上 下
9 / 136
第一部

第9話 俺達とダンジョンの宝箱

しおりを挟む
「ロナ、後ろ見てみろ」
「……ん? あ、宝箱だ!」


 気づいてすぐに、ロナは子供のようにはしゃいでその宝箱へ駆けていった。宝箱の色は銀色。この色によって入ってる中身が決まるというが、銀色はどうだったか、俺は知らない。

 ただ、例のあの宝箱とは違うので、とりあえず俺の呪いを引き寄せる呪いの効果は発動しなかったようだ。


「開けていい?」
「ああ、いいぜ」
「開けるね!」


 俺もロナと同じ位置に着くと、ロナは目を輝かせながらそう聞いてきた。簡単に返事をしてやると同時に彼女はその箱の蓋を勢いよく開ける。

 中に入っていたのはロナの手のひらくらいの大きさがある六個程の研磨・加工済みの緑色の宝石と、一枚の羊皮紙の札。札はどう見ても例の『能力の札』だ。


「わぁ、綺麗!」
「君の方がきれ……」
「能力の札もあるよ⁉︎ これどうしよっか……って、ごめん、なんか言おうとした? 遮っちゃった」
「イヤ。俺も同じこと言おうとしてたトコ」
「そっか!」


 チッ、まあいい。今のは引いてしまった俺の負けだ。失敗したことは忘れようじゃないか。


「で、これどうする?」
「俺はただ敵を俺と互角にしただけ。頑張ったのはロナだ。だからそれは先にロナが確かめるといい」
「私はザンがしたことの方が大きいと思うけどな。でもザンがそういうならお言葉に甘えて」


 ロナは『能力の札』を自分の額に当てた。しばらくしてから少しだけ首を横に振ると、その札を俺に渡してくる。

 昨日、俺が『強制互角』を手に入れた後、札の紋様は消え去った。しかし今ロナが渡してきたものは消えていない。どうやら取得しなかったようだ。


「これは商人に適性があるザンが持ってた方がいいよ」
「そうなの?」
「そうなの」
「わかった」


 ロナから渡された札を俺の額につける。はっ……⁉︎ 美少女の額につけたものを俺が⁉︎  これは間接……なんていうんだろう。とにかく何かやましいことしてる気分になった……!

 若干の無意味な罪悪感に苛まれながら、俺は自分の頭の中に浮かんできた文字と向き合う。


<能力の札・・・『宝具理解』>

-----
『宝具理解』

 視界に入っている対象が宝具であった場合、その価値と利用方法を知ることができる。この能力はこの能力を強く意識することで発動することができる。
-----

<この能力を習得しますか?>


 本来、いい目を待っている商人だったら宝具に限らずなんでも調べることができるため、この能力はそれら腕利きの商人の目より劣っているといえる。

 ロナの見立てだとボスはBランクだったらしいし、この程度のものしか出ないのもうなずける。しかしこれは有って損するものではない。特に俺は今後、パンドラの箱を開ける商売を始める可能性がまだ十分にあるんだ。宝具の中身を鑑定できたら便利だろう。


「確かに俺向きだな。お言葉に甘えて、俺が取得してもいいかな?」
「いいとも!」
「悪いな」


 俺は『宝具理解』を習得した。これだけ呪われていても戦闘に使わない能力ならまともに覚えられる。不幸中の幸いというべきだろうか。こんな俺でも少し成長できたのは嬉しい。


「よし、じゃあ帰ろう。さっさと石を換金して宿と飯を確保するんだ」
「宝箱と一緒に出てきた魔法陣に触れればあの木の手前に戻れると思う。……でもその前に一つ気になることがあるんだけど」
「ん? なに?」


 ロナが俺の鞄を指さした。


「その光ってる線、なに?」
「え? 光ってる?」


 鞄を背中から下ろして確認してみると、確かにその中から真横に向かって謎の紫色の光の線が出現していた。その光はこのボスの部屋の壁の一点に向かって放たれている。

 この光はどうやら、俺のパンドラの箱に入っていた物の一つ、手乗りサイズの狂った羅針盤が発しているようだった。その羅針盤を取り出して様子を見ると、いままで狂っていたはずの針が光と同じ方向をしっかりと向いているのが確認できた。


「怪しすぎるな……」
「それ持ってきてたんだ。大半の荷物は宿屋さんに預けたのに」
「ああ、戦いで使うものかもしれないし、一応宝具だろうから自分で管理しておこうと思って持ってきたんだ。まさかこうなるとは……」
「さっきの能力で調べてみようよ」
「それもそうだな」


 俺は謎の羅針盤を『宝具理解』を意識しながら眺めた。頭の中に能力などと同じような説明文が浮かんでくる。


-----
『秘宝の羅針盤 ラボス』<宝具>

 ダンジョンに隠された部屋や宝箱が存在していた場合、その場所を針と光で指し示す。
----


 なるほど。つまり、この光の先には隠された部屋か宝が確実にあるってことか。


「と、いうわけだ。どうする?」
「単にお宝ならいいけど、隠し部屋って大抵はダンジョンの真のボスが居て、かなり手強いらしいよ?」
「……ああ、本来ならな」
「うん、本来ならね! ザンがいるから大丈夫かも、行ってみようよ!」
「そうこなくては」


 というわけで、俺とロナは光が指すこのボスの部屋の壁に近寄った。そこには、土と岩でできた壁の色より、ほんの少しだけ濃い目の茶色で描かれた手のひらサイズの魔法陣があった。こんなの、普通にダンジョン攻略していたら気がつける訳がない。


「普通、隠し部屋ってこんなに簡単に見つかるものじゃないらしいんだけどね?」
「だろうな」
「ザンと居るとたくさん凄い体験できて楽しいね!」
「そ、そう? ふっふっふ……ま、俺だからな」


 急に褒められたからびっくりした。照れるじゃないか。いや、俺自身が褒められたわけじゃないのかもしれないけど。

 とりあえず、試しに茶色い魔法陣を手で押してみた。どうやら発動方法はそれで正解だったようで、いきなり、それも一瞬で目の前の壁が通路状にくり抜かれる。その通路の先には濃い紫色をした光の塊があった。

 こんな俺でも即座に理解した。理解せざるを得なかった。その光に飛び込んだ先にとてつもなく強い何かがいることは。

 ……だが、気にする必要はない。そいつがどんなに強くても、どうせ俺と互角になるんだ。勇気を持ってこの光に飛び込むだけ。それだけでいい。









=====

非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不死王はスローライフを希望します

小狐丸
ファンタジー
 気がついたら、暗い森の中に居た男。  深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。  そこで俺は気がつく。 「俺って透けてないか?」  そう、男はゴーストになっていた。  最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。  その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。  設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

不本意な転生 ~自由で快適な生活を目指します~

ファンタジー
どうやら交通事故で死んだらしい。気がついたらよくわからない世界で3歳だった。でもここ近代化の波さえ押し寄せてない16~18世紀の文化水準だと思う。 両親は美男美女、貴族には珍しい駆け落ちにも似た恋愛結婚だったらしいが、男爵家の三男って貴族の端の端だよ!はっきり言って前世の方が習い事させてもらったりしてセレブだったと思う。仕方がないので、まず出来る事から始めてみます。 主人公が大人になる後半にR18が入るかも。 入るときは R18 を明記。 ※ ★マークは主人公以外の視点。

異世界転生令嬢、出奔する

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です) アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。 高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。 自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。 魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。 この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる! 外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

処理中です...