上 下
204 / 378

202話 蜘蛛との決着でございます!

しおりを挟む
 こんな寒い時期なのに、冷や汗が流れたのが見える。
 彼女は自分に喝を入れたのか、自分の頬を叩くと、こちらを一瞥してきた。


「もうこうなったら……仕方ないよね。いいよ、可愛くないからあまり元に戻りたくなかったけど、ボクをここまで追い詰めたんだ、お前たちには見せてあげる」


 アルケニスはお父さんに飛ばされてから取り出していた得物をもう一度鞄にしまい直すと、体が発光し始めた。人から魔物へと戻るみたいね。


「これがボクの本当の姿だ!」


 現れたのは巨大な蜘蛛、まあ図鑑で見て知ってたけど。
 クィーンプリズンスパイダーの姿そのままね。ギフト以上グラブア未満、3メートルと少しの大きめな体。
 背部にはまるで何かを閉じ込めるかのように鳥籠のような飾りが付いている。


【お前ら全員、ボクに捕らわれて餌になれ!】


 彼女は糸を吐き出してきた。
 でもそれがとんでもない量。私が想定していた3倍はある。まるで白い波。
 これを食らってしまえばまた、まともに魔法は撃てなくなるでしょう。これが彼女の強みというか、固有の特技かしらね。
 さっきと同じように操作もできるんだったら確かに普通は苦戦なんてものじゃなく、一方的に蹂躙されると思うわ。


「ふっ…!」
「とおっ!」
【ゾ……ゾォォ!】
「よっ……あれ、アイリスちゃん!?」


 お父さんとリンネちゃんは空を駆け上がり、ケル君は全身に炎をまとい、ロモンちゃんは盾のバリアーで自分とお姉さん二人を守った。
 そして私は、ゴーレムに戻ったの。
 あ、まって体に糸がたくさん絡んでくる。人間体のままだったらちょっといけないところにも色々と。
 
 
【なんだ、なんか糸の感触がおかしいぞ! あの白髪のやつは今、ボクが…。とりあえず引きげ……オモッ!】
【失礼ですね……】


 わ、私は重くなんてないもん。
 ゴーレムの時の姿の私が重いんだもん。
 いえ、そんなことよりついに糸は私をぐるぐる巻きにしてしまった。最初から狙いは私だったようで、小石視点で糸ぐるみの中から見る限り、全て私に向かって糸が操作されているみたい。


【オカシイ……明らかに鋼鉄のカンカクだ。でも今捕らえたのはあの女、それは変わらない!】
「アイリスちゃん、アイリスちゃんっ!?」
【あー、そんなに驚かなくても大丈夫ですよ】

 
 小石視点で見る限り私は持ち上げられ、そしてクィーンプリズンスパイダーの、空いたカゴの中に上から放り込まれた。
 たしかクィーンプリズンスパイダーは糸で捉えたものを自分の体で拘束しておく習性がある。
 この檻だけならあのグラブアの背中より頑丈でしょう。


【はぁ……ツカマエタ。あとはこの女を連れて帰って拷問して、洗脳して、二人を生き返らせるだけだ! ……思わない収穫だぞ……最初はピンチだと思ってたけど! きっとグラブアもボクを好きになってくれるはず!】
「……ど、どうすんだよ……」
「ろ、ロモンちゃん、なにかあの子は考えていたりするの? だってあの子がやられたら……」
【ははは、どうだ! 仲間がこの中に入ってるんだゾ、手も足も出せないだろう! ねぇ、騎士団長さん、お前にとっては娘みたいな女をさっ、攻撃できないよネッ!!】


 お父さんは……なんかなんとも言えない顔をしてるわね。何かまた私が企んでるのをわかってるみたい。
 ロモンちゃんも少し落ち着いて、わざと取り込まれた私がやりたいことを理解したみたいだし。
 リンネちゃんもロモンちゃんと同様に。


「くそぉっ…返せ、返せよ! アイリスちゃんを返せ!」
【ムリダヨ、ボクの檻はとおーっても硬いんだ。グラブアより硬いからね! 檻だけなら】
【……ねぇ、アイリス、そろそろもういいんじゃないかなゾ?】


