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209話 謎の取り合いでございます…!

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 私の目の前に物好きが二人。

 ガーベラさんは顔を赤くしているし、何度か乗り気ではない様子。でもなんだか指名を感じているみたいな…。
 一方で森で知り合ったイケメンさん。名前さえまだ知らないけど、どうやら私のことを異性として好きでいるみたい。一目惚れなんだって。

 ……ふーむ、私の考察だとグラブアの時と同じことにならないように、知らない人について行くくらいなら自分がデートした方がいいとガーベラさんは言ってくれてるのかもという結論が出た。
 それなら納得なのよね、ガーベラさん優しいし。


「若い槍使い……ガーベラといったっけ。 先にデートに誘おうとしていたってのは本当かな?」
「あ、ああ!」


 彼はジロジロとガーベラさんのことを見ている。
 こうやって人を観察しているのね。


「そうか……で、なんて誘おうとしてたんだい?」
「そ、それは…その」


 ガーベラさんは私の方をチラチラと見た。私に助けでも出して欲しいのかしら。いや、そういうわけではないみたいだけど。


「そもそもの疑問なんだけど」
「な、なんだよ!」
「君はアイリスちゃんを愛している……あるいは愛せるのかな? 心の底から」
「ほ、ほぼ初対面の貴方こそどうなんだ」
「僕は今回、デートに誘って食事をする。そういったことを繰り返して親睦を深めようと思ってたんだよ。今抱いている感情は、愛にはなってないけど、恋ではあるからね。頑張るんだよ」


 どうやらこの人、本気で私に恋をしているみたい。いえ、騙されてダメよアイリス。そういう風な演技かもしれないでしょ? 
 一方でガーベラさんは口をもごもごさせながら答えた。


「お、俺だって……」
「男なんだからはっきり言わないとわからないよ」
「うおおお…お、俺だってアイリスが…す、好きだ!」
「よくいった!」
「やっといったね、このやろう!」


 場が盛り上がり始めた。
 やっと言った……ヤット イッタ!? 
 ということは、ガーベラさんがさっきまで言おうとしていた内容って、まさかこれなの!?
 私は一番近くの冒険者に、助けを求める時の目で訴えてみた。
 すると彼はくすくす笑いながら片目でウインクし、どこかへ行ってしまう。
 いや、行ってしまったわけじゃなく、ガーベラさんが私がいない間のお酒の席で言っていたことをメモした人から、そのメモをもらったみたいだった。
 ガーベラさんと男の人、緊迫した雰囲気で見つめ合う二人に刺激を与えないようにしながら戻ってきて、私に手渡してくれた。


「えっ……!?」
「あ、メモが……!?」
「おお、ついにアイリスちゃんの手にあれが!」
「どんな反応をするか見ものだねー」


 そのメモは箇条書きで以下のように書かれていた。
 相当酔っ払っていたみたいで、普段しないような言動もかなり多い。

・どうしよう、アイリスかわいい
・アイリスに会いたい
・アイリスとは前世から一緒だった気がしてならない
・実はいまだに武器を持っているだけでもドキドキする
・(ある男冒険者の『アイリスは好きか? 恋愛的な意味で』という問いに対し)好き…なのかもしれない。
・(告白したらどうだという問いに対し)このまま友達付き合い続けたいから、振られた時の勇気が出ない。
・(男なら告白してしまえ! という声に対し)……そうだな、近いうちそうしようかな。

 まだまだいろんなこと言ってたみたいだけど、私は思わずそのメモを投げてしまった。
 自分の頬を触る。マグマのような熱さ。お酒の席で相当酔っ払った状態でこれを言ったってことは、本音である可能性が高…たか……たかい…。うん。


「みろよ、普段真っ白いアイリスちゃんがリンゴみたいだ」
「まんざらでもないんだぜ、あれ」
「ふぅーーー!」


 あつい、あついよ……。
 わー、どうすればいいんだろうこれ。なんて反応すればいいんだろうこれ。やばいこれ。
 とっ…とと、とりあえず私がまずすべきことは。
 ま、まず何か声を出さなきゃいけない。


「ガーベラさんっ…本気ですかっ!?」


 ヤケクソな気持ちで投げつけた言葉がこれ。
 ……本気だって言われたらどうすればいいんだろう。ほ、本気だって言われたら、どうすればいいの!?


