23 / 136
第一部
第23話 俺の活躍方法
しおりを挟む
膨らむ鉄製猪達の部屋からその先に進み、次の階段を降りる。
再び広い部屋があり、そこには膨らむ猪と同じ真っ直ぐな牙の猪の頭を持った、小さめの人型の魔物がいた。五匹全員、何かしら金属の装備品を付けている。
「あれはコボルト……? でも、顔がパンクボアで……?」
「なに、どうせステータスは無いようなものだしな。名前とか気にしなくていいんじゃないか?」
「そだね! じゃ、次は新しく覚えた『風波斬』を試してみようかな?」
「……いや、次は俺にやらせてくれ」
俺はレディファーストを重んじる紳士だが、らしくなく、ロナにそう言った。俺も敵を相手に武器を試してみたくなってしまったんだ。
「あ、そっか! あのクロスボウを試すんだね! もう『互角』は効いてるみたいだし、もし危なくなったら私が守るから存分に試して!」
「ありがとう。万が一の時は頼りにしてるぜ」
今まで互角にしてきた魔物の例に漏れず、ボアルト達は突然弱くなった己にあたふたしていた。俺はありあわせのものでズボンにつけてぶら下げていた『半月の弓銃 ハムン』を手に持ち、その発射口を鎧をつけている一匹の猪頭に向ける。
「華麗に撃ち抜いてやるぜ……」
帽子を視界に入るくらい傾け、ちょっとカッコつけたセリフを言ってから、この弓銃の効果を使い魔力で作った光属性の矢を撃ち出した。紳士的な魔弾は程なくして狙っていたボアルトの眉間を貫く。
そこから間髪入れず連続で四発、各々の皮膚が露出しているところに正確に狙いを定め光の弾を叩き込む。俺は一度も外さず、全弾綺麗にヒットさせた。
なにもこんな丁寧に狙わなくても、魔力と弾は無限なのだから乱れ打ちしているだけでも十分奴らを倒せるのだろう。しかし雑な動きをしない方が紳士的でエレガント、つまり俺らしいのさ。
「ふっ……まあ紳士にかかればこんなもんか」
「……⁉︎ え、あの……ザンって弓の扱ったことあるの……?」
「いや、子供時に普通の弓型のおもちゃ……ほら、先端が矢尻の代わりに布を丸めたボンボンになってるやつ、あれで的当てして少し遊んだことがあるくらいかな。だから、矢を打つのは十二年ぶりくらいか」
「す、すごい……いくらクロスボウでもほぼ初心者でこんな的確に……」
とまあ、一通りカッコつけて楽しんだが、実を言うと初っ端から連続して、正確に対象を撃ち抜き続けられたのにはタネも仕掛けもある。
まず、俺の愛帽の鍔で視界をあえて制限し、標準を合わせやすくしてみた。だが無論、ド素人の俺がこの程度でうまく動く的を撃ち抜けるはずもない。
だからその次に腕の揺れによるブレなどを『弓銃ハムン』ごと指輪『ソーサ』で補助し、無理やり安定させた。
加えて最後に、撃ち出す瞬間に矢をよく見て、狙った場所からズレているようなら、直進し始めるその矢そのものを操って軌道修正をしたというわけだ。
これだけの工程とアイテムを駆使して、やっとまともに当てられた。あくせくしてるのがバレるとカッコ悪いから、ロナにはこのまま秘密にしておきたい。
「ザンってほんとに、ほんとーにすごい人なんだね……! たった数分ですぐに木を乗りこなしたり、今みたいにほぼ初めてで的確に矢を当てたり。天才肌っていうのかな?」
「ふっふっふ、ふっふっふっふっふ……」
「そもそもこのダンジョン攻略自体ザンがいないとできないし、もしかして私は要らない……?」
「おっと、それは流石に言い過ぎだぜ」
「そ、そっかー、よかった!」
たしかにそこそこの攻撃手段は得られたことになるだろうが、火力や戦闘経験という面では当然ながらロナに遠く及ばない。だから居てくれた方がいいに決まっている。
……何より可愛いレディと行動を共にすると言う状況に癒される。いや、正直こっちが本音だ。
とにかく、こうしてあっという間にこの部屋の魔物も全滅させてしまったので、俺たちはまた次に進むことにした。あんまり高値にはならなさそうなので半猪小人達の亡骸と装備品は剥ぎ取らずそのまま放っておく。
そして先に進めば、また階段があり、それ降りて新しい部屋に向かうものだと思いながら歩みを始めたが……。
「……あ、あれ、ザン! また鞄が光ってるよ!」
「マジか!」
廊下の途中でなんと、隠し宝箱や隠し部屋を見つける『秘宝の羅針盤 ラボス』が床の一部に向かって光を差し、何かの在処を示したのだった。
その光の矛先をよく見ると、石畳の床の一部に他にはない模様が見られるブロック群があることに気がつく。目を凝らさないとなかなか見つけられないだろう、こんなもの。巧妙に隠してあるものだ。
「こんな感じで宝箱が道中に置いてあるんだね!」
「だな。掘り出してみたいが……よし、できそうだ」