 ケル君がこちらをみながらそう言った。
 ロモンちゃんとリンネちゃんは頷く。よし、ならそろそろやってしまおうか。
 私は頭から魔法を発した。まずはフェルオール。そして右手と左手に回復魔法を仕込んでおく。
 準備は完璧ね。


【皆さん、少しだけ離れてください】


 味方にだけ、そう念話を送る。


【【わかったよ!】】
【ゾー!】
【やったあとは任せてくれ】
「え、なになに?」
「ど、どうさたのさ、みんな退いて……だ、団長! アイリスちゃんが離れろって……」
「うん、離れたほうがいい」


 5人と一匹はクィーンプリズンスパイダーから……いえ、私から遠ざかるようなジリジリと後ろに下がっていった。
 その状況に、アルケニスは首を傾げる。


【ん? アイリスって子は諦めたのかな? ははは、この子を助けなかったらボクは一気に……!】
【あの、爆発するので気をつけてくださいね】
【え?】


 響く爆音、いつも爆心である私は鼓膜が破けそうな音が耳元で鳴り響くことになってるわ。まあゴーレムだから大丈夫だけど。
 五人と一匹が私から十分な距離を稼いだところを見計らって、ドカン!
 それが私のよく使う必殺技の一つ、自爆。
 もうこれ幹部と戦う時に毎回使ってる気がする。


「なっ……!?」
「あ、アイリスは一体なにを……?」
「自爆だって言ってました」
「じ、自爆ぅ?」
「……魔力の暴発による爆発を威力や範囲を定めてわざと行っているんだろう」


 まあ、魔流の気を極めてこの身体だからこそできる荒技なのは確か。


「じゃああの子は……?」
「心配は要りませんよ、アイリスちゃんはすごいので!」
【すごいんだゾ!】

 
 そんなにすごいって言われたら照れる。もう私の身体は治っちゃってるし、無事なことを見せましょうかね。
 ……にしても、煙のせいで周りがどうなってるかわかりにくいのはこの特技の難点かも。
 空気の流れ的に、私は檻から出られてるみたいだけど……。


【なん……なん……?】
【おや、生きてましたか】


 足元から声がするし、なにやらモゾモゾ動いてる。
 まあ、Sランクの超越種がこの程度で死んじゃうはずないか。


「アイリスちゃん、煙が邪魔だ、風魔法とかでどこかにやれないか?」
【多分いけますよ】


 周りの煙を全て風魔法で吹き飛ばす。一気にモヤが晴れ、現状を視認することができるようになった。
 まず、私は当たり前だけど無傷。
 それで私の足元には全身ボロボロになったクィーンプリズンスパイダーが頑張って立とうとしていた。
 足が2本ほど千切れちゃってる。

 なくなったと思っていた檻は、感じた時とは違いへしゃげているだけであり、完全には壊れていない。
 この至近距離で超爆発をしたのに壊れないなんて、なんて頑丈なのかしら。
 エンジェルゴーレムの姿のままだとここから出られないけれど、トゥーンゴーレムになったらいけそう。
 そういうわけで、私はそこから脱出させてもらった。


【どうです? やりましたよ】
「さすがだね、アイリスちゃん」
【……おい、まて、ちょっと待てよ!】


 強く念話を送ってきた彼女。私の姿を見て驚いてるみたい。たくさんの赤い目が私だけを見ている。なんか気持ち悪い。


【どういうこと……? お前は、人間じゃなかったのか!?】
【あら、私が人間だなんて今まで一言も言ってないじゃないですか。……私はゴーレムの半魔半人ですよ】
【そ、そそそ、そんなことって……!】


 私に近づこうとしているのか、彼女は立とうとするが、足が言うことをきかないようで、何度もすっ転んでいる。
 

【今がチャンスでしょう、お父さん、残りの足もお願いします】
【わかった】
【なっ、や、やめ……やめろおぉ…うあぁ…ぁ…】


 蜘蛛は完全に地べたに這いつくばった。


#####

次の投稿は1/15です!
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

処理中です...