「さ、さっき」
「さっき?」
「言えなかったことが……メモに書いてあったと…思う」


 皆に囃し立てられて言えなかったことが、私が投げてしまったメモに書かれていた。つまり、その、お酒のことは本音だったって本人が言ってるってことよね?


「若いなぁ……。どっちかがデートする事で揉めてるのにずるいよ。でも僕結構こういうの嫌いじゃない、むしろ甘酸っぱくて好きかな」
「お、白髪に赤いライン入ってるにいちゃん、わかってるね」
「いろいろ人生体験してて……デートのお誘いの最中にこんなことになるのは初めてだけどさ」

 
 つまり私は告白を受けている……さっきまで私、どうしてたっけ。そうだ、私を巡って揉めてる二人を見てたんだった。落ち着け私。落ち着くんだ私。


「つまり……ガーベラさんは私に恋慕していると、そういうことで良いんですね?」


 深呼吸をしてからそう訊いた。彼は頷く。
 私のどこが良かったかはまた別の機会に聞くとして…そう、これが告白なら……私だって女だし……もう少しちゃんと言ってほしい…かな?


「そうなる…ね」
「な、なら! ちゃんと口で言ってもらえませんか、私に向かって! 本当に、その気なら……それから考えます!」
「おっと、恐ろしいほど蚊帳の外だね」
「イケメンさん……あの二人、もともと相思相愛の気があったんだ、そう落ち込みなさんな」


 ガーベラさんは白髪の彼を見つめるのをやめ、私の方を向いた。いつもの凛々しい顔は、多分、私と同じくらい茹でられている。


「わかった……アイリス。好きだ。付き合ってください」


 少し頭を下げながらガーベラさんはそう言った。
 ……告白はきちんと言ってもらった。私が言うべきこと、つまり返事はただ一つ。


「条件が……あります」
「な、なに? なんでも言ってくれ」
「なら……言います」


 もし私に告白する人がいるとしたら、ずっと言おうと思ってた言葉。……いや、確実に現世からじゃなく、前世からだと思う。言おう……!


「私、自分より弱い男の人は嫌なんです。……私より強いことを証明してください」


 言った…! なんか空気が固まった気がするけど、気にしないことにしよう。これが私と付き合う条件なんだから。


「アイリスちゃんなんかすごいこと言ってる」
「……アイリスと戦って勝てるやつってここにいるか? Sランカーくらいだろ」
「つまり……どっちみち俺たちには最初から希望はなかったわけだ。とほほ」


 周りの男の人たちがそう言ってるけど、ガーベラさんは顔を赤くしたまま私のことを見つめ続けている。
 しばらくして彼は頷いた。


「受けて立とう」
「……ありがとうございます。私、本来なら武人ですから魔法やステータスに頼るのはあまり好きじゃないんです、対人戦においては」
「……なんとなくわかってた。なぜだか知っているよ」
「ですから、単純な身体能力と徒手格闘のみで……どっちかが気絶するか負けを認めるまで、やりあいましょうか」


 私は久しぶりに、対人用に構えた。
 いつから構えてなかったかはわからないけど。そして驚くことに……彼も、ガーベラさんも……全く同じ構えをしたの。


「一つ思い出話をしても良い? 何故だかわかんないけど、俺は昔、徒手格闘にのめり込んだ気がするんだ。そして、こうやってよく組手をしていた気もする」
「そうですか、奇遇ですね」
「まあ、俺、同じ相手に全敗だったけど」
「私は…わかりません。………やりますか」



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