絶賛大活躍中の指輪『ソーサ』を使って、その毛色が違うブロック群を一つ一つ取り除いていった。まあまあブロックの数が多かったが割とすんなり撤去は進み、難なく銅色の宝箱を掘り出すまでに至ることができた。
ロナはしゃがみながら、銅の宝箱を観察し始める。
「これ開けてみる?」
「こういうのって罠とか仕掛けられたりしてないのか?」
「あ、どうなんだろ」
……この言葉、何気なく罠がないかと確認を取るために言っただけだった。しかしその自分の一言にふと気が付かされた。俺の弱点の一つに。
「ロナ、やっぱり開けるのは後にしよう。ボスを倒して手に入れた宝箱ならまだしも、道端に置いてあった宝箱は警戒したい。……俺はよく考えたら、罠のような、生物が関わらない攻撃手段にめっぽう弱いんだった」
「……あっ! たしかにそうだね。危ない……今後も気にかけないと。じゃあほっておく?」
「いや、それももったいないし、これは俺が浮かせて持っていくとしよう。比較的安全な場所で開けるんだ」
「うん、そうしよっか」
俺は銅の宝箱をそっと『ソーサ』を使って浮かせた。手で持つより楽だ。
「それにしても、だいぶその指輪の扱い慣れたみたいだね」
「まあな」
ロナの言う通りたしかにかなり慣れてきている。この調子ならいつか、ロナの買い物に付き合う優雅な一時が来た際、荷物持ち役として存分に役に立てそうだぜ。
あとはこの場所には他に何もなさそうだったので、俺たちは再び歩を先に進めることにした。
=====
非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
再び広い部屋があり、そこには膨らむ猪と同じ真っ直ぐな牙の猪の頭を持った、小さめの人型の魔物がいた。五匹全員、何かしら金属の装備品を付けている。
「あれはコボルト……? でも、顔がパンクボアで……?」
「なに、どうせステータスは無いようなものだしな。名前とか気にしなくていいんじゃないか?」
「そだね! じゃ、次は新しく覚えた『風波斬』を試してみようかな?」
「……いや、次は俺にやらせてくれ」
俺はレディファーストを重んじる紳士だが、らしくなく、ロナにそう言った。俺も敵を相手に武器を試してみたくなってしまったんだ。
「あ、そっか! あのクロスボウを試すんだね! もう『互角』は効いてるみたいだし、もし危なくなったら私が守るから存分に試して!」
「ありがとう。万が一の時は頼りにしてるぜ」
今まで互角にしてきた魔物の例に漏れず、ボアルト達は突然弱くなった己にあたふたしていた。俺はありあわせのものでズボンにつけてぶら下げていた『半月の弓銃 ハムン』を手に持ち、その発射口を鎧をつけている一匹の猪頭に向ける。
「華麗に撃ち抜いてやるぜ……」
帽子を視界に入るくらい傾け、ちょっとカッコつけたセリフを言ってから、この弓銃の効果を使い魔力で作った光属性の矢を撃ち出した。紳士的な魔弾は程なくして狙っていたボアルトの眉間を貫く。
そこから間髪入れず連続で四発、各々の皮膚が露出しているところに正確に狙いを定め光の弾を叩き込む。俺は一度も外さず、全弾綺麗にヒットさせた。
なにもこんな丁寧に狙わなくても、魔力と弾は無限なのだから乱れ打ちしているだけでも十分奴らを倒せるのだろう。しかし雑な動きをしない方が紳士的でエレガント、つまり俺らしいのさ。
「ふっ……まあ紳士にかかればこんなもんか」
「……⁉︎ え、あの……ザンって弓の扱ったことあるの……?」
「いや、子供時に普通の弓型のおもちゃ……ほら、先端が矢尻の代わりに布を丸めたボンボンになってるやつ、あれで的当てして少し遊んだことがあるくらいかな。だから、矢を打つのは十二年ぶりくらいか」
「す、すごい……いくらクロスボウでもほぼ初心者でこんな的確に……」
とまあ、一通りカッコつけて楽しんだが、実を言うと初っ端から連続して、正確に対象を撃ち抜き続けられたのにはタネも仕掛けもある。
まず、俺の愛帽の鍔で視界をあえて制限し、標準を合わせやすくしてみた。だが無論、ド素人の俺がこの程度でうまく動く的を撃ち抜けるはずもない。
だからその次に腕の揺れによるブレなどを『弓銃ハムン』ごと指輪『ソーサ』で補助し、無理やり安定させた。
加えて最後に、撃ち出す瞬間に矢をよく見て、狙った場所からズレているようなら、直進し始めるその矢そのものを操って軌道修正をしたというわけだ。
これだけの工程とアイテムを駆使して、やっとまともに当てられた。あくせくしてるのがバレるとカッコ悪いから、ロナにはこのまま秘密にしておきたい。
「ザンってほんとに、ほんとーにすごい人なんだね……! たった数分ですぐに木を乗りこなしたり、今みたいにほぼ初めてで的確に矢を当てたり。天才肌っていうのかな?」
