18 / 136
第一部
第18話 俺からの注意
しおりを挟む「ふぅ……。すまない、ロナ。どっちが悪いかは置いといて本題に入ろう」
「う、うん」
よし、これで話の流れは正せたな。流石は昔ながらの紳士のおとも、ハーブティーだ。
「……まず、俺とロナは友達だな」
「う、うん!」
ロナは嬉しそうに頷いた。紅茶を飲む前まで半ば放心状態だったはずなのに、側から見ればもう立ち直ったようにも見える。
そんなに俺と友達で居ることが嬉しいのか……。ならば、きちんと話を聞き入れてくれることだろう。
「……じゃあ、友達としてロナに注意したいことがある」
「と、友達として……っ!」
「ああ、友達として。単刀直入に言うと俺はロナにもっと、女性としての自分を大切にして欲しいんだ」
「……え?」
目をキョトンとさせたこの反応、やはり自覚はしていないのだろう。
暴漢に襲われるのを嫌がった、着替えは別々にしようと自分から提案した、裸を見られるのを恥ずかしがった。……極々当たり前の感性を持っているのに、警戒そのものには疎い。危ない話だ。
「心当たりはないだろうか」
「それは、さ、さっきの……」
「それだけじゃない。女性の身一つで野宿すること、路地裏で眠ってしまうこと、俺が男なのに別々の部屋を取らなかったこと。この二日間でこれだけ、ロナは自分の身を危険に晒した」
「そ、そうかもだけど……! へ、部屋に関しては……!」
「俺を信頼してた……か? さっきの無用心もその一環なのかもな。だがもし、今も俺がロナを騙してて、実は体目当てで近づいてて、素性はあの暴漢達みたいな人間だったらどうするつもりだったんだ? 俺の呪いがあれば今からロナを押し倒すことだって簡単だ、そうだろう?」
「……!」
「ま、紳士の中の紳士たる俺がそんなことするわけないが」
ロナはそんなこと、考えもしなかったという表情をしている。
この純粋さも、無垢な少女らしさも、ロナというレディの魅力の一つかもしれないが……もう体だけは大人として通じるんだ。それを見て、邪悪でやましい心を抱く奴だって大勢いる。それを理解してもらわなければ。
「……ロナのその無警戒さが竜族の性なのか、故郷の風習なのか、育った環境によるものなのかは俺はわからない。だが、君のその女性としての自分を危険に晒すような行動一つを心配する……心配していい立場の人間が、つい昨日、一人増えたことを覚えておいて欲しい」
「……っ!」
「そしてロナがもし、隙を突かれて、あるいは騙されて……心身ともに傷つくことになったら俺は心の底から悲しい。だから、約束して欲しいんだ。きちんと自覚してくれ、自分を大切にすることを」
彼女の手を握り、ポカンとしているその顔をジッと見つめる。
俺は、そのまま彼女が無気力にうなずくものだと思っていた。しかし、ロナは予想と違って静かに涙を流し始めたのだった。
また、俺はロナを泣かせたのか。紳士として俺は……いや。今はそんなこと考えている場合じゃないか。
「どうした? ごめん、また何か……」
「ち、違う。違うの、ザンってすっごく優しくてっ……その、優しすぎて感動しちゃったっていうか……っ!」
「そりゃあ、まあ、レディの幸せを思う紳士だから、な」
ロナは涙を流しながらハニかんだ。なんだ、感動するほどの言葉を送れるだなんて、俺はちゃんと紳士できてるんじゃないか。よかった。ならば、さらに紳士らしく告げるべきことを告げきってしまおう。
「じゃあ、もっと言うと。いきなり性格や習慣を治すのは難しいと思う。だから、俺達は友達として、仲間として……もし、注意すべきだと思うことがあったらその都度、俺がちゃんとクレバーに注意しよう。そしてロナより強い男がロナのことを傷つけようとしたら、俺がエレガントに助けよう。そのことを覚えていて欲しい」
「うんっ……うんっ!」
ロナは涙を拭うと、俺の手を強く握り返してきた。
一人のレディを紳士として守り続ける約束……自分から言っといてなんだが、紳士的すぎてなかなかに痺れる。そして紳士だからこそその約束は必ず守ろう。
でも、なんだか愛の告白に匹敵するレベルなようだった気もするが。……まあ、あくまで友達だ。ロナに相応しいジェントルなナイトが出てきたら、潔くその座を譲れるようにはしよう。
「……あ、そうだ」
「……ん?」
ロナは何か思いついたような素振りを見せたあと、俺の手を握ったまま空いた片手で紅茶を飲み、ホッと息をついた。その直後にカップを皿に置き、その手も俺の手に被せてくる。
「私からもザンに言いたいことあるの」
「どうぞ」
「昨日の、あのボス部屋でのあれ。自己犠牲的なあの行動……やめてほしいの。私、ザンが無駄に傷つくの見たくない。友達として」
「あー……あれは俺の性格と信念的なアレだから治りづらいが……まあ、善処するさ、うん」
「ほんとー?」
「ほんとほんと、善処するさ。ははは」
「……むむむ。……ふふっ」
ロナがそれはそれは可愛らしく微笑んだ。
申し訳ないが、俺がそのようにレディを守ろうとするのは死んでも止めることができないだろう。ただ、ロナがそれを願うのなら、バレないようにするとか、やりようはある。心配させないことも紳士としての修行の一つだと思って挑もうじゃないか、エレガントに。
……よし、こんなところでロナに注意するのはいいだろうか。
実は俺が彼女にはなしておきたかったのはこの一連の注意、忠告だけじゃない。昨晩、寝る直前に、彼女と決めておきたいと考えたことが幾つかあるんだ。
もう少し眠気などが飛んで、心に余裕がある時間帯に話すつもりだったが、この際だ、そのままそれらの話につなげてしまおう。
=====
非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます
ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。
何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。
何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。
それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。
そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。
見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。
「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」
にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。
「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。
「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。
【書籍化決定】神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜
きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…?
え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの??
俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ!
____________________________________________
突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった!
那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。
しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」
そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?)
呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!)
謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。
※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。
※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。
※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎
⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる