんとにすごいの!」


 魔力半分を消費する代わりに得たもの。それは一時的に防御が何倍にもなるという力。ロナいわく、防御の数値がおよそ二十倍にもなっているようだ。
 つまり、使う人によっては一発分だけほぼ無敵になれる魔法、と、解釈してもいいのかもしれない。

 ロナの美しい肌に傷がつく機会が減ったってことだ。実に素晴らしい。


「総じて、今回はかなり収穫があったと言えるんじゃないか? 最高のグローブに、強力な防御の補助魔法。いいバランスだ」
「そだね! そのハンマーも迫力がすごいし」
「今のところ見掛け倒しだがな。いつかクールに使いこなしてみたいぜ。……よし! 帰ってランチにしようか」
「うん‼︎」


 『バイルトン』を元の大きさに戻して回収し、忘れ物がないことをしっかりと確認した俺たちは、この膨らむ猪ばっかり出てきたダンジョンをあとにした。

















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