「ふっふっふ、ふっふっふっふっふ……」
「そもそもこのダンジョン攻略自体ザンがいないとできないし、もしかして私は要らない……?」
「おっと、それは流石に言い過ぎだぜ」
「そ、そっかー、よかった!」
たしかにそこそこの攻撃手段は得られたことになるだろうが、火力や戦闘経験という面では当然ながらロナに遠く及ばない。だから居てくれた方がいいに決まっている。
……何より可愛いレディと行動を共にすると言う状況に癒される。いや、正直こっちが本音だ。
とにかく、こうしてあっという間にこの部屋の魔物も全滅させてしまったので、俺たちはまた次に進むことにした。あんまり高値にはならなさそうなので半猪小人達の亡骸と装備品は剥ぎ取らずそのまま放っておく。
そして先に進めば、また階段があり、それ降りて新しい部屋に向かうものだと思いながら歩みを始めたが……。
「……あ、あれ、ザン! また鞄が光ってるよ!」
「マジか!」
廊下の途中でなんと、隠し宝箱や隠し部屋を見つける『秘宝の羅針盤 ラボス』が床の一部に向かって光を差し、何かの在処を示したのだった。
その光の矛先をよく見ると、石畳の床の一部に他にはない模様が見られるブロック群があることに気がつく。目を凝らさないとなかなか見つけられないだろう、こんなもの。巧妙に隠してあるものだ。
「こんな感じで宝箱が道中に置いてあるんだね!」
「だな。掘り出してみたいが……よし、できそうだ」
絶賛大活躍中の指輪『ソーサ』を使って、その毛色が違うブロック群を一つ一つ取り除いていった。まあまあブロックの数が多かったが割とすんなり撤去は進み、難なく銅色の宝箱を掘り出すまでに至ることができた。
ロナはしゃがみながら、銅の宝箱を観察し始める。
「これ開けてみる?」
「こういうのって罠とか仕掛けられたりしてないのか?」
「あ、どうなんだろ」
……この言葉、何気なく罠がないかと確認を取るために言っただけだった。しかしその自分の一言にふと気が付かされた。俺の弱点の一つに。
「ロナ、やっぱり開けるのは後にしよう。ボスを倒して手に入れた宝箱ならまだしも、道端に置いてあった宝箱は警戒したい。……俺はよく考えたら、罠のような、生物が関わらない攻撃手段にめっぽう弱いんだった」
「……あっ! たしかにそうだね。危ない……今後も気にかけないと。じゃあほっておく?」
「いや、それももったいないし、これは俺が浮かせて持っていくとしよう。比較的安全な場所で開けるんだ」
「うん、そうしよっか」
俺は銅の宝箱をそっと『ソーサ』を使って浮かせた。手で持つより楽だ。
「それにしても、だいぶその指輪の扱い慣れたみたいだね」
「まあな」
ロナの言う通りたしかにかなり慣れてきている。この調子ならいつか、ロナの買い物に付き合う優雅な一時が来た際、荷物持ち役として存分に役に立てそうだぜ。
あとはこの場所には他に何もなさそうだったので、俺たちは再び歩を先に進めることにした。
=====
非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
不死王はスローライフを希望します
小狐丸
ファンタジー
気がついたら、暗い森の中に居た男。
深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。
そこで俺は気がつく。
「俺って透けてないか?」
そう、男はゴーストになっていた。
最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。
その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。
設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪
不本意な転生 ~自由で快適な生活を目指します~
楓
ファンタジー
どうやら交通事故で死んだらしい。気がついたらよくわからない世界で3歳だった。でもここ近代化の波さえ押し寄せてない16~18世紀の文化水準だと思う。
両親は美男美女、貴族には珍しい駆け落ちにも似た恋愛結婚だったらしいが、男爵家の三男って貴族の端の端だよ!はっきり言って前世の方が習い事させてもらったりしてセレブだったと思う。仕方がないので、まず出来る事から始めてみます。
主人公が大人になる後半にR18が入るかも。
入るときは R18 を明記。
※ ★マークは主人公以外の視点。
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる