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第一部

第18話 俺からの注意

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「ふぅ……。すまない、ロナ。どっちが悪いかは置いといて本題に入ろう」
「う、うん」


 よし、これで話の流れは正せたな。流石は昔ながらの紳士のおとも、ハーブティーだ。


「……まず、俺とロナは友達だな」
「う、うん!」


 ロナは嬉しそうに頷いた。紅茶を飲む前まで半ば放心状態だったはずなのに、側から見ればもう立ち直ったようにも見える。
 そんなに俺と友達で居ることが嬉しいのか……。ならば、きちんと話を聞き入れてくれることだろう。


「……じゃあ、友達としてロナに注意したいことがある」
「と、友達として……っ!」
「ああ、友達として。単刀直入に言うと俺はロナにもっと、女性としての自分を大切にして欲しいんだ」
「……え?」


 目をキョトンとさせたこの反応、やはり自覚はしていないのだろう。
 暴漢に襲われるのを嫌がった、着替えは別々にしようと自分から提案した、裸を見られるのを恥ずかしがった。……極々当たり前の感性を持っているのに、警戒そのものには疎い。危ない話だ。
 

「心当たりはないだろうか」
「それは、さ、さっきの……」
「それだけじゃない。女性の身一つで野宿すること、路地裏で眠ってしまうこと、俺が男なのに別々の部屋を取らなかったこと。この二日間でこれだけ、ロナは自分の身を危険に晒した」
「そ、そうかもだけど……! へ、部屋に関しては……!」
「俺を信頼してた……か? さっきの無用心もその一環なのかもな。だがもし、今も俺がロナを騙してて、実は体目当てで近づいてて、素性はあの暴漢達みたいな人間だったらどうするつもりだったんだ? 俺の呪いがあれば今からロナを押し倒すことだって簡単だ、そうだろう?」
「……!」
「ま、紳士の中の紳士たる俺がそんなことするわけないが」


 ロナはそんなこと、考えもしなかったという表情をしている。
 この純粋さも、無垢な少女らしさも、ロナというレディの魅力の一つかもしれないが……もう体だけは大人として通じるんだ。それを見て、邪悪でやましい心を抱く奴だって大勢いる。それを理解してもらわなければ。


「……ロナのその無警戒さが竜族の性なのか、故郷の風習なのか、育った環境によるものなのかは俺はわからない。だが、君のその女性としての自分を危険に晒すような行動一つを心配する……心配していい立場の人間が、つい昨日、一人増えたことを覚えておいて欲しい」
「……っ!」
「そしてロナがもし、隙を突かれて、あるいは騙されて……心身ともに傷つくことになったら俺は心の底から悲しい。だから、約束して欲しいんだ。きちんと自覚してくれ、自分を大切にすることを」


 彼女の手を握り、ポカンとしているその顔をジッと見つめる。
 俺は、そのまま彼女が無気力にうなずくものだと思っていた。しかし、ロナは予想と違って静かに涙を流し始めたのだった。

 また、俺はロナを泣かせたのか。紳士として俺は……いや。今はそんなこと考えている場合じゃないか。


「どうした? ごめん、また何か……」
「ち、違う。違うの、ザンってすっごく優しくてっ……その、優しすぎて感動しちゃったっていうか……っ!」
「そりゃあ、まあ、レディの幸せを思う紳士だから、な」


 ロナは涙を流しながらハニかんだ。なんだ、感動するほどの言葉を送れるだなんて、俺はちゃんと紳士できてるんじゃないか。よかった。ならば、さらに紳士らしく告げるべきことを告げきってしまおう。


「じゃあ、もっと言うと。いきなり性格や習慣を治すのは難しいと思う。だから、俺達は友達として、仲間として……もし、注意すべきだと思うことがあったらその都度、俺がちゃんとクレバーに注意しよう。そしてロナより強い男がロナのことを傷つけようとしたら、俺がエレガントに助けよう。そのことを覚えていて欲しい」
「うんっ……うんっ!」


 ロナは涙を拭うと、俺の手を強く握り返してきた。
 一人のレディを紳士として守り続ける約束……自分から言っといてなんだが、紳士的すぎてなかなかに痺れる。そして紳士だからこそその約束は必ず守ろう。
 でも、なんだか愛の告白に匹敵するレベルなようだった気もするが。……まあ、あくまで友達だ。ロナに相応しいジェントルなナイトが出てきたら、いさぎよくその座を譲れるようにはしよう。


「……あ、そうだ」
「……ん?」


 ロナは何か思いついたような素振りを見せたあと、俺の手を握ったまま空いた片手で紅茶を飲み、ホッと息をついた。その直後にカップを皿に置き、その手も俺の手に被せてくる。


「私からもザンに言いたいことあるの」
「どうぞ」
「昨日の、あのボス部屋でのあれ。自己犠牲的なあの行動……やめてほしいの。私、ザンが無駄に傷つくの見たくない。友達として」
「あー……あれは俺の性格と信念的なアレだから治りづらいが……まあ、善処するさ、うん」
「ほんとー?」
「ほんとほんと、善処するさ。ははは」
「……むむむ。……ふふっ」


 ロナがそれはそれは可愛らしく微笑んだ。

 申し訳ないが、俺がそのようにレディを守ろうとするのは死んでも止めることができないだろう。ただ、ロナがそれを願うのなら、バレないようにするとか、やりようはある。心配させないことも紳士としての修行の一つだと思って挑もうじゃないか、エレガントに。

 ……よし、こんなところでロナに注意するのはいいだろうか。
 実は俺が彼女にはなしておきたかったのはこの一連の注意、忠告だけじゃない。昨晩、寝る直前に、彼女と決めておきたいと考えたことが幾つかあるんだ。
 もう少し眠気などが飛んで、心に余裕がある時間帯に話すつもりだったが、この際だ、そのままそれらの話につなげてしまおう。









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