上 下
20 / 136
第一部

第20話 俺達のルール

しおりを挟む
「え、は? なに……? 住む……? ど、どういうことだ?」
「あー、うーんとね……?」


 ロナという超美少女が発した、俺と一緒に住むため……という衝撃的なワードが脳内にベッタリと張り付いてリピートされる。くっ、とりあえず落ち着くんだ、紳士よ!

 内心困惑する俺に対し、ロナは尻尾を軽くパタパタさせながら詳しい説明をし始めた。

 まず、こうして宿を借りて生活しているままだと彼女の剣や武術を鍛錬できる場所が無い。だからそう言ったことができる地下室や庭付きの家が欲しいのだそう。
 たしかに、本来ならギルドにそういう設備が整ってるものだが、俺たちの場合はフリーなため個人で用意する必要がある。

 次に、俺達の趣味。

 昨日、寝るまでたっぷり二人で雑談していたが、その内容が(やはりというべきか)食べることが趣味のロナと、調理することが趣味の俺とで共通している、食事に関することが大半を占めていた。

 そしてその中で、俺はロナに料理を振る舞いたいし、ロナは料理を食べたいという結論に至ったんだ。そのお互いの欲望を存分に満たすのなら一軒家がいいだろうという理屈だ。

 ただそれだけなら買わずとも借家を借りればいいだけなのだが、どうせ大金が手に入りやすい状況。背伸びして、自分たちが気兼ねなく使える家を土地ごと買う……なんてこと目指してもいいだろうとロナは考えたようだ。
 
 ここまで聞いて、この提案に対して俺は……男女二人組であることを踏まえなかったら大いに賛成したいと思った。
 何も俺の趣味は料理だけじゃない。紅茶用の茶葉など、何か有用な植物を育てたりもしたい。借家じゃそう自由にできないだろう。となると家は確かにほしい。

 そして正直なところ。
 この話はロナが自ら俺と同居すると言っていることになる。彼女のような美しく可愛らしい少女と同じ場所に住むだなんてまるで夢みたいだ。是非ともそうしたい。
 ……紳士としては嫁入り前の無垢なレディと同居するなんて大問題なんだが、むしろよく考えたら今とあんまり状況変わらないし。

 それにこれが重要なのだが、仲間同士でシェアハウスってのはロナ曰くそう珍しいことじゃないようだ。たしかに俺もそのような話を聞いたことがそこそこある。
 だからロナは俺と一緒に住むだなんてすんなり言い出せたんだろう。なら、もういいんじゃないだろうか。仲間内で珍しい話じゃないなら納得だ、うん。いいよね?

 それと、これは俺個人の考えだが。もし仮に改めてこのコンビが解散になり土地と家のような財産を分けることになってしまったとしても、その時はその時で、うまく金に換算し直して分与すればいいだけの話だろう。クールにクレバーに。

 ……総合的に考えてこの案は。


「ど、どうかな?」
「……じ、実にいいと思うぜ! ああ、是非、それも目標にしよう!」
「やった、ありがとう!」


 しかし俺と同じ空間に居たからこそ、さっき大変なことになったばっかりだろうに。ロナのああいったことに長い時間は狼狽えない心の強さ、紳士として見習った方がいいのかもな……。


「じゃ、さっそく目標二つとも書いて……と。とりあえず活動内容はこんなものでいいだろうか」
「うん、そうだね!」


 『活動内容はフリーのダンジョン攻略家』『目標一つ目はロナを星五まで到達させること』『目標二つ目は家を買うこと』……と。今後何かこの項目に追加する可能性もあるし、逆に結構高い目標なためその両方諦めなければならない可能性もある。
 だが、何にせよこういったものがきちんと存在するだけで十分に気は引き締められるようだ。


「それで、もう一つ決めたいことあるんだよねっ?」


 ロナが俺の顔を真っ直ぐ眺めながらそう言った。気が引き締まっていて、この話をし始める前よりキリッとした表情をしている。なんだかエレガントさが上がったんじゃ無いだろうか。てなわけで、向こうから訊いてくれたことだし次の内容に移ろう。


「二つ目は、俺達なりのルールを決めようって話なんだ」
「ルール……?」
「なに、そんな難しく考えなくていい。俺達は仲良し友人コンビだが、今さっきちゃんと仕事内容を決めたように、ビジネスパートナーでもあるわけだ。少しでも金が絡まってくるなら何か問題が起こる前に対処しやすくした方がいい、だろ?」
「なるほど、そうだね!」


 紳士な俺と、恩人を疑わない無垢なロナというお互いの性格も相まって、金や宝具の取り分で争ってるような姿を全く想像できないが、気を付けておいたほうがいいのはたしかだ。


「さて、じゃあまず最初のルールは……初めに話し合ったことでいいか」
「私はザンに心配されるような不用心なことしないで、ザンは私に心配されるような無茶なことをしない、だね」
「ああ。二つまとめて『注意すべきことはお互いきちんと注意しあう』ってのでいいな」
「うん」


 注意されたのにさっそく一緒に住むとかロナが言っていたことは、今は置いておこう。人はすぐ変われるものじゃない。

 俺は二枚目の羊皮紙の頭に『俺とロナのルール』と記入し、その下に箇条書きの一つ目として今決めた内容を書き込んだ。

 ルールにしては少しふんわりしているが、あくまで俺たちは友人コンビ。友情部分を薄れさせてしまうほど厳しくてもいけない。このくらいがちょうどいいか。


「次に金とアイテムのことだが……まあ、モノは手にいれ次第、昨日みたいにその都度話し合って決めるってことでいいか」
「うんうん」
「それで、金はどうする? 家を買うんだし、コンビ共同の貯金みたいなのを設けた方がいいだろう?」
「うんうん!」
「となると……」


 それからロナとよくよく話し合った結果、金の分け方はとりあえず貯金三割、残り七割を半分ずつってことになった。ただ、これは昨日のダンジョン攻略みたいに二人で共同して作業したことで得られた収入での話。

 個人で何かしらの活動をして金を得た場合は、全てがその当人の取り分であること前提の上で、巨額の場合は一旦話し合うって形にすることにした。

 この財産的な内容の二つの項目を『俺とロナのルール』に書き込む。三つの決まり事がズラリと並んだ。


「よし、ルールもこんなものでいいか。あんまり決めても仕方ないしな。今のところは。何かあればその都度注意して、そして増やせばいい」
「そうだね」


 ルールが増えるとするなら、例えば二人の恋愛に関することとかだろう。これは男女ペアだからそのうち避けては通れなくなると昨日から考えている。
 だがなにも、新鮮で楽しい雰囲気の時にドロドロとした話をし合わなくてもいいんじゃないか、というのが紳士なりの考えだ。

 俺は出来上がった二枚の表を眺める。


「うん、中々良く、俺達の今後が決まったな」
「一緒に頑張ろうね!」
「ああ! 改めてよろしく頼むぜロナ」


 俺はロナに右手を差し出した。ロナは満面の笑みを浮かべながらその握手に応じる。


「えへへ……」
「……それで、今日はどうする? まだ一日始まったばかりだが」
「今日もダンジョンに行きたい! 今すっごくやる気に溢れてるし、なにより昨日手に入れた術技や武器を試したいの」
「たしかにせっかくダンジョン攻略頑張るって目標立てたし、色々練習もしたいし、行くしかないよな」

 
 こうして、俺達は今日もダンジョン攻略に向かうことになった……が。

 しかしまあ、よくあんな下着姿を見てしまってギクシャクした空気からこんな希望に満ち溢れた雰囲気に変えられたものだ。

 元から活動内容とルールを決める予定だったとはいえ、そのたった二つの話でここまであのハプニングを和らげられるとは。さすがは俺、と言っていいのだろうか。

 ……結局、半裸を見てしまったことに対しての詫びを態度で示していないな。せめて今日のランチとディナーは俺の奢りということにするか。十万ベルくらい吹き飛びそうだが、仕方あるまい。







=====

非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

不本意な転生 ~自由で快適な生活を目指します~

ファンタジー
どうやら交通事故で死んだらしい。気がついたらよくわからない世界で3歳だった。でもここ近代化の波さえ押し寄せてない16~18世紀の文化水準だと思う。 両親は美男美女、貴族には珍しい駆け落ちにも似た恋愛結婚だったらしいが、男爵家の三男って貴族の端の端だよ!はっきり言って前世の方が習い事させてもらったりしてセレブだったと思う。仕方がないので、まず出来る事から始めてみます。 主人公が大人になる後半にR18が入るかも。 入るときは R18 を明記。 ※ ★マークは主人公以外の視点。

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

不死王はスローライフを希望します

小狐丸
ファンタジー
 気がついたら、暗い森の中に居た男。  深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。  そこで俺は気がつく。 「俺って透けてないか?」  そう、男はゴーストになっていた。  最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。  その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。  設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。

処理中です...